パーフェクトガールの秘密
(オープニング)
突然で悪いが俺には気になっている子がいる
その話をする前に俺の事を話しておく
俺の名前は川中哲郎
有名では無い高校に今年から通う何一つ取り柄の無い男の子だ
以上説明終わり
えっ短いって言うのか………もっと話す事はあるだろうと言うのか
それもそうだが男の事なんて書いても誰も読まないよ
読み飛ばされるのがオチだろう
俺も多分そうする
それよりも気になっている子の話を聞きたいだろ
そのこの名前は一条多摩子
呼び方はいちじょうたまこと読む
学年で一位を取れるくらい成績優秀で
因みに俺は下から数えたほうが早い
スポーツ万能で
噂では自室にあらゆるスポーツの優勝トロフィーが並んでいるらしい
因みに俺は小学生に50メートルで負けたことがある
まあ俺の事はどうでもいい
その上絶世の美女ときている
噂では小学生からモデルをしていて海外のランウェイを歩いた事があるとかないとか
そんなに気になるなら告白すれば良いと言うが、そんな事できるわけ無い
多摩子は成績優秀でスポーツ万能で俺はその反対
俺に手が出る存在では無い
月とスッポン、駿河の富士と一里塚、提灯に釣鐘、天と地、鍋蓋とすっぽん………我ながら呆れるくらい一杯言葉が出てくる事…………………そういう事だ
周りの生徒達は陰でこう呼んでいる
パーフェクトガール…………完璧な女の子
そんな子ならみんなに愛されていると思うけど
実は……………
そして俺を含めて知らなかった
光がある所には影ができるのを
多摩子の裏の顔を俺は嫌というほど知る事になるとは
(第一章パーフェクトガールの秘密)
〜1〜
朝日が差し込む廊下を俺は教室に急いでいた
今日も一日いい天気みたいだ
他の教室から会話が聞こえてくる
「もうすぐ中間テストだな」
「テストか、お前勉強してるか」
「してるけど………一位は無理だろうな」
「そうだな、一位はあの子だろうけど、仕方ないかな」
「多分だけど俺達とは頭の作りが違うんだよ」
多分多摩子の事を言っているんだろうけど頭の作りは同じだと思うぞ
そんな会話を背中で聞きながら教室に入ると
「おは哲郎、今日も元気か」
悪友が話しかけてきた
「見ての通りだ」
「そうか、死んだ魚の目をしてるから悪いと思ったぞ」
「これは生まれつきだ」
「そうだ、そうだったな、ところで話が変わるが今日はあれの発売日だな」
「そうだな、あれの発売日だな」
あれとは最近話題になっているラノベの事である
[黒竜の住む島冒険記]
内容が素晴らしいのは当たり前だが登場キャラクターも魅力がありそれぞれにファンがついている
今高校生の間で人気のラノベである
「買うんだろ」
「もちろんだよ」
俺は帰宅部だから終われば書店に直行できる
そこで何を思ったかある場所に目が行った
誰も集まっていない場所にあの子が一人でいた
「哲郎、何を見ているんだ………ああ一条さんか、ほんとに誰も近寄らないな」
その通りだ、誰も近づいて話そうともしない
パンダを観るみたいに離れた場所からといった感じだ
まあ多摩子の近づかないでと言うオーラが出ているようにも感じるが………気のせいか
「まあ関係ないか、哲郎はあれが気になるのか?悪友としてアドバイスしてやる、やめておけよ、あれはパーフェクトガールでお前は普通の人、釣り合わないよ、仮に仮にだ、告白しても秒で断れるのがオチだよ」
確かにそうかもしれないが、やる前から諦めるのはどうかと思うが……言わないでおこう
その時チャイムが鳴った
「もう時間か、じゃまた後で」
そう言うと悪友と別れた俺は自分の席に向かった
一番後ろの窓から一つ離れた席
どうしてか前の席には誰も座っていない離れ小島のような席
そんな俺の行動を他の生徒達は見ている
何故かというと俺の隣、窓際の席は一条多摩子が座っている
多摩子は周りの空気を気にしていないみたいに外を見ている
(あれの横に座れるな、勇気があるのかただの馬鹿なのか)と言う視線を感じながら………………………
そして着席したのを確認したらしく視線が外れてゆくのがわかる
どうして横の席に座れているかと言うと
女子は多摩子と比べられるのが嫌らしいから手を挙げない
男子は多摩子は高嶺の花で釣り合わないし相手にされないと言う考えで誰も手を挙げない
仕方ないから俺が座っている
これは俺にしたらチャンスの筈………筈だが………今だに告白どころか挨拶すらしていない
多摩子の発する話しかけないでと言うオーラが見えるような気がして話す事ができない
まあ一年間は長い………そのうちチャンスは来る………と信じたい
そして改めて見るとやはり可愛い………と言うよりかっこいいの方が合ってる気がする
