やんちー
試験当日、最寄りの高校で試験を受けた。私服だと目立つということで、学ランを用意してもらい、髪の毛は自然な黒に染めた。少し色白なだけでどう見ても普通の中学生である。今はその帰り道である。
「髪の白い人結構いたな…」
試験の出来よりもそちらの方が気になった。地球人は普通にここに馴染んでいるようだ。なので、白い髪も特別珍しいモノでもないのかもしれない。
「気にしすぎたか?」
考えながら歩いていると、ビルとビルの間から何やらやかましい声が聞こえてきた。
「ぃってぇなクソガキィッッ!」
「いやあの…すみません…」
出た。レア度★★☆☆☆のアンコモンモンスターやんちー。スポーン条件は人目が少ないことである。ってあれ…
見てみると白髪の男が黒髪ショートヘアのセーラー服を着た女子中学生に絡んでいた。オレには良心はあっても正義の心は持ち合わせていないので無視しようと思っていたが、地球人の品位を落とされるのは困る。オレが将来肩身の狭い想いをしてしまうかもしれない。
「あ〜あ〜せっかくのスーツが汚れちまったよどうしてくれんだぁ〜?」
いやスーツじゃねぇだろ革ジャンだろ
「やれやれ...」
オレは面倒臭いがビルの間に入って行った。
「あの〜すみませ〜ん」
「…ンだよテメェ」
出たッ!ンだよ!本当に言うやついるんだな〜。こいつなら筋書き通りいけそうだ。
「いやそこ通りたいんですけどぉ〜。てか声でけぇし口クセェよ顔寄せんな」
「ンだとクソガキッ!」
そう言ってオレは突き飛ばされた。オレは大袈裟に大きく後ろにとび、痛そうな演技をした。JCは腰が抜けて歩けないようだ。
「ハッ。軽っ」
そう言ってやんちーはオレに近づいてきた。
「生意気な口聞けねぇようにしてやろうか」
そのセリフ恥ずかしくないの、と聞きたかったが自重した。相手を冷静にしてはいけないのだ、オレの筋書きでは。
そう言いながらやばそうな40cmほどの警棒のようなものを、足に巻いている革の袋から取り出した。何がやばそうってなんか凄い振動してて空気の揺れを肌で感じるんだよね。まるで大きな音を肌であびているような感覚である。
体という資本を傷つけられる前に…
「セイッ」
痛がるふりをやめ、不意打ちで男のキンタマ目掛けて思いっきりストレートをかました。
「ゥッ」
男が声を小さく漏らした。
「あ、あれ」
男が悶絶して横に倒れた。股間を抑える体制で倒れると思っていたのでちょっと意外だったのだが、
「伸びてる…」
やりすぎたようだ。まあいいか。
てかこの棒こっわ、手から落ちた衝撃だけでコンクリにヒビ入ってるし。
ビル向こうの通りへとオレは歩き始めた。JC は、すれ違ってからしばらくして
「あ…あの!」
と叫んだが、面倒臭そうだったのでスルーした。その後は何事もなく、家に着いた。
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やんちーから女の子救って何にも言わないで去るってオレカッコよくね?高校入ったらモテるかな?うん、モテる気がする。だって今考えるとさっきのカッコよかったし。あー彼女欲しい。
「どうしたの?」
遠い目をしながら儚い望みを見ていると、紗南さんに話しかけられた。
「存在しない世界線に想いを馳せてました」
「妄想?」
わざわざカッコよく言ったのに妄想と言われ、少し悲しくなった。妄想って言われると何か身体中が痛くなる。オレは米をかきこんだ。
「どうだった?」
「ふぇ?」
「試験」
少し時間を空けて、飲み込んでから言った。
「いつも通りっす、落ちるとか言う概念がないので気が楽でした」
そう、これは入試というより適性検査に近いのだ。どのレベルまでの勉強ならついて来られるかの適性検査。
「なら受かってるかもね。自己採点は?」
「記述問題多すぎて自己採点めんどいです」
「普通もっと気にするモノだけど、もともとしようとしていた入試よりも気が楽な仕組みだからそこまで気にならないのね」
苦笑いしながら紗南さんが言った。やっぱ美人だよな。
「ところで、オレの戸籍ってどうなってるんですか?」
素朴な疑問を投げかけた。
「普通に生年月日もそのままよ、生まれの情報はあなたが前書いたのをそのまま使っているわ。家族の情報は空欄だけどね」
なるほど、紗南さんの養子にでもなっているのかと思ったがそうではないらしい。