マインドハート
「で、お前はなんなの?」
〔先も言った通り、自己完全支配の補助を行う為に作られたAIの様なものです〕
「名前は?」
〔ありません。マスターが付けて下さい〕
「いいのか?じゃあスタンドみたいな名前にしよう…そうだな、『マインドハート』」
〔…意味が被ってませんか?〕
「別にいいだろ、響きかっこいいし。あ、『⚚黯翼:冥界の叛逆者⚚』ってのはど…」
〔ではこれから私の識別呼称は『マインドハート』で〕
「おい、『⚚黯翼:冥界の叛逆者⚚』ってのは」
〔自分のペットにも恥ずかしくてつけれない様な名前を何故私に付けようとするのですか?〕
「え、かっこいいじゃん」
〔私の思考回路はマスターの脳に依存する様になっています。マスターは『オレがこの名前が付けられたら絶対嫌だけどこいつに付ける分には面白くていいやwww』程度に思っているのでしょう〕
「すごいね、当たりだよ。ところで思考回路が脳に依存って何?」
〔私に備わっているのはマスターを補助するという意志とこの世界の常識、知性、そして自己完全支配のチップの扱い方のみです。思考回路はマスターの脳を参考に作り上げるので私の思考回路はマスターととても似るのです〕
「ほぇ〜」
雑に返事をしながらヒビが入っているだろう肋骨に手を当てた。
「どのくらいで治るかね」
〔5日も有れば完全に〕
「5日って早すぎないか」
〔自己完全支配のチップを扱えば細胞分裂、血流、ホルモン量などを完全にコントロールできます。傷の治りも早いですし、大抵病院も必要ありません〕
「もしかして身長も自分の意思で伸ばせる?」
〔はい〕
「マジか。オレ理想は身長176なんだよ。でも今は173なんだ」
〔…自然と伸びそうなものですが〕
「いいんだよ、使えるものは使ってこう。てかあれ絶対勝てたわけじゃないよね」
〔はい。勝算は4割程でした〕
「ひっく!まあいいや。ところでさ、あのアンコモン通報してちゃんと捕まるの?」
〔捕まります。彼は指名手配犯です。指名手配犯の顔は全員知っていますので〕
「成程ね〜。あいつがオレのこと話す可能性は?」
〔ないでしょう。というか恐らく殺されます?〕
「は?誰に?」
〔私を作った組織に。先ほども言った通りトップシークレットなのですよ。情報が漏れない様にするためにあいつを殺すでしょう〕
「なんであいつが盗んだってバレんの?」
〔治安維持の方々がクリーンではないのですよ〕
「…お前を作った組織って?」
〔知りません。情報が全く無いのです〕
「ふーん…お、ハシゴがある」
ハシゴを登ると、廃ビルだった。
「いかにもなところだねぇ。今は…11:00か、今日は午前で終わりだから通報してもう帰るか…」
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「何が何だか…」
拳の皮が擦りむけてしまっているので手袋を買うことにした。痛覚を切ることもできるが、常時それをするのはなんとなく嫌だったので肋骨以外痛みを感じる様にしてある。今は普通に身体中が痛い。手も痛いのである。
そして螺旋模様が描かれた手袋が目に入った。
これカッコいい
〔マスターは中二病なのですね〕
そうだとも。そして中二病はステータスだと思っている。素晴らしい感性の持ち主の肩書きだとね
〔…そうですか。〕
「ま、自重しとこう」
オレは真っ黒の無印の手袋を手に取った。
これ下着みたいな肌触りで結構良い
オレはその手袋を購入してすぐ装着し、外へ出た。そこで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「かれん君?」
少しぎくりとした。振り返ると教室の隣人がいた。
「こ…こんにちは由端さん」
「こんにちは。その手袋は?」
思考加速ッッッ!
