出番の無い【自称】最強勇者はかく語りき
※作者は「かく語りき」の意味をよくわからず使っていますが、ご了承ください。
「おい、最強勇者様が来たぞ…」
「あら、本当だわ。今度はどんなことしでかすんでしょうね…」
俺はガメラ。勇者だ。
しかも、歴代最強の力を持っている、最強の勇者だ。
ただし、世間からの評判は悪い。
俺は確かに最強なのだが、ただそれだけ。
だって……
「ッ!おい、あいつら、ガメラの陰口言ってやがるぜ。反勇者派だ!倒しに行こう」
「どこ!?事前に証拠を隠滅させるから早く言って!」
「入国後すぐ噂なんて勇者のイメージダウンもいいとこだよな。絶対に裏で糸を引いてる奴がいるぞ。まとめて潰すのが得策だ」
「あの〜、評判が低いのは自業自得だし、仕方ないことだよ。だからさ、その〜……」
「「「ガメラは黙ってて」」」
「あ、はい・・・」
この通り、パーティが過保護すぎるのだ。
彼ら彼女らは、俺が窮地から助け出したことから協力してくれるようになったのだが、恩義を感じているせいか、俺の不評は絶対許さず、何がなんでも俺一番。みたいになっているわけなのだ。
そのため、戦闘では俺を守る事を最優先に置き戦われるため、俺の出番が無く、国民たちからは『勇者という名誉で好き勝手暮らしている暴君』と思われ、軽蔑されることになった。
そして、そのことを聞きつけメンバーが大激怒。それを口止めと受け取った国民がまた噂を流す。激怒、噂、激怒、噂。
こうして、俺は『ただただ仲間に守られている、【自称】最強勇者』というイメージが定着した。
メンバーがもう少しまともになればいいな…、と心の中で呟きながら今回はどうやって彼らを止めるかを考え始めた。
☆☆☆☆
「ガメラァ……。お前、勇者だからってそんな気にしなくてもいいんだぞ?」
「ガメラ大丈夫?怪我とかない?精神的には?正直に言ってね?頼ってほしいんだから」
「ガメラ、お前は溜め込みすぎだ。もう少し楽になってもいいんだ。勇者だからって気張りすぎだぞ」
なんとか国民に危害を出させることなく騒ぎを抑えることができた。
昔からの悪友であり幼馴染の熱血漢、メルカー。
ある事件で助けた誠実な魔法使いの少女、ルマル。
勇者と言う理由で付けられた指導兼お守り役、冷静沈着で考えが鋭いモードン。
この三人は、絶対的ガメラ至上主義なのだ。
そんな三人のおかげというか所為で、こんな暴走と悪評が飛び交い、この心労は尽きることを知らない。
さらにこれを相談すれば、心労を減らした怒りにより行き当たる国や村に八つ当たりするため、鬱憤の捌け口もそうそうない。
「俺はほぼ何もしてないというか、正直何かしたいっていうか………」
「「「ダ・メ」」」
メンバーたちは昔は今ほどこうではなかったのだ。今のようにこうなってしまったのは俺の過労が原因だった。
これは、仲間達が過保護になる前の話だ…………。
★☆☆☆
「ガメラ、大丈夫か」
「ああ、こっちもちょうど狩り終わったところだ」
「マジか!やっぱ相性いいよな!俺たち!」
「ガメラ。もっと剣の振りは直した方がいい」
「あ、そういやそのこと忘れてたわ。サンキュ!モードン」
「ガメラさん!この魔物達の死体。どうしたらいいですか?」
「あ、いいよ!処理は俺やる。あと、さんつけなくていいよ」
「〜っ!はい!」
いつもと変わらない日々を繰り返している。
メルカーと馬鹿なことで笑い合い、モードンから指導を受け、ルマルから頼られて、人々を助ける。勇者としての日々が。
そう、勇者として、当然。
むしろ、まだまだ。
いや、全く、勇者としては仕事できていない。
「にしても、最近は討伐次々受けるようになったよな。どうしたんだ?」
「別に、勇者として当然のことをしてるだけだよ。先行こ!」
この日はダンジョンに潜り、魔物の巣の駆除をしていた。
それもこれも全て、勇者として人々を守るためだ。
この巣は、まだ村を襲っていなかったが、その可能性があったから、早めに駆除しておいた。
「おい!まだ休んでこうぜ!時間はまだまだあるんだ!」
「いや、ごめん。そしたら一人で行くよ」
「え、大丈夫なのかよ!今のお前の顔、すごい……」
ちょっとイラッときてしまった。
なんであいつらはあんなにヘラヘラしながらダラダラと仕事をしているんだ?
