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第83話 エミリアはやっぱり天然

本日2話目です。

 衝撃の言葉を聞かされたあと、ようやく落ち着いた俺はガゼボの椅子に座って、リュミさんが煎れてくれたハーブティーを美味しくいただきながら皆と談笑をしている。


 その中で、プリシラはどうやら魔法を掴む云々が気になったようだ。

 興味津々の様相で、若干前のめりになりつつ聞いてくる。


 すると、むにゅっと柔らかそうに形を変える我儘なおっぱいにどうしても目が行ってしまう。


 そろそろ本気で無防備さMAXの振舞いをやめて欲しいと言うべきだろうか。

 そんな俺の邪な視線など気付いていないのか、はたまた気にしないのか。

 男と見られていないならがっかりだけど、そうじゃないと思いたい。


「どんな感じでした?魔力を掴むって」


「も、もやをかき分けて魔力を掴むみたいな感じだったからすっごく難しかった」


 若干視線を逸らしつつそう説明をしたら、リュミさんが相槌を打ちながら口を開く。


「確かに最初は難しいわよね。一度掴んじゃえば、なぁんだこんなに簡単?って思ったけど」


 それを木の上でやったのかこの人は。

 流石エルフというか、流石エルフ……。


「私にはその感覚は分からないわ」


「ほぇ~……あ、先ほどから気になってたんですけど、リュミールさんももしかして魔力を掴めるんですか!?」


 どうやらプリシラはリュミさんの言葉に疑問を抱いた様だ。

 そんなリュミさんは何でもない事の様に。


「ええ、掴めるわ。だってわたしは魔弓師マジックハンターだもの」


「っ!?」


 またしてもプリシラが驚きの表情を見せる。

 既に精霊さんがいなくなってしまって居るからか、心を静めて貰う事すらできず、盛大にフリーズしてしまった。


「分かるよー。ここに来れば本当にびっくりする事ばかりだよな」


「は、はい……腰が抜けるかと思いました、アハ……」


 半笑いの様相で俺にそう言うプリシラ。

 それを見やりながら、ヘルミーナさんが意味ありげに口を開く。


「プリシラちゃんも、もしかしたらもしかするかも、ね?」


「ふぇ?わたしが魔法剣士ですか?」


「ううん、違うわ。魔法のみで、ね?」


「はぁ……そうでしょうか」


 プリシラはヘルミーナさんの言葉に、いまいち納得が出来ていない表情をみせた。


 けれどヘルミーナさんとリュミさん、それからエミリアさんまでもが何かを確信しているかのような表情で、プリシラを見やったままだった。


 とはいっても魔法のみ?とは一体どういう意味だろうか?

 単純に考えれば魔法で大成する?みたいに聞こえるけれど。


 まあ、ステータスの上がり方を見ても、転移者か?と思える程に才能は十分あるように見えるし、もしかしたら本当に大成するのかもしれないなと。


 麗しの大魔導士プリシラたん!なーんて世間で呼ばれちゃうくらいになったら、プリシラは一体どういうリアクションを見せてくれるんだろうか?