肩にかからない黒くて艶のある髪
全てを見透かしているような釣り上がった瞳に気の強さを筋が通っている鼻に気品を感じる
細く長い唇に色気を感じる気がする
スラリと長い足に細くて今にも折れそうな両腕
小さくもなく大きくもなく丁度のサイズのバスト
離れてみたらモデルみたいで誰もが振り返るが直ぐに諦めてその場から離れる
それが一条多摩子………パーフェクトガール………
「ねぇ、…………えているかしら」
その声で我に返り前を見ると、外を見ていたはずの多摩子は鋭い視線で睨んでいた
「ねぇ、聞こえているかしら、さっきから呼んでるんですけど」
ここに入学して初めて話し掛けられた気がする
突然の事に何を話したらいい?綺麗だから見ていたといったらどうなる
[そう]と言って会話終了……………千載一遇のチャンス………離したくない
「…………えっと…………」
口籠る俺を氷のような視線で
「さっきからあたしを見てなにか用があるの」
「今日もいい天気だな」
ハァ俺は何を聞いている
そんな事………外を見ればわかるだろ
「……………質問の答えになっていない」
「一条さん………」
「下の名前で呼んでもいいわよ」
「……多摩子さん………」
「同級生だからさん付けもいらない、あたしも哲郎と呼ぶから」
さん付けもいらない………か…………確かに同級生だから………しかも哲郎と呼び捨てされているし…………
諦めて言うしかない
周りの生徒は先生の話に集中してる
「た…た……………たま……………たま…………多摩子は………中間テストは大丈夫なのかと思って」
パーフェクトガールに何を聞いている俺は
「ハァ………そんなの普段からちゃんと授業を聞いていれば楽勝でしょう」
「…………確かに…………その通りだと……」
流石は多摩子、正論を言っていて反論が出来ない
「もしかして教えて欲しいとか」
想像できない事を言ってきた
それにしても本当に教えてくれるのか?
「でもあたしは厳しいよ、何人か教えた事あるけど、何日かしたら来なくなったから、それでもやる?」
そんなに厳しいのか………もしかしたらムチを持って、間違えたら…………でも………でも………これはチャンスかもしれない……友達になる…………
「お願いします」
「わかったわ、いつから始める」
「今日は忙しいから明日からに」
今日はあれが出る
「奇遇ね、あたしも用があるの、じゃ明日の放課後に図書室で………逃げないでね」
こうして俺は勉強する約束をした
しかしこの後、裏の顔を見る事になる
〜2〜
その後は多摩子とは話さないでいた
たまに見ている気配はするが向くと見ていなかった
(気のせいかな)
そんな事をしていたらあっと言う間に放課後になっていた
多摩子の姿は既に無かった
「用があると言っていたしな、さお俺も急ぐか」
歩き出した俺を
「なあ哲郎、一条さんと何を話していたんだ」
悪友が呼び止めた
殆どの生徒は授業中は多摩子の方を見ないのにこいつは
それよりなんと言うか
勉強を教えてくれる………と言うと多分……
"哲郎……良く考えろ………あのパーフェクトガールが哲郎なんかに教えてくれるなんて事はありえないよ、からかわれているんだよ"
と言いそうな雰囲気があるから
「ちょっとした世間話だ、まあ相手にされなかった」
と誤魔化した
「世間話ね………そんな感じには見えなかったけど、哲郎が言うならそうしておいてやる」
「……………………ありがとう」
「何に対してのそれだ、それより前にも言ったがあれはパーフェクトガール、お前は普通の人、どこまで行っても平行線、絶対に関わるなよ」
もう関わっているとは………言わないほうがいいな
「話は変わるが今から買いに行くんだろ」
「そのつもりだ」
「いいな帰宅部は、今日は部活があるから明日だな」
「楽しみが先にあって頑張れるんじゃないの」
「それもそうだな」
じゃと言って悪友と別れて廊下を歩き出した
うちの高校はクラブ活動が盛んで、県大会に出たとされる部活も複数存在している
音楽室の横を通ると聞き覚えがあるメロディが聞こえてきた
いくら音楽に詳しくなくても分かる
確かモーツアルトの…………なんとかという曲だった…………気がする
中を見ると吹奏楽部が練習していた
そう言えば大会が近いらしい
窓際に飾られているトロフィーが実力を証明している
そう言えば多摩子は部活をしていないのか
校内どころかグランドでも見たことがない
もしかしたら俺と同じなのかと考えながら歩いていると誰かにぶつかった感覚があり足元を見ると尻もちをついた女生徒がいた
「ごめんなさい、考え事をしてたから……大丈夫ですか」
手を取るとそのまま立ち上がらせた