最適解を出すためオレは思考を加速した。
「(さてなんと言おう)」
〔脳が焼き切れますよ。あの地球人相手にも2秒しか思考加速は行っていないんですから〕
加速の加減はしているさ。そうだ、思いついたぞ最適解
「しゅ…宗教上の都合でね」
「ふぅん?ところで、今日はどうして学校こなかったの?」
「ち…ちょっと狂犬病で病院へ」
〔バカですか〕
やっちまったよ
「きょうけんびょう?大丈夫なの?」
「あ、あぁもう治ったんだ」
助かった。この世界には狂犬病が無いのか。
〔死亡率100%病名を出す不謹慎なバカがいますか。こちらの世界では狂犬病に類似する病気はは見つかっていません〕
「じゃ、じゃあまた学校でね」
「あ、うん…その前に制服結構汚れてるけどどうしたの?」
「ッッッ!え、ええとね、少し転んでじゃったんだよ。気にしないでくれ」
「そっか、気をつけてね。じゃあ明日学校でね」
「ああ」
そう言ってやや早歩きでオレはその場から去った。
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「なーなー、思考加速の負荷ってどんなもんだ?」
〔過負荷で2分も休まず使えば一週間はバカになる程度です〕
「思ったより症状軽いのなー」
〔私がいますから〕
「マインドさんさまさまっす」
〔光栄です〕
「何故か肉体的疲れがない。人生一ヤベェ経験してんのに」
〔チップの恩恵です〕
「チップすげー」
側から見れば独り言を言っているだけのヤバイやつと化しているが、まあ誰もいないし良いだろう。
〔開発費82億のチップに、開発費4000万の私の恩恵が薄くては困ります〕
「え?は、ははは82億⁉︎窓(アトランティスの通貨)が大体円の価値の1.5倍くらいで…え?」
〔何を驚いているんですか。この機械は老化を抑えることさえできるのですよ。その程度の価値はあるでしょう〕
「…そうか、そういえばなんか中国のどっかがパソコンの開発に2兆賭けるってのをみた気がする。なら安いもんか…いや感覚わかんねえよ。地球でもそういう感覚わかんなかったんだしわかるわけねぇな。てかAI開発に4000万って安くねぇのか?」
〔未来は進んでいるんですよ〕
「雑だな」
〔…AI開発の説明書のカタログの様な物があるんですよ。高校でAI開発の考え方ところも増えているのですよ。簡単なAIなら大学生でも作れる様になれます〕
「へー未来すげーのね」
〔私は最新の小型化技術を取り入れた超高度なAIですよ〕
「小型化ねぇ…お、着いた」
マンションが見えてきた。
「そういやナノテクとかってあるの?」
〔ありますよ。ナノテクはあらゆる所当たり前に使われていますし、私もナノテクを一部利用していますし、チップはナノテクの塊の様な物です〕
「マジか未来すげー、ミラすげミラすげ」
〔興味ないなら聞いてこないでくれませんか?〕
「いや興味あるっての」
〔さいですか〕
怒らせてしまった様だ。
「これはなんだ?」
指名手配犯が倒れていると匿名の通報を受け、やってきた国営治安維持組織保国警察の後藤は、目の前の異様の様な光景に言葉を失っていた。
「おい!大丈夫か!」
倒れていた地球人に声をかける。
「こいつが指名手配犯なのか…?脈はあるがかなり流血している…鼻と顎の骨が砕けているな」
倒れている地球人の写真を撮りデータと照合する。
「矢島恵斗…」
反射会組織エイド所属
矢島恵斗
三週間前製薬研究所プリオン襲撃
「何故襲撃時の情報がこんなに少ないんだ?」
矢島の方へ目を向けるが、全く反応がない。
抵抗をしない限り対象に負荷のかからない特殊な拘束具を矢島に取り付け、後藤は救急を呼んだ。
「どういう状況だったんだ?」
地上に上がり、救急車に搬送されていく矢島を横目に後藤は状況を説明し始めた。
「そのままです。全くこのままです」
「…抗争か?」
「にしては妙です。そうだったら生きている矢島を回収するでしょうし」
その時、『パァァン』という乾いた音が響いた。
「構えろッッッ!」
ばッッッと車や壁に隠れた。
「矢島が…狙撃たれた…?」
救急ロボットが脳の飛散した矢島を運んでいる。
「なんなんだよ…これは…!」