子供の"愛"
アパートの付近に降り立った雅は
気配を消しつつ周囲を確認する
朝日に照らされたアパートの影…何かいる。
敵意は感じられないが、一応警戒しつつ近付く雅
「猫又……?」
昨日切った猫又とそっくりな猫又は
静かに雅を見つめ、そっと頭を垂れた
服従の姿勢…雅は刀にかけていた右手を離し
猫又の前でしゃがむ
「頭を上げてくれ。
俺はお前を殺しに来たわけじゃない。
……昨日昼と夜に俺達を見ていたのはお前か?」
猫又は頷く
「お許しください。
止めてもあいつは聞かなかったんです。
せめて何かあった時に助けられるようにと、
そう思いあいつを監視しておりました…」
あいつ…昨日の猫又の事か…?
「酷な事を聞くが…
昨日俺が切った猫又とお前の関係は?
あの子供の事も知っているか?」
猫又は涙を堪えながら答える
「あいつは…死んだのは私の弟です
そして人の子…るい君は、私達と遊んだ事で……」
猫又の目から涙がこぼれ落ちる
「私達が関わってしまったから
るい君はあんな事に…本当に申し訳ない……!!」
雅は目の前の妖が泣くのを
ただ黙って見ている事しか出来なかった
「るい君は、
昔は母親と貧しくも楽しく暮らしておりました…」
涙を拭きながらその猫又はゆっくり話し始めた
昔、猫又とその弟はこの近辺で生活していた野良猫だったらしい
その時に初めてるいと出会い、
時折餌を貰っては一緒に遊ぶ関係だった
ある日2匹とも病気で死に、
その時の思いの強さから猫又になった
"るい君とまた遊びたい。"
そんな思いが成就したのだと互いに喜んだ
そして幸いにもるいは妖が見れる体質だった
奇跡が重なりるいとの再会も果たした後
1人と2匹で楽しく遊ぶ日が続いたが…
他人…母親から見れば
一人で話し、遊んでいる奇妙な子でしかなかった
母親は自身の子の変化に戸惑い、
戸惑いはやがて恐怖に変わった
そしてついに1年前…
るいが母親の暴力に耐えている所を
猫又の弟が目撃したのだ
「私も最初は信じていなかったんです。
あの母親はそんな事するようには見えなかったので…
ですがどんどん酷くなっていく暴力で
るい君が衰弱していくのを感じていました。
毎日昼は公園で2匹と遊び、夜は母親の暴力に耐える…
見ているこっちも苦しい程るい君は弱っていきました。」
そんなある日、弟は我慢できずにるいへ提案する
"夜、しんどいなら眠ってなよ!
ボクが助けてあげるから!"
「るい君もその提案に乗りました。
弟はるい君に取り憑き、
昼は体内で休み、夜は表に出てるい君を外出させる
そんな生活を始めたのです。
もちろん、妖としての掟は理解していました。
だからこそ私は反対したのですが
弟は制止を振り切り、るいに取り憑いてしまった。
……あそこでもっと止めておけば……!」
苦悩の表情で話す猫又の言葉を
雅は黙って聞いていた
まず、"人に取り憑く"。
この時点で抹殺とまではいかないが
妖としてやってはいけない事と理解していたはずだ。
その理由は
取り憑いた妖は何もしなければ…
"精気を吸い取らなければ"衰弱していくからだ。
だからこそ"取り憑く"のと"精気を吸う"のは
同じ罪と考えられている。
取り憑くにも力を使う。
力の弱い妖には一か八かの策だ。
弟は自分の身よりもるいの命を優先したのだろう。
その証拠に弟の猫又は自分が殺したその瞬間まで
目の色は綺麗な黄色だった。
「しばらくはるい君の怪我も少なくなり安心していました。
ですが弟の衰弱は進み、
このままでは後1ヶ月程で消滅する位になりました」
消滅すれば
るいはまた夜に虐待を受ける生活に戻る
そう考えた弟は
誰かにるいを保護して貰うのを願って
夜に路地へ行く事にした……
「そこで凛桜に会ったのか。」
凛桜はまだしも、
俺が妖力を感知できないほど弱っていた
「本当に最後の手段だったんだな…だが、
なんでそんな状態になるまで他人に助けを求めなかったんだ?」
るいにとって虐待されない環境に行くのが1番のはず
最初から取り憑いてすぐに人に助けを求めれば
もっと違った未来もあったかもしれない。
猫又は首を振る
「るい君が…母親を愛していたからです。
あんなことされても…まだ母親が好きだったから…
離すなんて考えられなかったんです……!」
あい……だと?
危害を加える者に心を許し愛す…?
雅は理解出来ず言葉を紡ぐことが出来なかった
猫又の思いが生んだ奇跡と絶望…
次回もよろしくお願いいたします。




