第8話 魔術師の視線
本日2話目です。
召喚された部屋で、どんどんと即席の少人数パーティーが出来上がる。
お互いの加護とステータスを聞いて、自分に足りない能力を持つ職業を補ってどんどんと組みあがる。
ここから出たら仲間以外にステータスや加護を聞くのはタブーとされているかららしく、仮にレギオンは別になるとしても、能力が分かる今の内に2~3人のパーティーを仮にでも作った方がいいぞと、土方さんが言ったからなのだけれど。
但し俺は蚊帳の外だ。
「じゃあ、扉を出て通路を進んだ先の広間で、転送門を開いて貰っているからそれに乗ってくれ。ここは森のど真ん中だからな。大きな町へ飛ばして貰え」
土方さんがそう説明をすると、パーティーが出来上がった人から順に部屋を出ていく。非常に分かりやすいけど、俺は当然パーティーに誘われる事もなければ、申し訳なさ過ぎて誘う事もなかった。
なので俺はソロ。ソロリスト。
こっちでも、目出度くぼっちが決定。
因みにパーティーを組めなかったのは俺だけだった。
オリエンテーリングでペアが出来なくて、教師と組む羽目になった時の事を思わず思い出した。
非常に思う所はあるけれど、こればっかりは好き嫌いは関係ないし、自分の生活が懸かり、自分の命がかかっているのだから誰が悪いわけではなく、ステータスが低く加護も無い俺が悪いだけだろう。
「しかたない、俺も行くか」
重い腰をよっこらせっと持ち上げて、俺は円柱状の石室から通路に出た。
ちなみにもう誰も残って居ない。
そんな俺のみすぼらしいステータスをもう一度開いて見る。
「えっと、ステータスオープン」
音もなく、目の高さよりも少し下にホログラフぽい半透明のステータス画面が現れる。
歩いていても画面も一緒に移動してくれるから非常に便利だな。
そう思いながらステータス画面を眺める。
【カズマ=シバ】
【ヒューム 17歳 Lv5】
【ATK】10 【MATK】10
【STR】10 【INT】10
【AGI】10 【DEX】10
【VIT】10
【DEF】10 【MDEF】10
なんというか何度見ても呆れる程に10が綺麗に並んだもんだ。
ふざけんな。神様適当につけてんじゃねえ。
そんな風に思いながら歩きつつ、ステータスの説明を思い出してみる。
さっきは茫然としててぼーっと眺めただけだったから。
まずは名前が来て、次に種族と年齢とベースレベルっと。
次にATKが物理攻撃力でMATKが魔法攻撃力。
STRが力でINTが知力……というか魔力。
AGIが素早さでDEXが器用さ。
VITが生命力……というか体力。
DEFが物理防御力でMDEFが魔法防御力か。
DEFとMDEFは魔力が付与された防具とかを装備しなきゃ、VITとINTの数値のままだって言ってたな。
ステータス画面の2ページ目。
「確かここを触ると……お、画面が変わった」
【――】
【火属性適性】【土属性適性】【生活魔法ALL】【言語変換魔法】
棒線の部分に加護なんだろうけど、無いからどうでもいい。見たら腹が立つから見ない事にする。
次の段は、現時点で適性が有る魔法と使用できる魔法の欄で、スキルはその下の段に表示される……か。
スキルないな。
誰かが、何とかスキルを持ってる!とか言ったら、土方さんが「ステータスの数値でスキルはある程度自然に湧く」と言っていたから、俺にスキルが無いのも当然っと。
ただ、魔法は火と土に適性があるから、INTさえ上がれば魔法を使う事は出来るって事だな。よかった。
魔法適正すらないなんて言われたら、いよいよ引き篭もり一直線だったかもしれないし、それだけは救われた感じがする。
んで、最後に自分が装備している防具や武器が表示されるらしいけど、これは何も持って居ないから表示されなくて当然だな。しかも魔法を使って作った武器や防具じゃないと表示されないって言っていたし。
あとは生活魔法とかあるけどいまいち使い方が分からない。
そういえば魔法の使用方法はどこかで教えて貰えるのだろうか?
美香さんは詠唱を唱えていたようだから、勝手に使えるようになるわけでは無いだろうし……。
土方さん、もしかして教えるの忘れて居ませんかね?
