烏天狗の里
車を降りた凛桜。
目の前には大きくそびえ立つ鳥居がある。
夜の鳥居…だけでは説明できない怖さだ。
「凛桜君、行こうか。」
万葉が凛桜に呼びかける。
凛桜は万葉の後に続いて鳥居をくぐる。
「…?!」
瞬間、辺りの景色が一変した。
先程まで古びた鳥居の先には
ただ暗い石段が伸びていたが、
今は光を灯した灯篭に照らされた石段が凛桜の目に映っている。
どこか暖かさを感じる雰囲気に包まれる中、
万葉が大きく伸びをする。
その瞬間、ポンッ!と煙に包まれた後出てきたのは…
「!!たぬきだ………!」
たぬき姿の万葉はしっぽを振りながら凛桜の前を歩き始める。
「言ったじゃん狸だって。
石段はこの姿の方が歩きやすいんだよねぇ…」
そう言いながらぴょんぴょんと石段を登る万葉。
…かわいい。
そんな事を思えるくらいには凛桜もこの暖かい雰囲気に絆されていった。
「そういえば、受付の方も狸なんですか?」
凛桜は万葉の後ろを人の姿のままで歩いている女性を見て問いかける。
「違うよ。この子は木葉。
君と同じ人間で、化け狸の渡り人。」
万葉は石段を登りながら話す。
「この子はちょっと特殊でね…
小さい頃死にかけているのを私が保護したんだ。
自我が完成するまでに私の妖力を長期間浴びちゃったから木葉にも妖力が発現したんだ。
んで、このままだと悪い妖に攻撃される可能性があったから渡り人として保護継続って感じかな。」
なるほど…そんなこともあるのか。
そこでふと凛桜は思う。
私には何で妖力があるんだろう…?
私には赤ちゃんの頃を知る術はない。
今考えたところで答えは出ないな…。
そんな事を考えながら石段を登ると
上の方に石段の終わりが見えた。
あと少し。この先には一体何があるのだろう……
少しの不安と期待を感じながら上へ向かっていた時、
最後尾を付いてきていた雅が石段の頂上へ飛び立った。
そして……その姿は羽ばたきと同時に姿を変える。
「ようこそ我が里へ。凛桜、お前を歓迎しよう。」
雅は凛桜を見つめて話す。
月光に照らされた体には美しい羽があり、
風になびく髪は艶やかな黒色をしている。
端正な顔立ちの青年の目は…
カラスの時と同様、光に照らされ金色を帯びていた。
美しさの中に底が見えない恐ろしさを感じる。
明らかに人ではない姿に魅了されながらも
促されるまま凛桜は石段を登り切る。
「すごい……」
つい感嘆の声をあげた凛桜。
石段を登った先には大きな広間があり、
月明かりに照らされた大勢の烏天狗達が
静かに凛桜を待っていた。
「黒丸っ!!!」
突如静寂を切り裂いた人物がこちらに走ってくる。
黒丸も凛桜の腕から飛び出さんばかりに身を乗り出す。
凛桜は慌てて黒丸を地面に下ろしてあげた。
雅はその光景を見ながら凛桜に説明する。
「彼女は黒丸の母親だ。名は雪。
君を渡り人に推薦した1人だ。」
雪は黒丸を抱きしめながら凛桜を見上げる。
「凛桜さん、本当に…本当にありがとう。
この子が無事でほんとうに…良かった……!」
黒丸の羽に涙が落ちる。
「もうお母さん泣かせちゃダメだよ、黒丸。」
母の腕に包まれた黒丸に凛桜は笑いかける。
黒丸にはこんなにも愛してくれる親がいる。
……もう大丈夫だろう。
親子を眺めながら雅が話す
「黒丸の処罰については怪我の回復後に考える。
……凛桜。改めて感謝申し上げる。
この子を助けてくれてありがとう。」
雅が凛桜に頭を下げる。
「その心根の優しさを見込んで頼みがある。
どうか烏天狗族の渡り人、そして頭領として共に里を守ってくれないか?」
凛桜は雅の頭を上げさせ、真っ直ぐに雅を見る。
「お断りします。」
凛桜の言葉にその場にいる全員が固まった。
広間には突如静寂が訪れる。
ただ、風が草を撫でる音だけが鳴っていた。
雅:美青年だけどちょっと気が強そうな感じのイメージです。歳は人間で言うと19歳くらい?
とうとう烏天狗の里へ入りました!
何やら雲行きは怪しいですが次回も見て下さると嬉しいです。