表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/105

第74話 検証の結果

本日2話目です。

「カズマさん、いきます!――ウォーターブレード!!」


 威勢のいい叫びと共に、プリシラが詠唱を行い魔法を発動させる。


 詠唱を開始したと同時にホーンラビットの足元に形成された魔法陣がぐるぐる回りだし、詠唱が終了すると同時にプリシラが掲げたワンドから、三日月型の水の刃が放たれる。


 うん、もう失敗しなくなったな。


 そう思いつつも、自身がしなければ成らない追撃をする。


「後は任せろ!」

「お、お願いします!」


 俺の前を通り過ぎてプリシラへと一直線に向かおうとするホーンラビットを、横合いから綺麗に一閃する。


「そりゃ!」

「ピギャアアアア!」


 森の中に響くパーティー連携の掛け声と魔獣の断末魔の叫び。


 俺はつつがなくホーンラビットを仕留める事に成功した。

 もうすっかりおなじみになった光景だ。


「やりましたあ! これで今日だけで15羽ですよ! 凄いです、凄いです!」


 杖を両手で抱えて飛び跳ねるように俺に近寄るプリシラは、これが数日前まで疲れ切って絶望に満ち溢れた女性とは思えない程に生き生きとしている。


 だが辞めて欲しい。


「ちょ……と、ゆっくり」

「?」


 見てはならないと思いながら、顔を片手で覆いながら横を向く。

 いい加減、ばるんばるん揺れるのを見せつけるのは辞めて頂きたい。

 この三日間でそれを何度見せられた事か。


 はっきり言わない俺が悪いのだけれど、俺が何を言っているのかさっぱり分からない風のプリシラは、それでも仕留めたホーンラビットを覗き込むように眺めると、満面の笑みを浮かべつつ俺を見た。きっと何か俺に言って欲しいのだろう。


「ず、ずいぶん魔法を失敗しなくなったね」


「はい! カズマさんのおかげです!」


 プリシラの実力だよと思いながらも彼女の言葉に返事は返さず、微笑みながら俺はホーンラビットをマジックポーチに放り込む。


 俺は今、初めての相方であるプリシラと一緒にホーンラビットを狩っている。


 プリシラに下級水魔法の《ウォーターブレード》を打たせ、1確じゃないゆえに最初にダメージ魔法を当てたプリシラ目掛けて突進していくホーンラビットを、俺が横合いからブロードソードで仕留めていく。それを今は繰り返し行って居る状態だ。


 ホーンラビットは土属性モンスターゆえに、水魔法だと属性が有利でもなく不利でもない相手だから辛いかなと最初は思ったけれど、エミリアさんが言った通り案外と何とかなるもんだなと。


 とはいえ彼女のINTは俺なんかよりも全然高く、今の状態でも90を越えている。ゆえに俺の追撃は殆どなくても問題ない程までにホーンラビットのHPを削っている。


 試しに剣ではなく殴って追撃してもホーンラビットは絶命したのだから、そういう事だろう。ゆえに当初の予定通り経験値の殆どはプリシラに入っている筈だ。


 俺がこの世界に来て20日目。

 プリシラと一緒に狩りを始めて今日で3日目。


 最初の頃は緊張からか何度か詠唱をミスしてしまい、そのたびに泣き出しそうな表情で俺を見ていたけれど、俺が何も思わず何も言わないと分かってくれてからの彼女は、それはもう人が変わったかのように生き生きとしだした。


 プリシラは非常に優秀だ。

 ステータスの上がり方を見ても俺ら転移者と殆ど変わらないように思える。


 ただ、それが少しだけ性格で阻害されていただけ。

 そう気付くのにさほど時間はかからなかった。


「結構レベルがあがったんじゃないか?」


「えっとですね……ちょっと待ってくださいね~」


 可愛らしく返事を返し、自身のステータス画面を開くプリシラ。


 時間も押して来たし、レベルがあがればそろそろ戻った方が良いかも。


 そう思いつつ彼女の返事を待つ。

 けれど彼女はステータスを見やりながら固まってしまった。


「どうした?」


 俺の言葉がスイッチになったかのように、ハッと我に返った彼女は俺を見やりながら、興奮した面持ちを見せつつ。


「す、すごいですカズマさん! 昨日のお昼過ぎにレベル14になったのに、今日はもうレベル16です。……たったの三日で6個もレベルが上がるなんて……」


 他人のステータス画面を見る事はオーブなどを使わない限り物理的に出来ないので、彼女の表情と言葉でしか判断できないけれど、どうやら今までとは比べ物にならない程の速度で経験値が入っているのは間違いないようだ。


