第99話 幕間 懸念
青鋼の騎士団の5名が退室した後、エレメスとエミリアはギルドマスター室に残り、ジークフリードと今後の対応を話し合っている。
「諜報部の者を陰ながら護衛に付けますか?」
「うーん……そこなんだけどね、今はあまり諜報部を動かしたくない。理由は言わなくても分かるよね?エレメス」
「はい、鼠の存在ですね?」
ジークフリードはエレメスの言葉に小さく頷く。
「はぁ……いっそ一旦解散させてしまおうかと思ってくる程だよ。そんな権限なんて僕にはないけどね」
「気持ちは分かります」
ソファーにどっかりと体を埋め、天井を仰ぎながら深く溜息を吐くジークフリードは、現在の諜報部の状況を思い浮かべる。
皇帝にかけ合った後に自らが選定し、把握している諜報員はまだ信頼がおけるが、元々居る諜報員に関しては信頼などとんでもなく、信用すらおけない者も居ることは分かっている。
そしてここで言うところの諜報部とは、冒険者ギルドの諜報部でもあり、国家が組織する諜報機関の事を指してもいる。
つまりは二つとも全く同じ組織という事。
巨大な国を裏から支える諜報機関は、どこの国にも存在するそれと同じく国内や他国の情報収集から要人警護、はたまた国にとって都合の悪い人物の監視や排除まで行って居る。全て秘密裏に。
そしてその諜報機関を、ジークフリードを始め各地に存在するギルドマスターは使用できる権限を持つ。
つまり表向きは国家に属さない冒険者ギルドなのにも関わらず、裏ではしっかりと繋がっており、更に言えば冒険者ギルド自体も監視をされる立場でもある。
とはいえ諜報機関の実質的な長は皇帝であるのだから、本来ならばジークフリードにとっては信頼しても余りある組織の筈だった。
しかし現在の諜報機関は、未だ残念ながらその体をなしていない。
理由はいくつかあるが、皇帝が帝位を頂いてから5年しか経過していない事が一番大きな理由であり、以前は先代の皇帝陛下が宰相のケネスに諜報機関の長を任じていたが為。
要するに現在の諜報機関は、皇帝とジークフリードの意に沿う派閥と、旧帝国派であるケネスを心棒する派とに分かれているのだった。
どちらも表向きは皇帝ハインツに忠誠を誓ってはいるが、先帝時代の諜報員が得る情報は漏れることなくケネスにも伝わってしまう。
ジークフリードと皇帝ハインツにとってはその事実こそが悩みの種だった。
特に今回はケネスの名が挙がっているのだから尚更だろう。
「ほんっと、面倒くさいよね。それこそ本当に勇者が現れてくれて、余計な奴らもついでに全て薙ぎ払って下さい!って言いたくなる」
突然発せられた言葉にギョッと目をむくエレメス。
まさか本気で言っているのではないだろうが、聞く人によっては問題になってしまう。
「あまりそんな事は言わない方が……」
「なんで?ハインツも同じ事を思っているよ? 面倒ごとはぜーんぶ勇者とハインツの息子に任せて、僕らはまた冒険者に戻りたいってのが本音だし」
(ほ、本気だったのか!)