かなり可愛い………背も俺の肩に届いていない
背中に伸びる黒い艶がある髪
そんな女生徒は
「大丈夫です、私も少し考え事………あなたあのクラスの人かしら」
俺が出てきた教室を指差してきた
「そうですが」
「やった、じゃ……あなたが…………川………」
そこに
「碧さん、次は理科室だから早く行かないと授業に間に合わないわよ」
クラスメイトらしき人物に話しかけられた
「つい興奮して忘れていた………じゃ行くね、また会えると思うよ、因みに私の名前は玉木碧、実は……………だよ」
最後に何を言ったのか吹奏楽部の音で聞こえなかった
玉木碧の離れるのを確認して外に出るとグランドで野球部が練習をしているのが見えた
県大会が近いらしく熱が入っている
今年こそ全国に行くと張り切っているらしいしその実力はあると思う
グランドの脇を通り校門を抜けた
この街にある唯一の本屋は駅の近くにあり歩いて大体15分、途中大きな公園があり、この時間帯ならと中を見ると公園の真ん中にある大きな池の周りで小学生が遊んでいるのが見えた
「あの頃に戻りたいな」
なんて思っていると目的の本屋についた
中に入ると今売りたい本が目の前に平積みされている
「青い瞳の少女に俺の彼女は死神ちゃん………面白いのか?まあ気が向いたら読んでみるか、それより」
目的の売り場を目指して歩いていると
「哲ちゃんやはり買いに来たんだ」
顔なじみの店員が話しかけてきた
「楽しみで寝なれなかったよ」
「そうなんだ、でも授業で寝ているんだろ」
「寝てないよ、だって………」
多摩子に見つかったら何を言われるか分からないからな
「まあそう言う事にしておくよ、話は変わるが哲ちゃんは[黒竜の住む島冒険記]を買いに来たんだろ、ついさっき、同じ制服の女性がそれを買っていったぞ」
まあ[黒竜の住む島冒険記]は女性に人気があるから買ったとしても珍しくないが………なにか引っかかる
「どんな奴だった?」
「この店であまり見かけない人だからな………そう…………なんか凄いオーラを発していたな」
オーラを発していたなって何?
要するにわからないという事か
まあ気にしなくても構わないか
俺は[黒竜の住む島冒険記]を手にして店を後にした
「さて今日は徹夜かな、楽しみだな」
浮かれ気分で再び公園の脇を通りながら、何を思ったのか知らないが中を見て立ち止まってしまった
「あれは………あれはなんだ?」
池の周りで遊んでいた子供の姿は無く代わりに一人の人物がいた
普通なら気にしないがその人物は……
「間違いない、あれはマリィだ」
コスプレをしていた
マリィとは[黒竜の住む島冒険記]に出てくるエルフで黒竜に対して戦う人間の味方をする人気キャラクター
夏コミでもかなりの人がコスプレをしてるのをニュースでみたことがあるがまさかこんな場所で見るとは思わなかった
「近づいてみたい」
ゆっくりと近づきながら顔が見える距離まで来て慌てて近くの木の後ろに隠れてしまった
何故ならその人物は……
「何で…………何で………何で多摩子がいるんだ!そして何をしているんだ」
あまりに意外な事にその場から動けなかった
〜3〜
一条多摩子とコスプレ………果たしてこの組み合わせを予想できる奴はいるだろうか
学園内にはいないはずである
店員が言っていたのは多摩子の事だろうか
多摩子と参考書ならわかるが………多摩子とラノベ……………
気がつくと多摩子の方から話し声が聞こえてきた
「私が人間の味方をする理由が知りたいの」
何時もの多摩子とは違う気がした
「そんなの簡単なことよ」
この台詞を知っている
確か[黒竜の住む島冒険記]で黒竜がエルフに対して何故人間の味方するか聞いている場面だ
俺も好きな場面たが何故多摩子が知っている
「人間が弱いからよ………でもそんなに弱い人間でもパーティーを組んであなたみたいな強い黒竜に挑んでゆく姿がたまらなく愛しいの、あなたにはわからないでしょうね」
場面が頭に浮かんでくる
もしかしたらほんとに黒竜と対峙しているような気がしてきた
「…………………………………………………」
凄い…………凄すぎて言葉が出てこない
流石はパーフェクトガール………………姿を見てみたいと言う思いから前に踏み出した足元から
……………パキィ…………
足元の木が折れる音がした途端、多摩子の動きが止まった気配がした
「誰かいるの!隠れてないで出てきなさい!」
やばい見つかってしまった
「出てくる気が無いならこちらから行くから」
近づいている足音が聞こえる
どうする?このまま出ていけばどうなる
いやそれは出来ない
多摩子からしたら絶対に見られてはならない姿の筈
