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裁縫は得意ですか?


 地獄に仏とはこのことだ。すっかり疲れきった私は、畦道にへたりこむ。おばさんは何故かいない。


 「もう、お母さん。迎えに来てるなら連絡してよ!」


 「はいはい、ごめんね!」


 「ふぅー、帰ってお風呂に入らなくちゃ!」


 私は車に乗り込み、安心したので一息つく。正真正銘、どっから見てもお母さんだ!


 「お風呂の前に食事を摂りなさいよ。遅くなると身体に悪いから」


 「はーい」


 私はしぶしぶ返事をして、退屈だからスマホに目を落とす。


 珍しいな、メールがきてる。どうせ広告でしょ。でもついつい見てしまう。

あれっ、由奈からだ。やっぱり、さっきまで悪い夢を見ていたんだろうな。安心し本文を読む。


 『つぐみ、あたしは後ろにいるよ……』


 えっ、何言ってんの? と思いながらも後ろを向く。


 きゃっ、後部座席に友達たちの生首がっ! それに、駅前にいたおばさんが不気味に座っているよ! おばさんはニヤリと妖しい笑みを浮かべ、


 「さぁ、まずは真っ黒なお腹を空白にしなくちゃ!」


 ちょっ、なに? おばさんはねるねるねるねなの? 粘り気のありそうな液体化したおばさんが、お母さんの口から浸入して…。


 ひゃっ、お母さんの身体が爆発した! スイカを割ったように、血飛沫を大量に浴びた私。私の膝元にお母さんの生首が乗っかり、こっちを見てる!


 おばさんは愉快そうに私を見て、


 「さてお腹は空白になった。次は口を縫い付けなくっちゃ! 子供をちゃんと教育できない口を!」


 「やめてっ! お願いだから、もうやめて!」


 「あたしも駅前でそう言ったじゃないか。もうやめてって。でも、あんたらはやめなかった。なら、あたしも止める道理はないねぇ!」


 口を縫い付けている手をどかそうとしたけど、何故かすり抜けてしまう!

 このおばさん何なの!?


 縫い付けが終わってから気づいた。運転手を失っても、車は変わらず直進していることを。


 畦道の先は、駅前! と、止めなきゃ! 


 あたふたしながらも、運転席に移動した。えっと、右と左どっちがブレーキだっけ?


 この忙しい時に、おばさんがまた奇怪な質問をしてきた。


 「裁縫はお得意?」


 「知らないわよ! 話しかけないで!」


 「裁縫はお得意?」


 「うるさいっ、黙って!」


 「裁縫、あたしゃ得意だよ。だからあたしは、死ぬ間際に自らのお腹を縫いつけた。でも、手遅れだったの。誰かに助けを求めても皆騒ぐだけ。駅前で孤独に心中した。あたしは生活苦でね、あんたらがとどめをさした。でも、お腹を割いてから思い出した。どうせ死ぬなら、生き別れになった息子に会ってからって。もう一度お腹を縫いつけて、生きようって!」


 「もう、皆を殺しておいて勝手なことを言わないでよ! これ以上喋らないで!」


 「あたしも同じこと思ってたよ。『これ以上喋らないで』って。あんたらが、すれ違い様にあたしの悪口を言った時にね。何もしてないのに……」


 「それはあんたがキモいからよ!」


 「おやおや、気づいていないのかい? 今のあんたの方が気持ち悪いと思うよ。あたしがあんたの肩や頭上に、友達の生首を縫いつけたから! みんなもそう思うだろ?」


 私の肩や頭上に縫い付けられた友達たち。彼女らは私に、「キモい」「醜い」「妖怪」と酷い言葉を浴びせかける。


 思わず耳をふさいでしまった。そして、心の中で悟る。人を呪わば穴二つとーー。


 現実は残酷だった。車は駅前の大木に向かっている。その大木の下には、おばさんが横たわっていた。お腹を割いたのだろう、身体の中心が真っ赤になってるから。


 って、おばさんに注目している場合じゃない! 左を踏んだらブレーキじゃないの!? 全然止まらないよ! 右かな?


 右を思いっきり踏んだら、車はものすごいスピードが出て木に激突し大破。私の腹が破れ、内蔵が飛び出す。


 伏した私は腹を縫い付けてほしくて、行き交う人々にたずねた。


 「さ、裁縫は得意……ですか?」


 皆叫ぶだけ。私の意識は遠くなった。

ご閲覧ありがとうございました。

夜中にゾクッとしながら書きました。

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