そこで見たモノ
―――明朝の昼下がり
さんさんとふりそそぐ日差しに、目を細めながらも青々とした茂みの中を進む。雪はいつの間にか止み、まばらに立つ樹木と、芝ほどの長さの草が茂った草原が広がる。
あれからいくつかの丘を越え、広大な平原を抜け、再び鬱蒼とした森林へと入り、そこも抜け丘陵地帯の中腹あたりへと来ていた。目線の先にはまたも広大な森が広がっているのが見える。あと半分過ぎればまた森を通り抜けなければならない。
今日までの移動で、この世界のありかたというか、そういうのがなんとなくだけどつかめてきた。まず前提として、この世界には恐ろしい数の怪物がいる。それは、俺が初めて戦ったサテュロスのような、今までに見たこともないような化物のことだ。そいつらがそこら中を歩いていて、何も注意せずに適当に歩いていたら絶えず出くわすほどには、いる。
相変わらず、人間には出会えていないし...ここが地球ではないと仮定するならば、もしかしたらこの先も出会うことはないのかもしれないが。
ともかく、そういった怪物がここら一帯を支配しているといっていい。もうだいぶ距離を進んだが、そういう環境は何一つ変わらず、常にモストロの脅威がある。
だから俺は、ここが怪物の国なのではないか、という考えに至った。この世界は怪物が支配していて、他の生物は息絶えてしまったのではないか...と。
可能性がないわけじゃないはずだ。俺は学者じゃないし、この世界について詳しいわけでもない。だけど、そうでなければおかしい。
そう決定づけたのは、昨夜に見た夢のせいだ。目的地に近づいたからなのか、何がきっかけになったのか分からない。あまりに唐突に、再びあの夢を見たのだ。
その夢の始まりは、この世界に降り立ったあの日に見たところから始まった。あいつと対面した場所にいきなりいたんだ。
―――
ぼんやりとした意識の中、目の前の景色が一変する。眠りにつく前に、目を閉じるまで見ていた景色と全く違う。木製の壁で囲まれた、静かな空間だった。
...どこかで見た。その光景を見て、まずそう思った。どこで見たのか、ほとんど忘れかけていたが、最近行った場所の中に、こんな場所はただ一つしかったおかげで、すぐにどこだか分かった。
例の悪魔の部屋だ。
「...なんで、ここに?」
しかし、ここへ戻って来た理由が分からない。また俺が眠りについたタイミングで、この場所へやってきたけど、俺が眠ることが、ここへ来る引き金にでもなるのか?
しかしそうなると、ここ数日の間、一切来ることがなかったことに説明がつかない。
『...おや?これはまた、お早いお戻りで』
そうこうしていると、この部屋の主の、以前あった時のあの悪魔が現れた。しかしながら、以前と違うのは、まるで俺の登場を予期していなかったかのような反応と口ぶりだという点。
『ふぅむ。
なるほど、私の予想よりも二、三年ほど早かったが、まあそういうこともあるだろう。
さて少年、ということは、君の力は覚醒したということかね?』
悪魔は、少しの間考える素振りを見せた後、俺の目を見ながら聞いてくる。
「か、覚醒?
あの俺、そもそもどうしてここへ来たのかもわかってなくて...まだあなたに言われた世界樹にすら辿り着けていないんです」
『...ほぅ?
そうですか、いやに私の予想が外れたと思ったら、なるほど。
なぜ君がここへ来たのか...そもそも君が私の求める強さの境地に辿り着いた時に、再び訪れるようにしておいたのです。
それは本来、君が、君の中に眠る力を目覚めさせる...すなわち覚醒によって起こる出来事だったのです。
しかし君は...銀狼の戦士となったようですね。
そのおかげで...銀狼の力の副作用で、君の中に眠る力の枷が外れかけている。
理解できるかい?』
「わ、わからないですよ、それどころか、俺はここのことをなんにも知らない」
『...ふぅむ、果たしてそうだろうか?
私は、君に十分な情報を与えていると思うがね?君が見ようとしていないだけだ。
君は、目先の目標に取りつかれていて、現状の理解を怠っている。まずは身の回りを確認してみなさい』
「身の回り...?」
そんなの、この世界に来てすぐに確認したさ。一体、この悪魔は何を言っているんだ。
『分からないか?
君は、今の自分に何ができるのか、それを正確に理解できているか?
分からないだろう。
なにせ、私が渡した一番の贈り物を見つけていない。
君の