しかも皇帝陛下も同じ考えと聞かされ、エレメスは言葉を失った。
しかしエミリアだけは言葉を違うベクトルで咀嚼した。
「何を言われるんですか?まさかカズマさんに全部背負わせて、本当に逃げ出そうなんて思っていませんよね? いくら今の帝国が見た目よりも全く機能していないからと言って、面倒だから投げ出すなんて考えてなどいませんよね?」
その勇者が一眞だと思っているエミリアにとっては、とても看過できない物言いだった。
言葉は丁寧ではあるが視線は冷たく、とてもではないが父親に向けるようなものではなかった。
「うん?……いやだからハインツのむすこも……って冷たいよその視線! エミリアちゃんはもう少し愛のある冷たい視線を僕に向けてよね!」
愛のある冷たい視線とは一体どのようなものなのか。
エレメスは疑問に思いつつもそれを突っ込むような事はしない。
下手に突っ込んでしまえばめんどうくさ……もとい、恐ろしいエミリアの餌食になってしまう故に。
「いえ、これで十分です」
「まじで!」
「はい。それに、もしもそのような行動に出た暁には、ギルドマスターと皇帝陛下の二人のみで冒険に出て下さいね。ヘルミーナさんとリュミさんとガニエさんはきっと付いては行かないでしょうし。皇妃陛下は……アストラル様の代わりに行う摂政でお忙しいでしょうから、結局のところ、お二人でという事になります」
冷たい表情のまま淡々とそう説明をされたジークフリードは、思わず言葉の内容に戦慄く。
「うそ……皆ついてきてくれないの?」
「ついて行かないと言われておいででしたよ? 勿論私もですけど」
娘の言葉にハッとし、以前ガニエ達が口にした言葉を思い出す。
「も、もしかして、仲間っていうのは本気だったの?」
「そこで何故冗談だと思ったのか不思議でなりませんし、思い上がりも甚だしいですね」
思ったよりもエミリアの言葉は辛辣だった。
その事がジークフリードには余程に堪えたようで。
「はう!娘が僕を抉るんだけど! ねえ、エレメス!何か言ってよ!」
「いえ、ハハハ……エミリア嬢は何分恐ろしいので……」
「ま、ま、まじでー!?」
腹心だと思っていた男の裏切りに、ジークフリードは卒倒した。
泡でも吹くのではないだろうかと思える程に動揺している。
「あ、ですがお母さんとお婆様は一緒に行っていただけるかもですよ? とても楽しそうじゃないですか。いえ、きっと楽しいと思いますよ?」
「あえ?……い、いあ……それはちょっと……えと、きっと楽しくないと思いますよ……」
今度は過去に何があったのだろうかと思える程に狼狽しはじめた。
少年のように白く幼い肌が真っ青に変貌し、なにやら奥歯がカチカチと鳴っているようにも見えた。
(ナディアだけならまだしも、ああああの人までとか勘弁してよぉ!!)
「とはいえこのような無駄話を続けても仕方がないので、今後の動きをさっさと話し合いましょう」
「……う、うん。そだね」
死んだ魚のような目をエミリアに向けながら、ジークフリードは諦めて話を元に戻すことにしたのだった。
◇
「魔法紙もサインも封印痕もケネスの物だね。それは間違いない。そして、向かわせた場所は魔の領域のすぐ傍。となると……」
「逆に疑わしいという事ですか?」
ジークフリードが言い淀んだ言葉の続きをエレメスは正確に言い当てる。
それを聞いてジークフリードは少し嬉しそうに、しかし表情は殆ど変えずに話を続ける。先ほどまでの死んだ魚のような目は既にどこにも存在しない。
「そう。ケネスの事を良く知る僕から言わせて貰えるなら、彼は非常に憶病で慎重で狡猾な男なんだ。自らの失点を極端に嫌うと言った方が分かりやすいけれど、そんな男が、こちらに来たばかりの転移者を危険な魔の領域付近に向かわせるなんて考えられないし、そもそも殺すつもりなら、イレギュラーとはいえ彼らが助かる可能性を考慮しないなんてありえない」
「そうですね……私もそれは同感です」
ケネスの人となりを知るエレメスも肯定した。
因みにエミリアはケネスの事が生理的に受け付けないようで、ケネスの名が出るたびに眉間に皺を寄せているだけだった。
「助かった場合、この依頼書は確実に証拠になるからね。……嵌めたかどうかではなく」
「全滅すれば有耶無耶に出来たでしょうが、そうは成らなかったのだから、その可能性を考慮しないケネス殿は確かに想像できませんね」
「そうだよね。……でも、疑わしいのは確かだ。それでもまあ、オーガが出たぞ!大切な転移者を4名も失くしかけた責任はどうするんだ!……と非難したところで尤もらしい言い訳を並べるに決まっているけどね」