あのパーフェクトガール……実はコスプレが………もしかしたら中二病…………それが学園内には広がると………………
今はどうするか考えないと
辺りに人影は…………見当たらない
やるしかない…………やらなければ……俺が危ない…………空手有段者の多摩子に…………殺られてしまう………………
俺は紙袋から本を取り出し鞄に直し、目の辺りに穴を2つ開けるとそのまま被った
なんとか穴から外が見えるのを確認して、木の後ろから出ると
「ああわからないとも、エルフの考えなんぞ」
黒竜の芝居を始めた
紙袋をしているから………バレない筈……さあ多摩子、中二病ならのってこい
「……………………………………………」
何この無言は…………もしかしたらばれてる………が………やり続けるしかない
「マリィよ、なにか言ったらどうだ」
原作にない台詞を言うしかない
「…………わからなくても……結構………わたしとあなたは絶対に交じわる事がない存在」
やった!多摩子がのってきた
後はどう締めるかだな
「わかった………マリィは人間の味方をする……では私はそれらを徹底的に潰すだけ」
「簡単にできると思わない事ね」
あと少し…………誤魔化せる
「そのつもりだ………今日のところは退いておくとしよう次に合ったら人間ごと潰すからな」
そう言うと俺は振り返りゆっくりと歩き出す
よしうまくいった
後は公園から出るだけ………と思った瞬間
「ちょっと………待ちなさい!あなたは………」
しかし俺は最後まで聞くことなく走り出していた
〜4〜
朝、教室に入ると
「よう哲郎おは!元気か?今日も死んだ魚の目をしているぞ」
悪友が話しかけてきた
「元気だぞ」
勿論嘘である
昨日のあの光景が頭から離れないから一睡もできなかった
「それは良かった、であれは買ったんだろ」
「ああ、まだ読んでないので、じゃまた後で」
早々と悪友との会話を切り上げると自分の席に向かい横を見ると俺より早い多摩子の姿はなかった
「多摩子が俺より遅いとは珍しいな」
それにしてもあれはなんだったんだ
夢…………ならまだ納得できる……………やはり現実………………
俺なら分かるが多摩子が中二病…………今だに信じられない
顔をあわしたら何を話せばいい?
今日もいい天気だな………違う………そう言えばさっきから教室が少し騒がしいような………まあいつもの事かと考え事をしている背後から俺にしか聞こえない声で
「おい哲郎……顔をかせ!」
多摩子が声をかけてきた
「多摩子………おはよう………今日は遅いね」
「そんな事はどうでもいい、さあ行くぞ」
「後にできないかな、今から授業があるし」
それを聞いた多摩子は手を上げると
「先生、川中さんが調子が悪いみたい、保健室に連れて行っていいですか?更に看病してもいいですか?」
「いいよ…早く行きなさい」
多摩子は先生達から信頼されているから許可が出たんだろう
俺や悪友では駄目だろうな
再び俺にしか聞こえない声で
「先生の許可は取った、これくらいの授業なら後で教えてやる、さあ行くぞ」
俺は多摩子に手を取られて教室を出た
階段を上がり踊り場に出ると手を離して
「さて………昨日のあれは哲郎だよね」
「昨日?昨日は欲しかった本を買って家で読んでいたから公園なんて行っていないよ」
「…………やっぱり哲郎だったんだ」
「えっ?俺じゃないよ」
「あたし、あれは哲郎だよねと言っただけで公園なんて言っていないからね」
?……………しまった!確かに言っていない……もう
「…………あの黒竜は俺でした」
認めるしかない
それよりどうくる多摩子は…………
一番[哲郎………あれは………そう………劇の練習よ]
と言ってくるのか………それとも…………
二番[記憶が亡くなるまで殴っていい]と恐ろしい事を言ってくるのか
さあ多摩子………どうくる?俺的には一番の方が良いのに決まっているが………身構える俺に多摩子は
「哲郎これを………」
スマホを取り出した
まさか写真を撮って………いやそんな素振りは見せていない
じゃ何をしたいんだ
そんな俺を見ながら多摩子はスマホをかざしながら何かを押すと
[ああわからないとも、エルフの考えなんぞ]
俺の声が流れ始めた
[マリィよ、何か言ったらどうだ]
ここで再生が止まった
「黒竜が哲郎だと最初からわかっていたよ」
わかっていたのか………あの変装も無駄だったみたいだ
「これを使って何かできないかと考えたの」
そうか………そうだったのか………あの無言は………どう利用するかと考えていて台詞が出てこなかったのでは無かったのか
そして思いついたからのったふりをしただけか
「それにしても原作にない台詞を言うなんて………少しだけ焦ったわ」
