6話 マミ
私は何とか気を持ち直して
気のせい、見間違い、と自分に言い聞かせながら走り続けた。
途中で給油したり、何故か仙台まで来たのに、町田商店で横浜家系ラーメンを食べたりしつつ、盛岡に到着したのは19時を過ぎてからだった。
約16時間。だいたい600キロ走った。
今回の旅でも今日が一番キツイ予定だ。
マミの指定したコンビニで合流して、マミの自宅に向かう。
マミは自分の事を
「私は田舎者だから」
とよく言っていたけど、マミの実家である自宅は盛岡駅から10分もかからない所にある精悍な印象をうける大きなマンションだった。
盛岡は私の住んでいる藤沢よりよっぽど都会だ。
マンションのバイク置き場にカブを停めて高層階の自宅に入ると、リビングの広さに驚いた。
しかも両親は旅行に行ってしまったらしく、マミしかいないらしい。
リビングは物が少なく家具のセンスが良い気がする。
「こんな広い家で1人じゃ寂しくない?」と聞くと
「晴が来てくれたから、もう何も怖くない」とアニメのセリフをマミが言う。
同じ名前を持つマミの鉄板ネタだ。久しぶりに聞けて自然と笑顔になる。
盛岡冷麺のマミスペシャルを作ってくれるらしい。
手伝おうと思ったら
「もうほとんど出来てるから大丈夫。」
と言われてしまった。
食べ終わったあとの片付けは私がやろうと心に決めた。
私はちゃんと盛岡冷麺を食べた事がないという事を、マミがテーブルに出してくれた器を見てから知った。
チャーシュー、卵、キュウリ、キムチに加えてまさかのスイカが乗っている。
スイカって今の時期?いや、それより一緒に盛り付けるんだ。と、驚いた。
具の隙間から見える麺は透明だ。
私は勝手に冷やし中華を想像していたので予想外で面白かった。
更にマミのお母さんが作ってくれたという豚ザーサイご飯までセットで頂いた。
麺はすっごくツルツルで、コシが強く冷たいスープにキムチがピリッととても美味しかった。
豚ザーサイご飯はごま油の香りと細かく刻んだザーサイの食感が絶妙で私の好みの食事だった。
「私盛岡のご飯好きかも」
と呟くと
「多分豚ザーサイご飯は盛岡関係ないよ」
と素敵な笑顔を見せてくれた。私はマミの笑顔を見てとても嬉しかった。
マミはあんまり口数は多くないけど、好きなアニメが似ていて1年生の時は大学でも一緒に行動する事が多かった。
だけど2年生になると、想像以上に厳しい看護実習に加え、単位を取るための課題もテスト勉強も大変になった。
更にマミは横浜で一人暮らしをしており、親からの仕送りだけでは生活が厳しく、積極的にアルバイトもしていた。
私は実家住まいなので、バイトは週2程度だけどマミは週4~5回アルバイトに勤しんでいた。
お互い忙しく中々会う機会の無いまま、久しぶりに大学で会った時にはマミは全く笑わなくなってしまっていた。
友達数人でなるべく声を掛けたりしていたが、誰よりマミが忙しく、会う機会は減っていった。
2年生の秋位から学校を休み始め3年生になる前には大学を辞めて実家に帰ってしまった。
私は定期的に連絡はしていたけれど、返事がある事は少なく、今回連絡を貰えたのは嬉しかった。
更には食事を作ってもらい、笑顔まで見せてくれた。
しかも今日泊めてもらう予定だ。
何か私に話したい事があるのかな?と思っていたけど、マミの笑顔をみるとどうでも良くなってくる。
結局マミから特別な話は無くて、泊まらせてくれた。
食後はマミの部屋でアニメやYouTubeの話に花を咲かせ、私の元彼に怒りを募らせ、自動販売機の女の子の話に恐れおののいた。
翌日も330kmほど走る予定なので早めに就寝させてもらい、朝6時には出発した。
早朝、マミはバイクまでお見送りをしてくれた。
「晴、私大学何も言わないで辞めちゃってゴメンね。
みんなにも伝えておいて欲しい。もう大丈夫。私1人ぼっちじゃないもの。もう何も怖くない。」
とネタを交えて笑顔で送り出してくれた。
私は何より、マミと会話出来てマミの笑顔をまた見れたことが嬉しい。
「また会おうね。」
お互い笑顔で私は青森へ向かった。