18話 デトックス
メッセージはリアムさんからだった。
リアムさんになんて返事をするべきか。
頼っていいのか。
両親は多分ここまで来ることは難しいだろう。
…リアムさんに頼ってみよう。
今日藤沢に帰る予定とは言っていたし。
「今山道でカブが故障してしまって。電波を探して数km歩いて来た所です。」
「ヤバいじゃん!大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない感じです。
すいません。迎えに来てくれたりしませんか?」
「行くよ!勿論!位置情報送れる?」
手がかじかんでいて、上手く入力出来なくてイライラする。
思っていたよりも身体が冷えている。
「ここからだいたい2キロ位手前、北側の道なりにカブがあります。そこは電波がなくて。 」
「わかった。ガス欠って事はない?濡れないで待ってられる場所はありそう?」
雨が強くなって雷が多くなってきた。
「ガソリンは入れたばっかりなので。濡れない場所は全く無いです。」
「カブ置いてるところは広いの?」
「車3台位止まれそうな砂利のスペースです。」
「じゃあそこにテント張って待ってられる?」
その発想は無かった。
「そこ電波ないんですけど、大丈夫ですか?」
「位置はわかったから大丈夫。3時間位で行けるよ」
「わかりました。本当にありがとうございます。」
「それじゃカブの所に戻ります。電波無くなります。本当によろしくお願いします。」
私はずぶ濡れのまま、1時間以上かけてカブまで歩いて戻った。
やはりここは電波がない。
こんな所にテントを張ったら怒られないだろうか。
でも非常事態だ、怒られたら謝ろう。
安全を考えて車道からいちばん遠い所にテントを張る。
カブからツーリングバックを外して前室に置いた。
テントの中で体を拭いて着替えをする。
こんな時に人が来たらどうしようかと思ったけれど、誰も来なかった。
そんな想像をしたら、今の状況が怖くなってきた。
そういえば、数年前の山梨のスーパー、あの時も急な雨だった。彩ちゃんが震えて青ざめていたのを思い出す。
こんな時に悪意のある人がきたら私は何も出来ない。
外は土砂降りで雷の音が鳴り響いている。
時々車の通る音が聞こえてくる。
さっきまで誰か止まってくれないだろうか?と思っていたけど、今は止まられたら怖いという感情に覆われてしまっている。
念の為ツーリングバッグを漁って薪割り用のナイフを出しておいた。
これで数分は稼げるのではないだろうか。
リアムさんが到着するまで、あと1時間ちょっと。
インターネットが繋がらないせいか充電がみるみる減っている。どうせ使えないのだから、電源を切ろうと思ったけど、時間すらわからなくなってしまうので、機内モードにしておく。
普段キャンプに行ってもしないのに、強制デジタルデトックスになってしまった。
身体が冷えているせいか、誰とも繋がっていないせいか、雨音や雷の音のせいかわからないけど、思考がとてもネガティブになっているのがわかる。
これでリアムさんが来なかったらとか、私の場所を発見出来なかったらとか。
数人の恐ろしい男性が現れたら、なんて事を考えてしまう。
シュラフは濡れてしまっていたのでブランケットに包まったまま、テントの中で座る。
普段あっという間に過ぎていく1時間という時間が、無限にも思える程長く、本当に長く感じられた。
ふと見ると、ツーリングの上に濡れたトントゥが顔を出している。
こんな時でもきっと守ろうとしてくれるんだな。と少し心の中が暖かさを感じた。




