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第80話 突然の提案

本日2話目です。

予約投稿をミスしまして遅れました。

「一眞、プリシラちゃん、明日か明後日ゴブリン討伐行かない?」


 夜、相馬さん達と夕食を一緒に食べていると、絵梨奈さんから突然そんな事を言われた。

 ピクニック行かない?みたいな軽いノリで。


「と、突然ですね?」


 プリシラも少々戸惑っているようだ。

 でもいきなりどうしたんだろうか?

 そう思っていると、どうやら相馬さんが話を引き継ぐ様だ。


「別に明日じゃなくても良いんだけどね、ほら、スチールに上がる厳しい条件があるでしょ」


「あー……ありますね、そう言えば」


「あれは結構厳しい気がする」


 ゴートという山羊そのまんまの魔獣のステーキを咀嚼して、それをエールで流し込みながら田所さんが少し渋い表情でそう口にした。


 そうなのだ。

 青銅ブロンズからスチールにランクを上げる為の討伐数はやたらと多い。


 青銅ブロンズになるには100体で良かったのに、いきなり1000体という頭のネジが緩んだ数字になってしまうのだ。


 しかもカウントにはモンスターの討伐推奨レベルがレベル20未満は対象外になる。という事はワイルドボアですら対象ギリギリ。ただし、ゴブリンとオークを除いて。


 これがどういう意味を示しているのかと言えば――


「まー、ゴブリンやオークを狩らなきゃとてもじゃないけどカウントは稼げませんよね」


「そうだよな。司馬君はプリシラちゃんと合わせて2000体狩る必要があるだろ? 俺らは3000体狩らなきゃ3人分のノルマがこなせないって、ほんっと鬼か!」


 ちょっと酔いが回っているのか、田所さんがダンッとジョッキをテーブルに乱暴に置いた。


 でも言う割にはそこまで怒っているわけではないらしく、それを見ながら苦笑いを浮かべつつ絵梨奈さんも言う。


「普通に狩ってたら今年中にスチールは無理だと思わない?」


「確かに。北西の森ってモンスター多いですけど、剣や魔法の1確殺ともなると案外少ないですもんね。天地なら別だろうけど」


 天地の名前を出したけれど、奴は反応をしない。

 何故なら今ここに居ないから。

 今日から6日くらいかけて遠征に行っている。勿論伊織ちゃんも一緒に。


 聞いた時激しく羨ましい奴だと思ったけれど、別に二人で行く訳でもないし、野営をしたとしても一緒のテントで寝るわけでもないらしいので、忸怩たる思いで嫉妬を飲み込んだ。


 彼らは俺らが今話をしているゴブリンやオークの討伐は既に何度も行って居る。

 なので次は野営に慣れる為なんだとか。

 狩りに行くのはオークらしいけど。


 とはいえ、これが大手レギオンに所属する恩恵でもある。本当に至れり尽くせりだ。


「でもさ、ギルドも上手い事考えるもんだよな」


 そう田所さんがぼやいた。


「明らかにゴブリンやオークを倒させるって意図が見えるものね」


「ですねえ……。ちなみに今って何を狩ってます?」


「今はお金が欲しいから経験値よりも実入りの良いジャイアントベアと、ワイルドボアを狩ってる」


「ふむふむ……両方とも対象内ですね」


 ワイルドボアは肉が高く売れて、ジャイアントベアは毛皮が同じくらいの値段で売れる。肉は飛竜やグリフォン!!の餌にしかならないらしいけど。こちらの世界では丁寧に処理をしても熊肉は硬くて不味いらしい。


「そうなんだけど、1日10体狩れればいいほうかな?」


「そうだな」


 相馬さんが確認をするように田所さんへ聞いた。


 因みに、その10体という数字。

 転移者パーティーだからこそ可能な数値だったりする。

 同じレベルのこちらの世界の冒険者パーティーなら、1日2~3体狩れれば良い方らしい。


 それらを考えればこちらの冒険者達は、青銅ブロンズからスチールに昇格する為に3年は余裕でかかるという事になるのだから、それこそゴブリンやオークを狩らせる為のルールと思われても仕方がないだろう。


