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第73話 流しそうめん狩り

本日1話目です。

「では、俺のステータスを言います」


「あ、じゃあわたしのも」


「そうだな、お互いのステータスを知っておいた方がいいから――」


 森に入り、周りに誰も居なくなった頃合いを見計らって俺とプリシラはそう話した。


 どういう反応を示すかなー?なんて気楽に伝え始めたのだけれど、彼女にとっては予想外も甚だしかったらしく、顔だけを俺に向けたまま唖然としつつ歩いてしまったものだから、思いっきり木の根っこに躓いてズザーを盛大にかましてしまった。


 狩りをする前からダメージを負うなんてと本人は凹んでしまったけれど、やはりこの短期間でLv26は異常以外のなにものでもないんだなと、改めて思った。


 その後、下級治癒ポーションを飲みつつ復帰した時、また少しネガティブ思考が顔を覗かせて「わたしで本当にいいんでしょうか……」と自問自答を繰り返してしまったのは参った。


 良いからパーティーを組んで貰ってるんだし、やっぱりパーティーを組むなら可愛い女の子に限るんだから、プリシラたんで不味い筈も無いんですよ?


 なーんて事を言ったらセクハラになってしまいかねないので、口に何て出さなかったけれど。


 というか聞けば軽い男性恐怖症気味だったっぽいのに、俺に対してはそんな仕草は微塵も見せないプリシラは、もしかして俺を男だと思って居ないんじゃないだろうか?とすら思えて来る。

 もしもそうなら悲しい限りだな。などと思いつつ。


 そしてプリシラのステータスは俺の想像通りの数値で、Lvに対してINTが高めでAGIが低め、それからVITがやっぱり高かった。STRはまあ……。


 その時聞いた数値がこれ。

 加護はまだ聞いていない。



【プリシラ】

【ヒューム 15歳 Lv10】

ATK=12 MATK=68+13

STR=12 INT=68

AGI=28 DEX=42

VIT=46 

DEF=46+70 MDEF=68


 使える魔法は、風と水。

 見事に南西の森での狩りに不向きだった。

 そりゃ苦労もするよなと。



「大丈夫だって言われた理由がわかりました……」


 ようやく立ち直った感のプリシラがぼそっと呟いた。


「まあ、ギガスボアを倒した時でもLv19だったし」


 結局、加護の事は伝えなかった。


 プリシラに知られて困るものでは無いんだけど、仮に俺だけレベルが上がるのが早く、プリシラが相対的に遅れてしまうなら、彼女は知らない方がいいんじゃないかと。


 知ってしまうとプリシラの事だから、もっとレベルが離されて足手まといに……なんて言いかねないと思ったから。性格が似ている俺なら多分そう思うだろうと予想して。


 だから伝えなかったのだけれど、これにはもう一つ理由がある。

 あくまでも俺の妄想に近いけど、もしかして同じパーティーメンバーなら俺と同じ恩恵が受けられるんじゃないか?と。


 ゲーム脳も甚だしいけれど、俺の加護が切り替わった時の状況を思えば、あながち間違ってはいないような気もする。


 だから、その結果が確信出来たら伝えようと思った。同じように必要経験値が下がるのか、そうじゃないか。


 どちらにしてもいつかは伝えるつもりなので、数日間の様子見だ。


「というわけで、まずは小手調べと行こうか」


「は、はい!ホーンラビットですね?」


「そう。ホーンラビットは俺が近くに寄ってしまうと逃げてしまうから、俺は一切攻撃しない」


「はぁ……という事はわたしが全部?」


 若干彼女の顔が引き攣っている。

 そりゃまあそうだろう。


「説明が足らなかった。ごめん」


「い、いえ……」


「最初に攻撃をしない。それで、プリシラの魔法が当たれば当然プリシラを狙って飛び跳ねてくるんで、そこを俺が横合いから切り捨てる。だからプリシラは、なるべく遠くから魔法を撃ってくれればいい」


