裁縫はお得意?
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ふう、話をしててすっかり遅くなったよ。駅までは3人の友達と一緒だった。けど、ここからは真っ暗な畦道を一人で通らなければいけない。
だいたい、女子高生が暗闇を一人歩いて帰宅なんておかしいでしょ。多忙でも親なんだから少しは考えてほしいな。
◇◇◇
ふう、暇だからLINE送るか。話題は何にしよう?
そういえば、駅前にいたおばさんキモかったな。子猿みたいな顔して。みんなですれ違い様にディスったら、顔を真っ赤にしてますます猿だった。ウケるんだけど。
一人ツボっていたら友達の由奈からLINEが来た。よかったー、暇だったし。なんて書いてあるかな。
『たすけて』
えっ?
『つぐみ、たすけて。夏揶、美優も爆発して死んだ』
は、由奈ふざけてんの? ちょっとウザさを感じていたら写真が添付してあった。そこには赤く染まった夏椰・美優の鞄と二人の生首が映って…。ひゃっ、気持ち悪いっ!
あまりのショックでスマホを投げ捨ててしまう。するとすぐにLINEの通知音が。恐る恐る画面を覗いてみたら、きゃっ!
さ、さっきのおばさんが映ってる! しかも、手には由奈の生首…。
ショックなのは生首だけじゃない。なんで、由奈の口が縫い付けてあるの?
またLINEの通知音が不気味に鳴った。由奈からだ、もう冗談きついよ!
『裁縫はお得意?』
本文を見た途端、背筋が凍った。背後からも同じ言葉が聞こえてきたからだ。
「ねぇ、裁縫はお得意?」
振り返ってはいけない。直感で判断した私は早足で家路を目指した。それなのにすぐ後ろから、
「裁縫は、お得意なの?」
と女性の声がした。怖くなったから全速力で走った。とにかくがむしゃらに、頭の中に家だけを思い描いて。
疲れと共に心臓の鼓動が聞こえてくるけどそれに混じって、
「その口、縫い付けてあげようかぁ?」
耳許でまた女性の声がした。つい反射的に顔を横に向けてしまう…。
「ねぇ、その口縫い付けてあげようかぁ?」
きゃあっ、駅前のおばさんだっ! しかも手には…。手っ、手には…友達3人の生首がっ!
「ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ! その口、縫い付けてあげようかぁ!」
「いゃあーっ!」
私はもう、身体が壊れてもいいから帰宅したかった。これは夢でしょ、なんでこんな目にあわなきゃいけないの?
もう、親の薄情者! 迎えに来てよ!
◇◇◇
目の前の白い軽自動車がうるさいくらいクラクションを鳴らした。あれはお母さんの車だ!
もう、来てるなら連絡くらいしてくれてもいいのに!