異世界高校入学
ノル高等学校
合格最低点698点(8教科で計800点満点)
宮乃内かれん
8教科合計712/800
進学可能高校数3417/3417
合格である
だが合格証明書は届かないらしい。
合格とかそういうモノではないからである。
だがオレの認識では合格だ。
「すぅぅ」
息を大きく吸い込んだ
「しゃぁ!」
タブレットに向かって叫んだ。
取り敢えず紗南さんに報告した。定員の問題とかなんや菅屋の問題で、選択可能高校数が多い人間から選ぶ仕組みになっているので、明日までに通う高校を選択しなければならないらしい。まあ取り敢えずノル高にするのだが。
ノル高の定員は300人までで8クラスに分けられる。クラスに能力の差はないらしい。
オレは取り敢えず必要な書類を2時間ほどかけて作り、ノル高に提出しに行った。
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「(髪白いやつ少ねー、染めといてよかったー)」
今現在オレは書類の提出にノル高にいるのだが、大体50人くらい並んでいるのが見える。だが、髪の白い人は一人しかいない。あの中学に白い髪の人が多かったのは地球人があのあたりに集中して住んでいるからのようだ。
あと5分で書類提出の受付が始まる。それまで待つか…お?
「(あの地球人めっちゃ見られてるな、それなりに珍しいのか地球人は。オレはバレないよう気をつけよ)」
オレは先日地球人のやんちーに遭遇したが、地球人でやんちー、あれはもしかしたらレア個体だったのかもしれない。レア度★★★★☆スーパーレアくらいだろうか。アトランティスの人が地球人と関わることの少ないのなら、ああいったやんちーの存在は本当に困るな。母数が少ないのだ。やんちー一人の印象が地球人に対する偏見を大きくするかもしれない。
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「あいつ…この前の…」
かれんに去勢されかけたやんちーこと矢島恵斗は、ノル高から出てきたかれんを偶然見つけた。
「書類提出に来たのか…ノル高ねぇ、いいとこ行きやがって」
矢島はかれんの後をバレないようこっそりとついてゆき、利用する電車を調べた。
「オレが負けたことがあると困るんだよねぇ…のしあがるのに…」
矢島は黒いアタッシュケースを強く握りしめた。そしてメモ帳を取り出して、少し書き込み、その日はそのまま帰って行った。
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「校舎カッケェ…」
入学式の1時間前、オレはただただ立ち尽くしていた。校舎のデザインがとにかくカッコいい。階段の壁が一面ガラスになっている。壁がガラスというのはオレの中のなにかを疼かせる。書類の提出にこの高校には来たのだが、校舎は別に興味なかったので見て行かなかった。だがこんなにカッコいいとは…近未来的なデザインで夢がある。最高だ。
オレは1-Cクラスに振り分けられた。Cクラスは36人で編成されている。ちなみに全クラス36人編成で、今年の入学者数は288人となった。
「教室行かなきゃな」
教室に向かって歩き出そうとすると、女生徒に軽くぶつかってしまった。
「あっとごめん」
「どこみて歩いてんのよ!」
「夢」
おっと反射で答えてしまった。てかこいつ黒髪ポニーテールだ!ナイス!ナイス!ナイス!
「はぁ?何言ってんの?てかちゃんと謝ってくれる?」
面倒なやつだなぁ…
「あぁうんごめん」
「はぁ?何その謝り方!あのねえ、あな…」
「あぁほんとごめん。ウッ持病が疼く、申し訳ないけどもう行くね」
そう言って早歩きで逃げた。嘘はついてない。疼いているのだ。中二病としての心が。
「はあ?もうなんなのあいつ!」
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教室に着くと、10人程が座っていた。その中に一人書類提出の時に見た白髪の男の子がいた。その子含め皆話したりはせずに、自分の席で石になっていた。オレは窓側の1番後ろの特等席である。隣の子はもう来ているようだ。
取り敢えず席に座り、隣人に当たり障りのない挨拶をしておこう。
「隣よろしくね」
「あ、よろしく…え?」
あれ?こいつ見たことある気がする。いや気のせいか。オレの知り合いなどこの世界に存在しない。文字通り。
「あの…」
あ、思い出した。やんちーに絡まれてた子だ。面倒クセェェェ。暴力シーンをクラスメイトに見られてしまっているとは。
「この前怖い人に絡まれてて…助けてくれたのってあなた...であってる?」
どうするオレもうすぐ16歳。落ち着くんだ。助けたんだ、そう、助けた。別に変な噂広められたりしないはず…da…決して金玉潰しなんて噂を広められたりはしないはずだ。そう、助けたんだ。この子がオレに惚れてるなんてこともあるはずだ。うん、いける。
「ええと、あの時はありがとうね。私由端椎実、よろしくね」
そう言いながら由端さんは微笑んだ。え?もしかして本当にオレのこと好き?女の子に自己紹介されちゃった。しかも笑顔で。これが高校デビューか。
「あーうん。ええと、まあ気にしないでくれ。オレは宮之内かれん。よろしく。」
