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第79話 西の森

本日1話目です。

 馬車乗り場のロータリーに到着し、つい最近まで乗っていた馬車とは異なる隣の馬車に乗りこむ。

 絵梨奈さん達はどうやら少し早く出発したようだ。

 その事にプリシラも気付いたようで。


「エリナさん達は先に行かれたんですね」


「みたいだね。少し奥まったところまで行っているって言っていたから、その分早く出かけたんだろう」


 ガニエさんとヘルミーナさんリュミさんから装備やポーションを買えるようになった相馬さん達は、狩りが驚くほど楽になったそうだ。


 いまだに支援職さんは見つからないようだけれど、今のところはそれすら気にならないくらいに順調に狩りを継続できているのだとか。


 ほぼ毎日夕食を一緒に食べているけれど、皆の笑顔を見るだけで充実しているのが手に取るようにわかる分、見ている俺も嬉しくなってくる。やっぱり身近な人には笑顔でいて欲しいし。


「さてっと、解体新書を見てみよう」


「はい!ドキドキします」


 プリシラは解体新書がどんなものかを見ていない。

 だからだろうけれど、俺は1冊の解体新書を二人で読むというそのシチュエーションにドキドキしてしまう。


 だって、ねえ?

 プリシラたんってば胸が腕に当たるまで近くに寄って来るんだもの。

 とはいえそれを指摘してしまうのも、気を遣わせてしまうというか勿体ないと言うか。


 なので道中ずっとドキドキしながら、やあらかさも噛み締めながら、北西の森のページを開いて二人で穴が開く程見た。


 ああ、プリシラたんって良い匂いがするなあ。あまーい匂いがするぞお。

 なんて変態的な事を思いながら。


 いや、ほんとに……。


 無防備だ。

 無防備すぎるよプリシラたん!


 そして俺はギルティだ!


 田所兄貴がこの場にいなくてほんと良かった!

 何を言われるか分かったもんじゃないし!





「ふぅー……」


「到着しましたね!」


 大きく息を吐いて、凝り固まった体をほぐすかのように二人とも体を伸ばす。


「乗り心地いいけどやっぱり長時間乗ってると疲れる」


「ですねー、ふぅ……」


 約1時間半程馬車に揺られて到着した場所は、昨日エミリアさんに連れてこられた場所と同じ所。


 結構な数の冒険者が乗っていたのに、同じ場所で降りた冒険者は俺とプリシラだけだった。



 北西の森。



 モンスターの討伐レベルは15~65だという。


 広さ的には南の森の倍程はあるそうで、生息するモンスターは水属性のモンスターが約4割を占める。


 北西の森に入るには、西へ向かう街道から入るか、北へ向かう街道から入るのだけれど、北街道から入る北西の森は難易度が高く、南西の森を卒業した直後だとあっという間に全滅してしまう程なのだとか。


 なので俺らは当然西の街道側から森に入るのだけれど、西からですら進入ポイントは3箇所くらいある。


 1ポイント目が土属性が多、浅い森と草原と岩場が剥き出しになった場所。

 2ポイント目が今俺達が降りた水属性のモンスターがやたらと多い湿地帯に近い場所。

 3ポイント目も同じく湿地帯に近いけれど、少し難易度が高めのモンスターが現れる場所。


 そんな感じで入る場所が分かれている。


「今日はどうします?」


「んと、昨日の最後にエミリアさんに連れて行ってもらった湿地帯の方に行ってみよう」


 湿地帯と言ってもただの湿地帯ではなくて、解体新書によれば、釧路湿原とほぼ同じ広さ。


 釧路湿原に行ったことがないのでいまいちピンとこなかったけど、見ればビビるくらいに広かった。


「じゃあ水蛇ウォーターワームですね?」


「そうだね。ちょっと気持ち悪いけど楽に倒せるし、あんなのでも食用で買い取ってくれるしさ」


「そうですね。結構おいしいですもんね」


「確かに」


 水蛇ウォーターワームとは鱗の無い蛇のようなミミズのような水棲魔獣で、頭というか顔というものが無く、大きな口だけしかないかなり気持ち悪いモンスター。少しぬめってるし。