それに反応して台詞を作った多摩子の方が凄いと思う、
やはり多摩子は中二病なのか
「でどうする気だ、金でも取るか?」
多摩子はスマホをしまうと
「ねぇあたし部活に入ってないんだ」
何?いきなり話題が変わった、何がしたいんだ多摩子は
………待て………言葉は慎重に選ばないと、何処かに罠が仕掛けられてるかも知れない……
「多摩子なら引く手数多だろ」
「そうなんだけど」
「どうして何処かに入ってないんだ」
「そうね………ピーンとくる部活がないんだよね」
「…………………………………どんな部活なら入るのかな」
「黒竜と戦うような部活があれば」
「……………(そんな部活、絶対に無い)他は」
「そうね………世界を股にかけて冒険ができる部活」
絶対に無い………とは言えない……スポーツ関係なら世界に行けるのでは………それを多摩子が冒険と捉える必要があるが………捉えないだろうな
「そこであたしは考えたの」
何かしらないが凄く嫌な予感がしてきた
「無かったら作ればいいと」
やはりそうきたか………でも………
「新しく部活を作るのは難しいだろ」
案外部活に力を入れている我が校
そんなに簡単にできるとは思わない
「そうなのよ………」
多摩子が調べた話では、部員は最低5人、部室と顧問は必ず必要とここまではよくある事だが
「生徒会と校長と先生達の許可が必要なの、あたしの力なら先生達と校長は何とかなりそうだけど………生徒会の方がな………今の会長がな…………まあなんとかするよ」
多摩子にも苦手な人がいるのか
「で俺に何をさす気だ」
「部室と顧問はあたしが探すから哲郎には部員を集めてほしいの」
「あと四人探せばいいんだな」
「えっ…三人………あと三人だよ」
「三………まさか…………俺は既に………」
「喜んで哲郎、部員第一号よ」
こんな得体の知れない部活には入りたくない
「哲郎………断ったらどうなるか……わからないかな」
多摩子は再びスマホを取り出して
「あの先も続いているんだ、聞きたいかな」
再び台詞が流れ出す
[わかった………マリィは人間の味方をする……では私はそれらを徹底的に潰すだけ]
[そのつもりだ………今日のところは退いておくとしよう次に合ったら人間ごと潰すからな]
[マリィよ、この私を敵にしたことを後悔するがいい」
そこで再生が止まった気配がした
「ちょっと待て!そんな台詞言った覚えがないぞ」
「作りました、凄いでしょう」
パーフェクトガールならやりかねない
「…………それと多摩子の台詞が無いぞ」
「消したからよ、それとまだ先があるけど」
「もういい、でどうする気だ」
「お昼休みに校内放送で流そうかな」
こんなが流されたら………俺は中二病と確定してしまう
「哲郎………流されるか、三人集めるか決めて」
「…………三人集めさせていただきます」
「哲郎ならそう言うと思っていたわ、じゃこれからどうする、保健室にいく、それとも教室に戻る」
保健室に行っても仕方がない
「教室に戻る」
「そうか、じゃあたしが先に戻るから少し経ってから戻ってきなさい、じゃ部員集め宜しくね、それと放課後に図書室だからね」
そう言うと多摩子は階段を降り途中で止まり振り返らずに
「あたしの名前を出すのは駄目だからね」
何故だ?多摩子の名前を出せばすぐに集まりそうだが
「変な奴がたくさん来ても仕方ないでしょう」
それを多摩子が言うかな
「じゃ宜しくね」
再び歩き出し姿が視界から消えた
残された俺は
「仲間を三人か…………見つけられるかな……集まらなかったらあれが流されるんだろうな」
絶望しかない………でもなんとかしないと………どうやって
頭を抱えてその場に座り込んだ
〜5〜
どうするか俺なりに考えてみたから聞いてほしい
そんなに時間はかからないから
先ずは廊下を歩いている生徒に声をかけまくる
「俺が作った部活に入ってくれないかと」
あっ………何をする部活かと聞かれたらどうしよう
多摩子から何も聞かされていないから答えられない
じゃこれはどうだろう
月曜日朝の朝礼で挨拶している校長からマイクを奪い
「この中にいる中二病は手を上げてください」
と言ったらどうなる
…………間違いなく指導室に連れて行かれて一生分の説教をされて、学園内で間違いなく変な人と言う烙印を押されてしまうだろうな
「ちょっと哲郎……聞いているの!」
考え事をしていたらいつの間にか放課後に、更に気がついたら図書室に多摩子と向かい合わせで座っていた
ほんとに時間が過ぎるのは早い事……………
「多摩子………ごめん………」
「謝る暇があるなら答えなさい」
分からないから適当に答えると
「こんながわからないでよく幼稚園が卒園できたわね」