 きっと、「ふぇえええ!?」とか言いながらあたふたとするんだろう。

 そうなった時の表情を想像すると楽しみで仕方がない。

 俺は自信がなさそうにしているプリシラを、そんな風に思いながら眺めた。



 その後、他愛のない話が続き、ふいにパーティーになった時の経験値の話になる。


「それで? カズマくんの加護の事だけど、何かおもしろい事を見つけたんじゃない?」


 ヘルミーナさんの表情で直ぐに悟る。

 やっぱりそうだよな。これくらいの人なら、もしかしたらパーティーメンバーにもって発想になるよな。


「そういう発想になりますよね、経験値の事ですよね?」


「ええ、とっても興味を掻き立てられるもの。プリシラちゃんは教えてくれなかったし」


「あ、いえ……えっと……」


 教えてくれなかったとヘルミーナさんに拗ねたように言われ、プリシラは恐縮したように、小さな体を更に小さくした。

 それを見てヘルミーナさんは何故か悶える。


「んふうぅううん、ほんとうに可愛いわね。でもそういう所が好きよ?」


 とはいえ、どうやらこの前プリシラがお邪魔をした時に何かを感じたのだろう。


 って、そりゃそうか。

 だからこそレアワンドを持たせてくれたんだから。

 その時伝えてくれても良かったんだけど、やはりそこはプリシラらしいかなと。


「プリシラありがとな」


「いえ、やっぱりそういうのはわたしが言うべきじゃないと思ったので」


「んふうぅううううん……」


 まだ悶えてるよ、このエロフ姉さん。


 体を捩りながら頬に手を当てて目をとろんとさせている姿は、ちょっとどころかかなりエロ過ぎる。

 もしかしてヘルミーナさんって絵梨奈さんに通じるものがあるのか?百合的な意味で。


「それで? カズマどうなの?」


 しかしそんな姉を放置して、リュミさんも気になるのか急かす様に聞いてきた。

 それが証拠にエルフの細長い耳が、ピクピクと忙しなく動いている。

 エルフが興味津々になった時は耳がピクピク動くんだと、ついに本人から直接聞いた。


「あ、んと。エミリアさんも気付いててもう知ってるんだけど、どうやらパーティーメンバーも必要経験値が少なくなるみたいなんだよね」


「ふんふん……だからこそのプリシラちゃんのレベルかぁ、今いくつ?」


「に、27になってしまいました!」


 その返事にリュミさんの耳はピーンと天を向いた。


「早っ! え?相方になってまだ10日ほどよね?」


「はい、それくらいです」


「これは大変な事ね……エミリアちゃん、ちゃんとフォローをお願いね」


「はい、勿論です」


 いつの間にか復活していたヘルミーナさんは、数日前にエミリアさんが口にした懸念を想像したのだろう。先ほどまでのえろぃ表情など微塵も感じさせない程に、途端に険しい表情を見せつつエミリアさんにそう言った。


「でも、そうなると私もリュミも、もっと早めに動くべきかもしれないわね」


 ヘルミーナさんの真剣な表情は継続中だ。

 目を細めたまま顎に手を当て、どこか遠くを見やったまま視線を動かさないその姿は、普段見せている、ほんわかとした柔らかい雰囲気など微塵も感じない。


「うん、わたしもそう思うわ。それで、ガニエにはもう言ったの?」


 そう言えば言っていない事に気付く。

 今朝会ったばかりなのに。


「いえ、伝え忘れていました」


「あらら……」


「どう? 私が伝えてもよければ伝えるけれど」


 どうするかな。

 言ってもらうのは全然かまわないけど……。


「それでも良いですけど、数日したらガニエさんの所に行くんで、その時でも伝えます」


「それならいいわね」


「びっくりするわよ、きっと」


「ひっくり返ってしまうかもしれないわ」

「ひっくり返ってコロコロ転がってしまうわよ、きっと」

「間違いありませんね」


「ははは……ハハ」


 相変わらず酷い言われようだ。


「わたしはひっくり返りました……というか、カズマさんの相方さんにして頂いてから、びっくりしてばかりです……」


 困ったような嬉しいような表情をプリシラは見せた。

 それはきっと本音なんだろう。


「でも、それを言うなら俺もエミリアさんに、びっくりさせられてばかりですよ」


「私が、ですか?」


 そう言いながらエミリアさんを見たのだけれど、本人は自覚がないらしい。

 きょとんと俺を見やる目は悪い顔でもなんでもなく、何を言われているのかが純粋に分かっていないかのような。


「もしかして自覚がないんですか……」


「え?」


「あはは、エミリアは天然なところがあるもの」


「そうねえ、ちょーっとズレてる所はあるわね」


「え?そ、そうです?」


 浮世離れした感のエルフ姉妹にそう指摘をされ、俺の方を向いて確認をするかのように見やるけれど、俺にどう言えというのだろうか?


