4話
「おう、和真お疲れ!今日は画家様は一緒じゃねーの?」
「まーな」
和真がアトリエへと向かい、歩いていると、後ろから同じ学科の生徒が話しかけてきた。
入学当初から付き合いのある悟史だ。
悟史は小走りで和真におい付き、横に並ぶ。
悟史の身長は170前半な為、身長が188cmある和真と並ぶと、どうしても見上げた風になる。
「てかさー、お前あの画家様とどーやって知り合ったのよ?」
「知り合った…?キャンパスの裏庭?」
「なんで全部疑問形なの…てか画家様、裏庭なんか彷徨くのか!付き人業で学校に居ないと思ってたわ!今度紹介しろよ!」
キラキラと黒目がちな瞳を輝かせる悟史に、和真は「今度なー」と生返事をする。
「つかお前、その"画家様"って呼び方やめろよ。なんか嫌味っぽく聞こえるぞ」
「マジ?ごめん!だってなんか名前呼ぶの恐れ多くてさ!」
和真の指摘に悟史は顔の前で手のひらを合わせる。
悟史は基本的に他人の悪口や悪い噂話を好んでするタイプではない。
性格も素直で、和真が客観的な指摘をすると、いつもこんな風にすぐ聞き入れてくれる。
(まあ…コイツなら紹介してやってもいいか)
そんなことを考えながら悟史と並んで歩いていると、一瞬花の香りをのせた温かい風が吹いたかと思うと、すぐ前方に梔子の姿が現れた。
梔子はいつものように穏やかな微笑みを浮かべ、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。
「やあ、和真。今日の夕食はなにかな?」
「夕食!?」
出会い頭の梔子の問いかけに、悟史が驚きの声を上げる。
「え、なに?そんなに仲良いの!?」
悟史は和真が幼い双子と暮らしていることを知っている為、夕食=おうちご飯だということを理解している。
故の驚きである。
「来ても食べないだろお前」
ため息をつく和真に、梔子は「ん〜?いつも食べてるよ〜?」と惚けた声を出しながら目をそらす。
「いつも食べてるの俺だろ。お前が残すから」
和真の言葉に梔子はにこにこと微笑むだけで否定も肯定もしない。
なんともふわふわと、そしてのらりくらりとした印象に、悟史はなぜか「はぁ〜」という関心の声が出た。
(やっぱ大物ってなんか違うんだ!)
そんな羨望の眼差しを梔子に向ける悟史に、和真は「偏食なだけだぞ」と水を差す。
「梔子、コイツお前のファンの悟史。俺と同じ造形科だ」
「あっ!え、あ!造形科2年の梶田悟史です!よろしくお願いします!」
突然話を振られた悟史は焦りながら深々と頭を下げる。
「和真のお友達?よろしくね。僕は梔子、絵画科2年。悟史は、和真の弱点とか知らないかな?」
「え?」
唐突な梔子からの質問に、悟史はキョトンと首を傾げた。
「普通本人の前でそういう話するか?」
「ふふふ、冗談だよ」
梔子はいつものように微笑みながら2人の横を通り過ぎようとした時、半分だけ振り返り、和真になにか耳打ちをした。
その内容までは隣にいた悟史にも聞き取ることは出来なかった。