幼稚園は誰でも卒園できるよ………もしかしたら多摩子はそんな幼稚園に通っていたのか
卒園テストがあり不合格者は留年とか…………あるかもしれない……俺が知らないだけで………
「もうこんな時間……宿題を出すから明日に提出しなさい、じゃ今日はこれで終わり」
そう言うと多摩子はさっさと退室した
それにしても宿題を出すかな…………ここの宿題に学校からの宿題………早く帰らないと間に合わない
俺は忘れ物が無いかと確かめ退室した姿を一人の女子生徒が見ていた
「あ…………あれは川中哲郎さん……仲良くなりたいな…………彼氏に……なってくれないかな」
私の名前は玉木碧………何処にでもいる普通の女子高生で実は…………妖精………と言ったらどの位の人が信じるだろうか…………まあ私の事は横に置いておこう
実は気になっている男の子がいる………川中哲郎………
初めて見たのは入学式の時だった
何処にでもいる普通の男の子…………別に格好良くないが何故か気になる存在
廊下を歩きながら彼の教室を覗くと哲郎さんがいた
今日こそと教室に入って告白しようとしたがその隣を見て足が止まる
パーフェクトガール………一条多摩子………彼女の事は知っている
成績優秀でスポーツ万能………その上スタイル抜群……………逆立ちしても敵う相手ではない
何やら楽しげに話している姿を見るととても教室に入る勇気がわかない
この前はわざとぶつかり名前を覚えてもらおうとした
覚えてくれただろうか………ちょっと心配
しかし一条多摩子が邪魔だ………哲郎さんの側から排除したい…………いやこの世から抹殺したい…………完璧な女の子に何かないのか………弱点が………この世に完璧なんて者はいない………必ず何かある筈…………
そしてこの後何故か神様が(多分何時も良い子でいるからだろう)チャンスをくれる…………………まさか多摩子の裏の顔を見る事になるとは………この時は思いもしなかった
話は変わるが私はラノベが大好きだ
3度の飯より好きと言ってもいいくらいだ
一番好きな作品は[黒竜の住む島冒険記]と言う
因みに一番好きなキャラクターはエルフのマリィである
可愛さと強さ、両方を備えた最強キャラクターだと思う
発売日に買うのが当たり前でその日も駅前の本屋に向かっていた
まだ午後3時過ぎ………駅前は閑散としていた……あと3時間もしたら勤め帰りの人達で賑やかになるんだろうな
因みに駅の周りには飲み屋が何件かあり、カラオケ屋にラウンドニャンまである
「早く買って読もうと」
と本屋から出てきた人を見て思わず隠れてしまった
「あれは………間違いなく一条多摩子………」
あきらかに周りとは違う雰囲気だから分かる
周りにいる人達も振り返っているのが見えたがやはりすぐに諦めて視線を外している
俺達とは住む世界が違うと言う感じだった
「………多分……参考書でも買いに来たんでしょう、さて多摩子は置いといて、私は」
本屋に入る頃には多摩子の姿は見えなくなっていた
目的の売り場は一番奥にあり、そこに行くまでに両側にファション雑誌やスポーツ雑誌などがならんでいる棚がある
それらの誘惑を振り払いながらラノベ売り場について目的のラノベを手にした
とここで誰かが入ってくる気配に振り返り再び隠れてしまった
そこに現れたのは
「川中哲郎さん…………私何故隠れてしまったのだろう」
隠れる必要はない………筈だが……何故か体が勝手に動いてしまった
女の子が[黒竜の住む島冒険記]を買うのが恥ずかしいから………いや女性ファンもかなりいると聞いている
じゃ別に隠れる必要はない………今から出て………まて…………果たして名前を覚えてくれているだろうか
出たはいいが君誰と言われたらどうしよう
………………私は妖精………出来ない事はない……行くしかない
覚悟を決めて出たが哲郎の姿は既に無かった
「まあ………チャンスはまた来る………筈……とりあえず名前を覚えてもらわないと」
そう言い聞かせ目的のラノベを手に本屋を後にした
帰り道の途中に地元の人達に愛されている公園がある
休日になると家族連れで賑わいが、今日は平日の午後5時過ぎ、小学生の姿も見当たらない
「早く帰ろう」と歩き出した視界に変な二人の姿が入ってきた
一人は頭から紙袋を被っていてもう一人は
「あれは…………間違いない……マリィ……」
コスプレをしていた
夏コミとかでよく見るがこんな所で見れるとは
詳しく見たいという思いから近づこうとした足が止まり物陰に隠れてしまった
「何故………何故………一条多摩子が………コスプレを……」
劇の練習だろうか………違う………学園祭はまだ先出し………多摩子が演劇部にも入っていると言うことはないはず
じゃ多摩子は何をしている?
