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第97話 討伐準備

本日1話目です。

本日は2話掲載予定で、次は18時に。

 気になる事が多すぎるが、結局のところ今やらなければならない事を優先する為、俺達は一旦戻る事にした。

 その事を、ようやく落ち着いた感の村長に向けて告げる。


「巣をどうするかも今日のところは保留にして、まず俺達は一度村に戻ります」


「そ、そうか……」


 極端な程にガッカリと肩を落として落胆する村長。

 おそらくまた依頼をかけなきゃならないとでも思っているのだろう。


「巣を潰すのは明日の昼間にでも出来ますし、軽く請け負えないけど、多分何とかなると思いますよ」


「そ、そうか!」


 先ほどと同じ言葉だけれど、喜色満面といった感じの表情を村長は見せた。

 ほんとこの村長って分かりやすいな。


 ここに来た時に吐いたレイニーさんへの暴言は頂けないけど、それ以外ならこの村長は好ましく思えて来る程だ。


「それでですけど、村の空き家を1軒貸して欲しいんですが、良いです?」


「ああ、構わんですぞ。元々提供する為に掃除だのは済ませておりますからな」


 ん?何だ?急に敬語になったぞ?

 そう思っていたらレイニーさんが手を挙げつつ口を開く。


「あ、それなら私も行くわ。弓と矢はあるし防具はいらないし」


 ……え?


「いやいや、防具は流石にいるでしょ?え?いらないの?」


 余りにも堂々と宣言をされたから、思わずプリシラ達の方を見て確認をしてしまったけれど、当然の如く彼女は大きく首を横に振った。


「いると思います……」


「だよね」


 あーびっくりした。


「でも自分の村を守りに帰って来たのに……」


「レイニー……」


 今までじっと事の成り行きを見守っていたレイニーさんの両親が、申し訳なさそうに彼女の名前を呼んだ。


 まあ、この世界の常識がどうかは分からないけど、普通に考えたら口減らしをしようとした娘に対して負い目くらいは有って然りだろうて。

 しかも彼女から定期的に送られて来たお金も普通に受け取っているんだろうし。


 とはいえ、だからと言ってレイニーさんの願いを受け入れるわけにはいかない。


「レイニーさん、気持ちは分かるけど、今回は我慢して欲しいです」


「そうだぞ?レイニー殿。私達が行っても防具が無ければ大して役には立てないだろう。それに、毒矢が掠ってしまったらそれで戦闘不能どころか、私たちを守る為にシバ殿に迷惑が掛かってしまいかねないのだから、ここは諦めた方が良い。君にもそれは分るだろう?」


 今まであまり会話に参加をしていなかったシルヴさんが、レイニーさんの肩をさりげなく抱いて窘めた。


 か、肩を抱いただと!


 その余りの自然さとスマートさに俺は思わず目を見開く。

 しかもレイニーさんは別段嫌がってもいない様だった。

 い、イケメンは何をしても許されるのか!と。


「分かってるわ。分かってるけど……」


「あ、そうだ。一眞って魔除けの香炉を持って居るわよね?」


 俺がイケメンに嫉妬の炎を燃やしていると、絵梨奈さんが現実的な解決策を口にした。


「ん?香炉は勿論ありますよ?……って、あ!そうだった」


 その会話にレイニーさんは驚きをもって目を見張る。


「ま、魔除けの香炉を持って居るの?」


「あります」


 魔除けの香炉は、モンスターが対象を視認しにくくし、尚且つその範囲内には近づかなくするもの。


「それならば私がレイニー殿の盾になろう。私の防具は完全には破壊されていないし、盾は予備がある」


「ほんとに!?シルヴィ……シルヴ!」


 ん?

 一瞬名前を間違えたぞ?