 そしてそんなプリシラのレベルの上りを見て俺は確信した。


「やはりパーティーメンバーも、俺と同じように必要経験値が少なくなるみたいだ」


「……え?」


「確信が持てるまで黙っていようと思って居たんだけど――」


 それからは俺の加護についてプリシラに説明をした。


 最初に加護が無かった事はプリシラも知っていたけど、その後に生まれた加護は見た事もない加護で、尚且つ出世魚のようにコロコロ変わっていく加護だという事や、経験値が少なくて済むんじゃないかといったことまで包み隠さず伝えた。


 俺のおかげだなんて誤解を与えないように、しっかりと。真剣に。


「それじゃあ……え?」


 話を聞き終わっても、きょとんとしたままのプリシラ。


「分からないけどね?プリシラもこんなにホーンラビットを狩った事なんて無いだろうし」


「はい、こんなに狩れたのってファブリくらいです」


 ふぁ、ファブリ先生ですか……


「ただ一つ言えるのは、俺がソロで狩っていた頃と殆ど同じようなレベルの上がり方なのは間違いないかな」


 それがエミリアさんにも即座にバレた、ここ三日かけて密かにしていた検証の結果だ。


 そして、その言葉で彼女は固まってしまった。

 とんでもない事になっているのでは?と把握してしまったような。


「そ、そうなんですか……でも、そうじゃないと納得できないというか、それで納得できると言うか」


 俺の言葉で、今まで疑問に思いつつ狩りをしていたものが、ようやく晴れたような感じだろうか。


「レベルが上がるのが嬉しくって、あまり考えないようにしていたんですけど、夜寝る前とかにふと思い出すとどうにも疑問が湧いてきて。……でもやっぱり狩るモンスターのレベルと数を考えれば、これくらいなのかなって、その時は無理やり納得させていましたけど」


 実は初日には既に大方分かっていた。


 ホーンラビットの討伐推奨レベルは15だ。

 彼女が俺とパーティーを組む前に狩っていたのは、忌まわしきグリーンフロッグで、それも15。


 同じ15レベル推奨とは言っても、経験値が同じとは限らないだろう。けれど、そこまで違うとも思えない経験値が入ると考えた結果、聞いてみたところ6匹程度をソロで狩ってようやく1レベル上がる状態だったそうだ。しかもレベル9とか8の時。


 なのにレベル10から11にあがるのに要したホーンラビットの数は4羽。しかも俺が追撃を行った上で。


 それだけ見ても確定かと思える結果だったのだけれど、個体から得られる経験値は均一では無いので、少し様子を見ていたのだった。


 そしてこの三日間でホーンラビットを31羽倒した結果がレベル+6なので、やはりどう考えてもレベルの上がり方が倍以上早い。


 まるで、未だにプリシラのレベルは一桁なんじゃないか? と思える程の討伐数でレベルが上がっているのだから間違いないだろう。


「俺の時も最初はそう思って居たんだけどね。まあ、もう少し様子をみればはっきりする」


「そう、ですか?」


「うん」


 それでも彼女は嬉しそうだった。

 それが意味する理由は俺には分からないけれど。

 多分、レベルが上がるのが単純に嬉しいのだろう。


「さて、キリも良いし、そろそろ時間も遅いし今日はもう帰ろうか」


 ステータスを見やりながらニマニマしていたプリシラは、ハッと我に返り、直ぐに帰り支度を始める。


「はい! 帰りましょう!」


 そんな彼女の姿を見やりながら、やっぱりレベルが上がるって嬉しいよなあと、俺の方も顔が綻ぶ思いがした。



 静かな森の中を街道へ向けて帰る途中。

 ワンドを両手で抱えながら横に並んで歩くプリシラが、ふと思い出したかのように口を開く。


「そう言えばカズマさんって、なんでエリナさん達とパーティーを組まないんですか? とても仲が良さそうに見えるんですけど」


「それはー……あれ?」


 言われてみて、確かにそうだなと。

 そう言えば全くそんな事を考えてもみなかった。


「今プリシラに指摘されて初めて気付いた。そういえばそうだよな」


「はい、どちらかがお誘いしたことは無いんですよね?」


「ない、全く無いなあ」


 相馬さん達は今日から北西の森へ行っている。


 絵梨奈さんが装備を新調し、より火力を出せるようになった事と、相馬さんと田所さんもガニエさんのお店でガニエさんが作った汎用型の武器と防具を買いそろえた為に、格段に防御力と火力が上がったから、もう大丈夫だろうという事で。っていうかその時本当に何があったのかと。


