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滄海の遺珠  作者: 和田二香
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空から振ってくる鉄

「安いカーテンがあって良かった」


商店街の日用品店で見つけた淡いブルーのカーテン。

想像より重くてビックリしたが、安価で購入出来たので大満足だ。

物干し竿も手頃な価格で買い、両手いっぱいになったので、一旦帰宅することにした。


好天の昼下がり。

商店街は人もまばらでのどかだ。

小さな子供を連れたお母さんや仲間同士で楽しげにおしゃべするご老人。

穏やかな空気の中をのんびり歩く。


「夕飯はさっきの惣菜屋さんに行って、あとお米を炊かないと…」


お米どのくらいあったかな?

と空を仰いだ瞬間、


《しまった!!》


脳に響く声。


「?!なに…?」


慌てて見回すと、上空からカランカランと軽やかな金属音が聞こえた。


あれは…


フワッと浮かんだように見えた数十本の鉄パイプの束は、バラけながらグングンとこちらめがけて落ちてくる。


すれ違った人と肩がぶつかって視界が広がると、自分の周りに数人の歩行者がいることに気が付いた。


自分は逃げられる。

でもこの付近の人は。


瞬間、両手の荷物をかなぐり捨てて空にかざす。

喉の奥から力を込めて。


「【止まれ!!!】」


その声に周囲の人間がこちらに注目したのが分かった。


「鉄が落ちてくる!逃げろー!!」


周りの人たちが手をかざした方を見上げ、グッと目を見開いた。


そこからは何だかスローモーションのように感じた。

子供を抱えあげるお母さん。

踵を返して来た道を戻る男の子。

杖をついたおばあちゃんの手を引く女子高生。

片足の靴を落としながらも近隣の店に滑り込む女性。


よし離れた。


手を下げると同時に、目の前のラーメン屋へ飛び込むように走り込んだ次の瞬間、

ドッドッドンドドン!という鈍い音と共に砂煙が舞った。


数秒の緊張と静寂の後、女性の悲鳴を皮切りにどよめきがわき上がった。転がり込んだラーメン屋の奥からも数人の野次馬が出ていく。付近に倒れ込んだ通行人に手を貸す人や、鉄筋を降らせた工事現場に向かって大声を出す人達で現場は騒然となっていった。


寝転んだまま、ビリビリと痺れる両手を抱いて心臓の鼓動がおさまるのを待っていると、ラーメン屋の店員に肩を揺すられた。


「おい!あんた大丈夫かい?ケガは?!」

「だ、大丈夫です…。」

「腕が痛ぇのか?それに凄い汗だ。待ってろ、あったけぇタオル持ってくるから!」


そう言って店の奥に走った店員を見送ってから急いで立ち上がる。

すぐ離れなきゃ。

震える両手のまま、開けっぱなしの引戸に手をかけ店を出ようとしたその時、強い力で肩を掴み上げられる。


「おいお前!何してンだ、こんな人目のあるトコで!」


眩しいくらいの金髪とブルーのサングラスをしたその男は、少し声のトーンを落としながら、険しい表情と共に襟繰りの形が変わる程の強い力で掴みかかってきた。


未だに心臓の高鳴りがおさまらない中、詰め寄られたことによってまた鼓動が高くなる。


男はこちらの顔をまじまじと見てからハッとしたように、


「お前、見ない顔だな。まさか彩明路(さいみょうじ)家未登記の人間…?」


掴まれた両肩に力がこもる。

何を言っているのか分からないし、掴まれた拳の力がどんどん強くなっていく。肩の痛みに感じた恐怖で思わず、


「【離して!!】」


と、叫んでいた。

それと同時に思いきり身をよじったせいか、その拳は呆気なく力を緩めた。


「何のことですか?!じ、自分急いでるので…!」


金髪の男の脇をすり抜けて店外へ出る。


「おま…、今のも。ちょっと待て、話を聞け」


再び伸ばされた手を振り払い、


「し、宗教の勧誘ですか?間に合ってます!【ついてこないでください!】」


そう言い捨て、鉄パイプの下敷きになっていたブルーのカーテンを拾い上げ、思いきり走った。


またやってしまった。またやってしまった。この力のせいでまたしても。


恐らく真っ赤になっているであろう顔を隠すようにカーテンを抱え込み、息が切れるまで走り続けた。

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