表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜空の渡り人  作者: 澪露
全てのはじまり
5/73

一週間のその先へ

――岡田病院――


「よく来たね。1週間看病お疲れ様。」


一週間前に診察してくれた医者は

以前と変わらない朗らかな笑顔で迎えてくれる。


子ガラスを診察台へ下ろし、

テキパキと状態を観察していく。


「足の骨もくっついているね。羽はまだ痛みがありそうだけど…まぁすぐに治るでしょ。」


子ガラスを撫でている医者の手はとても優しい。

だが子ガラスはどこか気まずそうに俯いて大人しくしている。


医者は笑いながら子ガラスに話しかける。


「まぁあれだけ自由気ままに過ごさせて貰えれば

これだけ回復が早くなってもおかしくないよね?

キミもそう思うでしょ黒丸君?」


「くろまる…?」


今医者は確かに子ガラスをそう呼んだ。

名前があったのか…それに何故医者が知っている?


「何で名前……

やっぱり誰かのペットだったんですか?」


医者は唖然とした後、急に大声で笑い出す


「あっはっはっは!!君は…本当に面白いね!

ペットね…!……本当にそう思ってるの?」


医者は静かに凛桜を見つめる。


「この一週間、何か不思議なことなかった…?」


不思議なこと…。ありすぎるくらいあった。


凛桜は医者を見ながら考える。

どこまで話すべきか……。



「私の間違えでなければ…この子は普通のカラスではない…と思います。あまりにもカラスらしくないと言いますか……」


医者は静かに頷く。


「そうだね…普通のカラスは食べたいものを催促しない。ましてやチラシでアピールなんてもちろんするはずがない。」


医者に睨まれ子ガラスが小さくなる。


「なんで!?全部知ってるんですか…?」


この一週間、

子ガラスとの生活は見守りに来ていたカラスしか知らないはず。

ということはあのカラス達が医者に状況を伝えていた…?


「……カラスを使って監視していた…とかですか。」


何故監視されていたのか。

何故子ガラスの名前を医者が知ってるのか。

理由は分からないが、

この医者がカラスと通じているのは間違いない。

ということは…


「お医者さんは…カラス達が何なのか知ってるんですか?この子達は一体……」


言いかけた時、凛桜は言葉を詰まらせる。


医者は今までの優しい目ではなく、真剣な目で凛桜を見ていたからだ。


「これ以上知ると、君はもう戻れなくなる。

それでも良いのかね?」


医者は静かに、真剣に凛桜へ問う。




戻れなくなる




その言葉の重みが凛桜へのしかかる。

今ここで引いたら全て無かった事にして元の生活に戻れるという事だろう。


不思議な出来事も、

黒丸との楽しい時も全てが過去のことになる。


ふと黒丸と目が合う。

大きくつぶらな瞳は凛桜の苦悶に満ちた顔を映す。


……一体何度この目に絆されれば気が済むんだ。

毎度毎度辟易するが…どうもこの目には抗えない。



諦めたように凛桜は優しく黒丸を撫でる。



「この子が元気になるまでそばにいると決めました。

全て教えてください。お願いします。」


凛桜の覚悟を決めた目は

しっかりと医者を見据えていた。


「わかった。よし!ならまずは自己紹介からだね!」


医者は先程の真剣な目から一転、

嬉しそうに話し出す。


「改めまして凛桜君。僕は万葉まんよう

この病院の院長であり………化け狸だ。そして…」


診察室の扉を開け、一羽のカラスを招き入れる。

昨日黒丸が怯えてたあのカラスだ。


「黒丸っ!!!」


凛桜は咄嗟に黒丸を抱きしめるが、

黒丸は何故か怯えていない。


万葉は優しく微笑む


「大丈夫だよ凛桜君。

この子は黒丸の保護者的な存在だ。

名前はみやび。黒丸と同じ烏天狗だ。」


凛桜は黒丸を抱きかかえながら固まる。


たぬき…?からすてんぐ……?


戸惑う凛桜を黒丸は心配そうに見つめる。



万葉は凛桜の背中を優しく撫でる。


「びっくりだよね。けどこれが真実だ。我々は人でも鳥でもない。妖と呼ばれるものなんだよ。

けれど決して君に危害は加えない。

言ったと思うけど…

カラスは頭が良いし何より愛情深い。

黒丸を助けてくれた君を烏天狗は歓迎するつもりらしい。」



万葉は凛桜に優しく問いかける。


「一緒に黒丸の家へ来てくれないかい?

その道中で全て教えてあげよう。

妖とは何なのか…

君がこれからどうするべきかもね。」


凛桜はまだ混乱から立ち直れない。

万葉の言葉が上手く頭に入ってこない…。


だが、黒丸…あの子ガラスが妖なら…

今までの不思議な出来事に全て納得がいく。



思っていたより自分はとんでもない事に巻き込まれていたと気付いたのが今ではもう遅かったのだ。



逃げたい気持ちと全て知りたい気持ちが入り混じる中、ふと黒丸と目が合う。


黒丸がくれた幸せを…ここで終わりにしたくない。


凛桜はゆっくり、しかしはっきりと頷く。


「一緒に行かせてください。黒丸の家に。」



万葉は優しい笑みを浮かべながら凛桜を外へと案内する。


「ようこそ凛桜君。妖の世界へ。君を歓迎する。」


万葉に導かれ、凛桜は病院のドアから外に出た。




やっと子ガラスの名前が出てきました!

黒丸くろまる君です。

やんちゃであざといけど可愛い子です。

人間だと10歳くらいのイメージですね。


さて、妖との対面を終えた凛桜

これから待ち受ける出来事を一緒に見届けて頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