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第96話 親子喧嘩

「じょ、冗談ですよね?」


「冗談だよな?村長……」


 高額な依頼料にびっくりした俺とディルクさんは恐る恐るといった感じでそう聞いたのだけれど、更にそれが燃料になったのか、村長が目を吊り上げながら激高する。


「冗談な訳があるかあああ!!」


 まるでここにちゃぶ台があったら、盛大にひっくり返したと思える程に。


「と、父さん、依頼料は冒険者に言っちゃいけない事に……」

「え?それ――」


 ルッツさんの言葉にプリシラが瞬時に反応を示したけれど、それを覆い潰すように村長がエキサイトしつつ口を開く。

 

「そんな事はもうどうでもいい! 儂は息子に金貨5枚渡した! 300人程度の村にとって金貨5枚がどれだけの金額かお前らに分るか? たったの60軒しかないのに金貨5枚だぞ! 馬2頭分だぞ?うまにとうぶうんんん!! 領主様に納める税ですら金貨30枚程度のこの村で、金貨5枚がどれ程のものかわからんかあああ!」


「と、父さん……」


 村長はエンジンがかかったのか全く止まる気配が無い。

 焦った息子と怒った村長が俺の目に前に居る。


 税云々の話は分からないからどうでもいいけど、前回も金貨5枚?

 というか前回ってちゃんと処理できたのか?


 いや、そもそもゴブリン30体討伐が金貨5枚って何だよ。

 じゃあ100体の討伐だと一体幾らになるというのか。


「まあ、とりあえず落ち着け、村長……いや、ロダン」


 静かにではあるけど、かなりの圧力をもってディルクさんが村長を窘めた。

 それを受けてやっぱり言う事を聞く村長。


「……あ、ああ、そうだな、すまん」


「それで? 金額を聞いたって事は思う所があるんだろ? まあ、俺はあるが」


 俺の答えなど分かっているディルクさんだけど、しっかりと俺から答えを聞きたいらしい。


「はい。俺らの今回の報酬は大銀貨6枚なんですけどね? しかも成功報酬だし。まあ当然だけど」


 討伐報酬は別で貰えるけど、それは国が出すんだから村には何ら関係が無い。


「まあ、俺もそれくらいだと思っていたんだが……」


「何? そりゃどういう事だ……」


「どういう事だもなにも、こっちが聞きたい」


 全て俺に任せるつもりだったのか、今まで殆ど黙って聞いていた田所さんがとうとう口を挟んだ。

 いや、まて、何かおかしいぞ、これ。いや、田所さんがおかしいわけじゃなく。


 確かに被害を伴った討伐依頼は金額自体はバラバラで、それを解決して欲しい人が集まって出資するから高額になりやすい。


 けれど、依頼主が提示した依頼料から冒険者ギルドが9割近くを持っていくなんて聞いた事が無いし、どう考えても中間マージン9割とかありえない。


「その依頼料って、村長が提示したんですか?」


 気になったのか相馬さんも口を挟んだ。


 そもそもこういう話し合いというか折衝は相馬さんの得意分野なんだから、相馬さんが仕切ってくれた方がいいのに。


「なんで儂らが金額を決められるんだ!」


「いや、普通は金額を決めるのは依頼主ですよ。その上で、これでは受ける冒険者が居ませんと冒険者ギルドの職員がアドバイスをする事はあると思いますけど」


「嘘を吐くな! 儂らは何時もシュテットの冒険者ギルドが決めていたぞ。領主様がそうしろっておっしゃったらしいからな」


 俺達が知っている常識を相馬さんは淡々と説明したのだけれど、全く信用しないらしい。


「ギルドの規定では冒険者ギルドの取り分は1割程度の筈だが? 今も変わっていないならだが」


 先ほどからディルクさんは俺達に援護射撃をしてくれている事からも、どうやらこの人は中立な立場のようだ。


 まあ、これって結構な不正の臭いがプンプンとしてくるからってのも有るだろうけれど。


「そうですね、今も変わらないです」


 とはいえそれがどういった不正なのか。


「ど、どういう事だ……ルッツ!」


「お、俺に聞いてもわからないって!」


「何を!お前に任せているんだからお前がしっかりしないでどうするんだ! 大切な村の金だぞ!」


「そんな事を言ったって、じゃあ俺にどうしろって言うのさ! 依頼料おかしいんじゃないですか?とでも言えっての!? 嫌だよそんな役目。一発で追い出されるじゃないか!」


「追い出される訳があるかああああ!」


「あるよ!怖いんだよ、あそこの受付は!」


 親子二人が興奮しつつ言い合いを始めた。

 殴り合いでも始まってしまうんじゃなかろうかと思えるくらいにヒートアップしている。


 そして誰も親子喧嘩を止めない。もしかしたら何時もの事なんだろうか?