 まあ良いけど。

 迫田(さこだ)さんを迫田(さこた)さんと言い間違えたくらいだろ。


 それよりも期待感満載で、俺を見つめるレイニーさんを何とかせねば。


「あー、まあ香炉の範囲から絶対に出ないって条件を守ってくれるなら、いいですよ?」


「うん、守るわ!」


「ぁ……それならわたしも……支援だし」


 遠慮がちに口を開いたのはマルタさんだった。

 彼女も完全に防具は破壊されているし、それどころか際どい場所がところどころ破れてすらいる。


「支援さんはとっても助かるんですけど、二人をシルヴさんが守るのは厳しいと思うので許可できません。なのでオリヴァーさんとマルタさんはもしもの為に――」


「あ、そう言えばあたしローブの予備あるわよ? 前のがそのまま残ってるから」


 もしもの為にここで警戒をしてて欲しいと言おうとしたのに、絵梨奈さんが素で被せつつそう言った。

 余計な事をとは思わないけど、俺は少しだけジト目を向ける。


「……絵梨奈さん?」


「ん?」


 どうやら全く気付いてくれないようだ。

 人が多すぎると目が行き届かない可能性を考えてもいたので、何とか理由をつけて何人かは残って欲しかった部分もあったのに。


「……いえ、なんでも」


「ん?ん?んんん?」


 まあ、仕方がないか。

 それを言われたら俺も最初に使っていた金属軽装備はあるし、皮鎧だって持ってるし。


 レイニーさんには俺の皮鎧は大きすぎだろうけれど。

 メートル級のお胸様をお持ちなら丁度いいかもだけど、お持ちではないようだし。


 というか何気に相馬さん達も思い出したかのように『あ!』と口にして俺を見る始末。


「いや、まあ、装備は有りますね……そう言えば」


「でしょー?」


 全く悪びれずに絵梨奈さんはそう言ったけど、確かにここに残して行けば本人達はやるせない気持ちになるだろう。

 それなら完全ではないにしても、装備を貸して一緒に行く方が良いのかもしれない。


 あとは、無理だけはしてもらわないようにちゃんと釘をさしておくか。

 レベル20を超えているのはシルヴさんだけだというし。


 一人で考えを纏めている間、俺の言葉を待つオリヴァーさんとマルタさん。


 特にオリヴァーさんなんて虎人族なんていうネコ科の獣人だからか、厳めしい顔なのにも関わらず愛らしく見えてくる程に、期待に満ち溢れてしまった表情を見せている。


 そんな二人を見やりながら少しため息を交えながら伝える。


「ふぅ……レイニーさんが装備できる皮鎧は俺のジャケットくらいしか無いんですけど、他の人用にはある程度装備はあります」


「なら、俺等も行っていいのか?」

「いいの?」


「はい、相馬さん達も良いですよね?」


「ああ、いいよ」


「勿論だ」


「僕のはオリヴァーさんかな? 盾も殆ど使っていないのがあるし」


「あまり良い防具じゃないが、俺のはシルヴさんが使うか? ちょっと大きいだろうけど」


「え? い、いえ、私は先ほども言ったように、まだ完全に破壊されてはいないから大丈夫だよ。気持ちだけ受け取って置く。ありがとう」


 爽やかな笑顔で田所さんがシルヴさんにそう言ったけれど、とうのシルヴさんは若干引きながらも丁重にお断りをしてきた。


 汗臭いのが嫌だったのだろうか? そんな事はないか。クリーンの生活魔法があるんだし。あれかな?潔癖症なのかもしれないな。イケメンには多い(偏見)って言うし。


 そして丁重にお断りをされた田所さんは、爽やかな笑顔のまま若干困惑している。


「そ、そうか、尚樹さんのはオリヴァーさんが使えばいいし、絵梨奈はマルタさんだな。レイニーさんは皮鎧だし……って俺のは誰も使わねえのか……まあ、良いけどな。ハハハ」


