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科学的異世界  作者: えとうるい
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誘拐

「少し早くですぎたかな」


 今学校の最寄り駅から高校までの道、他の生徒がそれなりに居てもいいはずだが一人も見当たらない。昨日より15分早く家を出たが早過ぎたようだ。


「明日はもう少し遅く出るかな」


 中学時代はいつも寝坊して遅刻ギリギリだったのだがアトランティスに来てから調子がいい気がする。

 そして通学者以外は滅多に人が通らない様な公園の前を少し歩いたところで、すぐ後ろで何かが振動する音と、前に感じたことのある様な空気の揺れを首の後ろで感じた。


「ぇっ」


「ゴッッッッ!」


 驚いて振り返ろうとしたら首の後ろに強烈な衝撃を感じた。


 遠のく意識の中で、うっすらとやんちーの顔が見えた。






 身体中に痛みを感じながら最悪の目覚めを迎えた。


「ぃっっつ…ここは…はっ!?なにこれ!?」


 両足が椅子の足に縛られ、両手も椅子の後ろで縛られている。

 なんだっ?なんなんだこれは?一体どういう状況だ?取り敢えず落ち着こう…なんなんだよこれは⁉︎


 あたりを見回してみる。オレの部屋と同じくらいの広さの壁に椅子が固定されていて、その椅子にオレは縛られている。部屋には白い机にぐちゃぐちゃと色んなものが積まれている。そしてこの部屋には窓がない。


 ますます分かんねえしなんだよこれ⁉︎


 そう見渡していると誰かが入ってきた。


「よう、お目覚め?」


「アンコモン?」


 成程状況は理解した。だが何故だ?アトランティスに来た地球人は金玉潰されたらソイツを拉致るのか?落ち着け、慌てて良い事はない。


 可能性1オレの体目当て

 最悪だ。これは絶対に嫌だ。尊厳をこいつに犯されるくらいならオレは舌を噛み切る。


 可能性2報復

 玉潰した以外に心当たりは無いが本当に報復なのか?そんな馬鹿なやつなのかこいつは?


 落ち着け、取り敢えず情報を得よう…そうだ落ち着け…


「な…んですかこれ…?」


「おー?えらくだなー。慌ててる方が都合がいいんだがなー」


 拍子の抜けた声でアンコモンモンスターは語る。


 なんなんだよこいつは…


「オレはこれからこれを使ってのしあがるんだ」


 そう言ってアタッシュケースをオレの椅子の前に放って開けた。


「なんだ…これ…」


 中には異様に大きい注射?の様なものが2種類2つずつあった。


「これはよぉ、自己完全支配できるチップを埋め込む機械だ。少し前にこれをとある施設から奪ったクソ野郎が死にかけてたんで譲り合いの精神で分けてもらったのさ。これを自分に埋め込めば俺は組織でのしあがれる。だけど自分に使うとどんな事になるかわかんねぇからちょいと実験するのさぁ。おまえの体でよぉ」


 思わぬ形だが可能性1当たりだと…それに自己完全支配ってなんだ?本当になんなんだ。


「俺がのし上るのにガキに負けたなんてバレたら面倒で仕方ねぇ訳だよ。つまりてめぇを拉致るのは実験も口封じも出来て一石二鳥な訳だよぉ。でもそのまえにっ!」


 強烈な拳が、動けないかれんのお腹に沈んだ。


「があっ…」


 すげぇいてぇ、どうする?そうするべきだ?いや行動を起こせるのか?まずこの状況で?


 かれんがそう考えていると、また一発、そしてまた一発と強烈な拳をアンコモンヤンキーこと矢島がふるう。


「金玉は後にしといてやるよ」


 そう言ってアタッシュケースから二つの異なる種類の機械を取り出した。


「お…おい待て!やめろ!おい!」


「うーごーくーなーよっ!」


 ゴッッ!とオレの頭を肘で殴った。


「ぅ…」


「じゃあ行くぜー。高校生なんだから注射ぐらい頑張ろうぜー」


 そう言いオレの首に機械を押し当てる。


「まずはこっちから行くぜー。さーんにーいーちはーい」


 どしゅっという音と共に何かが首元に撃ち込まれた。


「がああああああああああああああああああ‼︎」


 身体中の五感が異様に強く感じられる。異常に頭が痛い。なんだこれは?なんだ?自己完全支配だと?なんなんだ!?