 とはいえ、見た感じルッツさんは何かを隠している感じではないし、村長も嘘をついて居るようには思えない。

 となれば、ギルドが疑わしくなるけれど……。


「どう思います?」


 くだらな……くもない内容の親子喧嘩を呆れながらも放置をして、同じく呆れているディルクさんやオリヴァーさんや相馬さん達に聞いてみた。


「シュテットの町に領主がいるとなると、冒険者ギルドも言いなりなのかもなあ」


「でもそんなの事あるんですかね? 冒険者ギルドって領主の権限が全く及ばない組織だって聞いたんですよね」


「あ、それあたしも聞いたわ。皇帝陛下でも難しいとか」


 うんまあ、冒険者ギルドを纏めているのはジークフリードさんの義親だというし、ジークフリードさんやその仲間を見れば不必要に介入は出来ないし。

 転生者が現れるまでは、帝国のレベルトップ10の中に全員が入っていたと言うし。


「あと考えられる事ってありませんよね?」


「確かにね。だから、ギルド全体じゃなく受付だけとか一部だけかもしれないって僕は思っているかな。不当に値段を高くして依頼をさせないように仕向けているのか、不正を働いてゴルドを自分の懐に入れているのかは分からないけれどね」


「まあ、流れから言って値段を高くして依頼をさせないように仕向けているんじゃないかなと」


「そうだね。来た依頼を断るのは逆に怪しまれる。どんな小さな依頼でも、例えばどぶ攫いでも受け付ける決まりだからね」


 俺の言葉にシルヴさんが同調した。

 冒険者ギルドの存在意義を考えればそうなるか。


 加えて、村長が激怒したように、300人程度の村が絞り出せるお金なんて少ないだろうし、高額に設定すれば直ぐに依頼を掛けられなくなるのは誰でも分かる。


「そうだよな……少なくとも領主はポエミ村を潰そうとしているのは確かだし。まあ、領主の令だって嘘をついているだけって線もなくもないけど」


「それを言いだしたら本人に聞くしかないわよね……でもそれって無理でしょ」


 嘘をついているかなんて今の段階で分かる訳が無いし、そもそも領主に会えるわけもない。


「まあそうですね」


「とはいえ不当に依頼料が高いのは確かだけどな」


「そこなんですけど、どうします?」


「どうしますとは?」


 プリシラがそんな事を言ったので、思わず聞き返してしまった。

 すると彼女は簡潔に選択肢だけを口にする。


「ゴブリン討伐が全て終わってからトレゼアの冒険者ギルドに報告をするか、もしくはシュテットなら郵便があるので明日行って速達で連絡をいれるか……」


「速達があるんだ?」


「はい、料金はとってもお高いですけど、タイミングが合えばトレゼアでしたら1時間くらいで届くと思います」


「タイミングって?」

「もしかしてそれって飛竜便とか?」


 気になったのか絵梨奈さんと相馬さんが同時に質問をした。


「飛竜便です。他に出払っていなければ直ぐに配達していただけますから」


 凄いな飛竜便って。

 馬車で一日半かかるところを1時間とか。

 見た事ないけど飛竜って買うとお高いんだろうなあ。欲しいなあ。

 特に今回みたいな場合も、飛竜が居ればいくらでも確認が出来ただろうし。


 っと、危うく違う方向に意識が向くところだったけれど、よくよく考えたらシュテットの町で公共機関を使うのは不味いんじゃないか?


「いい案だと思うけど、大丈夫かな? シュテットの町も影響下にあるって話だし」


「郵便に関しては心配はいらないと思います。領主ではなく国が運営しているので」


 国営か。

 それなら安心か。


「それなら明日の朝に決めよう。今晩はどのみち間に合わないんだから、今晩の様子を見てから決めた方が良い。多分明日飛竜便を使う事になると思うけど」


「分かりました、そうですね」


 どのみち早めに連絡は入れておいた方が良いだろう。

 何かあったら連絡しろって言われているし、逆に、しなきゃ怒られそうだし。


「あとは飛竜便のタイミングよね。もっと他に確実な方法はないの?」


 エミリアさんの怒った顔を想像して思わずブルっていると、絵梨奈さんがそう聞いた。


「そうですね……あとは個人で飛竜やグリフォンをお持ちの方にお願いするとか、それか……召喚魔法を唱えられる魔術師さんがいれば……」


 それどこのエミリアさんちのぐりふぉん。

 召喚魔法は知らんけど。

 精霊召喚は知ってるけど。


 因みに親子はまだ喧嘩をしている。

 既に内容は全く別の所に飛んで行っているみたいで、だから父さんは禿げなんだとか、だからお前は足が臭いんだとか、全く意味の無い罵りあいになってしまっている。


 アホかと。

 あ、とうとう取っ組み合いの親子喧嘩になった。

 お? 綺麗な右ストレートだ。スカったけど。


 それでも村人は誰も動かないし、刃物を持っているわけではないので放置放置。


「個人で飛竜やグリフォン持ちをシュテットで捕まえるとかちょっとどころじゃないくらい無理ゲーだけど、召喚術師って精霊魔術師とは違う?」


「はい、精霊魔術師さんは、世界に20種程いると言われている属性そのものの精霊さんのコピーを呼び出して戦ってもらったりするんですけど、召喚術師さんは捕まえたモンスターを召喚する魔術師さんなんです」


