7話
「君にこんな絵が描けたなんてな!素晴らしい!実に素晴らしい!!決めた!この絵を個展のメインにしよう!」
その日、和真は珍しくゴーストをしている画家本人の家を訪れていた。
もちろん、和真から出向いたのではなく、画家本人が和真を呼び寄せたのだ。
「ありがとうございます、珍しくお呼びだてされましたので、てっきり期待にそぐわない物になってしまったかと思いました」
和真はかしこまった口調で、敢えて背骨を曲げて自信なさげに喋る。
目の前に居る初老の男はなにを隠そう、和真や双子の兄弟の生活を支えている張本人なのである。
この日ばかりは和真もいつも着ている柄シャツから、シンプルなワイシャツに着替えて着ていた。
(急に呼び出しのはいつものことだけど…)
「いやあ〜しかし、君にこんな繊細な絵がかけたとは本当に驚きだよ!若いからきっと色んな刺激を受けて君も常に変化し続けているんだろうね!」
そう楽しそうに話す、品の良い初老の男は、少年のような無垢な瞳で和真を見た。
「恋でもしたかね?それも意中の相手は高嶺の花だ?」
「?いえ…特には」
ピンと来ない和真の反応に、初老の男は「そうかい、そうかい」と微笑みながら再び和真の作品を見た。
「君のお陰で弟の名が世から忘れ去られることなく、こうして予定通り個展も開けている。本当に…感謝してもしきれないよ…」
「いいえ、こちらこそ生活を支援して頂いていますから…」
初老の男はかしこまる和真に「君を選んだのは弟自身だ。弟のわがままの為に身を削ってくれている君は、もはや私にとって家族と同じなんだ。こんなことを言っても都合の良い綺麗事にしか聞こえないかもしれないが…」と言いながら豪華な額縁を指でなぞった。