「助かった事がイレギュラーとするなら、オーガが出現したのもイレギュラーと」
「そうだね。4人とも生きているのだから失点には成らないし、僕ならそう言う。というか皆そう言うと思うよ? なにせあの地域にオーガがいるなんて報告は上がっていないからね」
「そうですね」
「でも、失敗が露見した場合、確実に陛下や僕に疑念を抱かせるのは確かだ。だから石橋を叩いて叩いて結局渡らないケネス本人が動いたとは思えないんだ」
「となれば、ケネス卿の魔法紙と印を扱える者の犯行ですか」
「可能性はあるよね。ケネスの周りには胡散臭い奴も多いし」
「胡散臭いというより、欲望に忠実な方が多いですね」
過去に何かあったのか、エミリアの美しい顔が歪む。
何があったのかを知るジークフリードは娘のその表情を渋い顔で見やりつつ、最も懸念を感じている部分を告げる。
「そして僕が一番気にしているのはね、仮に今回の出来事が仕組まれたものとするなら、国家の中枢に魔族の手の者がいるって事なんだ。まあ、前から薄々気付いてはいたけど、それが決定的になっちゃうんだよね」
「そうなりますね……」
「あとね、気になる事があるんだけど、これって確実にヒジカタ君がいない時を狙っているよね」
ジークフリードはグランドマスター代理というその役職上、一部地域を除いてではあるが、白金以上に属する冒険者の静動の情報が、大まかではあるが自身に入るようになっている。
そしてトレゼア所属に限ってではあるが、エレメスも同じように情報を手に入れられる。
「彼は今北東の最前線にて、魔の領域の調査に赴いています」
「それを指示したのは誰だっけ?」
「軍務省のグレーニング元帥閣下ですね。尤も、北東の最前線は最凶悪のモンスターが出没する地域ですから、ヒジカタ殿のパーティーに直接指示が出されたとしても不思議ではありません」
「うん、グレーニングは大丈夫だと思う。……でも何だろうな、なんていうか、作為的なものを感じてしまう僕は人を疑い過ぎなんだろうか?」
「それはありますね」
間髪入れずにエミリアが肯定した。美味しそうに紅茶を飲みながら澄ました表情のままで。
それを見たジークフリードは唇を突き出してしょぼくれる。
「さっきからエミリアちゃんは容赦ないよね……」
「事実ですから。そして先ほどからではなく、以前からです。それに、自身で問いかけて置いて否定をして欲しいと思うなんて都合が良すぎだと思います」
しょぼくれた表情を見せられてもエミリアは全く意に介さない。
「けれど、作為的なものは私も感じますね」
だったら最初からそう言ってよと思いつつも仕方なしに諦めたジークフリードは、だよねーと呟きつつ今後の展開を予測する。
しかし、そのどれもが楽観視出来るような内容ではないと思えば自然と表情が曇る。
「やっぱり、国内で良くないモノが蠢いているよね。それも一つじゃない。だけど傍から見たら、帝国は盤石に見えるんだろうね……」
「そうですね。力をお持ちの皇帝陛下がいらっしゃり、南方境界からのモンスターの侵攻に対してはスガワラ卿が睨みを利かせ、北方境界にはグレーニングおじ様とヒジカタさんがいます。5年経って経済はようやく元の活気を取り戻しつつありますし、犯罪も以前よりは減っています。ですから国は盤石で安泰だと思っている方は多いとは思います」
ジークフリードがグレーニングは大丈夫だと言ったように、エミリアにとっても彼の事をおじ様と呼ぶ程には信頼している事が伺える。
それは小さなころから接している人物だという事も影響しているが、グレーニングの妻の一人がエミリアにとって姉のような存在である事実も大きい。
「でも、そうじゃないんだよね……とても危うい状態だ」
「ケネス卿の動きと、それから北の王国、更には南方ですね」
「ケネスの動きっていうかケネスの周囲だね。もっと言えば西の教皇国もかな。それと北の王国は、まあ……元々帝国とは敵対国だから仕方がないけど、南方の小群国家はちょっと放置しすぎている。というか任せすぎているかな」
「スガワラ卿の動きが気になりますか?」
エミリアは南方方面の情勢に詳しくはない。それには理由があるのだが。
ゆえに小首を傾げながらジークフリードに聞くが、とうのジークフリード自体微妙な表情を見せている。
「気になるというか、うーん、エミリアはスガワラ殿に会ったことはあったかい?」
