異世界がファンタジーとは限らない
目を開けると、そこはオレの部屋ではなかった。
「ここは…?」
見渡しても物と物の境界が分からない。自分の体だけが認識できる境界だった。何故か裸だし…
「こんにちは」
自分の見ていた景色の方から声をかけられて驚いた。そこで初めて見ているものの境界がはっきりと認識できるようになった。オレは4メートル四方程の真っ白な部屋で丸椅子に裸で座っていた。オレの隣には注射器を持った白衣を着た美女がいた。
「ええと…これは?」
看護師の格好をした真っ白な髪を肩まで伸ばし、前髪は斜め切りしている美女はオレの問いを無視して腕に何か注射をした。
「ようこそ異世界へ」
一才表情を変えずにその美女はオレに言った。
「は?」
よく分からず混乱していると。
「貴方は地球で死んだのよ。少し待ってね。ええと…」
よくある異世界転生モノのアニメみたいなことを言われたっと思っっていたら、その女は近くの棚からメカメカしいヘルメットとリモコンを取り出して、ヘルメットをオレにかぶせた。
「えっとぉ…あのー」
「ごめんね、少し混乱しているわよね。直ぐに色々わかるので」
女はそう言ってリモコンにある赤いボタンを押した。
その瞬間、オレの頭の中にこの”異世界”に関する情報が頭に入ってきた。この世界はヌルといって、ここはヌルのアトランティスという国らしい。このアトランティスの技術はオレのいた地球よりも30年ほど進んでいるという。
このヌルで40年前に、目に見えないエネルギーを持つ何かが確かに観測された。その観測されたエネルギーを解析すると、ヌルとは違う世界とこのエネルギーで繋がっている事がわかってきたらしい。つまり地球の事だ。
そして、14年前にこの未知のエネルギーを使い、地球で死んだ4歳〜19歳若者の魂の情報を読み取ることに成功した。それから6年後、今から8年前から、異世界の技術を取り入れるなどのためにその読み取った魂をアトランティスで用意した体に一月かけて定着させて、アトランティスで生活してもらうようにしているらしい。今では年に1000人ほどの地球の若者を呼び出しているらしい。魂ってなんやねん
「魂ってなんやねん」
「魂というのは15年前に見つかった人の体の中にある未知のエネルギーの呼称で、その人の体の情報や記憶が刻まれていることがわかっているわ。あなたの体、全く新しいモノなのに、地球にいた時と変わらないでしょ?魂から得られた情報を元にその人の体を作るのよ。つまり魂を読み取ればその人の健康状態が分かったりするの」
なるほど、未知のエネルギーというのは一つじゃないのか。確かに違和感がない。肌はかなり白くなってる気がするが。にしても…
「何故オレは美女を相手にして裸で堂々とでしていられるのでしょうか」
絶対おかしい。この異世界の情報に関しても、オレならもっと混乱しているはずだ。それに地球にいた頃は女子と話すときは少し緊張していた。だが今は落ち着いている。まるで親と話しているように。
その美女は少しクスッと笑いながら答えた。
「さっき打った注射の影響よ。冷静になる効果と、感情を抑える効果、そしてこの機械で脳に送った情報を真実だと理解する効果があるわ。君が落ち着いているのは冷静なのは冷静になる効果と感情を抑える効果が働いているからよ。はいこれ、あなたの服ね」
なにそれこっわ。洗脳とかちょー簡単にできんじゃん。気をつけよ。
渡された服をとりあえず着る。美女に着替え見られてる。すげー。てかあれ?
