綾女タイム②
「そういや聞いたか?最近地球人が襲われてるって」
「あぁ聞いた。お前も聞いたのか」
杉野との下校中紗南さんから聞いた話をしていた。杉野とは一緒に下校したり昼飯を食べたりしている。由端さんとも結構簡単に打ち解けていた。今は3人で下校して由端さんと別れたあとである。
「杉野も髪染めた方がいいじゃないか?ぱっと見わかんない方が安全でしょ?」
「まあそうだけどな、だけど俺さ」
杉野は少し空を見て深呼吸してから言った。
「俺さ、地球人が堂々としてられる様にしていきたいんだよ。だから地球人として研究者になってさ、認められたいの。そうしたら少しは地球人が行きやすくなるだろ?だけど認めらられるために努力してる奴がコソコソしてるのってあまり印象良くないかなって。だから堂々としていた方がいいかなって」
立派な心がけだな。地球に来て日の浅いオレにこの言葉は否定できない。
「そっか。でも気をつけてな」
「ああ、わかってる。お前もな」
そう言いオレたちは別れた。
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「あいつ大丈夫かな」
〔大丈夫じゃないかもしれんませんね〕
「うーんそれにしても…」
オレは鏡に映るオレを見つめていた。
〔何故姿見をずっと見ているのですか?〕
「いやね?オレさ、タッパそこそこで顔面は別にカッコ良くはねぇけど潰れてもないじゃん?そんで頭もそれなりでさ…なんでオレモテないの?これ地球いた時からの疑問。中学ではなんか3キモスとか言われてたし」
〔…勘違いクール童貞〕
「え?なに?」
〔なんでもございません。中身の問題でしょう。それにマスターは不思議な人ですね。綾女には他人の感性はどうでもいいみたいな事言っていたのに〕
「自分の感性は最優先事項、次に大事なのはモテる事だ」
〔…頑張ってください〕
「クソッ!力が欲しい!女の子にチヤホヤされる程度の力が!」
〔ネットスラング好きですね。こっちのネットにはないと言うのに〕
「ああ好きさ。先人達の知恵は我が身に宿り、この新天地で芽吹ぶき勢力を広げる」
〔さいですか〕
「彼女欲しい…」
「…そういやこれもお前と一緒だったな…」
「…」
「よろしくな」
「なんで…」
〔本当に嫌われてますね〕
今整備委員の仕事で校内の掃除用具の点検中だ。綾女と一緒に。
「オレのこと嫌うのは勝手だがさっさと終わらせて帰ろーぜー」
オレが移動を始めたら御坂が聞いてきた
「ていうかあんた本当に中学行ってないの?」
「あーいやーうん」
綾女がオレの腕を掴んで歩くのをやめさせて睨んできた
「本当なの?」
「…めんどくせーな」
腕を払ってオレはまた歩き始めた
「なんで突っかかる?何故疑問に思った?」
「独学でノル高に来れたってのが信じられないのよ」
成程ねー。今の絶対記憶が可能なオレなら余裕そうだが確かにな。面倒だがそれなりに誠意を見せて説明してやるか。
オレは振り返って綾女の方を向いた。
「オレは地球人だ」
「そういうのいいから」
「あ?」
マインド、解説くれ
〔また冗談だと思われているのでしょう。自業自得です〕
「…まあいいや、サッサ終わらるぞ」
オレは再び前を向き始めた。
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「さっきの、冗談じゃないの?」
無言での作業がもうすぐ終わろうとしていた頃、綾女がまた聞いてきた。
「さっきのって?40字以内の説明求む」
「地球人ってやつよ」
「さあな」
今は説明する気力がないので適当に返事をした。
すると綾女はそう、とだけ言いまた沈黙が訪れた。
何も言わずに、只々作業をする。
「お前さぁ」
オレが声を出すと綾女は少しビクッとした。
「肩の力を抜けよ」
「はぁ?何それ」
綾女がオレの方に顔を向けてくる。
ふーと息を吐いた。
「あんまり背伸びすんなっつうか、楽にしろよ」
「そんなのあんたが…」
「オレといる時だけじゃないだろ。色々気にしすぎでお前滑稽だぞ。周りのこと見過ぎ」
「そんな事無…」
「いやあるって。態々オレのこと聞いて来たり。お前の周囲にあるものの性質を全て把握しておきたいみたいにな」
「…別に悪いことじゃ無いでしょ」
「いやそのせいで疲れてそうだからさ、クラスメイトからのクラスメイトなりのアドバイスだ。『自分が一番かっこよくあれ』」
「…意味不明」
「自分の理想を置いてそれに従い行動する。すると行動原理が生まれる。行動原理に従うのは楽だし楽しいって訳だ」
〔どういう意味ですか〕
今言った意味だ。
「まあ適当に過ごした方が楽だぞってことだ」
〔…勘違いクール童貞〕
「…勘違いクール童貞」
綾女がボソッと言った。何かマインドも言った気がするが…
「うぇ?なに?」
「何でもない。でもあんたの事結構分かった気がする」
「あのな…まあいいや、そうかよ」
〔響いてないですね。滑稽です〕
しゃらっぷ!
オレは少し頭を掻いた
「あたしがあんたに思ったこと言わせてもらうけどさ、あんた自分の頭に髪生えてること理解してる?」
「え?勿論禿げちゃいないし親は50超えてもフサフサだった」
「そうじゃなくてさ…あんた頭触ったりした時に髪が変になっても全く気にしてないじゃん。そのサラッサラな髪質じゃなかったら超ボサボサだよ絶対」
サラサラなのか?サラサラなのか。
「実際その髪質で結果超ボサボサじゃない。ノープロ」
「髪は少し立ってるっての…」
「オレは自然体を愛する」
「そんな感じのこと言うと思ったわよ」
おお〜その台詞なかなかポイント高い。
「その台詞って狙って…これ壊れてんな」
オレは毛の部分が棒と独立してしまっているモップを手に取った。
「ここで終わりだよな?これ捨てておくからお前帰っていいぞ」
「前も言ったけどお前って言わないで」
綾女が嫌な顔をしてオレを見る
「ハイハイアヤメサン。じゃあオレのこと『かれん君』って呼んでくれるとオレは今夜お前を思い出すことになりそうだ」
「いやよくわかんないし。宮之内」
「残念だ。なぜオレの名前は『かれん=かれん』じゃないんだ」
「キモ...」
綾女はそのまま帰ろうとして、オレとすれ違うとき独り言のようにボソッと呟いた。
「かれん君...」
驚いて振り返るが声に出ていることに気づいていないのか?そう思って見ているとひとつの事に気がついた。
「耳赤い...」
綾女は早歩きで去っていった。
「ふぅ...」
〔...〕
「やれやれ、慣れない相手との会話は疲れる」
〔会話なのでしょうか?〕
「え?違うの?昔挨拶したことある女子のこと話したことあるって言ったらキモがられたんだけどそれと同じ?何?怖い怖い」
〔…いえ、別に〕
「やめろ!トラウマが…う…うぅ」
〔sorry my lord〕
「ハンっとっとと帰る!」
オレは手早に仕事を済ませ、帰路に着いた。