17話 ドースル
土砂降りの中、カブを押しながらゆるやかな坂を登る。
小さな車体にキャンプ道具をガッツリ積載しているので、バランスが悪い。
何度も倒しそうになりながら進んでいく。
防水性のあるライダースジャケットももう脱いでしまった。
首から入ってきた雨水と汗で着ていても重いだけになってしまった。
今は荷物の上にかけてある。
カブのエンジンが、かからなくなってから色々考えた。
確かここにくるまで数キロ山道だったはずだ。
Googleマップで調べようと更新したらインターネットが繋がらないので更新の状態で止まってしまった。
もうマップすら表示されていない。
進行方向に対して左側は崖。下は霧でぼんやりだけど家や建物は見当たらない。右側は山だ。
なんとか車を停めて、誰かに助けをお願いしようと思ったけれど、このずぶ濡れの状態で知らない人の車に乗せてもらうのはかなり抵抗がある。
というか自分自身が危険だとも思う。
なら自分にやれる事を。と、思い、押しながら進むことにした。
最後に見たナビは「4km先を斜め左。」そんな表記だったと記憶している。
4km進めば大きな通りと合流するのかもしれない。
その辺で電波があれば!と思ったのだ。
しばらく平坦だった道は、ゆるやかな登り坂になり荷物とカブの重さがかなりキツイ。
登り坂の先は見えない。登りきったら下りになってる事を祈りつつカブのハンドルを押し続ける。
たまに車が通り過ぎていくけど、止まったり声をかけてくれる人はいない。
ノドが乾く。
こういう時に限ってペットボトルすら持っていない。
遠くで雷がなっている。
雨は多少弱くなったけど、振り続けている。
必死で息を切らしながら、数十分かかけて坂を登りきった。
登りきった場所は左側に車数台停められそうなスペースがあって、晴天ならいい景色を見れそうな場所だった。
何kmも見渡せる景色をみて愕然とする。
しばらく下り坂のあとゆるやかなワインディングをずっと、ずーっと登り坂だ。
詰んだ。
…これは無理だ。
…カブを置いて歩くか。
助けを待つか。
数分止まっただけで急速に身体が冷えてきた。
着替えはもってるけど、今着替えても何も意味は無い。
せめて雨宿りが出来るところがあれば。
と思うけど見渡す限りは全くない。
通りがかりの車に手を振ればそのうち止まってくれる人もいるかもしれない。
どうする、頑張って押すのか。引き返すべきか?
頭のなかでどうする、ドースル、ドースル、と連呼しても何も決まらない。
…ここまで困ったのは人生で初めてかもしれない。
以前彩ちゃんと長野に行った時もかなり困ったけど、彩ちゃんが一緒だったし、決断してくれた。
今回は?どうする?どーする?ドースル?ドースル?
私は濡れた砂利に座り込んだ。
「泣いてたって何も変わらない。やるしかないだろ。」
小学低学年のピアノの発表会の直前、上手く弾けなくて不貞腐れた私に父が言った。
「友達はスグ弾けるようになるのに私は全然弾けるようにならないもん。」
私はぐずった。
「もう諦める?スグ出来るようにならないなら、人一倍やるしかないだろ。」
父が言うと母が口を挟んだ。
「人一倍ってさ」
1拍溜めて
「全然増えてないよね」
「今そういう事言うなよぉ」
今度は父が泣きそうな顔をした。
次はミキさんが一緒にSSTRに行った女性を励ました時のセリフ
「諦める?なんとかするしかないじゃない。」
「どーせ諦めたって濡れて帰るしかないじゃない。なんとかしよ。ね?」
タカシ(高橋)さんがスマホで撮影しているシーンを思い出す。
ヨシ分かった!
私は今ひとりなのに周りの人が諦めるなと言ってくれている。
このまま落ち込んでいても、どんどん体力は奪われていく。
カブを置いて進もう。
今更だけどツーリングバッグから小さな折り畳み傘を引っ張り出す。
坂の下までカブに乗ってくだった方が楽だけど、カブを置ける場所があるとは限らない。
「ちゃんとあとで迎えに来るからね。」
とカブに声を掛け歩き出した。
小さな傘をさして坂を下る。
あっという間に靴の中まで濡れてしまった。
こんな所を歩いていたら、誰か声を掛けてくれそうなものだけど、みんな結構なスピードで通り過ぎていく。
私も雨の中こんな速度で走っていたのかと思うと、少し不思議な気持ちになる。
結局1時間以上ずぶ濡れで歩いた。
息を切らしながら坂を登っていると、トラックの跳ね上げた水をまともに被ってしまった。
もう本当に無理。
やってられない。
そう思って座りこもうとした瞬間
「ビロン」
LINEの能天気な通知音が鳴った。
え?スマホを見ると、電波が…4Gの表示がみえる。
隣に1本の電波表示。
とりあえず、父に電話!
と思ったけど、指が止まる。
父は今大阪だ。
呼ばれても困るだろう。
そういえば車が故障した時に呼ぶサービスがあった確か…JALとかJACとか…検索するが電波がギリギリらしく、中々進まない。
JAFだった。
バイクもお願い出来るのだろうか。値段は?支払いは?こんな所まででも来てくれるのか。
調べてる間にもLINEの通知音がなった。
LINEを開く。
「晴ちゃんいまどの辺?雨大丈夫?」