「レベルが上がればもっと強い敵を倒すかもだけどね、そうすると狩れる数は変わらないし、かと言ってこのままずーっと同じモンスターばかりを狩っても、そこそこレベルも上がるしその分効率も上がるけど、何時かは頭打ちになるしね」


「見つけられるモンスターの数は南西の森よりも断然多いんだけどねー。狩りもめちゃ楽だし。あ、エールお代わりください!」


 困ったもんだと言いたげな絵梨奈さんが、飲み終わったエールのジョッキをくるくると指で回す。勿論お代わりを頼むのは忘れない。


 相変わらずだなと苦笑いを見せつつ、北西の森の狩りについて考えてみる。


 北西の森でレベル20以上のモンスターは多い。

 というか殆どがレベル20以上なのではあるけれど、だからといって入れ食い状態で狩りなど出来る訳が無い。魔力や体力の回復問題とか、一度に邂逅するモンスターの数の問題とか。


「いっそのこと諦めて適性レベルのモンスターばかりを狩ろうかって話もしたんだけどな?」


「それでもやっぱり時間がかかるし、何て言ってもレベルが恐ろしい状態になっちゃいそうですね……」


「そう、だからこそ問題なのよ!」


 絵梨奈さんが興奮しつつ言うが、確かに確実に年が明ける。レベルが凄い事になるのも確実で、シルバーになる条件の一つであるレベル60を越えてるのに、スチールどころかまだ青銅カッパーなんですけど!みたいな事にもなりかねない。


 多くの人は目に見えて誇れるものを欲するし、俺だってそうだ。


 レベルを人にそうそう教えない風習だからこそ、冒険者ランクを上げたがるのは至極あたりまえだろう。

 受けられる依頼も増えるし、依頼人からの信用度も段違いだし。


 ゆえに亜人相手なので経験値は貰えないけれど、数は稼げて討伐報酬も美味しい弱いゴブリンとオークを狩る。

 そうすることで帳尻を合わせる。


 だから俺らも途中からゴブリン退治に切り替えなきゃなあとは思っていた。

 特に俺とプリシラは加護の影響からか、必要経験値が少なくて済むようなので、それこそレベル100なのにスチールランクです!なんてギャグみたいな事にもなりかねない。


 田所さんの言葉じゃないけど、本当に上手く考えたもんだな。


 しかもゴブリンとオークは1匹倒せば討伐数が2倍扱いになるという特典を付けているのだから、ランクを上げたい人は尚更狩らずにはいられない。

 

「一眞達は何を狩ってるの?」


「俺らは湿地帯にいる水蛇ウォーターワームがメインで、食材用にワイルドボアですね。あと、ジャイアントベアも見つけたら狩る様にしてます」


「あれ?もうレベル30になったのに?」



 三人には先ほど俺とプリシラのレベルを伝えた。

 あと、加護の内容は一先ず伏せて、加護が生まれている事も伝えた。


 どういう反応をされるのかなと思いながらドキドキしつつ伝えたのだけれど、意外にも絵梨奈さん達はあっさりと受け入れたように見えた。


 その時の言葉が、


「ふーん、一眞ならそんなもんじゃないの?だってギガスボアもソロで倒せたんだし」


「だな、俺らじゃまぐれでも倒せない」


「司馬君はステータスが低かった分、きっと何か特別な能力を持ってるんだって、それで帳尻があってるんじゃないかなって僕達も話してたんだ」


 しかもプリシラのレベルに関しても。


「プリシラちゃんも成長指数は元々高かったみたいだし、一眞に引っ張られてレベルの上りが早いんじゃない?」


「そうだね。司馬君の引っ張り方次第だと思うけど、上手に引っ張り上げて貰ったんだろうね」


「そう考えて正解だろ。俺達ですら、効率が良いうまい狩り方があるじゃないかって後から気付く事なんてザラだしな」


「あれじゃない? あたしが思うに、ある程度まではプリシラちゃんの経験値を優先したとかじゃ? それで強くなったプリシラちゃんと狩っているって感じ?」


 という感想だった。


 絵梨奈さんの想像通りだった事に、俺もプリシラもちょっとびっくりしたけど。

 この辺りがこちらの人と転移者の違いなんだろうか?