今この瞬間にも、魔獣によって苦しんでいる人がいるというのに!!!
気づけば、声を荒げていた。
「大丈夫だっつってんだろーがッ!!!!」
「とりあえず、俺は先行ってるぞ」
「……お、おい…………………」
★☆☆☆
世界は広い。
今、村を襲っている巣を駆除するだけで終わりでは、時間がいくらあっても足りない。
この世界から魔獣を絶滅させる。
何よりも早く。
そのために、俺はメンバーを置いてでも先に進む。
もう単独でも魔獣の巣なんて駆除できるようになった。
魔獣、魔獣、魔獣、マジュウ
駆除、駆除、駆除、クジョ
絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅絶滅ぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめつぜつめ…………………
「ガメラ…………。ガメラ、ガメラ!ガメラァッ!!」
「あ、メルカー………なん、で、えぇ…………………………」
そこで意識は途切れた。
★☆☆☆
どうやら、俺は洞窟の中、魔物に囲まれて1人倒れていたらしい。
急所に入った痕があったらしいことから、攻撃で意識が朦朧として倒れたのだろう。
俺の後を追ってきたメルカーにすぐに助けられたらしい。
そのあとは、ルマルの治療魔法や、モードンの丁寧な看病のお陰で1〜2日程度で体調不良は治ったが、問題はそのあとだった。
「会議を始めます」
「「「…………………………」」」
俺の暴走の結果だと言うのは分かりきったことだ。
だと言うのに、この3人はこれからはこんなことが起きないようにと連日会議という名の俺のエピソード紹介になっていた。
「ガメラはちっちゃい頃から責任を感じて無理をしやすい考え方なんだ。例えば、俺たちが幼稚園の頃、自分が使っている遊具を他の人が使いたいって言ってきたら、まだ遊びたいけどやめるという年齢に不相応な器の持ち主だったんだ」
「ガメラさん………いや、ガメラは女子との会話に慣れてなくて私で練習しようってガッチガチになりながらも私に話題を振ってくれるところとかあってすごい可愛かったんだから!!」
「ガメラは剣の才は最初からかなりすごくてな。努力と才能により他の奴らとは一線を画すような何かがあったんだ。天からさえも認められたアイツの強さは本物だ」
とまぁ。
自慢なのかなんなのかわからないが、とりあえず俺のことについて話しているのは確かだ。
俺がもっとしっかりしていればって言うのがいちばんの原因なんだから、そこに早くたどりつければいいのにな……。
「「「つまり結論は……」」」
「ガメラに無理をさせない!!」
「今までガメラに頑張らせすぎてたんだ。次は俺たちで頑張る番だな!」
「ガメラさん!もう辛い思いをしなくて済みますからね!全部全部、私たちに任せてください!!」
「よし!決まりだ!!」
……まずい。
このままでは、こいつら暴走しかねないぞ。
「お、おい…。俺の意見は……」
「「「ガメラは安静にして!!」」」
「ひぇっ」
今までの中で、この時ほどこの3人に逆らってはいけないと思った日は無かった。
☆☆☆☆
とまぁ、かなり昔にこんな会議がされ……。
今に至るのだ。
これがあってから、俺の身に何かがあるかもしれないと危惧されるところは超警戒体制で挑むようになった。
ところで、今は何をしている最中かと言うと。
「こなくそおおおぉぉぉぉ!!!!!」
今の俺は1人だ。
みんなが寝静まった夜、一人抜け出して訓練をしていた。
だが、前のように、焦って取り乱し、雑魚に遅れをとるような状態ではない。
端的に言えば、これはストレス発散だ。
冷静な思考を持ち合わせながら一番怒りに任せて攻撃できる精神状態だ。
正直、彼らの過保護はちょっとしたストレスになりつつある。
なんと言ったって、あれはほとんど自由を剥奪されているも同義だ。
どこにいくにしても誰かしらが側についている感じなので、一人の時間というのがない。
訓練や魔獣退治も俺に仕事をさせないようにと超スピードで他の3人が終わらせてしまって俺は結局何もすることがなくなった。
そうなれば俺はどんどん弱くなっていくだけだ。
