孤独との決別
「今……なんて言った……?」
沈黙を破ったのは雅だった。
「だから…渡り人にはならない。断ります。
とお伝えしたつもりですが?」
凛桜は雅を真正面から見る。
「だってそうでしょ?
急に妖だの天狗だの言われて…
挙句の果てに一緒に里を守れ?
自分の生活守るので必死なのに…
そんな事してる暇も力もありませんので!」
登ってきた石段の方へ踵を返して帰ろうとする凛桜。
話を聞いて、実際に目の前の状況を見て確信した。
これは私なんかが関われる事じゃない。
私は普通に働いて普通に生きる。
たとえ独りだとしても…
そう生きられるように育ててもらったんだ。
雅は遠ざかる凛桜を見て問いかける
「なら何故黒丸を助けた?
道端に落ちてるカラスなんてどうなっても
お前の生活に支障はないだろう。
それなのに何故助けた?」
何故……?凛桜は立ち止まる。
だって見つけてしまったのを
無かったことには出来ないじゃないか。
あの時自分が助けなかったら確実に消えていた命だ。
雅は黙る凛桜の元へ近づく。
「黒丸が怪我をして動けなくなってから
多数の人間が横を通り過ぎたらしい。
血だらけの黒丸を認識したにも関わらず…だ。
唯一、近付いて助けてくれたのが凛桜…お前だ。」
黒丸を抱いた雪も近付いてくる。
「完全に善意でここまで尽くすなんて
普通に出来ることじゃない。
そんな優しい人だったからこそ
黒丸の希望通り、1週間の保護をあなたに頼んだの。
勿論監視はさせて貰っていたけれど、
そのカラス達に対しても優しく接してくれていたと
報告を受けているわ。」
雪は凛桜の肩を優しく掴む
「ねぇ凛桜ちゃん?
確かに、妖力の強さも渡り人には必要な要素。
だけど、今回はあなたの優しさや人となりを見て
渡り人になって欲しいと思ったの。
あなただから私達の家族になって欲しいと思ったの。
……もう一度考え直して貰うことは出来ない……?」
心がじんわりと温かくなる。
ここまで思ってくれていたのか…。
孤児院を卒院してから約半年、
ずっと孤独と戦っていた。
仕事をする上で自分が良かれと思ってした事が
相手にとっては嫌な事だった…なんて事は良くある。
そんな環境に慣れている今、
自分の行動をここまで肯定し
感謝を伝えてくれているのはとても嬉しかった。
それに……
「家族」
自分には今までもこの先も関係のない言葉だと思っていた。
でも…この人達と共に居れば…
もう孤独感を味わう事は無いのかもしれない……。
「凛桜」
雅に呼ばれて凛桜は振り返る
「過去、俺達は渡り人に恐怖で支配されていた。
だからこそ人嫌いの天狗達も多い。
それなのに凛桜が渡り人になることに反対したものは一人もいなかった。
黒丸を救ってくれ、大切に保護してくれていたその姿を見ていたから…
凛桜の優しさに触れたから、
もう一度人を信じたい…そう思えたんだ。」
雅は凛桜の前で跪き、真剣な目を向ける。
「今一度、烏天狗族長としてお願い申し上げる。
この里の渡り人、頭領となって頂けないだろうか?
…家族として凛桜を迎えたい。里一同の気持ちだ。」
広場にいる烏天狗達が一斉に凛桜へ跪く。
自分がすべき事…したい事……
今までの18年間、
自分の行く道は全て決められてしまっていた。
孤児院を卒院したら生きる為に働く。
ただ敷かれたレールを歩くだけ…。
自分の感情なんて関係なかった。
だが渡り人になれば……
妖という、存在自体を知らなかったものの世界に
飛び込むのだ。
それは恐らくとても大変で危険なことだろう。
それでも…ここまで想ってくれる人達に
自分はこの先出会えるだろうか?
この人達の想いに応えたい。
そう思う気持ちがここまで強まる出来事はあるのか?
これからの人生……
自分の気持ちに正直に生きてみたい。
自分がしたい事をしてみたい……!
凛桜は跪く雅の前で座り、目線を合わせる。
「私で良ければ…
皆さんの里に、仲間に入れて下さい。」
もう逃げない。自分で引き寄せた出会いだ。
自分の気持ちに正直に生きよう。
凛桜は晴れやかな笑顔で周りの烏天狗達を見渡す。
「みなさんもー!これからよろしくお願いします!」
大声で叫んだ後に勢い良く頭を下げる凛桜。
烏天狗達は驚いたり苦笑したりと様々な反応だが、
皆凛桜を見る目は優しかった。
雅と雪は顔を見合わせて苦笑する。
「…では、頭領様をお屋敷へご案内しますか…!」
雅は立ち上がり、凛桜を広場の奥へと誘う
夜空の星月に見守られ
今この時、一人の人間が渡り人となった。
この国を災厄へと導く事になる渡り人が………。
やっっと凛桜の覚悟が決まりました…!
これから渡り人として頑張っていく凛桜が
様々な出来事を経て成長していくのを見るのが楽しみです。




