第1話 男は少女を死の淵から救うために奮闘する
寒空の下、建物の物陰でもうろうとした意識の中凍える少女を見つけた俺は自分のコートで少女を包み込むとそのまま近くの知り合いが営業している飲食店へ駆け込んだ。
「すまないロザリーさん。大至急毛布と桶に入ったぬるま湯、それと温かいスープを用意してくれないだろうか!」
入店早々そんなことを言う俺にここの店主は驚きの目を向けたが、俺の腕の中で凍える少女を見てすべてを察してくれた。
ちょっと待っててと一言いい、すぐに店の奥に向ってくれる。
俺はその間に彼女を一番暖炉に近い席に座らせる。
「こんなのしかなかったけど使って。」
戻ってきたロザリーさんは十分な量の毛布と桶に入った少し熱いくらいのお湯を持ってきてくれた。
「ありがとう。十分だ。」
俺は彼女の靴を脱がせその小さな素足をゆっくり桶につけながら優しくマッサージを行う。
その小さな足はひどいしもやけ症状が出ており、数本の指は凍傷になりかけていた。
俺がマッサージしている間、ロザリーさんはこの少女の濡れた服を脱がせ、何枚もの毛布で優しくつつだ。(俺はそちらのほうを見ていない)
「マサヨシ! この子とっても冷たいわ!」
「わかっている。だが死なせるわけにはいかないでしょう! とにかく温めながら体の血を動かさないと! あと今意識を失うのはまずい! 何でもいいから呼びかけてくれ!」
多少荒いが、我々はこの幼い女の子を生き返らせるために奮闘した。
俺は足をマッサージしながら、ロザリーさんはこの子の手を同じくぬるま湯につけ、マッサージしたり顔をさすったりした。
そして2人でこの少女に呼びかけあったのだった。
幸か不幸か、今のこの店には客がいなかったため遠慮なくこの場所を使わせてもらった。
まぁ彼女の性格ならこの子を放っておくことはない。
しばらくこうしていると、青白かった肌に赤みが戻り、か細かった息も安定してきた。
意識も途中何度か危ない時はあったが何とか瞼を少し持ち上げることができるくらいまでには回復した。
だが安心してはいられない。
この子を見るからに細い。マッサージしてわかるが育ち盛りの年齢にしては肉が少なすぎるのだ。
つまり体に栄養が足りていない。
このままでは体力が戻らずに死んでしまう。
「ロザリーさん。温かいスープありますか。」
「野菜のポタージュがあるから持ってくるわ。温めなおすからちょっと待ってて。」
「おねがいします!」
「今美味しいものを食べさせてあげるからもうちょっとだけ頑張ってくれよ。」
俺は少女の手を軽く握りながら優しくそういうと、少女は弱弱しくも俺の手を握り返してくれた。
「待たせてごめんなさい。」
すぐに温めなおされたポタージュをもってロザリーさんは戻ってきた。
少女は匂いに反応したのか一瞬手を握る力少し強まった。
彼女は子供用の小さなスプーンでこの店自慢のかぼちゃのポタージュをすくうと少女の口に優しく運ぶ。
少女は何度かむせそうになりながらも一生懸命このポタージュを飲み込んだ。
「お代わりはいくらでもあるからね。ゆっくり食べてね。」
そう彼女は優しく微笑みながら彼女にポタージュを食べさせてあげる。
俺はむせないように少女の背中を優しくさすってそれを見守っていた。
その後温かいものを食べて安心したのか、お腹がいっぱいになったからなのか、少女は俺たちに見守られながらすやすやと寝息を立てながら眠りについた。
その寝顔はほんの数時間前の彼女の表情とは打って変わって穏やかなものだった。
俺はこの店の2回にある使われてない客室を借りてその部屋のベットに少女を運び込みようやく俺たちは安堵した。
「ありがとうロザリーさん。そして申し訳ない。営業中に」
「いいのよマサヨシ。それに今日は店をお休みするわ。下が騒がしかったらこの子が安心して眠れないわ。」
「本当にありがとう。埋め合わせは必ずする。」
「あら、なら今からお願いしようかしら。この子を拾った経緯も説明してほしいしね。」
「あいかわらず元気だな。」
「あら、元気じゃなかったら飲食店なんて営業してないわよ。」
俺たちは1階の片付けをしながら笑いあった。