「はーいすぐ行くぜーこっちもー、さーんにーいーちよっ!」


「ウッ!」


 その機械が撃ち込まれた瞬間、異常な五感と頭の痛みが引いていった。


 〔初めまして、マスター〕


 頭の中に声が、耳を介さずに。機械的な声が聞こえた。


「は!?なんだ⁉︎なんなんだよさっきからよ!」


 そう叫んだ途端、急に冷静になっていくのが分かった。


 何なんだよ…これは…


「おーおー取り敢えず半日くらい観察するかー」


 〔私はマスターが自己完全支配のチップを扱う補助をするため作られたAI、の様なものです。勝手ながら今チップを使いマスターを冷静になる様させて頂きました〕


 なんなんだよ…本当に…






 その自己完全支配のチップって何なんだよ…


 かれんは心の中で呟いた。


 〔自分の体が用いる能力の理論上可能な範囲ならどこまでも行える様にする物、でしょうか〕


 思考筒抜けかよ…気持ち悪りぃ…で、言ってる事が全くわからないんですけど


 〔例えばマスターが記憶したものをマスターの意思のまま消去したり、逆に一切忘れない様に出来たりもします。他にも心臓を自分の意思で一切手を触れずに止めたりできます。マスターは体自分の体を思いのままに使えるというわけです〕


 成程、ぼんやりわかった。あれだな、人間が自分の体にかけているリミッターを外したり、無意識下で行なっている事を自分の意思で完全に支配できるわけか


 〔大体その認識で合っています〕


 かれんはふー、っと息を吐く。


 で、お前はなんなの?お前がオレのこと、チップを使って冷静にしたってんならそのチップを使ってオレを乗っ取ることもできそうだけど?


 〔私は只私が埋め込まれている体の持ち主を補助する為だけに作られました。私にはマスターの手助けをする以外の思考はプログラムされていません。なのでマスターの利益となる事以外は致しません〕