「え?オレ死んだんですか?」
「覚えていないの?地球で最後の記憶がどんなのかわかる?」
「いやいや死ぬようなことはなにも。高校受験が近かったので怪我しないように心がけてましたし。ただ遅くまで勉強に励んでいた偉い子ちゃんの記憶しかありま…エナドリ…何本飲んだっけ…」
「カフェインの過剰摂取ね、気をつけてね。こっちに来る子に多いから。まだ名前言ってなかったわね。与田野紗南。紗南でいいわよあなたは?」
気をつけてねってもう死んでるんだが…まあ地球に未練があるわけではないか。両親は2年前に事故で死んでいるし、友達は…いないわけではないが休み時間にアニメやラノベの話を少しする程度の仲だ。オレが死んだと知っても、隣人が減った程度の感情しか抱かないだろう。
「えっと、あの…」
「あっはい!」
「名前…思い出せる?」
少し考えていたので名前が思い出せないのかと勘違いされたらしい。
「覚えてます!かれんです!」
「かれん…?」
「宮之内かれんです!」
勘違いされて少し焦って声が大きくなってしまった。
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渡された紙に自分の情報を書かされた。
地球の情報を話したりするために、オレは紗南さんと生活をすることになるらしい。美女と同棲だって、オレすげー。
紗南さんの家へ行くために、外へ出た。オレが作られた施設は病院といかにもな研究所が合わさったような建物だった。長谷川グループという会社を国が支援している施設だという。名前は国営技術開発病院。地下がオレの体を作った機械などを置いている施設になっていて、上の建物は病院、というふうになっている。
国営って国が主体になっているって意味だったよな。長谷川グループってのは公務員なのか?会社なのに。社会の仕組みわっかんね。
紗南さんの家まで紗南さんの車で行く道中、近未来的な街の風景を楽しんだ。
「すごいな…」
立体的な道路に、清掃ロボット。東京の高層ビルよりも高いビルが並んでいる。車なんかちょっと浮いてるし。『異世界』のくせにファンタジー感皆無だ。日本よりもファンタジーから遠い気さえする。
「初めてみると驚くよね〜」
紗南さんは街並みに感動しているオレを少し面白いモノを見ているような目で見ながら言った。
病院から20分ほど走ると、団地に着いた。ここに紗南さんの家があるらしい。
「すごいたくさん棟がありますね」
1フロア8つ部屋があって、6階まである棟が、無数に並んでいた
「私の家は特設棟の503よ」
さらに2分くらい進むと、紗南さんの言う特設棟まできた。
特設棟は他の棟とはかなり外見が違った。団地のそれ、と言うよりはマンションだった。8階建てで、1フロア12個の部屋があった。
503号室まで紗南さんに案内されて進み、中に入った。中に入ると、玄関に姿見があった。それを見て衝撃を受けた。
「髪が…白い…」
今まで肌が白いなとは思っていたが髪まで白いとは思っていなかった。
「体を作っているって言ったでしょ、色素を作る器官の情報が魂からまだ読み取れていないのよ。だからここにいる地球人はみんな白いの」
なるほど、15歳にして白髪染めデビューするのかオレは。あれ、もしかして紗南さんってもしかして元々地球の人なのかな、白いし。
靴を脱いで、お邪魔しま〜すと小さく言いながら部屋に入った
3LDKの部屋で、オレの部屋と紗南さんの部屋、そしてオレを検査したりするいろんな機材がある部屋となっている。
紗南さんに案内されたオレの部屋は広くもなく狭くもない。6.5畳ほどの部屋の広さだった。部屋にあったのは勉強机と本棚と、ベット。あと、クローゼットの中にはタンスがあり、中には長袖のシャツやズボンなど、困らない程度の衣類があった。
「やれやれ…」
ベットに倒れ込もうとしたが、マンションということで、下の部屋に衝撃いかないようにゆっくり横になった。
紗南さんの話では、オレはアトランティスの人たちのようにこれから高校の受験をして、高校生活を送るそうだ。アトランティスでの公立高校の受験は、どこを受験するか、ではなく試験の点数で行ける高校を選べるらしい。つまり、高校の学力が、しっかり格付けされているということだ。日本では、学力の格付けをしないために、合格最低点の発表はしないモノだが…
