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24 愛の言葉


 ひょいひょい動き回るクリスティアンをぼんやり眺めながら、カーラはクリスティアンとの出会いから今までを思い返していた。


 カーラが座っているのは天井に穴の空いた幌馬車。

 荷台に腰掛けながら、クリスティアンが外に放り出した男達をひとまとめに縛り上げている。


 ちなみにそのロープは荷台と馬を繋いでいた手綱だ。解放された馬は近くの垣根に頭を突っ込んで何か食べている。手綱をなくした馬が王都を闊歩しないだけマシなので、カーラはその蛮行からそっと目を逸らした。

 荷台と馬を切り離したことで、万が一他に仲間が隠れていてもカーラが攫われることはない。馬は逃げるかもしれないが、自分の馬じゃないのでクリスティアンは全く気にしていない。馬は財産なのに。多分よそ見している間に第三者に盗まれても気にしない。


 クリスティアンは不思議な男だ。


 傷だらけのカーラを、面倒事の気配しかなかったカーラを顔色一つ変えることなく拾って。泣きながら縋るカーラの情報をあっという間に調べ上げて、やっぱり面倒事だったのに当たり前のように助けてくれた。

 その助ける手段が結婚だったのは、本当についていけなかったけれど。


(カーラとしての肩書きを増やすことで、王女でなくカーラだど証明できる要素を増やす。なによりガーデニア国民(クリスティアン)と結婚…嫁入りすんなら国籍はガーデニアだ)


 元々カーラはガーデニア国民だが、西の人々はカーラをガーデニア国民と見てくれない。そんなカーラでも、ガーデニア国民と結婚すれば国籍がガーデニア扱いになる。


(知らねがった…他国に嫁入りしたら、そっちの国の人になるんだな…)


 ガーデニアは他国に嫁いでも戸籍の移動は個人の自由だが、西の国キャンバスでは他国に嫁入りすると、キャンバス側の戸籍は強制的に消去される。

 国外へ嫁ぐということは、それだけ重く捉えられていた。


 そんな法律だから、王族が他国に嫁ぐこともほぼなかった。


 つまり王女だろうがなんだろうが、他国の人間に嫁げばその戸籍は消される。

 消されるのだから、王族だなんだと主張される謂れはない。そして逃走中のカーラがいきなり嫁入りするなど考えもしないだろうから、夫婦として行動するのはいい目くらましになる。

 情報を仕入れた段階でそこまで考えていたらしいクリスティアン。宿も夫婦としてとっていて、カーラの追っ手を見事欺いていた。


 最初は追っ手を欺くため、契約結婚のような形で夫婦となった二人だが。


(まさか本当に結婚すっことになるとは、思わねがった…)


 攫われて逃げ出した西の土地からホワイトホース家の領地、そして王都へ移動する旅程で、カーラはすっかり予想できない言動を繰り広げるクリスティアンから目が離せなくなっていた。


 追っ手の目を眩ませるための契約結婚のはずなのに、隙あらば好意を伝え続けられたのも大きい。

 なんてことない動作も褒めるし、おだてるし、お礼するし。スキンシップこそ礼節ある距離感だったが、それ以外がカーラの四肢を削いで鍋に入れてじっくりごとごと砂糖で煮詰める程甘かった。

 王女らしからぬ言動を研究してキャピキャピした言動を身につけても、クリスティアンからのアピールは変わらなかった。


「結婚してって愛の言葉だよ? クリス、最初からそう言ってるじゃん」


 からかうのはやめてくれと叫ぶカーラに向けて、なに言ったんだと言わんばかりのきょとん顔で落とされたのが上記の台詞。


(最初からずーっと本気だったなんて、思うわけねぇベ…!)


 如何に夫婦であった方が逃げやすいかを淡々と力説されれば、カーラのように表面上の求婚だと思うに決まっている。


 勘違いはあったが、ホワイトホース家の面々に紹介される頃には陥落し、正真正銘の夫婦となった。

 その頃にはすっかり人前ではきゃぴきゃぴするのが癖になっていたので挨拶のときは冷や汗ものだったが、ホワイトホース家の面々はとても心が広くてあっさり受け入れてくれた。


(一番不安だったの、三番目のお兄さんが受け入れてけるかだったども…なんの心配もねがったな…)


 むしろ一番ハイテンションに迎え入れられた。

 この国の、四つある騎士団のうち一つ、白薔薇騎士団の騎士団長に。


「思ったより遅かった」


 考え事をしていたカーラは、クリスティアンの独り言にハッと我に返って顔を上げた。

 今の今まで誰も近付かなかった…人通りのある王都の往来での珍事に、漆黒の騎士服を身に纏った青年が、人垣をかき分けてやって来た。


 漆黒の短髪。猛禽類のような蜂蜜色の目。余計な部分をそげ落としたような、彫刻みたいに美しい背の高い男。

 黒薔薇騎士団の騎士団長、オニキス・ダークウルフ。


(リスリスの、婚約者)


 クリスティアンに助けられてすっかり力の抜けているカーラは、厳しい目付きで縛られた男達(今から茹でられる豚肉みたいになっている)を睥睨するオニキスといつも通り感情がわかりにくい表情をしているクリスティアンを横目に、ぽけっと空を見上げた。


 ああ、長かった。

 彼らに保護を求めて、カーラ達はここまで来た。




今回ちょっと短い、カーラさんの独白になります。

ちなみに王都の真ん中での出来事なので、明らかに事件が起きた馬車をざわざわ人が囲んでいました…。

囲んでいたけれど近付けないのは、綺麗な顔したお兄ちゃん(クリスティアン)がテキパキ男達を下拵えのように縛っていたから…。

馬は無事捕獲されました。街中に解き放ってはならない…。

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― 新着の感想 ―
お馬さん野放しにならなくてよかった。馬は大事。 黒薔薇さん活躍の場を取られてしまいました~白薔薇さんの予想通り···黒薔薇さんがんばって!
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