2話 ロマン
出発前日の夕方。
いつものように、カブの荷台にキャンプ道具を積み込んで、近所をひと回り走った。
自宅に戻ると、ちょうど父も帰ってきたところだった。
「……お前まさか、カブで盛岡まで行くのか?」
「ううん。大間崎まで行くつもり」
「いやいや、キツいだろ。それ。エリミ乗ってけばいいじゃん。車だって、貸せなくはないぞ?」
「去年エリミで高知まで高速走ったけどさ、やっぱり私、下道をのんびり走るのが好きなんだよね。カブのほうが合ってる気がする」
「いや〜キツいって。大間崎まで900キロくらいあるんだぞ? 大丈夫か?」
「でもお父さん、去年1泊2日で行ってきたじゃん?そっちの方が距離ガバでしょ。 私は3泊4日だし、下道だし、なんとかなるでしょ」
父は数秒思案した後、目を細めて言った。
「……まあ、行けなくはないか。おすすめはしないけどな。
俺も実質1泊3日だったしな。
事故だけは本当に気をつけろよ?
俺、GWはずっと大阪出張だから迎えに行けないからな」
「うん、大丈夫。気をつけて行く」
「で、明日何時に出るんだ?」
「2時か3時には出たいな。渋滞が起きる前に東京抜けたいし。
国道4号を走破するのが目標!」
「おおお、良いなそれ! ロマンあるじゃん、お前らしいわ」
国道4号線。東京、日本橋から青森まで約740km。
本州を南北にぶった切る、日本一長い国道だ。
大好きなYouTuberが古いカブで走破していた。あれを見てから、ずっとやってみたかったんだ。
「ほい、これ」
父が封筒を差し出してきた。中を覗くと、なんと2万円。
「えっ、くれるの?」
「現金、ある程度持ってないと不安だろ?
これだけあればビジホにも泊まれるし。うまいマグロ、見つけたら送っとくれ」
予想外の収入に思わず頬が緩む。これは嬉しい。
明日の朝?いや、今日の夜出発前にトントゥをバッグの上に固定すれば、準備はすべて完了だ。
——オラ、わくわくすっぞ!