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14.有力情報入手



「ふわぁ~……。よく寝たわ」



 チュンチュンという鳥の声で目が覚め、私は大欠伸をしながら起き上がり、伸びをする。

 ユークを見ると、私の傍で両手足を広げ、熟睡したように眠っていた。

 その無防備な姿に、私に心を許しているように感じて、思わずクスリと笑ってしまう。



「お腹に顔を埋めてモフモフしたいけど……怒って二度とモフモフさせてもらえなくなるだろうし……我慢、我慢よ私……っ」



 魅力的なフサフサのお腹の毛の誘惑に耐えていると、徐ろにユークがオッドアイの両目を開けた。



「おはよう、ユーク」

「ん……? あぁ、朝か……」

「よく眠っていたわよ」

「そうだな、久し振りにグッスリ寝た……」



 ユークは小さな口を真ん丸く開けて欠伸をする。



「私、口元に涎の跡ついてない? イビキかいてたかしら? だったらごめんなさいね」

「ついてねぇしかいてねぇよ――ってアンタ、ホントにオレを男として見てねぇな……。まぁいいんだけどさ」

「何よ、貴方が先に言ったんでしょ? 顔を洗ってくるから、その後朝食にしましょう。昨日、晩ご飯を作る時に朝ご飯も作っておいたのよ。どうせ今日も少量の具無しスープに昨日の硬いパンだろうから」



 洗面所で顔を洗い部屋に戻って来た私は、窓近くの涼しい場所に布を掛けて置いておいた朝ご飯を机の上に置いた。

 昨晩焼いてふっくらさせたパンに、たっぷりの野菜と干し肉が挟まった栄養満点の朝食だ。


 それを美味しく戴き、仕事の支度を始める。



「おい、目の前で着替えるのは流石に止めろよな」

「じゃああっち向いててよ。覗かないでよね」

「誰が覗くかバカ。ちんちくりんなガキの着替え見ても全っ然嬉しくねぇよ」

「……その憎まれ口、バッテンに縫って塞いであげましょうか」



 支度が終わり、私は気合を入れる為に両手を合わせパンと鳴らす。



「さて、今日はどんな無茶苦茶な仕事を押し付けてくるのかしら。全部こなして、メイド長の口からギャフンと言わせてやるわ」

「その清々しいくらいの前向きさには感心するぜ」

「ありがとう。貴方はどうする? やりたい事やってていいわよ」

「いや、まだ暫く動きはねぇだろうからアンタといる」



 ユークはそう言うと、ピョンと飛び跳ね私の肩を経由し、頭上にモフンと乗っかる。



(“動きはない”? 誰かを見張っているのかしら……)



「今日も一日そこにいるの?」

「『幸運のウサギ』として大切に崇めてくれよ」

「全くもう……」



 体を頭全体に委ねるユークに息をつくと、私は部屋を出た。

 そこで、一昨日清掃道具の場所を教えてくれた彼女とバッタリ会う。



「あっ、おはようございます」

「あら、あんた――って……ぷはっ! 何そのウサギ!? ぬいぐるみ? 目を瞑って寛いでて可愛いんだけど!」

「『幸運のウサギ』です。私、最近不幸続きだから……町で見掛けて即買ってしまいました」

「……あぁ、あんたは……。そうだね……」



(今ならメイド長も誰もいないし、この子の名前聞けるかも!)



「あの、今更で申し訳ないのですが、貴女のお名前を教えて頂けますか?」

「あぁ、あたしの名前知らなかったっけ? あんたとあまり話した事なかったもんね。あと、敬語じゃなくて砕けていいよ。あたし達、歳同じくらいだし。あたしはマリン」

「うん、分かったわ。じゃあお言葉に甘えるわね。私はリシィよ。改めてだけどよろしくね、マリン」

「あんたの名前は知ってるよ。お母さんの事……気の毒だったね」



 眉尻を下げ、声を潜めて言うマリンは優しい子なんだと分かった。

 だからこそ信用出来ると思い、少し深く踏み込んでみる事にした。



「それなんだけど、マリン。私のお母さん、もしかしたら“毒”で殺されたかもしれないんだ……。犯人は、あのメイド長――」

「えっ!? 何だって!?」



 マリンは思わずといった感じで大声を上げ、慌てて両手で口を押さえた。



「そんなまさか……。――いやでも、あの人ならやりかねないか……。あの人、御主人様の事が昔から好きだったんだよ。それなのに、御主人様があんたのお母さんと恋仲になって――」

「っ! マリン、知ってたの!?」

「ここにいるメイドは殆ど知ってるさ。あんなに寄り添って仲睦まじげに話していたらね。二人とも幸せそうだったし。こっちまでムズ痒くなるくらいにさ」



(そうだったのね……)



「ねぇマリン、お母さんの具合が悪くなった頃、メイド長の何か不審な行動や会話とか聞いてない? ちょっとした事でもいいの」

「不審な……ねぇ……。――あっ!」

「何かあった!?」



 腕を組み過去を懸命に掘り起こしていたマリンが、ハッと弾かれたように顔を上げたので、私は彼女に向かって身を乗り出した。



「そう言えば、ある頃からちょくちょく厨房に顔を出していたね。料理長に何か指示をしているようだったよ。小声だったんで会話までは聞けなかったけど。あんたのお母さんが亡くなった後は、パタリと厨房に入らなくなったね」

「そうなの!? ありがとう、それは有力な情報だわ!」

「あんたの推理が正しければ、あの時料理長に“毒”の指示をしていたかもしれないね……」

「えぇ、そうね……。お母さん、少しずつ身体が弱っていったの。今まで健康で風邪もあまりひかない人だったのに。だから、少量の“毒”を料理に混ぜて毎日食べさせ続けて、最後には衰弱で亡くなったように見せ掛けたのかも」



 私の推測に、マリンは眉間に皺を寄せ唸る。



「そうだとすると、とんでもなく醜悪で陰険な女だね、メイド長は。それで今度はあんたを苛めてここから出て行かせようって寸法かい? 御主人様が気に掛けているあんたがいなくなれば、正真正銘御主人様は自分だけのもの、とか考えてそうだね。ったく、気色悪いったらないね!」

「そう言えば、公しゃ――御主人様の姿が見当たらないけど、どこかに行っているの?」

「あぁ……あの女、あんたには教えなかったんだね。御主人様は執事と一緒に他国に出張中だよ。あの方はあちこち外交してるから、ここにはあまりいないんだ。今回は……確か明後日に帰ってくる予定だよ」

「そうだったのね。ありがとう、マリン。お蔭で捜査が前に進みそう」

「プハッ! 捜査って……あんたは探偵か何かかい? ま、他に何か思い出したらコッソリ教えるよ。あの女の横暴さには皆辟易しているところだったんだ。お母さんの無念が晴らせるといいね」

「えぇ。本当にありがとう、マリン!」



 私はマリンの手をギュッと握り締め、別れる。



「色々分かって良かったじゃねぇか」

「えぇ。メイド長と料理長がグルだって事もね。その二人のどちらかが証拠を持っていればいいんだけど……。こんなに時間が経っていたら捨てられてるわよね、きっと……」



 私は広い天井を仰ぎ、盛大に溜め息を吐いたのだった……。





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