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15 忍び寄る事件


 チャコが手に取ったのは、最近多発している失踪事件についての書類だった。


「また、若い娘の捜索願か」

「最近多いですね」


 オニキスは選別した書類を上から消費しながら、一枚の報告書に視線をとめた。

 つい最近、それこそ一週間ほど前から多発している若い娘の捜索願。つまり若い娘が行方不明になっている。

 人が多ければ多いほど犯罪も横行し、か弱い女子供は被害に遭いやすい。見回りを強化して犯罪抑制を促してはいるが、悪人とは目を掻い潜るのが殊更上手い。


 年頃の娘が家に帰らないだけなら若い娘にありがちな家出の可能性もあるが、こうも件数が集中すると何かがあるように見える。

 オニキスは捜索願の書類を纏めて並べた。その様子を見て、チャコも立ち上がり執務机を覗き込んでくる。

 捜索願に書かれた箇条書きの特徴。並べると、共通点がわかりやすい。


「どうも金髪のお嬢さんが集中的に狙われているみたいですね」

「そのようだな」


 金髪は、貴族なら珍しい色ではない。

 しかし庶民では珍しい色だ。生活環境の関係で、美しい髪質を保つのも難しい。金色の髪をしていても、庶民の髪はくすんで茶髪に近くなる。

 しかしどうやら行方不明の女達は、美しい金髪をしているらしい。

 並べた書類には、必ず「綺麗な金髪」とわざわざ明記するほどだ。


「…年代も十代後半から二十代の前半と一致する。全てが関係しているとは限らないが、組織的な犯行の可能性もあるな」

「この頻度は個人の犯行とは考えにくいですからね」


 行方不明者があまりにも集中している。

 短い期間内にこれだけの数となれば、個人ではなく組織的な犯行とみるのが妥当だろう。


「帰ってきた娘から話は聞けているのか?」


 全てではないが、探索して見付かった娘が何人かいる。

 怪我はないが、恐ろしい目に遭ったと怯えているらしい。その詳細を問い質さねばならない。


「青薔薇騎士団の方で対応してます。そのうち調書も上がってくるでしょ」


 基本的な対応は黒薔薇騎士団だが、適材適所で情報面では青薔薇騎士団が動く。

 そこまでするなら担当して犯人逮捕まですればいいのに、何故か青薔薇騎士団は目立ちたがらず最後の一手は他に譲りがちだ。貢献度で言えばお互い様なのだから、遠慮せず功績を取りにいって欲しいのに、彼らは草木の影から特殊なポージングでこちらを窺っている。

 一度見たことがあるが、足を交差させて背筋を伸ばして直立し、右手で顔を隠して左手を上に上げる特殊なポーズは一体何だったのだろう。

 ちなみに、一人一人違うポーズを取るので一貫性が見られず、周囲は困惑している。


「今のところ被害者は庶民ばかりですが、金髪の女性が狙いなら貴族への影響もありそうですね。貴族には基本的に護衛がいますけど、犯罪も少ないからと護衛を置き去りに行動する平和ボケした貴族って結構いますし」


