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23 なんでも知ってる絵描き


 クリスティアンに拾われてから、カーラは自分を攫った者たちが何者だったのかを理解した。


 正確に言えば、クリスティアンが調べてくれた。

 彼はボロボロなカーラを宿屋で保護して介抱し、つっかつっかえな事情を聞いて、へーそうなんだと干し芋を齧りながら外に出て、温かなミルクとスープを持ち帰ってカーラに与え、泣きながら水分を補給するのを眺めながら世間話のように告げた。


「西の人達、暴徒を止めるために王族の遺体が欲しいんだって」

「なしたど?」


 喉が無事だったのは奇跡に近い。


 どうやって調べてきたのか知らないが、彼はカーラを攫った男達の詳細を調べたらしい。食事を買うついでに調べてきたと、あまりにも軽い調子で言われて信じられなかった。

 しかしカーラが説明していない男達の特徴まで口にされては信じるしかない。

 それが信じたくない内容だったとしても。


 彼らはカーラを王女と誤解していたわけではなかった。

 王女とそっくりなカーラを、王女に見立てて八つ当たりしていただけだった。


 本物がどうなったのか、カーラは知らない。西の人達も知らない。逃げ果せたのか力尽きたのか、それすら分からない。

 王女だけではない。他の王族がどうなったのか、他国の事情など田舎娘のカーラには知り得ないことだ。


 だというのに、似ているから。

 それだけで西の国…キャンバスの国民達の安寧のため、王女の遺体役として攫われた。


 殺すために、攫われた。

 国民の荒ぶる激情を、沈静化させるためだけに。


「馬鹿だよね。そんなの本物の王女様が逃げるのに有利になるだけじゃん。死体が見付かったら生きているとは思わない。捜索は打ち切られる。命からがら逃げ果せた王女がどこかで生きているかもしれないのに、偽物を用意するなんて…むしろ王女を逃がそうとしている派閥の仕業にしか見えない。となると、君を攫った人間の思惑は真っ二つ。きっと実行犯と指示役は別にいる」

「なして…」

「実行犯は、とことん君を貶めたいみたい。王女じゃないって訴えても、嘘をつくなって怒鳴るんでしょ? そいつにとって君は言い逃れする王女だし、憎い王家の一員だ。それで殺さず生かして連れて帰るのはやっぱりおかしい。だって無駄じゃん」


 スープと一緒に買ってきたチキンの骨を皿に並べながら、クリスティアンは淡々と言葉を続けた。


「重罪人を移送中っていうなら、もっと物々しくするべきだし。素人が逃げられる程度じゃ重罪人の移送なんてできっこない。ちぐはぐで、本気じゃない。きっと指示役は実行犯側のガス抜きをして、かつ時間を稼ぎたい。本物が逃げて、探せなくなるくらい時間が欲しいんだ」


 勿論クリスの憶測だけど、と言いながら、初対面の彼はなんでも知っている人外のような美貌で続ける。


「かといって、王女様の味方なのかも不明だね。もしかしたら王族の死亡は確認されているけれど、遺体はお見せできない状態なのかもだし。彼らは彼らで、国民の怒りを収めるためにも王族の遺体を野ざらしにしたいはずだ」


 そのためだけに、そっくりさんを連れて来た。


「カーラの不幸はそいつらに見付かっちゃったことだね。普通は他国の人間をそんな馬鹿げた理由で連れ去らないと思うけど、他国の人間だからこそ丁度いいとか思ってそう。国際問題を軽視しているから、王族だけじゃなくて国として嫌われているんだよね」


 多分頭がすげ変わったくらいじゃ何も変わらないだろうな。

 クリスティアンは冷えたスープを抱えて動かなくなったカーラをじっと見詰めた。


「そういう規格外な奴らだから、そいつらは、君を君だと認めない。君がどれだけ否定しても亡命中の王女だと言い続ける。大きな声で自分が正しいって主張を通すんだ。国に対してもそう言ってくる。自分たちのしていることが最善で、そのための犠牲なんてむしろ買ってでもなるべきって考えだから」


 そんな訳あるか。

 そう言いたいのに言えなかった。

 だってずっと、王女じゃないと言っているのに否定ばかりで考えてもくれなかった。


 普通に考えて、こんなに薄汚れた王女がいるわけないのに。似ているというだけで攫われて、殴られて、カーラは知らない土地で知らない男の人に助けられ、こうして滑稽な話を聞かされている。


「おら…おら、どうしたらいいだ? ずっと、そいつらから逃げねぇといけねぇだか?」

「むしろどうしたい? 帰りたい? 逃げたい? 殴り込みたい?」


 空の器に齧り付きながら、クリスティアンの泉のような目がカーラをじっと見詰めてくる。

 淡々と問う彼に、カーラは冷えた指先を組み合わせて祈るように訴えた。


「生きたい…っ」

「いいよ」


 祈るカーラに、クリスティアンは躊躇なく断言する。

 嵐のような暴力と、人格を否定する暴言の雨に晒されてきたカーラにとって、彼の躊躇いのない言動は放浪する旅人を支える星のようだった。


「手始めに結婚して」

「なして?」


 だけどその言動の展開が早すぎて、全くついて行けていなかった。


ここで過去話が終わって次回から現在に視点が戻り…ます!

え、ここで打ち切る…? 訳ではない!!

クリスとカーラは仲のよい夫婦です。契約夫婦ではありません大丈夫。

それにしても、なんで詳しいんでしょうね、クリスティアン。

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カーラさん不憫···! 謎の多いクリス兄
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