 乾いた笑いを見せるそんな田所さんを見やりながら、絵梨奈さんが二ヨる。


「くふっ……不人気ね、蓮司の防具は」


「ああそうだな。って、うるせえ」


「あははは」


 何時ものように仲良く掛け合いをする二人に少しだけほっこりする。


「じゃあ、という事で、皆で行きましょう」


「すまない、恩に着る……」


「ありがとう……」


「本当に……ありがとう……」


「良いですよ。皆さんの気持ちを考えれば一緒に戦う方が良いと思います」


「そうですね、それがいいと思います!」


 俺が笑顔を、プリシラが満面の笑顔をレイニーさんに向ければ、彼女は眼に涙を溜めながら、それでも笑って頷いてくれた。



「という訳で、俺達は行きますけど、この場所が襲われないとも限らないんで、絶対に鉄格子は開けないでください」


「ああ、分かっている」


「強引に開けられても、ディルクさんなら細い通路で防げる気がしますけど」


「まあ、そうだな。ここで守るだけなら何とかなるだろう。だからここを選んだってのもある」


「でしょうね」


 お互いが目で確認をするかのように小さく頷き合っていると、横から村長がおずおずと口を開く。


「それで……明日の朝はどうすれば……」


「一応、日が出たらここに戻ってきます。だから移動はそれからにしてください」


「わかりました。是非頼みますぞ」


 やっぱり敬語になってしまったようだ。

 なんて現金な村長だ。



 その後、空き家の位置をレイニーさんが村長に聞き、俺達は村人に見送られながら、日もすっかり落ちてしまった暗闇の中を村に向けて歩いて行った。


 ゴブリンが来るのは夜の9時以降から日付が変わるまでらしい。


 そして家の鍵を掛けておけば無理に家の中に入っては来ない。これは恐らく頭が悪いからで、ゴブリンは鍵を開けようとすら考えないらしい。まあ、ゴブリン『は』という注釈が付くけれど。

 