 とはいえ俺は三人の具体的な戦力を知らない。


 諸星とのごたごたが解決した後、エミリアさんが俺に「ご一緒に食事をなさっている方とはステータスなどの情報交換はなさっても良いと思いますよ」提案して来たのだけど、結局今の所はプリシラにしか言っていない。


 言いたくない訳ではなく、単にタイミングが無いだけなんだけど。


 なので三人がどれ程のステータスやレベルになっているのかは分からないけれど、恐らくはもう十分北西の森で戦える戦力になっただろう。


 そんな三人と俺がパーティーか。

 多分俺の方がレベルもステータスも上だとは思うけど、何故かそういった話は一言も出ない。


 出さないようにしているわけでは無く、単純に誘うのを忘れて居るとか、お互い誘う必要は無いよねと認識しているような、そんな感じだろうか。


 そんな風に考え込みながら歩いているとプリシラは焦りつつ、


「よ、余計な事を言ってしまいましたか?」


 ふと視線をプリシラに移すと眉毛がハの字に垂れ下がっている。


「いやいや、全然そんな事はないけど。多分ね、最初に組まなかったから今更って感じなのかもしれない」


「そんなもんなんです?」


 いまいち納得をしていないプリシラの顔がそこにある。


「うーん、俺は正直に言うと、そういうの抜きで楽しく仲間みたいに飯とか食べられればそれで良いんだと思うかな。今はね」


 俺の言葉に何かを感じたのか、プリシラは笑顔を見せつつ、


「そうですか。でもそういうのも良いですよね」


「うん、そういうのも良い」


 どちらかのパーティーに組み込まれて、今の関係が崩れるのが嫌だといった気持ちもあるかもしれない。それだけあの人達との今の関係が心地いいのだから。


「それに、俺らも北西の森へ行くように成れば、合同で狩りをしてみようって話も出ているしね」


「そうですね!が、がんばります!」


「あはは、十分だよ。北西の森には水属性モンスターが多い場所もあるらしいから、プリシラにとっても良い狩場だと思うし、絵梨奈さんも風属性魔法を使えるし」


「はい!」


 気合を入れるかのように元気よく返事を返したプリシラ。

 行った事は無いけど、そういう情報は当然知っている。


 ここ南西の森は土属性と風属性のモンスターが殆どだけれど、北西の森には大きな湿地帯のような区画があるらしく、そこには水属性のモンスターがわらわらいるとか。


 ただ、そこで魔術師が狩りをするにはソロならばINTが120近くは欲しいとか。それプラス当然増幅杖も。


 パーティーならば属性が合えば100とかで大丈夫らしいけれど、念には念を入れてソロで狩れるINT120を目指そうという話は軽くしている。なので、


「でも、まずはここを卒業しなきゃだから、明日からはワイルドボアに行こうか」


「わ、ワイルドボアですか……」


 属性が合わない敵を相手にする。


 その事は魔法使いにとってこの上なく不安なんだそうだ。


 俺なんて魔法も使うけれど、剣の方が慣れているし火力もあるからあまり思わないけれど、プリシラのような純粋な魔術師にとっては属性相性は非常に重要視する項目。


 初日にホーンラビットやモアモア鳥を狩る話をした時でも、1確じゃなく、確実にリンクするからモアモア鳥は絶対に嫌だと、例え俺が1発目をリンクさせるからと言っても嫌だと涙ながらに訴えて来た程だった。


 そしてワイルドボアは圧力がホーンラビットなど比べ物にならない程だから、話をしただけで完全に腰が引けてしまっていた。


 とはいえエスカルゴやサザビーは神経毒のせいで俺が壁をするのが嫌だったし、カエルなんて二人ともトラウマレベルの忌避感を抱えていたので、結局はこの近辺で狩れるモンスターを消去した結果、ホーンラビットになった程。