 意識の違いというか感覚の違いというか。


 エルフではないけれど、俺達転移者も、こちらの人族から見たらヒューム以外の浮世離れした人種に見えるらしいし。


 どっちにしても、すんなり受け入れて貰えたのは助かったし、嬉しかった。



 という事が先ほどあり、絵梨奈さんは意外だと言った表情を見せたのだろう。


 レベル30の俺とレベル27になったプリシラが狩るには、どれも弱すぎるモンスターだから。


 ソロならまだ有りだろうけど、これがペアともなれば間違いなく場違いだし、実際にこの三日で狩った水蛇ウォーターワームの数は50匹を超えている。


 実入りもそこまで悪くはなく1匹銀貨8枚で売れるから、それだけで400万ゴルドになって良いけれど。


「でも西の街道から北西の森に入って近いところってなると、その辺りになっちゃうんですよね」


「そろそろ野営をしようかってカズマさんと話はしてるんですけど……」


「え?プリシラちゃんって”魔除けの結界タリスマンシールド”を使えるの?」


 驚いた表情を見せつつ絵梨奈さんが聞いて来た。


 魔除けの結界は属性を持たない魔法で無属性魔法だからだ。

 無属性魔法は便利な魔法が多いけれど、4属性魔法よりもレア度が高い為に使える人は少ない。


 そして、どうして絵梨奈さんが結界の話をしたかと言えば、野営に限らず休憩をするときに常に張り詰めた状態で休憩をしていたら身が持たない。だけど結界が使えれば随分と緊張が緩和されるから。


 野営だとそれでも火の番をしながら見張りをする役目を決めるけれど、それでも雲泥の差だという程に必須なものが結界。


 とはいえ魔除けの結界も万能ではなく、術者よりもレベルが低いモンスターにしか効果がない。当然だ。


「あ、いえ、カズマさんが”魔除けの香炉”って魔道具をリュミールさんから買われたので」


「え?買ったの!?いいなぁ、いくらだったの?」


「金貨3枚でしたね」


 だから実際は金貨6枚。


 最初は高!と思ったけれど、よくよく考えて見れば魔除けの結界タリスマンシールドと同じ効果を香炉で得られるのだから、魔除けの結界タリスマンシールドを使えないパーティーが野営をする場合は必須魔道具なのは間違いない。


「お、安いなそれ。俺らもそろそろ野営をしようかって話はしてたんだ」


「絵梨奈だったら安く売って貰えるんだよね?そのリュミールさんって人から」


 相馬さんが少し期待をしつつ俺に聞いて来た。


「売って貰えると思いますよ。もう結構顔なじみっぽいし」


「うへへへへ……割とお邪魔してる。用が無くてもおいでって言われたから」


 美人顔がなんとも言えないだらしない顔に変貌を遂げた。


「俺らも行ってみたいけど、緊張するしまだ行く勇気が無い」

「だね……」


「俺も最初はそうでしたよ。知らない内に連れていかれたから行けたようなもんです」


「わたしは足がガクガクでした……」


 プリシラが小さな体を震わせた。

 それを見て絵梨奈さんは少し意外そうに口を開く。


「やっぱりこっちの人からしてもエルフは違うんだ?」


「はい、わたしなんて田舎育ちですし、一生エルフさんを見ないままの人が殆どです」


「まあ、本来はエルフの森から出てこないそうですよ」


 この大陸には、エルフだけが住まう皇国という国が存在する。


 森と湖に囲まれた美しい場所だとヘルミーナさんに教えて貰ったけど、その国の中から基本的に出ないばかりか、各集落ごとに分かれて生活をし、極端な場合その集落周辺からすらも出ないのだとか。