「いえ、一度お会いしてみたいとは思っていますけど、殆ど領内から外に出かける事が無いとか。勿論魔の領域への偵察や牽制は別にしてでしょうけど」
「そうなんだよね。新年の陛下への挨拶くらいかな?彼が領内から……というか居城から出るのは。だから領内の政も部下が殆ど代行しているって噂なんだ」
「元々そういった方のようですね。確かニート?という生活を元の世界で送られていたとか」
「らしいね。とまあ、彼の生活習慣によって彼を良く知る機会が少ないのは事実なんだ。だけど問題はそこじゃない」
「もう一人の龍ですね」
エレメスの言葉に頷きつつ、
「そう。ミシマ卿が、どうも怪しいんだ」
レギオン《双頭の龍》。
このレギオンのマスターは帝国最高レベルの菅原だが、レギオンを作る際に、菅原と実力を二分する美嶋という高レベル転移者が参加したのは周知の事実だった。
故にレギオン名も《双頭の龍》となったのだが、その美嶋という転移者は菅原に輪をかけて動きが見えない。
「スガワラ殿には1年に一度は会えるけど、ミシマ卿にはもう3年も会っていないんだ。僕だけじゃなくって他の誰もね……表向きはだけど」
生きてはいるだろう。
それは1年に一度レベル更新を行わなければならないので、その時に分る。
とはいえそれもスガワラ領内にて行われているに過ぎないのだから、それすらも不確かではあった。
「しかもスガワラ領には諜報員を向かわせにくい。変な結界が領土全般に構築されているから」
「変な結界ですか?」
エミリアは訝し気にそう聞き返した。
「うん。普通に誰でもスガワラ領に入る事は出来るんだけど、諜報員の報告によれば、一瞬、どこかからか監視をされたような感覚を味わうみたいなんだ。しかも最上級の探知スキルを持って居なければ気付かないような結界らしい。領地に入ってしまえばその感覚も消えるみたいだけどね」
エレメスはこの事を既に知っているのか、ジークフリードと同じように難しい表情を見せている。
「領内に入った時だけというのが厄介ですね。常に監視されているような感覚が続くなら発生源や意図も分かりやすいでしょうに」
「因みに、どこから領地に入ってもですか?」
「そう。領地の境界全域だね。どこから入っても感じるんだそうだ。だから僕も一度行ってみたいと思っているんだけど、報告通り誰かに監視されているなら、僕が行けば間違いなく面倒な事になっちゃう」
「それはそうでしょう。グランドマスターの代理をされて居ても、現時点ではトレゼアのギルドマスターですからね」
「そうなんだよね……他所の冒険者ギルドに視察に行くとか出来ないのが辛い」
「それぞれのギルドがほゞ独立していますから仕方がないでしょう。それにそもそも貴族ですし、しかも上級爵位をお持ちですから意味も無く他領に向かう理由が見当たりません。上級貴族でも冒険者でしたら、自由な移動が約束されて居ますから別ですけど」
「それだよね。僕が領地を持って居て、流通関係で折衝を行うとかなら無理やりだけど何とかなるんだけど、僕、領地ないし。ハインツにトレゼアとその周辺を頂戴って言ったら、流石にそりゃ無理って言われちゃったし」
その言葉に呆れた表情をエミリアは見せる。
皇帝ハインツを呼び捨てにしている部分ではなく。
「当たり前です。この地は3つの森もそうですけど、魔鉱石の採掘に関しても特別な場所ですから、国有地からは外されないと思います」
「だよねー。はぁ……もう少し領主の権限が低ければなぁ……」
「それも仕方が有りません。帝国は広大ですから」
「うむぅ……」
何か言えば直ぐに正論で返してくる娘は一体誰に似たんだろうかと思いつつ、そんな事分かってるんだけどねとジークフリードは下唇を噛む。
帝国は広大な土地を有する為、いかに皇帝の力が強かろうとも中央集権制度を敷くことが出来ていない。
ゆえに各領地の領主は可成りの統治権限を有している。従って上級貴族が他領へ向かう場合は勿論の事、通過するだけでも事前にその領主に目的を通知しなければならない。
ただ、有事の際だけはグランドマスター代理の権限で、事後報告とする事は可能だが。
そして当然ながら南方地域、菅原が治める領地も同様の統治権限を有している。いや、むしろそれ以上の権限を有していると言えるかもしれなかった。
その理由は、領地を統治する菅原が、現時点でも冒険者の一人であり、しかも大陸最高レベルを有するがゆえに。
そして南方地域を菅原に統治させている最大の理由は、魔の領域から漏れ出るモンスターによる所が全てであった。