 ししょーって、てんねんですよねー!なんて言えるわけがないだろうに。

 なので俺は誤魔化しに走る。


「そ、その辺りはノーコメントで」


「あ!それ!肯定しているのと同じじゃないですか!もう!カズマさん!」


 誤魔化せなかったようだ。


 エミリアさんは途端にプリプリと怒りだして、まるで河豚のようにほっぺたを盛大に膨らませた。

 それ、指で空気を抜きたくなるからやめて欲しいです。


「いや、ハハハ……助けて……」


 そう言いつつリュミさんを見やると、激しく悪い顔になっていた。

 美術品のような端正で美しい顔立ちに影が出来ている様は、ゾクゾクっと背筋が寒くなる程に悪い顔だ。


 エルフの悪い顔はこうなるんだーなんて一瞬感心してしまったけれど、どうやら助けは来ないんだなーと悟る。


 なので苦肉の策というか本音と言うか。

 思った言葉をぶつける。


「お、俺はそういうエミリアさんも良いと思います!素敵だと思います!」


「え?」


「ひゅ~~~」

「うひゃあ……」

「あらあらまあまあ、うふふ」


 途端に空気が変わってしまった。

 どう変わったかと言えば、一部を除いて微妙と言うか生暖かいと言うか。

 リュミさんなんて口笛を吹いて茶化しているし。


 わかってるよ。ええ、わかってますよ。


「カズマって結構ちゃんと言える人?」

「そうね、ふふふ」

「――っ////」


 分かっては居たけれど、思わず放心状態になってしまいそうになる。

 見ればエミリアさんのほっぺたからは空気が抜け、回路を繋ぐ時以上に顔や耳どころか首まで真っ赤っかに染まっていた。湯気でも出そうな程に。


「えっと、あまりストレートに捉えてもらわなくてもいいんですけど……」


「じゃあ嘘なの?」

 

 悪い顔のリュミさんが余計な事を言う。


「いえ、そうじゃなくってね? えっと、何時も妹に言われていた事なんだけど……」


「カズマって妹さんがいるんだ?」


「うん。って、それは今はどうでもよくて、それで、女の人の褒める所はちゃんと褒めなきゃ駄目だって何時も言われてて。殆ど言えていないんだけどさ……」


「じゃあわたし達にも褒める所はあるの?」


 神秘の塊のような人が何を言っているやら。

 

「あり過ぎてどれを言えばいいのか分からなくなる」


 そう口にすれば、リュミさんは以前の事を思い出したのか、納得をしたような表情をみせた。


「あー、そう言えばカズマってば、わたしがハープを弾いていたときも同じように褒めてくれたわよね」


「うん、本当にそう思ったから」


「で、でしたらカズマさんは本当に私が天然でも、素敵だと思っているんですか?」


 真っ赤な顔のまま上目で俺を見やりつつ聞いて来た。


「はい、それはもう」


「そ、それなら良いです……」


 どうやら危機を免れたらしい。

 ふぅー……。


 その間プリシラは頬に手をあてて、何故かエミリアさんと同じように赤い顔をしていた。


 ぶつぶつと恥ずかしそうに呟いていたところから、どうやら妄想に耽っているらしい。



 暫らくエミリアさんとプリシラの調子が元に戻らず、エルフ姉妹に若干からかわれつつも時間は過ぎ、お昼前になってそろそろ帰る時間となった。


 昼食どう?とヘルミーナさんに言われたけれど、この後リュミさんに錬金術の仕事が入っているらしいと聞き、邪魔になるかと思って、残念だが丁重にお断りをした。


 気にしなくても良いとは言ってくれたのだけれど、俺らの分の食事もとなるとそれだけ余計な時間がかかると思って。


「じゃあまた来ます。ありがとうございました」

「お邪魔しました!」


「いつでもいらっしゃい、二人とも」


「ほんとよ。カズマはわたし達が認める数少ないヒュームなんだから、来なきゃ許さないわ! 勿論プリシラもね!」


 あ、プリシラの事を呼び捨てにした。


 という事はリュミさんの中でプリシラの評価が上がったんだろう。

 それを感じたかどうかは分からないけれど、とうのプリシラも満面の笑みで返事を返す。


「はい! はい!」


 どうやらプリシラは感激した時には、返事を二度繰り返す癖があるようだ。

 今も涙を流さんばかりに喜んでいる。

 その姿を見るだけで、連れてきて良かったなと。


 とはいえ俺は魔法剣士なんていう、チートだと思えるような力をとうとう手に入れた。


 初日の絶望からすれば考えられない事だけれど、これも全てエミリアさんを始めとする皆が力を貸してくれたからこそだ。


 その事を忘れないで頑張らねば。

 そう気合を入れつつ”ヘルリュミのお店”を後にした。

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