 因みに迷宮都市トレゼアに住んでいるエルフの数は5人で、その全員が冒険者か元冒険者。ヘルリュミ姉妹はどうやらジークフリードさんに、無理やり引っ張り出されたっぽい。

 そんな俺の言葉を聞いて田所さんが溜息を吐く。


「だよな……やっぱ俺まだ行けないわ」


 そんな落ち込んだ田所さんの肩をバンッと叩きながら絵梨奈さんが得意満面で言う。


「ま、買うときはあたしが買って来るわ。蓮司たちが行って、仮に仲良くなれても安くはならないし」


「え?そうなのか?」

「あ!……ハハハ……」


 絵梨奈さんは言った瞬間に、しまったといった表情を見せた。

 そしてそのままごにょごにょと口を開く。


「まあ、色々あるのよ?」


 そう言いながら俺を見やって来たのだけれど、俺に何か関係があるのだろうか?

 確かに最初に連れて行ったとき、姉妹はしきりに俺との関係を聞いて来たけれど。


 だけどその時は大したことは言っていない筈。確か「絵梨奈さんは命の恩人で大切な人です」だったか。


 ……言ってるじゃん俺。


 聞きようによっては大した言葉じゃね?

 田所さんと相馬さんだと大切な人ですなんて言わないだろうし。

 俺は思わず頭を抱えてしまった。


 しかも伊織ちゃんは伊織ちゃんで似たような言葉……というか凄く歯切れ悪く照れながら紹介したし、プリシラは当然ながら大切な相方だし。


 あれか? もしかして俺中心なのか?


……


 んまあ、いいか。

 大切な人達なのは変わりはないんだし。


 そうやって俺は考える事を放棄した。

 

「それで、どうする? 丁度いいから1泊か2泊の泊まりにしてもいいし」


 ふと話が最初に戻った。

 そう言えばまだ返事を返してないなと。

 俺は相方であるプリシラに確認する為に彼女を見やる。


「プリシラいい?」

「はい、行きましょう!」


 ふんぬ!と可愛らしく気合を入れるように拳を握るプリシラ。

 それを見て少し笑ったあと、絵梨奈さん達に頷く。


「じゃあ明日?明後日?」


「あ、明日はちょっとお休みで用事があるから明後日がいいです」


 明日は大切な用事がある。

 俺が魔剣士マジックセイバーになるという大切な用事が。


「うん、それでいいよ」


「じゃあ明後日ね」


「一応2泊分の野営準備はしておいてくれるかな」


「分かりました。でも初めて一緒にする狩りがゴブリン狩りですか……。しかも野営付き」


「そうよ?絶好の機会じゃない?」


 絵梨奈さんはゴブリンを倒したくて仕方が無いらしい。

 それには少し理由があるのだけれど。

 数を狩りたいという理由とは別に。


「気持ちは分かりますよ」

「でしょ?」


 それは一週間程前、まだ俺とプリシラが南西の森に行っていた時の事だった。


 俺と一緒に転移をして来た転移者パーティーが、オークの群に飲み込まれて何人かが死んでしまった。

 その中には女性もいて、当然のように巣穴に引きずり込まれるという悲劇も。


 その次の日には大手のレギオンの一つが救出に向かって、女性の命は助かったのだけれど、たったの1日なのに見るも無残な状態での救出だったらしい。

 そしてつい先日、助けられた女性は自ら命を絶った。


 絵梨奈さんはその女性と結構話をしていた仲だったそうで、かなりショックを受けていた。

 