元々、北方と南方が同じような激戦区だという理由から、両方の戦線を支える戦力は帝国には存在せず、どちらか片方は任せるしか戦線を維持できない状況ゆえに、ある程度以上の統治権限を与えられているのが現状だった。
辛いところを任されているのだから、自由に統治させてやれといった具合に。
その事が帝国元老院で問題になった事もあるが、最近は議題にすら登らなくなっている。
その現状もジークフリードにとっては懸念材料の一つであった。
せめて北のエルネスト王国のように、モンスターからの侵攻が一か所だけなら、こんな心配はしなくてすむのに。
そう考えつつジークフリードは溜息を吐いた。
「それでも不穏な動きは今の所は無いんですよね?」
「ないね。フェアリス殿からもそんな話は聞かないし、実際によく南方戦線を維持してくれていると思う。でも、なーんか不気味と言うかゾワゾワするんだ」
それならば別に良いじゃないかと誰もが思う所ではあるが、エレメスもエミリアもそうは思わない。
それはジークフリードが持つ第六感的な漠然としたものを信じているのだから。
「まあ、見えないから気になるだけかもだけどね」
「本当にそうなら良いのですが」
「だから本音を言えば、シバ君には早くレベルを上げて貰って、エミリア達を連れて南方に旅でもして欲しいんだ」
突然飛び出た一眞の名前に、一瞬どういう事だろうかと思案を巡らせたエミリアだが、直ぐにそれが以前聞いた言葉に繋がるのだろうと悟る。
「そういう事だったのですか」
「ん? あぁ、以前ここで彼に言った言葉?」
「はい」
「それもあったね。でも旅をして欲しいのは本当だよ」
エミリアはプリシラと同じく、一眞が持つ加護の秘密を誰かに告げる事はしていない。信頼のおける実の父親で、尚且つギルドマスターであったとしても全ては告げていない。
それはひとえに一眞の信頼を失いたくないという気持ちが先に来ているからでもある。
とうの本人は、そんな事でエミリアへの信頼が揺るぐ筈も無いのだが。
とはいえ、そこまで自身が信頼されていると理解していないエミリアは、ゆえに魔法剣の資質を持つ事は既に伝えてあるが、一眞以外にも影響を及ぼす経験値に関わる情報は一切誰にも話をしていない。
後で知ると、きっと拗ねて子供のようになってしまうんだろうなとエミリアは思いつつ、一眞が自身と旅をするのは何時の頃になるだろうかと考える。
「今年中にはもしかしたらシルバーランクになられるかもしれません」
「まじで? あ、でも彼は相方がいるでしょ? それに今回助かった二人も一緒に行動をするみたいだし」
「そうですね。ですけどカズマさんはレベル80には成られると思います」
鋭いところを突かれたが、エミリアは平然と誤魔化す。
「そっか、まあ二人での旅もいいかもね。でも子供はまだ早いよ? 孫の顔を見たい気持ちもあるけどね」
「なんっ!?」
突然繰り出された言葉にエミリアは絶句し、そして固まる。
それを見て楽しそうに笑いながら更に発言を続ける。
「あははは。冗談だよ。避妊薬さえ使えば問題ないし」
「れ、レベルが低くてもプリシラさんも一緒です!」
「んまあ、3人でのプレイもこれがまた良いもんだけど……エミリアちゃんにはちょっと難易度が高いか」
「……」
最初は恥ずかしがっていたエミリアだが、からかわれているだけだと悟り、今日何度目かわからない冷たい視線を投げつけた。
しかも今までとは異なり、心底底冷えしてしまいそうな程の。
「……そ、その視線はきびしいかも」
「でしたら変な事は言わないで下さい」
「変な事じゃ……あ、ごめん……」
「ギルマス……」
「あ、うん、言いたい事はわかってるから……エレメス」
ギロリとエミリアに睨まれ、即座に謝るジークフリードを見やりながら、何をやっているんだろうかとエレメスは呆れた。
尊敬できる部分は多々あるし、ともすれば畏敬の念すらあるのだが、こう言う所は駄目な人だなと思っている。
「とにかく、今年中にシルバーになられると思いますから、カズマさんを充てになさるのなら、それまでにギルドマスターは出来る事をなさってください!」
「あ、うん。そうする」
こうして三人での会議はジークフリードの意味のない発言によって終わった。
結局何をどうすれば良いのかはっきりと決められないまま。
とはいえ当のジークフリードは、既にやらなければならない事を理解しており、その通りに動くだけなのだが。
感想でご指摘があったので、銅ブロンズ 青銅カッパーを 銅カッパー 青銅ブロンズに変更します。




