厨二病
魔法学院の入学試験。周囲の受験生たちは、最短・最速で魔力を練り上げ、一言二言の短いキーワードで標的の的を撃ち抜いていく。
「『火よ、集え』。……よし、次!」
「『氷の礫』。はい、終わり」
試験官は淡々と手元の書類に筆を走らせる。「効率こそ正義。無駄な詠唱は隙を作るだけだ」というのが、この時代の魔法使いの常識だった。
そんな中、ボク――レイの番が回ってきた。
ボクはゆっくりと中央へ歩み寄り、右手を天に、左手を大地へと向ける。前世、病床で血を吐きながら一万回はシミュレーションした「第一種・天啓の構え」だ。
「……何だ、あの構えは?」
「ふらふらしてて危なっかしいぞ。病み上がりか?」
外野の野次は聞こえない。ボクの脳内にある『森羅万象の理』が、大気中の魔力を独自の回路で編み上げ始める。
深く、長く、そして甘美な――最高にカッコいい詠唱の幕開けだ。
「――深淵の底、光届かぬ揺籃にて微睡む赤き微粒子よ。ボクの呼び声に応え、因果の鎖を解き放て。汝は拒絶、汝は焦燥、汝は万物を灰へと帰す理の具現なり……」
周囲の空気が一変する。あまりに長く、難解で、それでいて詩的な言葉の羅列に、試験官のペンが止まった。受験生たちの嘲笑が、困惑へと、そして本能的な恐怖へと変わっていく。
「(……まだだ、まだ溜める。ここからがサビだ!)」
ボクは一回転し、コートの裾を翻して指をパチンと鳴らす。
「――天焦がす劫火の翼を広げ、星の瞬きを喰らい尽くせ! 顕現せよ、偽りの太陽、終焉を告げる裁きの光線! 喰らえッ! 【プロミネンス・レクイエム:極点回帰】!!」
ボクが右手を突き出した瞬間、試験会場の強化魔法が施された壁ごと、標的が「消失」した。爆発ではない。あまりの高熱に、物質が耐えきれず蒸発したのだ。
静寂。
静まり返った会場で、ボクは肩で息をしながらも、完璧な残心を維持する。
「……あ~あ、言っちゃった。最高にカッコよかったよね、今の。世界、救っちゃったかなボク」
試験官の眼鏡が、あまりの衝撃波でずり落ちている。
効率? 隙? そんなものは、この圧倒的な「様式美」の前では無価値だと思い知らせてやったんだ。