 咄嗟に名付けた名前は、流しそうめん狩り。口には出さないけど。

 ただ、プリシラは不安な表情を見せる。


「だ、大丈夫でしょうか?」


「俺の方は全然余裕で止めを刺せるし、プリシラも魔法の失敗を気にする必要が無いから、これが一番良いんじゃないかな」


「そ、そうですよね。カズマさんってレベル26ですもんね」


 ここで俺のレベルを知って居なければ、きっと抗い様の無い不安に駆られてしまっていただろう。


 だけどレベルを知ったからか、そこまで怯える事もなく。

 表情を見ても不安そうな顔が消えて、よしっ!と小さく気合を入れて居る程だった。





「では!行きます!」

「はいよー」


 森に入って30分あまり。

 今日は運よく早めに角兎ホーンラビットを見つける事が出来た。

 サーチのスキルのおかげなんだけど。


 プリシラとホーンラビットとの距離は約30m。

 俺はその間、プリシラ寄りに立って彼女が魔法を撃つのを待っている状態。


 ホーンラビットは俺とプリシラを交互に見やりながら警戒をしている。


 魔法の射程距離は、見える範囲ならば遠く離れていても撃つことは出来る。

 あとはDEXの値によって命中率が変わって来るのだけれど、距離30mくらいなら余程の事が無い限り魔法は当たる。


 スッと姿勢を正し、一瞬だけ目を瞑りプリシラは精神を統一する。

 そして小さく長く息を吐き、杖を前方へ掲げ、瞼を開けて小声で呪文の詠唱を開始した。


「――ウォーターブレード!」


……

………


 しーーん……。


「あ……」


 どうやら失敗したようだ。

 こちらを見ていたホーンラビットは、煽る様に小首を傾げた。

 

 さてここで問題です。

 俺が執るべき選択とは何か。


 慰める。

 もしくは事務的に言う。

 もしくは叱責する。

 もしくは知らん顔する。


 なんて思う暇が有ったら、さっさともう一度撃ってもらうように促そう。


「大丈夫、落ち着いて、何度でも失敗していいから」


 彼女は自身が詠唱を失敗したことに、更に焦りのようなものが見える。

 顔を青ざめさせ、小さな体がカタカタと震えている。

 だから、ちゃんとプリシラの目を見てそう告げた。

 負の連鎖に陥らないように。


 すると強張った表情が少しだけ緩和されたような。


「す、すみません!次は必ず!」


「いいよ。どんどん失敗していいからさ」


「ありがとうございます……」


 少し涙目になっているようだけれど、きっと大丈夫だ。


「では、いきます!」

「はいよー」


「命の源である水の精霊ウンディーネよ、我に力を与え、刃となりて切り刻め――」


 お、今度はよさげ?

 そう思って居ると。


「――ウォーターブレード!!」


 呪文の詠唱をしている間、ぐるぐると回っていた赤い魔法陣が消えた瞬間に、プリシラのワンドの先で具現化された水の刃が勢いよく射出され、そしてそのまま一直線に角兎の頭へと吸い込まれるように命中を果たした。


「ギピャアアアア!」

「よし!」


 あとは俺の仕事だ。


 ダメージを受けたホーンラビットは、怒り狂い暴れるようにプリシラへと飛び跳ねて行く。


 失敗は許されない。もしも失敗してしまったら、彼女は恐怖で今後この戦法を執る事はかなわないだろう。


 プレッシャーが俺を襲って来るけれど、これくらいギガスボアに比べたらどうってことない。


 俺は肩の力をスッと抜き、タイミングを見計らいながら、剣に力を込めて――


「今ッ!」


 高速で目の前を飛び跳ねて行く兎の首目掛けてブロードソードを振り下ろす!


 肉に食い込む感触と共に、剣先がプリシラの方に若干流れたけれど、それでも最後まで振り切れば、空中で首と胴が切り離され、ホーンラビットはプリシラの前に落ちて惰性で転がった。