「どっちも凄いわね……」


「専用の加護をお持ちでないと唱えられないのはどちらも同じなんですけど。あと、精霊魔術師さんはエルフさん専用で、召喚術師さんは転移者さんとドワーフさん専用とも言われて居ます」


 丁寧な説明を有難うございます。

 そんな思いで聞いていたけれど、捕まえたモンスターという所が引っかかる。


 捕まえたモンスターは普段は何処に?

 まさかゾロゾロ連れて歩く訳では無いだろうし。


「どんな加護?」


「テイミング系の加護だそうです」


「て、テイミング? テイマー?」


 驚きながら聞き返した。


「はい。特定のモンスターと戦って弱らせてテイミングするんですけど、契約が成立すれば、独自の空間に隔離して、その都度呼び出すという感じですね」


「てことは空間魔法の適性も必要か」


「そうなります。あと、テイミングするにはモンスターと同じ属性の魔法を高レベルで操れなければならないとも言われています。勿論自身よりもレベルが高いモンスターは、いくら弱らせてもテイミング出来ないとも言われていますし」


 またまた丁寧に有難うございました。

 というか、プリシラたんって何気に物知りね。


 そしてそれでもドヤ顔を見せないプリシラたんは素敵だ。どこかの田所って人とはえらい違いだ。


「プリシラちゃんって色々知ってるよな」


 そんな田所さんが感心しながら言った。

 けれどやっぱりプリシラたんは謙遜するのだろう。


「そんな事はないです。最近、エミリアさんと話をする機会が結構あって、それで教えて貰っているだけです。絵梨奈さんも知っていますよ」


「うん、知ってる」


「まあ、宿も一緒だし、夜中に絵梨奈さんと伊織ちゃんとエミリアさんの4人で女子会をしょっちゅうしているのは知ってるけどさ。でもテイミングかあ……俺は当然無いなあ……」


「あたしも普通に魔術師の加護だって言われたわ。もしも今後加護がテイミング系に変わって、更に空間魔法を使えるようになったらテイマーに成れるって言われたけれど、まあ、無理よね」


 魔法の適性が後天的に芽生えるのは、INT値と才能に依存する。

 例え高INTになったとしても、眠っている才能にその属性適性が無ければどう頑張っても芽生える事がない。


 しかも特殊属性の空間、時間、重力魔法ともなれば、それプラス加護が影響するらしい。


 今更だけど、加護はその人物の生き方に影響を受ける。


 同じ加護からスタートしても、生き方が違えば加護は別のものに変わって行く。

 強く望めばその通りになる事もあるし、死にかける程の戦いだったならその時の状況によっても変わる。


 ある意味特別過ぎる属性。

 それが空間、時間、重力魔法。


「俺はそもそも魔法が使えない。加護も脳筋だ……」


「僕は魔法の素養はあるみたいだけど、加護が戦士系みたいなんだよね」


 俺の場合は分からないと言った方がいいかもだけど。

 というか、田所さんの言い方よ。自虐なのか?自虐なんだろうな。寂しそうな表情を見せているし。


 とはいえ。


「どのみち今の段階じゃどうしようもないし、結局はさっき決めたように明日になってからですね」


「そうなるね。まあ、もう日も暮れてしまったし、僕達は村に戻ろう」


 ここに来て1時間は経ったので、既に辺りは薄暗くなり始めている。


「そうしますか」


 こちらの話は終わったのだけれど、どうやらまだ親子喧嘩は続いているらしい。

 表に出ている村人全員が呆れている。いつまでやってんだと。

 レイニーさん達も当然呆れているけれど。


 というか、村長親子を無視してディルクさん達村人とレイニーさん達だけで、何かの話をしているようだった。


 とはいえこのまま親子喧嘩を続けさせておくわけにはいかない。


 俺はディルクさんに目配せをし、親子二人の間に割り込むような恰好で強引に喧嘩をやめさせた。ディルクさんが村長を、俺がルッツさんをがっしり捕まえるような感じで。

 残念ながら蚊が停まるようなパンチなので避けるのも余裕だ。


「な、なんだ!」

「ちょ、まだ終わってない!」

「まあまあ、村長、時間もないみたいだからこの辺で」

「一先ずは俺の話を聞いて下さい。俺等がいなくなってからまた再開してもいいですから」


 そう言うと、不承不承のような恰好で二人とも引き下がった。

 それでもお互い顎をしゃくり上げながら睨み合っているけれど。


 カルシウムが足りてないんじゃないのか?……周りにはこんなに沢山炭酸カルシウムがあるのに。

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