「聞いた話だけど、かなり無茶な狩り方をしてたらしいですね」


「うん……愚痴を聞いてたから、代わりに転移者のパーティーリーダーに文句を言ったりしたんだけどね、全く駄目だったし」


 どうもその3人パーティーのリーダーがかなりオラオラ系だったそうで、ゴブリン退治で慣れたからか大して警戒もせずに、オークの集落とも言うべき洞穴に突入したんだとか。しかも彼等が所属をしていたレギオンの指導員からの忠告を無視して。


『あいつらが行けてて俺らがいけねーわきゃねーだろ』


 そうリーダーは言っていたそうだ。

 あいつら、というのは天地と伊織ちゃん。


 何気にリーダーは今回の転移で3番目の評価を受けた元大学生。

 3番目とはいえ伊織ちゃんとの差は隔絶としたものがあり、到底比べられるべくもなかったのだけれど、性格が災いしたのか非常に悔しかったようで、特に同じ男で年下の天地に劣っていた事に毎晩愚痴を零していたそうだ。


 俺からすれば、アホですか?と思うのだけれど、人の欲なんて限りないし。

 で、無理やり突っ込んで悲惨な目にあったと。


 俺はゴブリンもオークも倒した事が無いので分からないけれど、二つは強さ的に全く異なる亜人だという。


 体格からして全く違うのだから当然だろうとは思うけれど、ゴブリンもオークも集落をつくっているような集団は、それぞれの上位種――ホブゴブリンやハイオーク――が必ずと言っていい程存在する。それは群を纏める役目が必要となり、必要に狩られて個体のいくつかが種族覚醒するんだとか。


 そしてゴブリンの巣は、例えホブゴブリンが数体居ようとも用心をしていれば転移者にとっては左程問題ではないらしいけど、数体のハイオークが居て、更には数十体のオークと合わせて戦わざるを得なくなったら、いくら支援職がいようとも簡単ではないのだと。ハイオークのレベルが30を超える場合もあるらしいから。