「かれん君ね、」
かかかっかかかっかっかっかかかかれんくんキタコレ最高最強の響きだ。ありがとう母さん。かれんって名前にしてくれて。今日ほど母さんのありがたみを感じた日はないよ。
「女の子みたいな名前だね」
由端さんが少し笑いながら言った。
「よく言われる。まあオレは自分の名前が好きだけどね」
「私もかっこいいと思うよ?中性的な名前」
この子素晴らしい感性を持っている。完成されている。とても理解できるねそれ。まあかれんは中性的と言うよりは女の子っぽいのだがな。にしてもこの子なかなか見込みがありそうだ。
そんなことを考えていると急にたくさんの生徒が入って来出した。固まって生徒が入ってくるのは電車通学では普通なのだろうか。
「ハーイラつく」
さっき教室へ向かおうとした時聞いたような声が聞こえてきたので窓の方を向いておいた。何故こうなる。
「ガラガラッ」
前のドアが開いた。そうするとスーツの似合わない30代程の男性が入って来た。背が高く、茶髪で、髪が少し跳ねている。
「担任か」
「ぽいね」
その担任らしき男は、教卓の椅子に座り、君主論、と書かれた本を読み始めた。
地球人がもたらしたのだろうか、確か君主論はマキャベリが書いた思想のなんかだっけな。にしても…
「君主論…」
少し警戒しておこう。確か君主論では国家は倫理とは独立したものみたいなことが書かれてた気がする。もしかしたらマキャベリ信者の非倫理者かもしれん。
すると、チャイムが鳴った。なんだこのヘンテコなチャイムは。
「あーい前の方みてねー」
男がチャイムが鳴り終わると同時に立ち上がってよく通る声で言った。
「私は担任することになったー田代宏一でーす。よろしくお願いしまーす」
そういうと前の電子黒板に『田代宏一』の文字が表示された。
いちいち伸ばしてなんかうるせぇな。
「えーと、これから入学式があるのでー、俺が言ったらこのー、席の順番で並んでねー」
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入学式は只々退屈なだけだった。校長は話の中で『えー』を17回、『あのー』を24回言っていた。理事長はそれぞれ5回と2回しか言ってなかった。すげーな理事長。
そして今は教科書配布の最中だ。えげつない量だ。頼むから郵送してくれ。
学校のサブバックにこんな拷問具が入る訳は無いので袋が支給された。この透明の袋何度か使っているのでわかるがすごいのだ。30キロぐらいのものなら入れても千切れないそうだ。まあこの拷問具も流石に30キロもある訳はない。精々8キロ程度だろう。
「えー明日はー係とか委員会をー、決めるんでよろしくねー。じゃあさよーならー」
流れで帰りの挨拶も言って去って行きやがった。本質的に嫌いな人間かもしれない。
「ね、かれん君、一緒に帰ろ」
由端さんが言って来た。かれん君、最高だ。call me more
「あ、うん。ええと、あのやんちーのとこいたってことは多分駅一緒だよね」
そう言って拷問器具を持ち、あの絡んできた面倒な女(名前は綾女陽菜)が先に帰るのを確認して、少ししてから二人で廊下へ出た。すると、クラス唯一の地球人、確か杉野海青がポケットからハンカチを落として、前を歩いて行った。
取り敢えず8キロを置いてハンカチを拾い、杉野を追いかけて声をかけた。
「杉野!これ落としたよ!」
すると杉野が振り返り、少し嫌そうな顔をしながら、
「ドーモ」
と無愛想に言ってハンカチを受け取り、また歩き始めた。
いやそうな顔。ショック。てかなんか皆オレのこと見てんだけど何故。そんなにオレの手汚そうに見えるのか?
荷物を持ち上げて、かえろっと言おうとしたら由端さんが少し言いにくそうにしながら言った。
「かれん君、あんまりどんな人か知らない地球の人と関わろうとしない方が…」
少しギクッとした。
「あー、なんか不味かったのかな」
「ええとね、地球人って急にここに来たショックとかで非行に走る人が多いし、今ある反社会組織って殆ど地球の人が作ったものだったりするんだよ?」
周りの反応を見るに、前に地球人やんちーに絡まれたから、と言うわけでは無さそうだなるほど、黒染め大正解だな。そして頭のいい高校に来たのも大正解だな。頭のいい高校ではイジメが殆ど無いだろうしな。
にしても、地球人ってのは肩身が狭いもんなんですなぁ。さっき皆が見て来たのはオレの手が汚そうにとかじゃ無いわけか、それはよかった。
あのやんちーのレア度は★★☆☆☆アンコモンで妥当だったな。
「なるほどね…てか若者の事故死って暴走族多そうだなよく考えると…そういうのも関係ありそうだな…でも大丈夫だよ落とし物渡しただけだし」
「うん…まあそうでけどね」
そのまま、何事もなく下校した。
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「やれやれ…この教材なんで郵送しねぇんだ」
オレはベッドに倒れ込んだ。本当に疲れた。本当に変な一日だった。面倒なナイスポニーテールに絡まれるし、オレの金玉潰見られた女が隣人になるし、何か地球人の肩身狭くなって悲しくなるし。ぶつかっただけでキレるってもしかしてオレのこと好きなかまちょなのかな。
「結構退屈しなさそうだな」