だから、今は、ストレス発散兼、訓練兼、魔物退治をしている。
虚空から聖剣を取り出す。
他の世界での勇者はわからないが、この世界の聖剣は勇者によって作り出される。
勇者を見分ける方法として、『聖剣生成』ができるようになった青年、という見分け方がある。
聖剣は、世界の呼び声に応えた者にのみ生成が許されるからだ。
そして、聖剣の性質として、《勇者以外には持ち上げることができず、地面に落ちたまま動かない》、という性質と、《絶対不変》がある。
聖剣は、一度生成すればその後は同じ形で出てくる。
どんな聖剣ができるかは、その勇者の性格次第とされている。
今回の勇者の聖剣はとても珍しい形をしていた。
それは、鞘である。
そう、剣を入れる、鞘。
これも、【自称】最強勇者、と言われる所以だ。
『鞘でどうやって魔王を倒すのか』と。
だが、実際にはこの聖剣が一番使い勝手がいいのだ。
『鞘』の聖剣。
細さを自由に変えられる筒形の棒であり、薄い板を入れられるような穴が空いている。
この聖剣の能力は、『この鞘に入れたあらゆるものに一時的な聖剣としての能力を与える』能力だ。
そして、『細さをや硬さ、長さを自由に変える』能力だ。
この聖剣の使い勝手の良さというか、汎用性の高さにより、俺の戦闘能力は歴代勇者の中でもずば抜けて高い。
鞘に短剣を突っ込み、取り出す。
すると、短剣は周囲に光を纏い、聖なる気を纏っていた。
その短剣(聖剣Ver)を魔獣に投げつける。
眉間にクリーンヒットし、そのまま消滅した。
が、その間に違う魔獣が近づいてくる。
鞘に他の剣を入れる暇がない。
しょうがない。
聖剣(鞘)でぶっ叩くことにする。
豪快に、一番強く当たる部分を捉えて………。
ずどおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!
政権(鞘)を振り下ろせば、辺りの地面は抉れ、さらに周囲一帯の魔獣は跡形もなく蒸発した。
ちなみに、聖剣の鞘にも、勇者のチカラにも、筋力増強や威力アップと言った強化はない。
だから、他の人が振ってもこの程度の威力が出ることはない。
この威力は、ただただ鞘を強引に振り抜いただけ。
この怪力も最強勇者としての一つの能力である。
「やっば。これはバレる」
この後、簡単に長剣で魔獣を消滅させた後、投げつけた短剣を回収して帰った。
とりあえず、仲間は起きていなくて安心したが、翌朝には町の噂になっていた。
☆☆☆☆
とまあ、このようなことがあり、現在に至るのだが。
「ガメラ、なんか食べたいものあるか?」
「ガメラ、嫌なことがあったらすぐに言って!私がなんとかするから!!」
「ガメラ。働き過ぎはダメだ。休息が一番だ。さぁ、他のことは俺たちに任せて休んでおけ」
やはり仲間達の過保護は度が過ぎている。
だって俺、この状態だとなんもできないし。
そんな中、勇者が解決すべき問題が発生した。
「だ、誰かあああぁぁぁ!!!たす、た、助けてくれええええぇぇ!!!!」
森の中から、関所に向かい一人の冒険者がやってきた。
「ガメラ、ここで……って、はぁ…」
メルカーがガメラの方に振り返るがその時にはもう遅い。
ガメラのお人好しが発動し、俺たちでさえ目で追えないレベルの素早さで被害者を保護していた。
「何があったんだ?場所は?俺は何をすればいいんだ!?」
ガメラは、闇堕ちの原因が『勇者の責任』であるように。
『みんなの希望である勇者』と言うものを体現できるような心の器の持ち主なのである。
そんなやつがトラブルと聞けばどう言う反応をするかは、この状況を見ればわかる。
前なんて、新しい国に来たと言うのに、『ちょっと前に滞在した国にちょっとしたトラブル』と聞けば迷わずUターンしたほどだ。
究極的なお人好しを体現した勇者、それが彼であった。
「俺、今逃げ帰ってきたんだ。超デケェ黒いドラゴンに追われて。森ん中にあんなデケェやついると思わなくて、それで………」
「なるほど、それで十分だ。あとは任せておきなさい」
そう言うと、追ってきた黒のドラゴンが現れた。
「なるほど!やはりあのドラゴンは《悪夢の魔竜》!うーん、強いやつだ!!」
余裕綽々と屈伸しながら悟る。
これ、俺、死んだっぽくね?