 その巣穴に向う見ずに突っ込んだ結果、女性転移者が攫われたのだから本当に目も当てられない。


「もっと言っておけば良かったかなって思うけどね」


「いや、あいつは聞かなさそうだったな」


「諸星とまでは全然言わないけど、自分の思い通りにいかなきゃ気が済まない性格っぽかったからね……ああそう言えば、男二人とも例の賭けに参加していた奴だったらしいね」


 渋い表情を見せていた相馬さんが、思い出したように俺にそう言った。


「みたいですね」


 諸星の悪事が暴かれた後、俺の死を賭けの対象にしていた人物全員の名前が張り出された。

 これはエミリアさんの指示ではなく、エレメスさんがぶち切れた結果らしい。


 というのも諸星事件が解決した直後に諸星と取り巻き二人を除く4人を集めて事情聴取と厳重注意を行ったそうだけど、その時の態度が酷すぎたからの措置。

 どんな態度だったかは教えてくれなかったけど、大体想像はつく。


 違法じゃないから良いだろ?とか、あんな雑魚が死んだところでマイナスにすらならないんだから良いじゃないかとかそんな事を言ったんじゃないかと。


 なのででっかく張り出された。

 それはもう気付かない人がいないくらいに。

 冒険者キルを助長させるような言動や行動は、厳に慎むようにとの文を添えて。


「死ぬならあいつらだけで死ねばいいのにって本気で思うわ。あーー、もう少し強引に抜けさせれば良かったわ!いい娘だったのに!貴重な聖職者だったのに!」


 憤慨しながら過激な発言を絵梨奈さんはしたけれど、全くその通りだ。


 その事があってから直ぐに、エミリアさんから注意というか忠告を受けたし。

『オークの巣穴はレベル40を超えて、尚且つ支援職の方がいる時にしてください。もしくは私が居る時に』と。


 心配性過ぎる。

 どのみち俺らはゴブリン退治しかまだ行けないのに。





 次の日。


 相変わらず出来の悪い鏡を見やりながら寝起きの寝癖を手櫛で整えて、房楊枝と歯磨き粉で歯を磨き、顔を洗った後でここ最近の装備を装着する。


 とは言っても柔軟性のある皮装備だから、着ると言った方が良いかもしれない。


「さてっと……」


 徐にタイムの生活魔法を使い、時間の確認をする。

 時刻は午前8時ちょっと前。

 エミリアさんとの待ち合わせ時間まであと少し。


 今日は俺が魔法剣士になってしまう日。


 そう考えれば考える程にワクワクが止まらない気分だ。

 あと、例の方法でと言われたからか、ドキドキも止まらないけれど。


「よしっ!」


 気合を入れるように声を発し、勢いよく扉を開けて一階の食堂へと向かう。



「いよーう」

「おはようございます、カズマさん」


 何故かそこにはゆるキャラアゲイン。


 一瞬エミリアさんが縮まって横に広がったのかと思ってびびったけれど、そう言えば武器が完成すれば持ってくるって言っていた事を思い出す。


 そして向かいにはちゃんとエミリアさんも座っていて、こちらを振り向きながら何時もの笑顔を向けてくる。


「おはようございます」


 おっさんをエミリアさんと間違えるなんてとんでもないな俺って奴は。ごめんなさい。


 挨拶をしつつそんな風に反省し、さてどっちに座ろうかと一瞬悩む。

 毛むくじゃらのおっさんの隣か、女神の隣か。

 すると――


「あ、こちらに座ってください」


 エミリアさんが少し恥ずかしそうに自身の隣を手のひらで指し示した。

 途端に俺も恥ずかしくなってきそうになったけれど、ここでそれを表してしまえばきっと目の前のおっさんが酒の肴にする。


 なので俺は何食わぬ顔で座る。


「はい、じゃあ失礼します」


 一瞬だけ二ヨったガニエさんは俺の態度を見て、なんだつまらんといった具合に鼻を鳴らし、さっそく自分の要件を俺に伝える。


「ふん……まあいい、武器が出来上がったから持って来てやった。あと、防具もだ」


「有難うございます。って、防具も?」


「ああ、防具の方は俺のむ、む、む、娘がわざわざ睡眠時間を削って拵えたものだ。出来は良いから持っていけ」


「ふふふ」


 なんでガニエさんは娘さんの話になると、いつも喉に物が挟まったようになるのだろうか?


 エミリアさんもそれを見て笑っているし。

 不思議だなと思いつつ、まずは武器を受け取る。

 差し出されたのは注文通り……の剣ではなかった!


 片刃の剣だし!しかも全体的に青みがかった色をしているし!


「これ片刃の剣ですよ? それにミスリル入ってます?」


 きっとそうだろう。

 片刃の剣はまあ、欲しかったからいいけど。

 そう思っていると、得意げな表情をガニエさんは見せつつ、


「よく分かったな。それはチタニウムとミスリルで作ったもんだ」


 うへ……

 チタニウムなんて、鉄より全然硬い鉱石じゃないか。

 思わず目が点になる。


「……」


 そんな俺の表情を見て訝し気にガニエさんが言う。


「ん?気に入らなかったか? 片刃の剣はこっちじゃあブレイドって言うんだが、転移者はこっちを好むとアマチが言っていたから作ってみたんだが……」


 いや、確かに好みますよ!

 それは間違いありませんよ!

 でもそこじゃないんです!


「チタニウムって、すっごくお高くありません?」


「高いな」

「お高いですね」


 ニコニコしつつガニエさんとエミリアさんがそう言った。

 おっさんの笑顔とか嬉しくもなんともないけど、エミリアさんの笑顔は何時見ても癒される。

 とはいえ値段はいくらだろうか?


「あの、おいくらです?」


「半額にして大金貨2枚だ」


「へ?ってぇ!ふぉあああああああ!ば、ば、倍になってるううう!」


 思わず叫んでしまった。

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