はじまり
数ある作品の中からこの作品を見て下さりありがとうございます。
この物語で皆様の日常が少しでも楽しくなりますように…。
そんな気持ちで執筆しております。
これから凛桜の周りで巻き起こる非日常な出来事。
一緒にハラハラドキドキして頂ければ幸いです。
午後10時。
歩く道には人影も少なく、家々から漏れる光がいやに眩しく感じる。
「はぁ…疲れたな…」
つい気持ちが漏れてしまう。私には明るい光が灯る家で待ってくれている人も、帰りたいと思う家も無い。家なんてただ寝る為の場所になってしまっている。仕事中の方がまだ寂しくない。
凛桜は物心ついた時には天涯孤独な子供だった。同じ境遇の子との共同生活をし、働けるようになった18歳から一人暮らし。希望に胸躍らせて孤児院を卒院してから早半年。今はただ生きる為に働くだけ…
やりたい事もない。
「強いて言えば…ネコ…飼いたいな…」
それにはまず今のアパートでは飼えない。それに飼うための金銭的余裕もない…。
晩御飯抜いたら貯金どのくらいだ?
そんなことを考えながら歩いているとふと何かが目に入る。
「ん?なにこれ…」
遠目で見つけた黒い物体が近付くと徐々に小さなカラスだと気付く。
よく見ると微かに身体が上下している。
見つけてしまった手前このまま無視は夢見が悪い…。
「……結構血出てるな…ちょっと頑張れるか?」
羽織っていたジャケットを脱ぎ、優しく包んで抱き上げる。
今日は金曜日。明日洗濯すればシミにはならないだろう。
スマホで1番近い夜診のある動物病院を探して歩き始める。子ガラスは抵抗する気力も無いようだ。
「あと少し頑張れよ…?出来れば目の前で死んで欲しくないし…!」
来た道を急いで引き返していく。
ジャケット無しでは少し肌寒い9月の夜空。
つまらない日常に一粒の非日常が落ちてきた。
その1粒が自分の運命を大きく変えることになるとは……
まだ凛桜は知る由もない。