《悪夢の魔竜》。
魔獣にはランクが存在する。
弱級
中級
強級
上位種級
獣級
亜級
最強種級
人災級
災害級
大災級
神級
それぞれのランクはこうなっている。
かつて封印された、《悪夢の魔竜》は、大災級に位置するほどの強さだ。
まぁ、過去から未来を含め、16匹しか存在しないとされた神級の魔獣の寝床だ。
このランクの魔獣がが5000年周期で発生していてもおかしくはないだろう。
まぁ、今までそれを溜め込んでいたから、俺たちは今こんなに頑張らなきゃいけなくなっているんだがね。
大災級は一つの【神の寝床】につき1〜2体いるかいないかって感じだ。
俺たちは、“魔獣の巣の駆除”、“大災級魔獣、または(できれば)神級魔獣の討伐”、あとついでに“魔王対峙”って感じだ。
まずは魔獣対峙から始め、魔王対峙、大災級が最後って感じでレベルアップ方式でやっていかなければ過保護な俺の仲間達が◯ぬ。
まぁ、あらかた魔獣の巣は駆除し終わっているし、そろそろこのくらいならば倒れせると思う。
「よーしメルカー。体当たりだ!まずアイツを止めろ!ルマル!状態異常無効魔法かけてやれ!」
「「了解!」」
メルカーが《悪夢の魔竜》に突っ込んでいき、それに合わせてルマルの魔法がメルカーを包み込んだ。
《悪夢の魔竜》はブレスを吐いた。
あのブレスは人を昏睡状態にさせたり、混乱状態で魔物と味方と自分との見分けがつかなくさせたりする。
だが、今のルマルの加護を受けたメルカーなら、それは受けない。
ブレスの中に突っ込んでいったまま、《悪夢の魔竜》と衝突した。
俺は聖剣である鞘を細長く伸ばし、軟化させて鞭のような状態にしてから言った。
「今だ!モードン!押し倒せ!俺も手伝う!!」
そう言うと、モードンは右へ飛びかかり、俺は鞭(鞘)を《悪夢の魔竜》の右足首に巻き付けて引っ張った。
そうすれば、《悪夢の魔竜》はちゃんと転んだ。
が、奴には翼がある。
だから、ルマルにへし折ってもらう。
「ルマル!あの魔法だ!あっただろ!!超硬質レーザーみたいなやつ!!」
「あ、あぁ!アレですね!わかりました!わかりました!!」
ルマルは杖を掲げ、ブツブツと呪文を唱えた後に魔法を唱える。
「指し示せ!『ルーナレイ』!!」
すると、超硬質レーザーのような光線が《悪夢の魔竜》の翼の水かきのような部分を一部焼き尽くした。
今なら飛びにくい。
仕留めるならば、今が一番だ。
鞘を鞭状態から普通の細長い鞘にしたあと、《悪夢の魔竜》へと向かっていく。
《悪夢の魔竜》を目の前にした時、聖剣(鞘)を振り上げ。
そして、振り抜いた。
すどおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
進行上の道も、森も、全てを風圧により切り裂き、彼は道を作ったのだ。
だが、流石と言うのか、《悪夢の魔竜》はまだ生きていた。
だが、鱗はひび割れ、竜の生身が剥き出しになっている。
なら、何発も殴ればいいだけだ。
すどおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
生身の部分にもう一度叩き込む。
《悪夢の魔竜》は悲鳴をあげるがまだまだ続ける。
すどおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
逃げられても面倒なので、尻尾を切り落とした。