「(…まあいいや…取り敢えずはまあいいや。今はこの縛られている状況をどうにかしたいんですけど。このままだとそのうち殺されると思うんだけど)」


 〔そうでしょうね、では拘束を解きましょう〕


 それが出来たらオレはこのアンコモンを去勢しているわけだが


 〔マスターは体を支配出来るのです。関節を外し拘束を解く程度造作も有りませんよ〕


 えぇ…痛そう…まあいいや、関節を外す、か


 かれんは息を深く吸い込み、自分の体を意識する。


 成程ねー、自分の体がよく分かるよ。ええと…よし、関節が外れた、あんま痛く無いな、なんかきもちわるっ


 かれんは矢島にバレない様ゆっくりと縄から手を抜いた。


 てかこれ足の方はどうすんの?普通に足は関節外すとかじゃ無理そうなんだけど


 〔椅子の足位マスター折る事が可能でしょう〕


 あー、筋肉のリミッターを外すのか、これは絶対痛いじゃん


 〔痛覚を感じない様にする事が可能です。隙を見ましょう。あの男が油断していそうな時に不意打ちを〕


 隙だらけじゃん


 矢島は何かスマホを見ていた。たまにかれんの方に目を目をやるが、殆ど隙だらけだ。


 てか不意打ちしても勝てる気しないけど


 〔大丈夫です〕


 …まあ他に選択肢は無いが


 かれんは音を立てずに深呼吸した。


「ハッ‼︎」


 思い切り力を入れて椅子の足を折り、そのまま一気にアンコモンまで距離を詰めた。


 狙うは当然、金玉ッ‼︎


 矢島は驚いてスマホを落とし、少し怯んだ。


「いけるッ」


 かれんの思い切り踏み込んだ拳が矢島の金玉に当たる直前、矢島が椅子ごと後ろに吹っ飛び、扉を破って部屋の外に出た。


「クッソッ!」


 〔…顎を狙うべきだったと思いますが〕


「当たってねぇんだから変わんねぇよ」


「油断したぁ…こいつなんて力だよ」


 矢島は何かを腰から取り出した。


「肉叩き?」


 なんだ?あれ。斧みたいなのがついているタイプの肉叩きにしか見えないが…


 〔肉叩きですよ。振動機能が付いているタイプの〕


 そんなのあるのかよ


 〔出力をいじるだけで凶器になります〕


「…どうしよ」


 かれんは声を漏らした。


「どうしようもなにもねぇよぉ!てめぇは死ぬのさ!」


 かれんは片手で近くにあった机を持ち上げた。


 筋繊維の千切れる音が聞こえるのに痛くねぇ…


「なんて力だよ、バケモンか」


「別に力は一般的な15歳児だぁよッ!」


 机を矢島に投げつけた。矢島はうお!っと声を漏らして避けた。そしてその隙に部屋の外に出て逃走をはかろうとした。


「えぇ…ここどこだよ」


 〔地下の様ですね〕


 一本道の幅の広い、只長い通路が続いていた。


 〔逃げながら道を探すのは難しいでしょうね。倒しましょう〕


「…」


「やれやれぇ、なんて力だよ本当に」


「…本当にどうすりゃいいんだか」


 なんかないすかAIさん


 かれんは取り敢えず近くにあった鉄パイプを拾った。


 〔普通に勝てるかと〕


 お前のオレに対する評価がどんなものか知らないが、オレはケンカもしたこと無い。アニメの影響で一時期空手を習ってたけど半年で辞めたし


 〔知っていますよ。マスターの事はなんでも〕


 …やれやれ


「学校は遅刻だな」


「安心しろよぉオレがお前の端末で休みの連絡入れてやったからよぉ。捜索されると面倒だからなぁ!」


 矢島が強く踏み込んで距離を詰め振りかぶった肉叩きを振り下ろした。


「ぐっ…」


 かれんは鉄パイプで受けた。


「ウッ…」


 なんだこれ、うまく力が入らないし…。振動か…


 矢島は右足でかれんの体を蹴飛ばした。倒れたかれんのマウントを取り容赦なく肉叩きを振りかぶった。


 あーマジで死ぬやべぇ…あ?ヤケに動きが遅く無いか?


 〔思考加速です〕


 …お前の自信はこれか


 かれんは矢島の顎に右ストレートをぶちかました。


 オレのパンチ結構遅いんだけど


 〔体の動きが速くなる訳では無いので〕


「ガッ…」


 よろける矢島の首に両手を回し、渾身の頭突きを撃ち込んだ。


「君のパンチで肋骨にヒビが入っているんだよ、痛いからどいてくれ」


 そう言いかれんは首に手刀を撃ち込んだ。


「んガ…なんの真似だ…」


 あれ?なんで気絶しないの?


 〔首にあの程度の衝撃を与えただけで気絶するとでも?〕


 するよ。オレ知ってるし


 〔…アニメではでしょう〕


「なめてんじゃねえぞ!」


 そう言い矢島はかれんの頭に肉叩きの持ちての部分を叩きつけた。


「ウッ…」


 〔…距離をとりましょう〕


 もしかして呆れてる?


 両手で矢島を突き飛ばし、立ち上がってその流れのまま顎に蹴りを食らわせた。


「グハァッッッ」


 矢島は後ろに倒れた。


「…やっと倒れた。でも念のたぁぁめッ!」


 金玉に全力の蹴りを入れた。


「去勢完了」


 〔酷いことしますね〕


男の娘(おとこのこ)ならぬ女の息子(おんなのこ)...やれやれこいつどうすんだ?」


 〔あのアタッシュケースを置いて通報して逃げましょう。中身は破壊して。〕


「え?なんで逃げんの?」


 〔自己完全支配のチップ、そして私は反社会組織のトップシークレットの技術です。マスターがここにいるまま通報するのは不味いですよ。今後反社会組織と戦うつもりがおありで?〕


「ねぇな」


 〔ではそうするべきです〕


「でもバレねぇのか?DNAとかなんとかで」


 〔大丈夫です。あの部屋にそう言ったものの後処理に使うスプレーがありました〕


「…オレはお前のことがもう少し知りたいんだけど」


 〔出口を探しながら話しましょう〕


 かれんは矢島のポケットから自分のスマホを回収し、AIの言っていたスプレーで後処理をしたあと、矢島のそばに中身を破壊したアタッシュケースを置いた。そして最後に、自己完全支配のチップ使い肉体の限界まで引き出した力で金玉目がけて蹴りを入れた。


 〔本当に去勢されてますよ〕


「そうか、可哀想に」


 そう言いかれんは出口を探し始めた。

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