5話
"行き詰まってるんでしょ?僕だったら助けてあげられるよ"
和真は昼間に耳打ちされた梔子の言葉を思い出しながら家のアトリエで真っ白なキャンパスを見つめていた。
(助けるって…代わりに描く…はないな。作風と画力に差があり過ぎる)
そんなことを考えながら絵の具のついていない筆を手で弄んでいると、インターホンが鳴った。
訪ねてくる人物など一人しかいない。
「こんばんわ、君を助けに来たよ♪」
玄関のドアを開けると、そこには案の定微笑みを浮かべた梔子が立っていた。
「………助けるったって…俺にきた依頼なんだから俺が描かなきゃ意味無いだろ」
和真は梔子を家の中へと受け入れながら溜息をつく。
「うん、そうだよ?なにも僕がゴーストの君のゴーストをするって話ではないよ。僕が君の"描きたいもの"になるって話」
「ん????」
梔子の言葉に首を傾げる和真に、梔子は楽しそうに笑う。
「君、今描きたいものがないんでしょ?」
「…………………」
梔子の問いかけに和真は沈黙した。
完全な図星だった。
なにかを表現したい、という気持ちは常に心のどこかにはあって、その気持ちをいつも受ける依頼のオーダーや課題にのせて作品を描いていた。
造形科で創作しているのは、絵画で表現しきれなかった部分を発散させる為だ。
創作意欲に対して、まだ自分が表現したいものがなんなのか、自分の世界観をまだ和真は確立できていなかった。
「良いんだよ、今はまだそれで。まず君は何にも縛られないで自分を表現する感覚を知らなきゃいけないからね」
「……何にも縛られず、お前を描けと?」
「そう♪」
「いや、早速縛られてんじゃん。モチーフに」
「ははっ、君に描いて貰えるまたとないチャンスだからね。ダメかな」
梔子の笑い声につられ、和真も「矛盾してるけど良いか」と笑い、2週間ぶりに筆に絵の具をとった。






