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夜空の渡り人  作者: 澪露
全てのはじまり
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安揺の一週間

「結構食べるねキミ……」


茹でた豚肉を次々と飲み込む子ガラスに

つい心の声が漏れる。


子ガラスが窒息しないように注意しつつ、

凛桜は野菜炒めを食べていた。


小さな部屋の中では朝ごはんを食べる一人と一羽。



それと

窓の外には沢山のカラス。


子ガラスが豚肉を食べ始めたあたりから外にいるカラスの数は減少してきてる。

とはいえ未だに50羽位はいるようだ。


コンビニから帰った後、

外のカラスに子ガラスを見せれば安心して貰えるかも?と思ったのは正解だったようだ。

今はカーテンを開けた窓からカラス達が子ガラスを見守っている。


土曜日朝8時。隣で幸せそうに肉を食らう子ガラスを見て凛桜は微笑む。


こんな穏やかな朝は一人暮らしを始めてから経験がない。

土曜日に孤独を感じない。

それが凛桜にとっては凄く嬉しい事だった。





――6日後――


無事に会社から在宅ワーク申請を勝ち取った凛桜は

子ガラスの回復を間近で見守りつつ、

ある大きな不安を抱いていた。



この子は明らかに普通のカラスではない。

言葉を理解しているのはもちろん、

意思表示の豊かさも鳥の域を遥かに超えている。

最近ではチラシをみて自分が食べたいものをアピールしてくるようになった。

そのせいで食費がとんでもない事になってしまっているのはまた別の問題だが…。



それに、外にいるカラスも大分おかしい。

見方によっては仲間が部屋に閉じ込められていると思われても仕方ないこの状況、

それに加えて子ガラスよりも力が強い人間と2人きりときた。

普通なら子ガラスを助けようと攻撃してくるものではないのか?

しかし、

攻撃どころか窓を開けても入ってくるカラスは0。

首だけ伸ばし、子ガラスを見守って帰って行くだけだ。


明らかに「保護されている」と理解した上での行動としか思えない。


とはいえ、

現状自分にも子ガラスにも全く危害がない為

悩んでは問題放棄の繰り返しになっていた。


カラス達への不信感は拭えないまま時間は過ぎ、明日は診察に連れていく日になってしまった。



「カァ?カァ!」


子ガラスがしきりに話しかけてくる。


異常な程回復が早い子ガラスは

短距離なら自力で近寄ってくる程には元気になった。


「どうした?ご飯はもう食べたでしょーが。」


チラシアピールに負けてしまい、

今日はドーナツが晩御飯だった。

診察前最後の晩御飯だからと思い、つい財布の紐が緩んでしまった…


ドーナツをたらふく食べている時の幸せそうな顔と言ったら…思い出して愛しさが込み上げてくる。


「ここまで元気になれば…」


恐らく明日の診察でこの子とはお別れだろう。


元気になって欲しい。その一心で保護していたが

元気になってしまって少し寂しい気もする。


子ガラスは何かを感じたのか、凛桜の手に顔を擦り付けてくる。いつもの撫でて欲しい時の合図だ。


凛桜は子ガラスを撫でながらこの一週間を振り返る。


不思議な事ばかりだったが、幸せな日々だった。

独りじゃない、孤独を感じない。

忙しくも楽しい日々をこの子はくれた。


「明日からは節約生活だな。お前のせいだぞ?」


そんな事を言いながらも、子ガラスを撫でる手は止めない。




月明かりが強くなってきた夜


幸せそうにウトウトしていた子ガラスがふと顔を上げた。

目線はカーテンの閉まった窓に向かっている。


「子ガラス?」


呼びかけても凛桜を見ず、窓を凝視している。


いつもと違う子ガラスの態度を不思議に思いつつ

窓を確認しに行く。



カーテンを開けた凛桜は一瞬息を呑んだ。



窓には一羽のカラスが佇んでいる。

だが、ただのカラスではない。

凛桜は何故かそう感じた。


月明かりに照らされた羽は艶やかな黒色をしている。

目は綺麗な瑠璃色だが、時折金色の輝きを帯びている。


今までのカラスとは何かが違う。

見た目は普通のカラスとあまり差はないが…

何かが違う。

直感的にそう思わせるものがそのカラスにはあった。



カラスはゆっくりと窓から入り

子ガラスの元へと羽ばたく。



瞬間子ガラスは怯えるように羽をバタつかせて凛桜に向かってくる。


「おいで!」


慌てて凛桜は子ガラスを抱きしめ、入ってきたカラスから守る。


入ってきたカラスはそれ以上近づきはせず、

ずっと凛桜を見つめてくる。


心の内を見るようなその視線に

凛桜は子ガラスを抱きしめる腕に力を込める。


何が目的なのか…まず敵なのか味方なのか…。


カラスの佇まいからは何も情報が得られない。

ただ互いを見つめ合うだけだ。


しばらくしてカラスは凛桜から目線を逸らし、静かに窓から夜空へ飛び立っていった。


カラスが居なくなっても子ガラスは凛桜の腕の中で小刻みに震えている。


「大丈夫、もう行ったよ。窓は閉めるから。」


安心させるように子ガラスに声を掛け

窓を閉めに行く。



外にはもうカラスはいなかった。

しかし凛桜の不安は拭えないままだ。

凛桜の気持ちは落ち着かないまま時は過ぎ…

診察日当日を迎えた。

節約したい凛桜が子ガラスに豚肉をあげたのは

鶏肉は気持ち的に複雑だったからです。

共食いさせたくない>財布の紐

口は悪い方ですが根は優しい女の子です。


次回は凛桜の人生が大きく動くターニングポイントになります。

一緒に凛桜の行く末を見守って頂けると嬉しいです。


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