朝のひととき
――翌日――
朝日が眩しく、顔をしかめながら起きた凛桜
……そっか。烏天狗の里か…
現実だとは理解してても未だに戸惑ってしまう
コンコン…
「どうぞ」
凛桜が声をかけると、扉から少し顔を覗かせたのは
「おはよう凛桜ちゃん!
早速だけど着替えて朝ごはん行こうか」
雪だ。
昨日は結局あの後執務室からこの自室へと連れてきてくれ、寝る支度なり全てを手伝ってくれた。
……流石に入浴は自分で出来るから!と断ったが。
「おはよう、雪さ……雪。」
いかんいかん。敬称はナシだ。
ベッドから降り大きく伸びをする
アパートの部屋からすると広すぎる部屋だが
それでも落ち着きのある家具と畳の匂いで大分居心地が良い。
雪が今日着る物を選んでくれている
「今日は礼儀作法の他にも妖力の訓練するって
雅が言ってたからなぁ…やっぱり動きやすい方がいいかしら?」
「私はなんでも……」
寝間着を脱ぎながら雪の選ぶ着物を見る
随分と色んな着物があるな…そりゃ選ぶのに苦労する
2人が色々な着物を出していると、
急に部屋の扉が開いた
「凛桜ー、今日の予定なんだ……が………」
瞬間、凛桜の目の前が真っ白になる。
綺麗な雪の羽だ…
「…年頃の女性の部屋に無断で入るとは何事?雅。」
凛桜を羽で隠しながら
氷のように冷たい声で雅を制す雪
「………すみませんでした…
あの、凛桜の件が五峯神に届いたらしくて……」
「で?」
「……後で出直します…」
か細い声の後、静かに扉が閉まる。
「ごめんねぇ凛桜ちゃん!
あの子ほんっとうに女っ気なくて…!
女の子への気遣いなんてこれっぽっちもなくて!
ちゃんと後で言い聞かせるから!」
雪はいつもの優しい声に戻っている。
あの腹黒がここまで圧倒されるとは…
雪の事は怒らせない方が吉だろうな。
「大丈夫…それより五峯神って言ってたけど…」
雪は凛桜の着る物を決め、早々と着付けしながら話す
「昨日、雅と契約書に血判押したでしょ?
あれが五峯神の元へ届いたのよ
これで里だけでなく、
正式に烏天狗の頭領になったって事」
…あの消えた契約書か。随分便利な仕様だな
「じゃあ今日から任務開始って事?」
まだ右も左も分からない中、正直不安しかない
雪は手を止めずに教えてくれる
「いやいや!雅が詳しく話すと思うけど
まずは頭領のお披露目までに
妖力のコントロールと礼儀作法の勉強よ
お披露目では色んな里の頭領と族長が来るから
それまでに何としてでも頭領らしくなって貰うつもり」
お披露目……緊張以外の何物でもない。
里の代表として来る妖達が
新しい頭領の品定めをするようなものだろう。
"他の妖に侮られないように"
昨日の雅の言葉が頭に浮かぶ
仕事でも第一印象は大事だと教えられた。
このお披露目は絶対に失敗出来ない…!
「まぁ、まだ時間あるしね
そこまで気負わないで大丈夫よ!
………よし、着付け完了!」
雪が満足気な顔をして全身鏡へ凛桜を写す
黒を基調とした着物には白と金の刺繍が施されており、袴は黒一色だが光沢がある
着るもの一つでここまで印象が変わるのか…
身も心も引き締まるのを感じる。
「初日だし、やっぱり烏らしく黒で統一しました!
で、着物は動きにくいだろうし今日は袴で!
…やっぱり凛桜ちゃん元がいいから着こなせると思ったのよねー!かっこいい…!」
雪が楽しそうに笑う
「じゃあ次は髪の毛綺麗にしちゃいましょ!
朝ごはんまでにいい感じにするからねー」
……随分と朝から至れり尽くせりだ
これにも慣れていかないとな
楽しそうに髪を弄る雪を鏡越しに見て凛桜は笑った
初めての朝、雅以外は穏やかな回でした。
雪は娘がいないので着飾れるお人形(凛桜)が来たことで火がついたんでしょうね




