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昭和四十年のクリスマス

作者: 近藤良英
掲載日:2025/11/20

昭和四十年の寒いクリスマスに、仲間と過ごした心温まるひとときを描きました。幼い日の友情の輝きを思い出しながら書きました。

■主要登場人物

●ぼく

小学四年生。好奇心旺盛で仲間思い。家が「なんでも屋」を営んでいるため、お菓子や遊び道具が豊富。料理、特に即席麺づくりが得意。

●ノリ君

小学六年生で仲間の隊長。絵物語「冒険ダン吉」からの口癖があり、遊びを仕切る存在。戦争ごっこや忍者ごっこに詳しく、プラモデルの腕前は天才的。

●ニシサ

ぼくの同級生で副隊長。普段はおとなしいが、痛みや理不尽には素直に感情を出す。熊本から来た家の習慣もあり、丁寧でまじめな一面がある。

●近所の子どもたち

五〜六人の幼なじみ仲間。忍者ごっこや戦争ごっこに夢中になり、クリスマス会も一緒に盛り上げる大切な友だち。


〈ものがたり〉

昭和四十年十二月二十五日。空気がきりりと冷え、庭の金魚鉢にはうっすら氷が張っていた。吐く息が白くのぼるたびに、「今日はほんとうに寒いな」とぼくは肩をすくめた。

 小学校の授業を終えると、家の庭にはいつもの仲間が集まった。六年生で隊長のノリ君、同級生で副隊長のニシサ、それに近所の五、六人だ。みんな手をこすり合わせながら、でも目はきらきらしている。

「ほら、いくぞ。ぼうけん、ぼうけん、冒険ダン吉!」

 ノリ君が、いつものおまじないを唱える。とくに意味はないのに、この言葉を聞くと、ぼくらはなぜか胸が高鳴った。ノリ君のお父さんが子どものころに読んだ絵物語からの引用らしいが、ぼくには呪文のように聞こえた。

 その日は、ノリ君の提案で「忍者部隊月光」ごっこをすることになった。鎌でけずった木刀のような棒を持ち、敵と味方に分かれる。冬の空気は冷たかったが、走り出すとすぐに頬が熱くなった。

「いくぞ、ニシサ! 月光アタック!」

「お、おい、強く振るなよ!」

 ノリ君が木刀を振り下ろすと、乾いた音がしてニシサの手首に当たった。

「いたっ!」

 ニシサは目に涙をため、唇をかみしめた。

「なんだよ、ふざけんなよ…!」

 泣き出したニシサは、木刀を放り投げると駆け足で帰っていった。沈黙するぼくらの前で、ノリ君はため息をつき、腕を組んだ。

「あーあ、情けないやつ」

 その一言で、なんとなく遊びの熱が冷め、ぼくらは解散するように庭の端に集まってしまった。

 夕方、空は薄紅色に染まり、空気はさらに冷えこんだ。遊び疲れたぼくらは、ぼくの家の居間へ集まり、クリスマス会の準備をした。

 前の日に、ぼくらは近くの山で、トゲトゲした葉を持つ「べぼ」の木を切ってきてツリーにしていた。飾りつけは手作り。紙を切って輪をつなげたり、折り紙を星の形に折ったりした。電球を巻きつけると、赤・黄・緑の光がぽつぽつ灯り、部屋がふっと温かくなった。

「レコードがなくても、歌えばいいんだよ!」

 誰かが言い、みんなで♪ジングルベル♪を歌った。

 ぼくの家は小さな「なんでも屋」をやっていたので、ぼくは店からチョコやスナックをこっそり持ち出してみんなにふるまった。テーブルはお菓子の山。バンカースゲームやトランプをしていると、玄関の戸がすうっと開いた。

 そこに立っていたのは、さっき泣いて帰ったニシサだった。横にはお母さんがいる。ぼくら全員の視線が集中した。

「あの…さっきは…」

 ニシサが言いかけたとき、お母さんがやわらかい笑顔で前に出てきた。

「これ、みんなで使ってね」

 そう言って、きれいにたたまれたタオルの束を渡した。ニシサは、そのタオルを一枚ずつ、みんなに配り始めた。うつむきながらも、しっかり歩いている。

 タオルを受け取ったぼくらは、自然と笑顔になった。

「ニシサ、ありがとな!」

「きれいなタオルじゃん!」

 その声を聞いたニシサは、ちょっと恥ずかしそうに眉を寄せたが、その口元は少しだけ上がっていた。

「じゃあ、クリスマス会のやり直し、だな!」

 ぼくが言うと、みんなが「おー!」と声をあげた。

 何か温かいものを出したくて、ぼくは台所でエースコックの「ワンタンメン」を作ることにした。当時では少し珍しい、麺とスープが別々の袋になっているタイプだ。

「ぼうけん、ぼうけん、冒険ダン吉…っと」

 鍋の前でその言葉を口にすると、なんだか気持ちが軽くなる。箸で麺をほぐしながら、ぼくは「料理って冒険みたいだ」と思った。

 湯気がふわっと上がり、スープのいい香りが部屋に広がる。

「うまそー!」

「ぼくが一番に食べる!」

「順番だってば!」

 笑い声が重なり、ぼくは大きな丼をみんなに配った。

「いただきまーす!」

 ワンタンメンをすする音が、部屋いっぱいに響いた。みんなの顔は湯気で赤く染まり、寒さはどこかへ消えていた。

 その光景を見ながら、ぼくは胸がじんと温かくなった。

「これが、クリスマスなんだな…」

 ツリーの電球が、赤・黄・緑とやさしくまたたいている。

 昭和四十年の寒いクリスマスの日。あの日ぼくらの胸に灯った小さな光は、今でも心の奥で暖かくゆれている。

──了



昭和の風景やにおいまで蘇るような思いで、この物語を綴りました。あの日の小さな冒険と友情の温もりを、少しでも伝えられれば幸いです。

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