悲劇のヒロイン
一応これを読む方々に注意書きを
この話はいかがわしい表現などは一切書くつもりはないことをご了承ください
昔々ある街にマッチを売って生計を立てている女の子がいました。
少女の両親は重度のアルコール中毒者でろくに働きもせず毎日家で安酒を飲んでいました。
少女がマッチを売って得たわずかな稼ぎもこの両親はすべてお酒に変えていました。
けれど少女はこんな両親でも自分を愛してくれていると信じて、今日も寒空の下で人々にマッチを売るために街を歩いていました。
空が厚い雲に覆われた冬のある日。
少女は手に持った籠の中にある大量の売れ残りのマッチを見てため息をつきました。
「はぁ どうしよう。今日はマッチが1箱も売れないよ。」
いつもなら5箱ほど売れているマッチが今日はどういうわけか1箱も売れないのです。
顔をあげてあたりを見渡すと街灯には明かりが灯り帰路につく人々が大通りを歩いています。
「マッチはいりませんか。マッチはいりませんか。お願いです、1箱だけでいいんです。誰か買ってれませんか。」
少女は道を歩く人々に向けてマッチを売ろうと一生懸命声を張り上げます。
しかし誰もこの少女のために足を止める人はいないのでした。
少女はあれからも声を張り上げ続けました。
しかしマッチは1箱も売れることなく時間だけが過ぎていきました。
道を歩く人の数も減り、夜の冷気が彼女の体温を容赦なく奪っていきます。
少女は自分の息を手に吐きかけ氷のように冷たい手先を少しでも温めようとします。
その息はこの冬で一番白く、とても弱弱しいものでした。
「寒いよう。寒いよう。
...そ、そうだ。このマッチを擦って火を点けよう。少しはあったかくなれるよね。」
いつもなら売り物のマッチを使うと怒られるので絶対にそんなことはしないのですが、この寒さです。この少女の体力ももう限界を迎えていました。
・・・シュボ
震える手でマッチ箱から1本のマッチを取り出し何とか火を点けます。
少女の小さな手よりも小さなその火は風に揺れながらも赤々と少女の顔を優しく照らしました。
「きれい。ちょこっとだけあったかくなったわ。」
もちろんその小さなマッチの火ではまともに暖を取ることはできません。
しかしその小さな火は彼女が抱えていた不安を少しだけ和らげることはできました。
「あったかくなったら今度はおなかがすいちゃった。」
火を見て少しだけ落ち着いた少女に今度は猛烈な空腹感が襲います。
それもそのはずでここ数日、いえもう何年もまともに食事をしていないのです。
少女はあるはずのない食べ物、いつも帰り道の途中に窓から見ていた家族そろって食卓をかこっている名も知らぬ家族が口にしていた美味しそうな食べ物を想像しました。
するとどうでしょう。
手の中の小さなマッチの火から自分の食べたいものが映っていました。
「え? なんで?」
少女は驚きましたがそこに強い風が吹いてマッチは消えてしまいました。
「消えちゃった。でももう一回見たいなぁ。」
少女はもう1本マッチを擦ると今度は何ともあったかそうな暖炉が映っていました。
もう1本擦ると暖炉の前でさっき映っていた美味しそうな食べ物を少女とその両親が笑顔で囲っているのが見えました。
もちろんこれは彼女の見た幻覚です。
しかしその現実ではありえない幻想も、この少女には楽しい夢でした。
あれから何本ものマッチを少女は擦り続けました。
いつのまにか雪がチラチラと降りはじめ、寒さも一層ひどくなっていましたが、彼女はそんなこと気にもとめずただ狂ったようにマッチを擦り続けました。
「もっと、もっともっと!! もっともっともっと!!!!!!
私にもっと幸せな夢を見せてよ、ねぇ!!」
一心不乱に建物の陰でマッチを擦り続ける少女。
しかしとっくの前に体力の限界を迎えていた彼女はすぐにその場で倒れこんでしまいました。
「あ、あ... ま、マッチ。ま...っち...」
このまま彼女は自分の見た幸せな夢を思いながら、天国へと旅立っていきましたとさ。
end
◇◆◇◆
なんて本気で思ってるのかい?
こんにちは
次回から本編です