更に会話が聞こえてきた
「わかった………マリィは人間の味方をする……では私はそれらを徹底的に潰すだけ」
どうやら紙袋の方は黒竜をしているみたいだ
「簡単にできると思わない事ね」
それにしても多摩子の演技………悔しいけど………上手い
「そのつもりだ………今日のところは退いておくとしよう次に合ったら人間ごと潰すからな」
そう言うと紙袋の方はゆっくり歩き出した背中に多摩子が
「ちょっと………待ちなさい!あなたは…………」
声をかけるが紙袋の方は最後まで聞くことなく走り出しやがて見えなくなった
「待ちなさいって言ってるんだから止まりなさい哲郎」
えっ?あの紙袋…………哲郎さん………気が付かなかった
「哲郎は明日お仕置きをしないといけないわね」
そう言うと多摩子は公園を後にした
多摩子が見えなくなってから私は物陰から出て
「一体何を見てたんだろう………悪夢………いや違う………それより…………一条多摩子は……中二病………これはもしかして…………多摩子としては知られてはいけない……裏の顔…………これを全校生徒が知れば………多摩子は終わる………………………面白いものを見た……あとはこれをどうするかだな」
更に神様が私にチャンスをくれる……それも凄いやつを
授業はほんとにつまらない
なんで勉強しないといけないのか
社会に出て役に立てば良いが………聞いた話では殆ど役に立たないらしい………多摩子はこれも一番らしい………何が楽しいのか………わからない
………………先生の声がお経に聞こえてくる………………
寝落ちしてしまいそうだから廊下に目を向けると
「あれは多摩子に哲郎………何をしているの」
多摩子に首根っこを掴まれた哲郎さんが引きずられるように通り過ぎていったのを見て私は思わず手を上げると
「先生!腹が痛いのでトイレに行っていいですか」
先生の返事を待たずに廊下に出るが二人の姿はなかった
「確かこっちな方に行った筈」
廊下を進み階段に出ると上から会話が聞こえてきた
「これを使って何かできないかと考えたの」
この声は多摩子、見えないからこれって何
「それにしても原作にない台詞を言うなんて………少しだけ焦ったわ」
原作?少しだけ焦ったわってあの多摩子が焦る事なんてあるんだ
「でどうする気だ、金でも取るか?」
まさか哲郎さんは恐喝されている
「ねぇあたし部活に入ってないんだ」
何?いきなり話題が変わった?一体何の話をしているんだ
「そこであたしは考えたの」
一体何を考えたの?
「無かったら作ればいいと」
…………!部活を作る気か!
「新しく部活を作るのは難しいだろ」
そうそうなかなか新しい部活は出来ないんだよな
「そうなのよ………」
多摩子でも難しいのか、聞いた話では部員は最低5人、部室と顧問は必ず必要となっていたような
「生徒会と校長と先生達の許可が必要なの、あたしの力なら先生達と校長は何とかなりそうだけど………生徒会の方がな………今の会長がな…………まあなんとかするよ」
一年生で当選した我が校初の女性会長……今は二期目ということになる
しかし彼女の事を知る人は少ない
「で俺に何をさす気だ」
やはり恐喝されている……誰かに知らせなくては………
「部室と顧問はあたしが探すから哲郎には部員を集めてほしいの」
………………今なんと言った………哲郎さんに部活を集めて欲しいと言わなかったか
もしかしたら多摩子………なら作れる気がしてきた
「あと四人探せばいいんだな」
「えっ…三人………あと三人だよ」
「三………まさか…………俺は既に………」
「喜んで哲郎、部員第一号よ」
あと三人…………私が…………私が………………哲郎さんと同じ………
「哲郎………断ったらどうなるか……わからないかな」
部活に………入りたい……………入りたい…………でも一条多摩子が邪魔……邪魔だが多摩子がいないと部活は作られない気がしてきた
「………………三人集めさせていただきます」
しまった考えに集中して会話を聞いていなかった
それにもう戻らないとヤバい
後ろ髪を引かれるおもいでその場を離れるが、碧にある決心がついていた
「嫌だけど………嫌だけど多摩子が作る部活に入る」
入って哲郎さんを彼氏にして、全校生徒の前で多摩子の仮面を剥いでやる
昼休みになると教室を出てある所を目指した
この時間ならあの場所に居るはず
階段を駆け上がりドアを開けた先に屋上が広がっていた
目的の人物はすぐに見つかった
すぐに近づかずにあたりを見渡してみる