 因みに討伐推奨レベルは24の水属性。ということは風属性に弱く、武器を新調した今のプリシラならばレベルが少し足らなくても余裕で1確殺できる。


 何気に一昨日の晩、プリシラが武器を新調したと聞いて驚いた。


 聞いたところによると、ヘルミーナさんが昔むかーし、それこそエルフの里に住んで居た時に使っていたワンドらしく、なんと自作でレアグレードのワンドだとか。


 しかもそのワンド、伊織ちゃんが買った、定価で大金貨1枚以上する武器よりも性能が良いというか、大金貨5枚くらいしそうな業物だったからもうね、いいぞいいぞヘルミーナさんどんどんお願いしますと。


 これまた自分の事じゃないので全く喜ばしい話だった。

 そんな武器を持っているのだから狩りは随分楽になるわけで。


 なのでプリシラは自分よりも討伐レベルが高いモンスターを相手にすると言ってもご機嫌だった。


 因みに今のプリシラは昨日レベルが1個あがって21になっているけれど。


「近寄り過ぎると毒を撒き散らすから、今日も俺が先に土魔法を使ってからプリシラが風魔法を使うって戦法でいこうか」


「はい! 沢山狩りましょう!」


 そう元気よく言いながら、ふんすっ!と握りこぶしを作ってプリシラは気合を入れた。






 

「しっかし、大きいおにぎりだ……」


「はい!すっごく美味しいです」


「あ、うん、いや、俺は大きさをね? 美味しいのは確かだけど」


「あ!えへへ、すっごく嬉しいです」


 満面の笑みを携えたまま、美味しそうに女将さんが作ってくれたおにぎりを頬張る。


 狩場まで1時間程度歩き、サクサクとワームを狩った後、俺らは少し安全な場所へと移動をして昼食を食べている。


 彼女の大食漢ぶりに女将さんも当初は驚いていたけれど、沢山食べる人が好きらしく、やたらとプリシラを気に入っていた。なので俺と同じくお昼のお弁当を持たせてくれている。


 数は俺と同じ3個。でも大きさは俺の3倍。具も3種類入っていて、それはまるで山賊むすびみたいだった。


 何気に彼女の故郷は帝国の北に位置し、米を生産している地域なのだとか。

 とは言っても水田が作れるような土地は少なく、利水の問題もあってか、麦と野菜と米のハイブリッド生産。


「やっぱり懐かしい?」


 幸せそうな笑みを零しながら山賊むすびと格闘しているプリシラに向けて聞いた。

 すると直ぐにこちらを向いて返事を返す。


「はい! 小鳩亭で食べられるパンも柔らかくて美味しいんですけど、昔から食べているお米が一番好きです。カズマさんもお米で育ったんですよね?」


「そう、だから俺も昼食がめちゃくちゃ楽しみ」


「ですよねー」


 ほくほく顔のプリシラを見ていると俺まで幸せな気分になって来る。

 なのでこちらの世界のパンが不味いなんて俺は言わない。


「でも、わたしが住んで居た村では自分達で食べるお米は少なかったんですよ」


「生産量のせい?」


「はい、水田の管理とかが大変ですから、村から離れたところには作れないので」


 ああ、まあそうかもな。


 麦は種を撒いた後、芽が出て麦踏みをしてしまえば殆ど放置で良いらしいけど、米はそうはいかないって以前聞いたことが有る。


 確か、水を張る前に土壌を耕して、そこから水を張って更に土をかくはんさせて土壌を整えた上で苗を植える。


 トラクターや田植え機なんて無いだろうこの世界だから、そこまでの労力も相当だろうけど、そこから毎日水の世話が必要だし、間間に生える雑草も取り除かなきゃならないし、この世界に防虫剤なんて無いだろうから管理に余計に手間がかかるだろう。