 だが結局のところワイルドボアを楽に狩れなければ北西の森へ行けない。


 俺一人でも余裕だけど、プリシラが慣れなければ結局パーティーって何?状態ともなりかねないのだ。


 なのでプリシラには是非とも頑張って貰わなければという訳だ。


「カズマさんはワイルドボアを簡単に倒せるんですよね?」


「うん、まあレベル26だし、この武器や防具があるからね」


 そう口にしつつ腰にぶら下げている武器を指で叩いた。


「じゃあワイルドボアも同じようにします? わたしが魔法を撃って、カズマさんが止めを刺すという感じで」


「いや、ワイルドボアはまだ俺を見ても逃げないんで、俺から先に攻撃しようかなって思ってる。しかも魔法でね」


 ホーンラビットに対して初撃をプリシラに入れてもらったのは、あくまでも俺が近寄っただけで逃げて行ってしまうから、最初にプリシラが攻撃を入れる必要があったまで。


 そうじゃ無ければなるべく俺が初撃を入れる。レベルも俺の方が高いし相方は可愛いプリシラだし、まかり間違う訳にはいかない。


「あと、”ラウド”スキルも入れればプリシラにターゲットが変わる心配もない」


「ふむふむ」


 ここ三日間一緒に狩りをしてみて分かったのだけれど、プリシラは本当に可愛らしい仕草を天然で執る娘だった。


 自虐的な部分がほゞ無くなった彼女は明るく、一生懸命で、相手の事を気に掛ける性格は、きっと殆どの男にとってツボに嵌るに違いない。しかも皆大好き巨乳さん。


 こんな優良物件を手放すパーティーがあったなんて、俺には信じられない程だった。

 少々詠唱をミスしたからってそれがどうしたというのか。


 そもそも狩りをする上での安全マージンの中に、詠唱ミスという項目を入れないで狩りプランを立てるパーティーリーダーが悪いとすら思うのに。


 とはいえまあ、だからこそ今一緒に俺と組んでくれているのだから、その人達にはありがとうと言うしかないけれど。


「という事はカズマさんが魔法を当てた後でわたしが魔法をあてればいいんですか?」


「そういう事だね。俺も今はINTを上げたいから」


「なるほどなるほど」


 納得をしたように頷きながらプリシラが返事を返した。


 ちなみに俺のレベルはここ3日上がっていない。まあ、プリシラ育成期間中なのだからしょうがないけれど、明日からはもしかしたら少しは上がるかもしれないなと。


 そう自分にも期待しつつ森の中を歩いて戻った。

 ついでに見つけた風属性のモアモア鳥の群を、プリシラが水魔法で無双しつつ。


 狩ろうかと言った時、属性が不利だから嫌がるかなと思ったけどそんな事も無く。


 そして属性が不利でも余裕なんだなと。即死して鳴かないからリンクもしないし。

 本人は結果にびっくりしていたけれど。


 それでもプリシラにとって、その結果は大いに励みになったに違いない。

 今日狩りを始めた時よりも、更に自信をもった表情を見せてくれた。


 この三日で彼女も強くなったものだ。

 いや、元々彼女はこれくらい出来て当然だったのかもしれないなと。





「お? 今日もしっかり狩りをしましたって顔だな。いい顔だ」


 そう気安く話しかけてきたのは、プリシラが死にかけた時に馬車で話をした獣人の冒険者で名前はオリヴァーさん。


 この人は3人で狩りをしているようで、その時同じように話しかけて来た弓師の女性と、あと一人聖職者の女性。名前はレイニーさんとマルタさん。レイニーさんが弓師でマルタさんが聖職者。


「はい! カズマさんのおかげです!」

「良かったわね、ふふふ」

「はい! えへへ」


 聖職者のマルタさんはプリシラと同い年くらいで恥ずかしがりやさんなのか、終始俯いたまま無言で、俺に話しかけてくれることはないけれど、弓師のレイニーさんと獣人のオリヴァーさんは、あれから会うたびに軽く話しかけてくれるようになった。


 特にプリシラはこちらの人だからか、死にかけた所を見られてしまったからか、かなり気安く話しかけられているし、マルタさんからも話しかけられているみたいで、プリシラも嬉しそうに話をしている。


 そのせいもあって、この三日間のプリシラは非常に機嫌が良いのだろう。


「オリヴァーさん達の方はどうです?」


「うーん……ホーンラビットやサザビーやウッドヴォルフは楽に狩れるようになったが、ワイルドボアはもう一息ってところだな。倒せなくはないが、回復でマルタに若干負担をかける」