 あと、ゴブリンの特徴として新しい情報をディルクさんから聞いた。


 目が良く夜目が利き、耳もそこそこ良いが鼻が非常に悪い。匂いや臭いに鈍感なんだそうだ。自分らが臭すぎて鼻が馬鹿になっているという意見もあるけど。


 なので家の中で物音を立てずにじっとしていれば、発見される事は無いんだそうだ。

 頭が回らないのか、いるかどうか分からないような建物を壊してまで中には入って来ないんだと。


 まあ、それもゴブリン『は』という注釈付きではあるけれど。

 即ちホブゴブリンなら余裕で破壊して確認をするという事。


 気をつけなければいけないのはこれくらいだろうか。

 あとは、ゴブリン用に香炉をしっかり焚いておく。


 正確に言えば、ホブゴブリンならば香炉の範囲内に強引に入って来ることもあるらしいけれど、その場合は動きが鈍重になるので、さしたる脅威ではないそうだ。


 無理をしなきゃ大丈夫。


 そう自分に言い聞かせながら、無数の”ライト”に煌々と照らされた夜道を足早に歩いた。



「ふぅー、漸くついたー。もう19時半よ」


「あまり時間はないね」


「直ぐに準備をしましょう。と言っても魔除けの香炉を焚いて、あとは食事をするくらいですけど」


「最終的な打ち合わせは食事中に、ですね?」


「そうだね。9人いるから役割はしっかりと決めておかなきゃだ」


「はい」


 そうこうしている内に、村長が指定をした空き家に到着した。


「この家よ。ちょっとまってね、鍵を開けるから……んしょ」


 ロックの生活魔法なんて、小さな村に住む住民は持って居ない事の方が多い。

 なので家の扉には物理的な鍵が掛かっているのだけれど、村長から借りた錆びた鍵をレイニーさんはちょっと苦労をしつつ開けようとしている。


「んん……なかなか開かないわね……んしょ……あ、開いたわ」


 ここで鍵が壊れたらどうなるんだろう?なんて思いながら眺めていると、苦労しつつも開けられたようだ。


「じゃあとりあえず入って食事の準備をちゃっちゃとしましょうか」


「賛成!」

「はい!」


 色気よりも食い気の絵梨奈さんとプリシラが真っ先に手を挙げた。

 それを見て少し苦笑いを浮かべながらも、俺もいい加減お腹が空いている。

 なにせ今日の昼食は、果物と数本の不味い串焼きのみだったのだから。


「お腹すきました!」


「果物と串焼きだけじゃ、いくら沢山食べても満たされないわよね」

「絵梨奈はエールが無いのが満たされない理由じゃないのか?」

「確かにそれはあるかも……って、昼間からエールは飲まないわよ!」


「まあまあ、後ろがつかえているからさっさと入ろう」


「お、すまん」


 相馬さんに促され、素直に入る田所さん。

 割といい加減な人だけど、人のいう事は素直に聞く。

 そういう所はしっかりとしているんだなと何時も思う。


 そんな二人を眺めながら、俺達も家の中に入って見ると、空き家とは思えない程に小ぎれいだった。

 造りもレイニーさんの家よりも数段良い。

 しかも空き家が有る位置は、村のほゞ中央。


 なんでこんな良い立地なのに空き家なのか疑問が湧くけれど、理由はちゃんと有るらしい。

 まあ、あまり聞いて良い理由ではなさそうだったので、詳しく聞こうとは思わなかったけれど。


「ここなら村の真ん中に近いからいいかもね」


「そうですね。どちらから来られても対処は出来そうです」


「よし、じゃあ手分けをして食事の準備を始めましょう」


「そうね、っていうか男子はその辺に座って打ち合わせでもしてて」


「そうですね、カズマさん達は座っててください」


 絵梨奈さんが軽い口調でそう言ったけれど、確かに俺等が料理をするよりも、絵梨奈さんが料理をした方が美味しいものが食べられそうな気はする。


 相馬さんに聞いたんだけど、絵梨奈さんの実家は小さな料亭らしく、彼女は小さなころから料理を手伝っていたそうだし。


「あ、それじゃあお願いします」


「確かに助かる。料理なんてまともに作った試しがない」


「蓮司に任せたらゲテモノが出来上がっちゃうからね」


「ひでぇ!尚樹さんひでぇ……」


 田所さんは相馬さんからの毒に弱い。


 相手が年上だからという事もあるだろうけど、基本的に相馬さんは人に優しく相手の気持ちを慮る性格だから、そんな人に毒を吐かれると余計にダメージを受けてしまうのかもしれないなと。


「あははは、まあ、オリヴァーさん達もこっちに来て座りなよ」


「あ、ああ。じゃあそうする」


 何気にこの中で一番の年上は相馬さんだった。


 厳つい顔のオリヴァーさんなんて田所さんと一つ違いの21歳だというのだから、見た目で歳を判断してはいけないなと。

 なのでオリヴァーさんも、田所さんに対しては少し遠慮がちに接しているような気がする。


 いやもう、本当に俺に代わって皆を纏めて下さいよと。

 本気でそんな風に思っていると、後ろの方で少し戸惑っているお方が。

 

 そのお方とはシルヴさんなんだけど、彼は戸惑うような仕草を見せ、申し訳なさそうな表情を絵梨奈さん達に向けつつ俺達の方へやって来た。


 律儀な人っぽいから、料理を任せるのが気が引けたのだろう。

 そういう所もイケメンらしいなと。

 きっとモテるんだろうなあ……。


 そう思いながらシルヴさんを眺めていると、彼と目が合った。

 やべえ、滅茶苦茶整った顔をしていらっしゃる。っていうか綺麗なの目をしてんなあ……。


 その吸い込まれてしまいそうな琥珀色の瞳を向けられると、あっち方面の毛など毛頭ない俺ですらドキドキしてしまう。


「な、何か?」


「あ、いえ、う、打ち合わせをするんでシルヴさんも座って下さい」


 やべえ、絶対に変な奴だと思われた。

 モーホーだと思われたらどうしよう。


 俺に向けられた警戒の視線を感じ、思わずお尻の穴がキュッと萎まった。何故かは分からなかったけれど。




初期の説明回を出来る限り圧縮して2話から7話目までの34000文字を27000文字程度にしてみました。

話しの流れは全く変わりはないので、そのままお読みになって結構だと思います。

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