終わり
第一章:最後の自由な午後
暑い日の午後。
いつものように、俺たちは近所の小さな公園に集まっていた。
ブランコに揺られながら、リーンはぼーっと空を見上げていた。
頭の中では、自分が豪華なヨットに乗ってパーティーしている妄想にふけっている。
腕には高そうな時計。
まるで別世界の住人みたいに——自由そのもの。
「おい、リーン。お前、聞いてんのか?」
突然、フリーズがリーンの腕を引っ張った。
「えっ? あ、うん……言ってたのって……その……」
「お前、マジでクソだな。分かってんの?」
「ちょ、今日はほんと疲れてたんだって!」
「まあな。こんな安月給で働いてるのがバカらしくなるわ。金持ちになるのって、なんでこんなに難しいんだよ。もう帰るわ。」
「えっ? でも今日が最後だぞ。明日からはあの【学校名】だ。そしたら、もうこんな風に集まれなくなる。」
「だから?」
「……だからさ。俺、そろそろ本気出す。今のままじゃ、金持ちになんてなれない。でも、あの学校なら……チャンスがあるかもしれない。」
「勉強して、いい大学行って、働くってこと?」
「違う違う。俺が言ってんのは、あの学校には金持ちの子がいっぱいいるだろ? つまり……コネだよ。俺たちも街で名を上げられるかもしれない。クラブ活動とか、なんかに入ってさ。」
「まずは、同じクラスになれたらいいな。」
「同じになるよ。」とカラが口を挟む。
「なんでわかるんだよ?」
「だって、あの学校は国で一番レベルが高い。俺たちみたいな貧乏人は、同じクラスにまとめられるに決まってる。他のやつらに“影響されないように”ってな。」
「なんで俺たちばっか、こんなに苦労しなきゃなんねえんだ……俺ら、何か悪いことしたか?」
——いや、俺はしてるかもな。
カラはそう思いながら、何も言わなかった。
「でも、学校に行けるだけマシだよ。ここまで来るの、簡単じゃなかった。」
「それでも、ここまで必死に働いたんだ。普通、子供がこんなに働く必要あるか?」
リーンがにやりと笑う。
「でも、あの学校は違う。ただの学校じゃない。——俺たちを、金持ちにしてくれる学校なんだ。いつか、絶対にな。」
——金持ちにしてくれる学校。
カラも、心の中でそう呟いた。
「じゃ、明日な。初日はちゃんと寝とけよ。第一印象が大事だ。」
「うん、それがいい。」
フリーズは、どうせゲームで徹夜するつもりだ。
リーンは、緊張で一睡もできない気がしていた。
「そろそろ帰るか、カラ。」
三人は短く手を振って、それぞれの帰路についた。