もう大丈夫
「そうね…今のところ日常生活には支障ないみたい」
そう言ってお茶をすする林先生
「そうですか…
なら本当に母親の事だけ忘れてるんですね…。」
話題に出ない事を考えると、
恐らく猫又の件もるい君は覚えていなさそうだ…
「保護された時のことも覚えて無いとなると
私達の事も存在自体覚えてない可能性ありますね…」
あんなショックなこと
片鱗でも覚えてて欲しくない気はする
「もし覚えてないのなら
あまり私達が会わない方がいいですかね?
変に刺激して不安定な状態にさせたくありませんし」
そう言った凛桜の言葉に林先生は頷く
「そうね。残念だけど今は落ち着くことを優先させてあげたいわね…だけど、」
にっこりと笑って凛桜を見る
「るい君関係なく園には遊びに来てね?
もちろん雅君も!」
「はい。また定期的にお伺いします。
今度は子供達にお菓子でも持ってきますね」
そう言って林先生と共に来客室を出た雅と凛桜
園を出ようとした時
「はやしせんせーー!」
聞いた事のある男の子の声に振り返ると
笑顔で駆け寄ってくるるいがいた
「……るい君?!」
慌てて顔を隠す凛桜と雅
林先生が急いで注意を逸らす
「るい君どうしたの?
絵本は読み終わったのかしら?」
「うん!面白かったよ!………あれ?」
るいは林先生の後ろにいる2人に声をかける
「……誰?こんにちは?」
「………こんにちは…」
大丈夫か?異変は無さそうだが……ん?
凛桜はるいが持っているぬいぐるみに気付く
「猫……」
凛桜の呟きに林先生が苦笑する
「このぬいぐるみね…
何故か孤児院に来てからずっと離さないのよ。
何か思い入れがあるのかもね…るい君猫好き?」
「うん!猫ちゃんね、優しいんだよ!お友達!」
そう言って屈託なく笑うるいは
何も含みのない、純粋な子供の笑顔だった
「そっか……猫ちゃん、大事にしてあげてね
林先生、色々ありがとうございました。また来ます」
そう言って園を後にする凛桜と後に続く雅
「良かったね…るい君元気そうだった…っ」
凛桜の声が震える
雅は優しく凛桜の頭を撫でる
「良かったな…凛桜もるいも……猫又も。」
地面に一粒、二粒と落ちる雫
「そうだね………っ良かった……良かったね…!」
自分の行動でるいを救う事が出来た。
それを自分の目で確信できたのだ。
それに猫又との思い出はるいの奥深くで生きている。
心が震えるくらい嬉しい……
涙を拭いて雅を見上げる
「雅、ありがとうね!ここに連れてきてくれて」
もう大丈夫。ちゃんと前を向ける。
凛桜から向けられた笑顔に
耳を赤くして顔を背ける雅
「……何か吹っ切れたなら良かったよ…」
「うん!吹っ切れた!これからも頑張るぞー!」
そう言って天高くガッツポーズをする凛桜と
苦笑している雅
日も傾き、夜の冷たい空気が周囲を包む中
二人の間は穏やかな温かさで満ちていた
るい君編終了です!
凛桜の成長、雅の恋心を書きたくて
ずっと考えて書いたお話です。
次回は休憩編と言いますか、
ほのぼの回です。
よろしくお願いいたします!




