妖力の解放
「よーし!終わりだよ凛桜ちゃん!お疲れ様」
「……凄い!」
今までずっと嫌だったくせっ毛がこんなに綺麗に纏められてる…?!
雪が自慢げに腕を組む
「凛桜ちゃんを最高に美しくするのが侍女ってもんよ!さぁほら!早くご飯いこ!」
いつもと違う自分自身に戸惑いつつ、
凛桜は部屋を出た
「ふぅぁぁ……食べた……!」
満腹だ…お米に魚にお肉に…
晩御飯でも豪華すぎるくらいの朝食だった…!
自室の窓を開ける凛桜
窓からは烏天狗の子供たちが遊んでいるのが見える
「頭領…ね」
朝食を食べに部屋を出てから、
食べ終わって自室に戻るまで
烏天狗達は一定の距離を置いて私を見ていた。
あの私を見る目が含んでいたのは…
多分恐怖の感情だ。
無理もない
過去の頭領の件で人を信じきれないのだろう。
昨日の夜、皆には歓迎されていたと感じたが
完全な信頼を得るにはまだまだ時間がかかりそうだ
そして信頼を得るためには…
自分が頭領としてこの里に貢献するしかない。
せっかく出来た仲間…家族だ。
大切にしたいし、そう思って貰いたい。
コンコン…
「俺だ。入ってもいいか?」
……ちゃんと許可をとるとは雅も成長したもんだ。
まぁ、あの時の雪怖かったもんな…
「どうぞ」
声をかけると雅が入ってきた。
「早速だが、今日の予定だ。
まずは妖力のコントロールを俺が教える。
そのあと礼儀作法について雪が教える。
雪から聞いたかもしれないが、
今日五峯神が正式に凛桜を烏天狗族の頭領と認めた。
そして、そのお披露目が1ヶ月後に決まった。
その間に凛桜には今のアパートも引き払って会社も退職してもらう。
これから一気に忙しくなる…一時も惜しい。
今から訓練所に行くから付いてきてくれ。」
早口にそう告げると、さっさと部屋を出て行く雅
凛桜は慌てて追いかけた。
――訓練所――
「違う!もう一度集中して体の中の妖力を感じろ」
雅の厳しい声が響く。
訓練所は屋外だが、塀に囲まれてるのもあり
案外声が響くようだ。
「違う!出来てない!
こうやって…体の中の温かい流れを感じるんだ」
雅の体から白いモヤの様な光が出てくる
多分あれが妖力なんだろう
凛桜も真似をして目を閉じ集中する
あったかいもの…体の中に流れてる温度の高いもの…
……いやわかるか!体なんて全部あったかいわ!
「何も感じない………」
これは困った。最初の最初でこんなに躓くとは…
かれこれ一時間ずっと雅に叱られ続けている
「感じない…?そんな妖力漏らし続けてるのにか?」
雅は怪訝な顔で凛桜を見る
「お前が何も感じてないのはわかったが…
里に来た時から常に妖力を纏っているぞ?
恐らくだが…多分何かしらの影響で体内に妖力を完全に閉じ込めてたが、黒丸や他の妖と長時間一緒にいたせいで体内から漏れ出ているんだろうな
そして、いざと言う時は黒丸を守る為に無意識に妖力を使ってる……なんなんだお前は」
………こっちが聞きたい。
2人が溜息を吐く
そんな中雪が訓練所に入ってきた。
「2人揃って疲れた顔してるわね…大丈夫?」
大丈夫じゃない…妖力のコントロールの前に
妖力そのものを感じられないんだから。
「ねぇ雪、妖力ってどんな感じ…?
雅さっきからあったかいしか言わない…」
凛桜の質問に雪は笑う
「雅!あなた教えるの下手なのね!
もう凛桜ちゃん可哀想に…
なら……そうね、凛桜ちゃんちょっと手貸して」
雪は凛桜の両手を握る
「いい?これから凛桜ちゃんの中に私の妖力を流すからね。ゆっくりでいいから集中して感じてみて」
そう言うと雪は目を瞑る。
………ん?…何か感じる……
微かにじんわりと……温かい何かが体を巡っていく。
「なんか……あったかい?」
雪は目を瞑りながら微笑む
「そう。それが妖力。
じゃあ今度はそれを右手に集めてみて」
雪の左手が凛桜の右手から離れる
体に巡っているあったかいのを右手に…
「!! 雪!見て凄い…右手が白く光ってる…」
鼓動に合わせて
自分の体内の妖力が右手に集まって来るのを感じる
「雅、受け止める準備して」
雪がそう言うと雅が構える
「凛桜ちゃん、その右手を雅に向けて?
そう……そして右手にもっと妖力を溜めて……」
言われた通りに右手を雅に向ける
右手がどんどん熱くなり、光も増してゆく
「上手!
じゃあその溜めた妖力を一気に雅へ放ってみて。
本気で大丈夫よ」
本気で……
凛桜は雅を見る
「いくよ!」
瞬間、凛桜の右手から出た光が巨大な水塊となり
一気に雅へ向かっていく
「うぉっ?!」
雅が慌てて自身の妖力で受け止める
雅の足元の土が抉れ、徐々に雅が後退していく
「くっ……!ダメだ消せない!上へ放つぞ!」
雅が水塊を上へと押し上げた
水塊は天高く上り、花火のように散る
ザアアァァァァ………
滝のように水が降ってくる
「出来た………」
凛桜は驚きで震える右手を見る。
あれが自分の妖力…本当に使えたんだ…
固まる凛桜を見る雅
「はぁ…とりあえず今日はこれで終わりだ。
こんなに濡れたら人は風邪を引く。早く着替えろ」
訓練所から去っていく雅を見送る凛桜と雪
「お疲れ様凛桜ちゃん。
やっぱりすごい妖力ね!雅が押されるなんて…
けどこのままじゃ風邪引いちゃうし
雅の言う通り早く着替えましょう?
ちょっと休憩したら礼儀作法の勉強ね」
雪は嬉しそうに凛桜を部屋へと連れていく。
やっとスタートに立てた。けどまだまだこれからだ。
凛桜は頭領となるべく更なる努力を心の中で誓った。
凛桜初の妖力解放です。
雅は人に妖力の使い方を教えたのはこれが初めてらしいです。下手なのは多めに見てやってください。
切り良いところまで書こうと少し長くなってしまいました…
次回はちょっと先に飛び、3週間後…お披露目まで1週間の所まで行きます。
楽しんで頂けると嬉しいです。