 そして彼女に届くことなく止まる。


 プリシラはその様子を若干固まった状態でジッと目で追っているけれど、恐怖で顔が引き攣っている様子は無かった。


 それはヘルミーナさんに売って貰った、防具の性能によるものかもしれない。

 なにせ今のプリシラの装備は、俺の皮の防具よりもDEF値が高いのだから。


 そして現状を理解した彼女は、


「や、や、やりました!カズマさん!」


「おめでとう!やったな!」


「はい! はい!」


 その場でぴょんぴょん飛び跳ねながら喜びを表現するプリシラを見ていると、たったの1匹なのになんて微塵も思うどころか、これが二人の第一歩だなと。


 そう思いながら俺は笑顔で告げる。


「始まったんだ。俺とプリシラの冒険がね」


 それは、この先どんなことがあってもずっと忘れないでいよう。


 そう思いを込めて伝えた。

 それを受けたプリシラは、飛び跳ねるのをやめ、そして小さく俯いたかと思えば――


「ぅぅ……ぐすっ……ぅ……ぁぁ……」


 突然の事に焦る。

 何故かは分からないけれど、突然プリシラが涙を流し始めたから。


「ど、どうした?」


「ひぐっ……ぐずっ……ごめ……ひぐっ……なさい……うっぐっ……」


 女の子座りで地面にペタンと腰を落とした彼女は顔を覆って泣いている。

 俺はゆっくりと彼女に近寄り、彼女に合わせて腰を下ろす。


 きっと安心して、嬉しくて泣いているのだろう。

 決して悔しくて泣いているわけでは無い事くらい俺にでも分かる。


 そう思うと俺も何故か自分の事の様に嬉しさが込み上げる。


 失敗して、パーティーを追い出されて。

 しかもその時彼女はただパーティーを追い出された訳では無いだろう。

 きっと罵詈雑言の一つや二つは浴びせられたに違いない。


 昨日の晩、エミリアさんがこっそり俺に教えてくれた話を思い出す。


 性奴隷のような扱いを受ける事を条件に、パーティーに在籍させてもらっている女性冒険者の話。

 飽きたら無理やり魔物の盾にさせられて、捨てられる女性冒険者も居ると。


 転移者パーティーよりも、よほどに酷いのがこちらの人の中級パーティーなんだと。


 それを聞いた時、俺は無性にやるせない思いをしたけれど、もしかしたらプリシラも同じような目に逢いそうになった事があるのかもしれない。


 でも、耐えて、がんばって今日まで来た。


 この世界はやっぱり過酷だ。


 俺はまだ短い期間だったしエミリアさん達がいたから良いけれど、彼女は一人で何か月もそんな時期を過ごしたんだと思えば思う程に、よくがんばって来たなと。


 そう思うと、どうしようもない気持ちが俺を覆い、不意に彼女の薄ピンクの柔らかい髪に手を自然と伸ばし、よしよしといった具合に優しく撫でた。


 ほぼ無意識でとった行動なのだけれど、彼女も嫌がるでもなく自然と受け入れてくれたようで、そのまま少しの間、俺に撫でられ続けていてくれた。



 落ち着いたプリシラは、顔が茹蛸のように真っ赤っかだった。


 何に対して顔を赤くしているのだろうかと最初は思ったけれど、それはきっと俺が頭をなでなでしたからに違いないと分かり、何気にとんでもない事をしでかしたと激しく後悔した。


「ご、ごめん……つい」


「い、い、いえ……だいじょうぶです……」


 大丈夫じゃないだろ!その表情は!


 今プリシラは俺から飛び退いて、3m離れた場所に座って横を向いて俯いて目を合わせてくれない。


 軽い男性恐怖症だと告白されていたのに、俺はなんてことをしでかしてしまったのか。


 俺は俺で何気によしよしなんて義妹くらいにしかしたことが無いし、しかも5年くらい前のような気もするしで、俺の方も盛大に戸惑っている。


 そしてしばしの沈黙の後。

 

「あ、あの……」

「はい……」


 ありていに言えば、判決を待つ被告人の気分だ。

 俺はゴクリと唾を嚥下する。

 そして、更なる沈黙の後。


「嬉しかった、です……その、なでなで……」


 俯いたままのプリシラが、そう小さく呟いた。


 聞き間違いかと思ったけれど、彼女の横顔は嫌そうな表情では無く、少しはにかんだような表情だった。


 エ、エミリア先生!どうやら俺は無罪を勝ち取ったようです!!


 何故ここでエミリアさんなのかは置いといて、非難をされる訳ではないと知り、心の中で盛大に安堵した。


「あの、またしてもらえるように頑張ります!」

「ハハハ……そ、それくらいでいいならいつでも」


「駄目です!ご褒美なので!」


 いつからご褒美になったんだ!


「あ、そう……」

「はい!」


 まあ、そう言うならそれでいいか。

 精神的にどっと疲れた俺は、それ以上深く考えないことにした。





 ひと悶着あった後、俺らは次なるホーンラビットを探して探索を再開した。


 その間に聞いた話では、どうやら彼女はホーンラビットを見つけては、いつもルートを迂回して探索を行って居たらしい。


 何気にこの南西の森で一番多いのは、ホーンラビットかウッドヴォルフという森狼だったりするらしく、やたらと遭遇率は高い。


 ウッドヴォルフの生息域は少し南なので、この場には現れないし俺も見た事はないけれど、その分ホーンラビットは頻繁に見かける。


 俺は知らなかったのだけれど、冒険者の間ではこの森の事を”兎の森”と言っているくらいホーンラビットが多い。


 それがプリシラのレベルアップを遅らせた一番の理由だった。

 

 兎を見つけては大回りに迂回をし、エスカルゴを見つけて漸く狩れると思って居ると、失敗をして酷い目に逢う。


 それを何度も繰り返していたし、その影響から1日彷徨って1匹も狩れない日も普通にあったとか。


「パーティーっていいですね……」


 彼女がぼそっと口にしたその言葉は、つい先日俺がエミリア師匠に向けて口にした言葉と同じだった。


「うん、いいよね」


 でも、俺が思った時とは状況は違って、羨ましいという意味では無く。


「カズマさんに出会えて、パーティーに誘ってもらえて良かったです、わたし」


 屈託なく、でも少し恥ずかしそうにそう言った彼女は輝いて見えた。


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