案外うっかりさんみたいだし。
とはいえどのみちINTが低すぎるから、覚えても使い物にならないだろうけど。
「それにしても、ひっどいステータスだなぁ。確か天地なんて全部三桁だったぞ……はふぅ」
天地のステータスを思い浮かべながら再度溜息を吐く。
冒険者は15歳からなれるので、同じ年の冒険者とは比べるべくもないだろうけれど、まさか本当に一般人よりステータスが低いなんて……。
そう愚痴を零しつつ、長い通路をトボトボと歩けば神殿の祭壇ホールのような広い場所へ出た。
するとホールの中央に、魔術師さんっぽいローブを着た人物と土方さんが立っている事に気付く。
「君が最後だな?」
「あ、はい」
やべ、待たせてしまっていたらしい。
見れば転移者が3人程俺を待っていたような雰囲気だ。
早くしろよと睨まれている訳ではないけど、申し訳ない気分になる。
「すみません」
「確かシバ君だったな。気にするな」
どうやら名前を憶えられたらしい。
負のイメージで憶えられたと思えばがっかりだけど。
そして待っていた転移者3人にも頭を下げて、目深くフードを被ったいかにもな魔術師さんの所へ行った。
「では、ゲートを出します――」
聞こえるか聞こえないか分からないくらいの小さな声で、魔術師さんが詠唱をすれば、目の前の何もない空間に渦巻き状の黒い波が発生した。
まるで丸い渦巻が縦に浮いているようにしか見えない。
「さあ、これに飛び込んでくれ」
土方さんがそう言うと、先に待っていた人が少しだけ躊躇しつつ、
「じゃあ、あたしから行くわね」
そう言って渦に飛び込んで行った。
そして次々と飛び込み、残すは俺だけ。
「ゲート、ありがとうございます」
俺はそうお礼を行って、ゲートに飛び込んだ。
ただ、ゲートをくぐる時に、何故か魔術師さんにジッと見られたような気がしたけれど、それもきっと俺のステータスの低さゆえだろう。高度なスキルに<鑑定>というのもあるらしいし。
◇
ゲートを潜り抜けた先。
そこには大勢の冒険者らしき人がいて、手ぐすねを引きながら待ち構えていたのだった。
静かな古代遺跡内とは打って変わって、がやがやガチャガチャと非常に煩い。
あー、土方さんが言っていた、残り22名の転移者をスカウトするレギオン関係者なんだろな。
予想は当たっていたようで、先にゲートを潜って行った奴らは既にゴツイ鎧やエロいローブを纏った冒険者さん達に掴まっている。
そして案の定俺を除く3人には、蟻んこが群がるように冒険者が近寄る。
当然俺は見向きもされない。
どうやら俺のステータス情報は駄々洩れらしい。
というかスカウトするのだから、事前に全員の初期ステータス情報を《青鋼の騎士団》からもたらされていて当然だろうて。
誰にも相手にされず、ぽつんと佇む俺。
周囲を見渡すと、あからさまに目をそらされる。
「……」
あー、うん。予想はしていたので既にもう開き直っていたりするし、ぼっちに慣れきっているから大丈夫だと思っていたけど、ここでもかと思えばどうしても寂しく感じてしまうなあ。虐められなくなったのだから、それこそ大出世なんだろうけれど。
そうこうしていると周囲のひそひそ話が耳に届くようになった。
「あいつって転移者なのに加護が無いんだってよ」
「ステータスも最低らしいぞ」
「何のために来たんだ?」
「可哀そうだが長くは無いな」
ここでも憐みのような表情を向けられる。
仕方がないじゃないか。俺のせいじゃないし。
そう思いながらも居た堪れなくなり、足早に部屋をでた。
騒がしい部屋を出る時に柊さんの視線を感じ、何か伝えたそうな雰囲気が少し気になったけれど、もう彼女とは住む世界が違うのだ。元々住む世界は違っていたけれど、その溝は途轍もなく広がった。
ならば俺は俺で生きて行く。
一人っきりで、誰にも頼らずに。
とにかく冒険者にならなければ。
こんなステータスで加護が無くても、きっと最弱のモンスターくらい倒せるだろうと淡い期待を抱きながら。
だからとにかく冒険者にならなければ。
大事な事だから二度呟いた。