 ウッドヴォルフを俺は見た事はないけれど、どうやら群れを成して行動をする狼のような犬のような魔獣らしい。


 森の中にある少し開けた場所を好む魔獣で、推奨レベルは10でそのサイズは大きく2m近くあるとか。だけど単体ならば割と弱いらしい。兎よりも弱い狼とか不思議過ぎる。


 弱いのに何故俺がウッドヴォルフを知らないかというと、理由は簡単。俺がソロだったから。


 単体ならば弱いとはいえ、最低でも番で行動をし、下手をすると10頭以上が集まって行動する事もあるそうで、更には連携をとる程に賢いらしく、ソロには大敵どころか聖職者が居ないパーティーでも敬遠するべきモンスター。なので俺が知る訳がない。


 肉は硬くて不味いから売れないけれど毛皮がそこそこの金額――1頭あたり銀貨2枚――で売れるから、支援付き初心者パーティーには人気があるモンスターだとか。


 もしかしたら今の俺ならソロでも無双できるかもしれないけれど、そもそも低レベルのアクティブモンスターなので、種族覚醒した個体が居ない限り、ウッドヴォルフの方がさっさと逃げるだろう。なので俺にはやっぱり全く縁が無いモンスターだ。


 そしてサザビーもパーティーに聖職者がいれば楽勝だ。

 なにせ舌が麻痺してもキュアーで治してもらえるし。


 そしてワイルドボアは倒せなくもないがもう少し足らない。その言葉通りならオリヴァーさん達は平均レベル18前後だろうか?


 とはいえオリヴァーさんのパーティーには貴重な支援職さんが居るのだから、狩りの安定度は段違いだろう。遠距離の弓師もいるし。


「オリヴァーが盾を買い替えれば済むわ」


「まあ、そうだな」


 オリヴァーさんの使っている盾は、丸いラウンドシールドという盾だ。 

 しかも体の大きさからすればかなり小さい。


 なのでレイニーさんが言ったように、盾をカイトシールドにでもすれば直ぐに問題は解決するような気もする。


「ヴァイス工房の盾でも買えれば余裕になるんだがな……」


 はて?どこかで聞いたことが有るような。

 っていうか、ヴァイス工房ってガニエさんのところじゃないか?


 俺はガニエさんとセルドさんしか鍛冶師を知らないんだから、きっとそうだろう。


「それはそうでしょうけど、高望みしても仕方がないじゃない」

「全くだ」


 やっぱり人気が高いんだな。

 そう思いつつ、


「でも、レイニーさんとマルタさんが居るから狩りそのものは安定ですね」


 素直な感想を口にすると、オリヴァーさんも大きく頷く。


「ああ、助かってる」


「そうよ? オリヴァーはマルタに感謝をしないとね? もちろん私も感謝してるけれど」


「っ……」


「ははは」


「相変わらずマルタは恥ずかしがりやね。でも狩りの時は人が変わったように頼りになるわ」


「――っ!?」


「そうだな。頼れる聖職者クレリックだ」


「―――っ!」


 二人に持ち上げられてマルタさんは恥ずかしそうに更に俯いた。


 普段から殆ど顔が見えないくらいに俯いている人なので、いったいどんな顔をしているのかすら分かりにくいけれど、チラッと見えた時の感想を言うならば、まあ可愛かった。

 

 いや、ほんと最近俺の周りに居る女性が美人や美少女すぎるものだから、一気に美のハードルがあがってしまった感がするからだけど、それを抜きにすれば普通に可愛らしい顔だったなと。因みにそこそこ有る。何が? さあ、何がでしょうね。


「わたしたちも聖職者さんが居るといいですよね?」


 オリヴァーさん達の会話を聞いていたプリシラがふとそう口にした。


「うーん……そりゃ居ればいいけどねえ……」


 その次の言葉が出てこない。


 能力的にはある程度出来るところまで来たけれど、まず間違いなく俺が転移者という部分がネックになる。


 プリシラが俺と組んでくれた事が奇跡だと思えるのに、引く手あまたの聖職者さんが、例え初心者だとは言え俺と組んでくれる筈も無い。


 その辺りがよく理解できない風のプリシラのようで、


「そうですかね? 初心者さんなら募集を掛ければ直ぐ来ていただける気がしますけど……」


 いやあ、無理だろ。

 プリシラだけならともかく俺が居れば無理だって。



 そんな感じで俺はプリシラとのパーティーを心から楽しんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