オレはあと4週間の間に『アトランティスの勉強』をし直して受験しなくてはいけないのかと思ったが、 中学までの勉強の内容は日本と大差ないそうだ。
史学や地理学などはもちろん日本と異なるのだが、それらは選択科目で必須受験科目ではないとのことなので何とかなりそうだ。
そして何故か英語があった。異世界なのに何故ここまで言葉が同じなのか?色々考えていると、紗南さんにご飯だと言われた。
「地球で死んだ人間がここにいることがあるんだよな…」
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「かれん君、か。女の子みたいな名前だよね」
「よく言われます」
『かれん』本当に女の子みたいな名前で、小さい頃はよくいじられて気にしていたが、最近はカッコいいと思っている。てか、かれん君って響き最高だわ。幼馴染に呼ばれたい。
「本当にインスタントなのかよ…」
インスタントピザが夕食だった。だがピザ屋のピザに近い完成度だった。異世界すげー。
「あの、ずっと気になっていたんですけど、オレの記憶って見られちゃったりするんですか?魂を読み取って記憶を見るみたいな」
「出来ないわよかれん君の魂から読み取った記憶をUSBと仮定すると、あなたの体がそれを読み取るパソコンみたいなものよ。USBを見ただけで中身が分かる者なんていないわ」
よかった。オレの秘蔵のコレクションは誰にもバレることはなさそうだ。
「なに?エッチな本を見てる記憶がみられるかもって思ったの?」
焦って少し鼻かコーラが出てしまった。
その表情はからかっているだけに見える。だがそんな様子の裏まで見るのがオレだ。
バレてるのか?記憶を読み取れないというのはブラフか?もしかしてオレの性癖が露呈しているのか
落ち着け宮之内かれん童貞15歳
こんな時アニメで渋い大人キャラは何て切り返すッ
1敢えて肯定
これは難易度が高い、何故なら冗談っぽく相手には感じるように、そしてわざとらしく冗談っぽく言ってはいけない。言葉に仮面を被せて言わなければならないのだ。
女性に下ネタんなんて言ったこと何てな…ないしどんな感じで言えばいいのかわかんねぇ。
それに肯定するなら落ち着いた口調で話さなければならないが今のオレに落ち着くことなどできない。
2適当に流す
適当ってなんだ⁉︎どこからが適当になる⁉︎少し気にしているような喋り方になってしまう自信がオレにはある
3自然に話題を変える
これだッッッ
「て、て、てか思ったんですけど、あのヘルメットみたいな機械あれば勉強いらなくないですか?」
全然今言われたとを気にしていないよう装い、”自然に”話題を変えることに成功した。
コツは本当に疑問に思っていることを聞くことだな。
「情報を脳波に合わせて送るのにバカほどの思考回数を情報の数だけ重ねないといけないのよ。勉強しなきゃいけないことはは膨大な量あるでしょ?あのくらいの状況説明の機械開発に8ヶ月かかったのよ。それにアレの濫用は脳に負荷かかるしね」
ほぇ〜と雑な返事をしながらコーラで口の中の油を流した。コーラは地球人が広めたらしい。知的財産権の侵害だね。味はかなり近かったが完全に再現できてはいなかった。何か少し、酸っぱかった。
「地球から来た人の死因に自殺の人とかもいると思うんですけど、そう言った人たちはカウンセリングとか行うんですか?」
「かれん君は割と抵抗ないみたいだけど殆どの人が死んだと言う事実にショックを受けたり、地球に戻りたくて病んじゃったりするからカウンセリングは受けるんだけど、自殺した人や病死した人の魂を読み取った前例はないわ。かれん君は割と抵抗ないみたいだけど」
抵抗がないのはあの薬のせいもあるだろうが、地球に親友がいたわけではないのだ。肉親だっていない。それに普通に高校生活が送れそうだし、オレにとってあまり変化はないのだ。美女との同棲以外は。
「どんな条件で地球人の魂が読み取れるのかはまだわかっていないけれど、今のところ例があるのは4歳〜19歳の事故死した人と他殺された人だけね」
『自殺』した人には前例がない
その話の後、ピザの味がわからなくなった。