「一条多摩子はいないみたい……後は………」
話しかけるだけだが………足が動かない………早くしないと一条多摩子が来るかも知れない
「…………頑張れ私………私は妖精………妖精なら出来ない事はない…………話しかけるんだ………私………」
勇気を出して歩き出して哲郎の前まで
「あ…………あの…………あ……………」
その声で哲郎がこっちを見て
「あっこの前ぶつかった……名前は…………玉木碧さんで間違いないよね」
やった………嬉しい………名前を覚えてくれている
「はい、間違いないです」
「怪我とかしてなかった?」
「大丈夫でした(私の事を心配してくれている)」
「それは良かった、でなんの用かな?」
「実は…………多摩子さんが作る部活に入りたいと」
「…………辞めといたほうがいいぞ、ほんとに糞のような部活になると思うから」
「……………それでも…………それでも入りたいです…………お願いします」
「決意は硬いということか………わかった、多摩子に話しておくよ」
「よろしくお願いします、であと一ついいですか、私に関係してる事です」
「良いですよ」
(私は妖精…………彼に私の事を知ってもらいたい………)
私は空を見上げて深呼吸し、再び哲郎を見つめながら、選手宣誓するみたいな声で
「私は妖精なんです」
〜幕間〜
「哲郎………やっと一人目を見つけたのね………で名前は」
話しだそうとした哲郎を手で制して
「私の名前は玉木碧です、部活に入れてくれてありがとうございます、精一杯頑張ります」
「悪いけどまだ部活になっていないから、あと二人、哲郎頑張りなさい」
「頑張りたいけど………あと二人か………でこの教室は何なんだ」
俺と碧は多摩子に旧校舎の片隅の教室に呼び出されていた
「この教室?あっこれね、校長に部室が欲しいと言ったらくれたよ」
多摩子と校長の関係は何なんだ
「部室の事は生徒会には?」
「言っていないし言う必要あるかしら」
まあ多摩子だし………諦めるしかないか
「部活はまだだけど愛好会ならいけそうよ」
確か愛好会なら顧問もいらないし人数指定もない
しかし
「生徒会には申請書を出したんだろうな」
我が校は例え愛好会でも審査はある
「出したわよ………あたしが書いてあげた」
多摩子が書いた?
「変な事は書いていないな」
「安心して、すごく真っ当な事しか書いていないから」
普通の人なら安心できるが、あの多摩子………が書いたとなると心配以外ない」
そんな二人のやり取りを黙ってみていた碧は
(やはり一条多摩子は嫌い!大嫌い!早く哲郎さんを彼氏にして多摩子の仮面を剥ぎたい)
心の中で思った
そんな事とは知らずに多摩子は碧と俺を見ながら
「ここに多摩子の愛好会を開始します」
「会長おはようございます」
午前6時、生徒会の朝は早い、生徒が出てくる前にやる事は沢山あるからだ
「おはよう、前から言っているけど私は2年であなたは3年、敬語は使わなくていいよ」
「そう言う訳にはいきません」
「そうか、好きにしたまえ、で報告はないかな」
「そう言えば愛好会の申請書が一件ありましたから机に置いてあります、それ以外は特に」
「そうか、早速確認するか」
会長は座るなり申請書を手に取り封を切って中身を出した
「この時期に愛好会とは………」
しかし名前の欄に見た瞬間………
「一条…………多摩子……だと………おいこれを持ってきたのは誰だった?」
「えっと、一条多摩子さんで間違いないかと………有名ですから間違いないと思います」
「本人が……来たのか…………一条多摩子………」
そう言うと会長は申請書をポケットにねじ込むと席を立ち
「会長………どちらに」
「校内の見廻りに行ってくる」
そう言うと会長は生徒会室を後にした
(一条多摩子…………一体何を………したい……それに何処までも私の邪魔をすれば気がすむ………こんな愛好会………認めるわけにはいかない………必ず潰してやる)
パーフェクトガールの秘密………前半戦終了
後半戦に続く
以上パーフェクトガールの秘密………前半戦でした
楽しんで頂けましたか
楽しんで貰えたらたいへん嬉しいです
それにしてもこんな彼女いたらどうします
成績優秀でスポーツ万能………
俺なら近寄らないかな
触らぬ神になんとかと言いますし
皆さんはどうですか?
さて後半戦ですね
生徒会の動き(特に会長)が気になりますね
何やら多摩子に対して怨みがありそうな感じでしたね
じゃ後半戦に会いましょう
バイバイ