 チャコの言葉に、オニキスが真っ先に思い描いたのは銀髪の妖精。


 リリスも護衛を身近に置かず、呑気に歩き回っていた。そう、はじめて声を掛けたときも、それが原因で男に声を掛けられそうになっていた。

 騎士団本部に兄がいるからって、アレは不用心だ。次に会ったときは、注意せねばならない。

 リリスが六男に危機感を植え付けられたと知らないオニキスは、改めて説教するつもりで頷いた。

 一人歩き、危険。


「で、時期的にキャンバス国のごたつき、関係あると思います?」

「亡命した王族の話か?」

「金髪に金の目が特徴なんでしょ? 手当たり次第に金髪の娘を狙っているんじゃ?」

「その場合、金髪の男も狙われないとおかしい気がするが…関係あるとしたら、キャンバス国の王女がガーデニアに亡命している可能性か」


 言いながら、過るのはリリスの兄と一緒にいた女性。

 珍しい金髪金の目をした女性は、言動はともかく神秘的な美しさだった。黙って座っていれば、王族と言われても疑えない。


 しかしブライアン曰く、ガーデニア国の端っこの村出身の間違いなく庶民だという。

 西側の村のためキャンバスに近いが、王女ではないと断言していた。

 白薔薇が断言するだけの確証があったのだろう。ならば、オニキスはそれを信じる。


 しかし万が一、亡命してきた王女だった場合は、身分詐称の密入国で強制退去もあり得る。

 親交のあった間柄ならともかく、扱いが難しいところだ。状況を加味して判断されるだろうが、キャンバス側もどう動くかわからず厄介だ。

 オニキスは悪魔の山脈と呼ばれる危険地帯を温室育ちの王族が抜けられるとは思っていないが、いつだって予想外の出来事が惑わせてくる。

 思い込みは、危険だ。


「これでキャンバス側が関与していたら国際問題になりかねないから面倒です。本当に面倒」

「その場合は俺たちよりも赤薔薇が忙しくなるな」


 赤薔薇の騎士団は他国に知らしめる我が国の牙だ。

 相手が爪を伸ばすなら遠慮はしない。派手に、美しく、恐ろしさを印象づける赤薔薇は、二度と我が国に干渉できぬよう徹底的に叩きのめすだろう。


「あのお嬢ちゃんおっかないんですよねぇ…いつも怒られる」


 チャコが参ったと言わんばかりに頭をかいているが、赤薔薇と遭遇するときがだいたいサボっているときなのでチャコの自業自得だ。赤薔薇もチャコのだらしなさが目に付くようで、ダメな中年親父を叱り飛ばす娘のようなやりとりを何度か目にしたことがある。

 サボらなければいいのだが、副団長に仕事を押しつけて飛び出したオニキスが言っても説得力がない。成る程こうして説得力が失われていくのかと、自分の行動を省みた。


浮かれ(ふわっ)ているとはこのことか)


 オニキス、やっとちょっと自覚した。


(だがしょうがないだろう。愛しい人を勝ち取ったんだ。余韻に浸っても許されるはずだ…)


 なんて自分に言い訳をするオニキスだが、周囲がいいたいのはちょっと違う。

 余韻に浸るのは構わないが、公私を分けろ仕事に浮かれ具合を出してくるな。つまりは切り替えろと言っている。


 しかし周囲は知らなかった。

 オニキス・ダークウルフ二十三歳にとって、これが遅咲きの初恋であると。

 何せ初めてのことなので、公私を分けるとかそんな大人にとって当たり前のことが全然できていないのだと、誰も知らなかった。


 オニキスとリリス、実は恋愛初心者(ばぶちゃん)カップルだった。


 恋愛初心者のため、オニキスにはこの幸福感を周知して祝福して貰いたい欲があった。

 子供が宝物を自慢したいアレである。

 結論。ただの浮かれ野郎。

 その浮かれ野郎に更に浮かれる要因を投げ込んだのが、同じく初恋にあっぷあっぷしているリリス。

 リリスがとっても可愛く好きだと言ってくれたので、オニキスの心象風景では花が咲き誇り雲の間から光が差し鳥たちは音楽を奏で煌めく鱗粉をまく蝶が踊っている。

 浮かれ具合がとってもメルヘン。

 このカップル、恋愛初心者(ばぶちゃん)同士なのにお互いを煽っていた。


 しかし浮かれていてもオニキスは黒薔薇騎士団長なので、手を抜くわけには行かない。

 心なしかキリッとした表情で、オニキスは書類を捌きはじめた。


「情報が集まるまでは引き続き警戒態勢だ。こちらからも金髪女性を調べて周囲に怪しい影がないか警戒しろ。令嬢方には、決して一人にならないように…」


 いつも通り仕事を捌くオニキスを見ながら、チャコはひっそり思う。


(かなりハイペースなんだよなぁ…)


 いつも通りだがいつも以上の作業スピードを出す黒薔薇に、やっぱり若さって怖いわと遠い目をした。



 その数日後。

 のんびりスケッチしていたリリスの元に手紙が届く。

 差出人はビーハニー伯爵家…ソフィラの家から。


 ソフィラが攫われた。



青薔薇の人達は変人が多い。何故かジョ○○立ちしながらこちらを見守っている。

黒薔薇のはっちゃけ具合は初恋に浮かれている部分が強かったりする。

そしてラスト、金髪の貴族令嬢ー!! 安心してくださいハッピーエンドなお話です!!


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― 新着の感想 ―
忍び寄ってきたモノが一気に飛びかかってきた。 オニキスのふわっぷりた青薔薇ーズの変態っぷりにニヨニヨしてる場合じゃなかった! ばぶちゃんが心配です。
ソ、ソフィラーーっ!! 更に謎が深まる青薔薇の人たち···そのポージングしながら見守るって器用
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