《悪夢の魔竜》はもはや泣き出しそうな顔でこちらを見てくる。
「そうか、お前も、辛かったんだな………」
しみじみとその5000年もの孤独を感じ、瞼を抑える。
《悪夢の魔竜》は『わかってくれたか……』と安堵する。
だが、次の瞬間には晴れ晴れとした笑顔に戻って、
「んじゃ、◯ね」
すどおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
勇者らしからぬ、非常に冷酷な笑顔で、最後の一撃を与える。
もう動かない。
そう確認すると、ある縄を用意し始めた。
☆☆☆☆
轟音が鳴り響く。
だが、3回。
この3回で、森は鎮まりかえった。
倒したのだ。
《悪夢の魔竜》を倒したのだ。
その数分後、何食わぬ顔で『弱かったなぁ、大災級』とか言いながら、《悪夢の魔竜》を引きずって勇者がやってくるのであった。
☆☆☆☆
「なぁ村人たちよ、ドラゴンを倒したあとは何をするのかわかるか?」
村人達は一斉に首を傾げた。
「それはな……パーティーだ!!」
そうすると、村人達はみんなそれぞれで顔を見合わせて、すごく嬉しそうにさまざまな物を準備し始める。
「なあメルカー、ドラゴンの肉、美味しかったよな?」
「もうやめてくれ。あの生臭さは嫌いだ。なんと言うか、あの独特な風味。吐きそうになる」
メルカーはかつて食べたドラゴンの肉の風味により、ドラゴンの肉に苦手意識を持っていた。
好きな人には中毒性があると思わせるほど美味しいらしい。
そのため、かなり高いらしい。
「美味かったのになぁ……ねぇ?ルマル」
「ふぁい。ほいひーへふよ?」
「…………はぁ。お前ら、最大の功労者であるガメラは置いといて、メルカーも手伝え。ルマルもドラゴンステーキ食べたいだろ」
「あ〜はいはい。わかったよ、かったりぃ」
「りょうか〜い。ドラゴンステーキたべりゅ〜…」
「あぁ、俺も手伝う………」
「「「ガメラは黙ってて」」」
うん、知ってた。
☆☆☆☆
今日もまた、旅に出る。
村から村へ、街から街へと転々とし、魔物のことごとくを討伐し、いつかは魔王へとたどり着く。
そこには、あらゆる困難が降りかかるだろう。
例えば、神級モンスターの目覚め。
例えば、魔王による人類大量虐殺。
例えば、かつて世界を滅ぼした邪神の復活。
そして、例えば………。
「おい、またガメラが非難されてるぞ」
「ここからなら魔法で狙い撃ちできるわね。あとは隠蔽の魔法ね」
「まて、これは罠かもしれない。もうちょっと慎重に、迅速に、冷徹に終わらせるぞ」
「あー、おい。別に俺は非難されててもいいし、民間人を狙い撃ちしちゃダメだし、罠とか仕掛ける要素ゼロだからね?」
「「「ガメラは黙ってて本当に!」」」
例えばこのように。
物理攻撃で解決できない、大切な仲間たちの統率。
多分俺の旅の中で、一番の難敵になるだろう。
「ガメラ、反勇者派の国の方角へ逃げていったぞ。やっぱりアイツは反勇者派だ!」
「ガメラ、一旦隠れろ。危険かもしれない」
「ガメラ!私に捕まって!!転移魔法と飛行魔法で安全圏まで行くからね!!」
……はぁ。
これはまた、説得には時間がかかるだろうな。
そう、ため息をこぼしながらも。
勇者ガメラは、未来の平和のために微笑むのだった。
お読みいただきありがとうございました!
2作目の短編です。
少しでも良かったと思ってもらえたなら。評価、感想、コメントなど、少しでもよろしくお願いします。