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7話 青森

なんだか東北に入ってからというもの、「あれ?ここ高速だっけ?」と錯覚するほど、車の流れる速度が上がった。気のせいではないと思う。


流れに乗って左車線を走っていると、気づけば時速80キロを超えている。

カブのハンドルに振動が大きい。

正直、このカブがそんな速度で走るとは思っていなかった。


元は50ccのリトルカブ。

ボアアップやカスタムでここまで走れるようになったとはいえ、車体に負担をかけすぎるのは心配だし、自分の技術にも自信がない。

無理せず時速70キロくらいで左端をキープすることにした。


関東より車のスピードは速いけれど、荒っぽい運転は少ない。怖い思いをすることもなく、旅は順調だった。


しばらく走ると、「青森県」の看板が現れた。思わず「遠かった~」と小さく声が出る。でも、本当のゴールはまだ先だ。


実際はもっと近道もあるけれど、国道4号線を“完走”するのが今回の目的なので、遠回りも覚悟の上。青森市内の「青い森公園」までたどり着いたら、また引き返す予定だ。


やがて海が見え始める。「この海、太平洋?日本海?」とぼんやり考えていたら、「陸奥湾」の看板が目に入った。なるほど、そういう名前なんだ。


そのまま西へ向かい、海沿いの国道を走っていくと、まもなく青森市街に入った。時計は11時少し前。市役所近くのコンビニで小休止。


ここは4号線と7号線の分岐点でもある。看板には「日本橋まで740km」と書かれていた。思わずスマホで撮影して、Googleマップを日本全体に縮小。現在地のスクショを家族LINE、葵、マミに送る。


りんごジュースでひと息ついて、再出発。

今日はあと300キロ。目指すは本州最北端、大間崎。そしてご褒美はマグロ丼だ。


走り出してしばらくすると、「道の駅よこはま」という見覚えのある名前の施設が現れた。いいタイミングだし、休憩していくことにした。


バイク置き場に入ると、2台のカブが並んでいた。黄色いクロスカブと赤いハンターカブ。

どちらも大きなBOXに「ゆるキャン△」のステッカーが貼ってある。私はしれっと自分の青緑のリトルカブを隣に並べた。


信号機カラー、完成。


こういうの、なんかテンション上がる。

写真を撮りたいけど、持ち主の許可もないし……と迷っていると、道の駅からカップルが歩いてきた。20代後半くらい。

女性はロングヘアでスラッとしていて、男性は清潔感のある爽やか系。


「なしてあのカブ、あんだげ荷物積んでらの!?…あっ!見でけれ、信号機のごとになってらじゃ!」


女性が声を上げて私のカブを指さす。その明るさにつられて、思わず笑ってしまった。


「うそだべ!?それ、あんたのカブだったんず?めっちゃめんけぇじゃ~!どっから来たんずや?写真撮らせでけろ~!」


キラキラした目と全力の津軽弁。何を言ってるか半分くらいしかわからないけど、嬉しさが伝わってくる。

津軽弁を聞くとレオさんを思い出す。

元気にしてるのかな。


「ホラホラ、そんな津軽弁じゃ伝わんねぇって。湘南ナンバーだべ?え、神奈川?マジで神奈川から来たの?」


男性が驚いた顔をする。話し方は落ち着いていて、どこか頼もしさがある。


「はい。湘南から国道4号線をずっと走ってきました。これから大間崎まで行きます。」


「うわー、すげぇな。1000キロくらいあんでね?湘南いーな~。アニメのスーパーカブ見で、行ってみてぇ思ってだんずよ。あの湘南弾丸道路?あれ、走ってみてぇなぁ~!」


「すみません、私スーパーカブ見てないんですけど……湘南弾丸道路って134号線のことかな?」


「多分そう、江ノ島とか鎌倉のあたりの海沿いの道。」


「ああ、あそこですね。……あまり弾丸って感じじゃないかも。渋滞ばっかりで。早朝は快適ですけど、昼間は進まないし、夜はちょっと怖い人も多くて……」


「なんだ、ちょっとがっかり観光地みてぇだな〜」


女性が頭を抱えて笑う。


「でも、こっちの方が全然いいですよ。走ってて気持ちいいし、景色も最高です」



私達はカブ3台を並べ、信号カラーを記念に写真を撮った。カップルは地元青森に住む夫婦。結婚して5年、子どもはいないらしい。奥さんはバイク歴10年以上で大型も所有。旦那さんは中免を取ったばかりで、今日が初めての夫婦ツーリングだという。


「いいなあ、夫婦でツーリング。素敵ですね」

つい、そう呟くと、奥さんがちょっと照れて笑った。

インスタを交換し、一緒にソフトクリームを食べて別れた。


私は再びバイクにまたがる。


――私も、いつか。誰かと。

 

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