 刈り取りとかは麦も稲も同じだろうから良いにしても、余計な手間が多すぎるのが米なのは間違いない。


 加えてこの世界には魔獣や魔物などという物騒な生き物もいるし、村から離れて家を建てようにも野盗など頻繁に出没するせいかそれも無理なのだから、必然的に村の近くじゃなければ田んぼは作れないというプリシラの言葉通りなる。


 スペース辺りの収穫量は米の方が断然多い筈だけど、そのスペースが無いのだからどうしようも無いんだろうなと。


「それにお米は価値が高くって貴重なので、出来たお米は殆どを租税として領主さまに納めているって、麦よりも数倍の税比率なんだってお父さんが言っていました」


 この世界は昔の日本の年貢方式らしく、単純に出来た作物から一定割数を税として納めればそれで済む。


 という事は当然利率の良い米を領主は望むし、貧しさから質より量を優先する領民の生活環境によって、米なんて贅沢品は殆ど食べられないという、プリシラの言葉は嘘でも何でもない。


「ああ、そうなるのか。大変だよね……」


「はい、だからこんなに沢山のお米を頂けるなんて夢のようです」


 そう言ったプリシラはふと寂しそうな表情を見せた。

 大きな山賊むすびを見つめながら。

 当然俺は気になって聞いてみる。


「どうした?」


「い、いえ……妹や弟達にもこんなに沢山食べさせたいなって……喜ぶだろうなって」


 優しいプリシラだからこそ、妹弟の事が気にかかるのだろう。


「アハハ、でもおかしいですよね?ちょっと前はそんな風に思う余裕もなくって、生きるだけで精いっぱいだったのに」


 自虐的な笑みと共にそうプリシラは言ったけれど、それは仕方がないだろう?と。


「いや、当然だと思うよ。余裕が無ければ誰しも皆同じだよ。でも今は余裕が生まれてきたから、妹さんや弟さんの心配が出来るようになった。だから良い事なんじゃないかな」


「そうですよね。だから送ったお金でちゃんと食べ物を買えればいいんですけど……」


「麦も作ってるんだよね?」


「はい、わたしが出発した頃にはもう結構育っていて、今年は豊作だってお父さんが言っていたからそこはあまり心配はしていないんですけどね? もう収穫も終わっているはずですし」


「そか。なら良かった」


「はい!」


 単に彼女は自分だけがという思いが強いのだろう。

 それだけ優しい女性だという事でもある。

 そんな彼女を俺は優しく見やっていた。


 とはいえ。


 それでもやっぱり彼女が食べる量は半端ない。

 普通のおにぎり2個で1合の米としても、プリシラは昼食だけで5合の米を食べているという計算になるけど……。


 ほんとどこに入っていくんだろ。


 絵梨奈さんや伊織ちゃんのエールにしろ、魔法職の人は謎が多い。


 同じように魔法を使っている俺よりも遥かに食べているところからみて、もしかしたら加護が関係しているのか?とも思ったりもした。


 っていうかおにぎりの大きさと、プリシラの顔の大きさがあまり変わらないんだけど。


 唖然として見つつも午後の予定を話し合った。

 今日はラピスちゃん達に狩りのおすそ分けをする日だねと話しつつ。







 それから二日程は特別変わった事など何も無く、相変わらず水蛇ウォーターワームを狩り、たまにワイルドボアを狩ったり過ごしてとうとう俺のレベルが30になり、プリシラのレベルが27になった日の夕飯時の事。


 狩場は同じ北西の森なのに、森が大きすぎてどこで狩っているのかすら分からなかった絵梨奈さん達が、突然俺とプリシラに向けて提案をして来た。


「一眞、プリシラちゃん、明日か明後日ゴブリン討伐行かない?」


 ピクニック行かない?みたいな軽いノリで。


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