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第72話 ドMレズ梨奈

本日3話目です。

 ルート馬車に乗って揺られている最中、プリシラはご満悦の表情で景色を眺めたりしていた。


 聞けばここ数カ月の間、景色を楽しむ余裕なんて無かったのだと。


「なんだか生まれ変われたみたいです」


 嬉しそうにそう口にしつつ、前にいる絵梨奈さんと色々会話を弾ませている。


「あたしもここ数日前くらいから余裕が出てきたわ」

「だね、盾の扱いも慣れてきたし。盾っていいよ、しかも今日から凄い盾だからね」


 大の大人がカイトシールドに頬擦りしている姿は、なんていうか、言っては悪いけど気持ち悪い。


「尚樹さんが頑張ってくれるから俺も凄く楽にダメージを入れられる。この武器もあるし」


「あたしも早くこの武器を試したいわ」


 絵梨奈さんも田所さんも新しく新調した武器や防具にご満悦らしく、三人とも昨日から頬が緩みっぱなしだ。


「インナーもすっごく着心地が良いし、形も気に入ったわ」


「ちょっとえっちですけどね」


 少し頬をそめつつそう口にしたプリシラたん。

 ちょっとどころかめちゃくちゃえっちだったですよ。


 色が白なんで大事なところが透けてるんじゃないですかね?

 わかっちゃいけない胸の一部分の形も分かってしまったし。

 そう思いつつ俺もプリシラたんの意見に同意する。


「まあ、確かにえっちでしたね」


「えー……そこが良いんじゃない? でも凄いわよね、こんなに大きいのにいくら飛び跳ねてもズレなかったものね!」


 そう言いつつ、ニヤリと顔を歪めた絵梨奈さんは、にゅっと手を伸ばして、あろうことかプリシラたんのおっぱいを鷲掴みにして揉みしだいた。


 凄い勢いで形を変えるおっぱい。

 夢に出てきそうだ。


「ちょっ……ん……だ、だめです……え、エリナさん……ん……」

「ほれほれっ……あーー、やあらかいのぉ。お餅みたいだわぁ」


 これってなんだろか?

 どう突っ込めばいいのだろうか?

 それとも見ないふりをした方が良いのだろうか?いいんだろうな――。


 でも眼球が動かないんですよ、ごめんなプリシラたん。


 俺の目の前で繰り広げられる痴態に思わず鼻血が出そうになった。

 そう言えば絵梨奈さんってちょいレズ入ってるってカミングアウトされてたなー。


 そんな風に考えつつしばし固まっていると、助けてくださいと俺に送って来るプリシラたんの視線に漸く気付く。


「あー、絵梨奈さん?そろそろ……」


 見れば馬車に乗っている結構な人が俺らを……というかプリシラたんと絵梨奈さんを凝視していた。


 女性も凝視していたのだから、それだけ凄いという事なのだろうけれど、流石に悪戯が過ぎる。っていうか仲良くなって直ぐにコレかよ。


「なになに?一眞も触りたいの?でもまだとうぶん駄目よ?」


 まるで自分のおっぱいだと言いたいかのように、プリシラの胸を絵梨奈さんは隠す。


 ぜんっぜん隠れていないけどね!

 というか!


「違います!それに絵梨奈さんもいい加減に大きいじゃないですか」

「そ、そうですよぉ……」

「へ?……そ、そんな事ないわよ!?」


 いや、そんな事あると思います。

 今更胸を手で隠しても無意味です。

 プリシラも同意をしつつ非難の視線で絵梨奈さんを見やる。


「絵梨奈のサイズは確か93センチだったな」

「なんっっっで蓮司が知ってるのよ!」


 いきなりの暴露に絵梨奈さんは更に焦る。

 だけど田所さんはシレっとした表情を崩さない。


「お前自分で言ってたじゃないか。エミリアさんの胸は93センチのあたしよりおっきいってな」


「ぅ……独り言のつもりだったのに……」


 なんの話をしているのか……。

 確かにエミリアさんの胸は絵梨奈さんよりも大きいけど。


 というか絵梨奈さんは人からの攻めにとことん弱いな。

 そう思って居たら盾に頬擦りしていた相馬さんが溜息を吐く。


「はぁ~……那智は本当に駄目だなあ」


 俺から言わせればどっちも大概だと思いますけどね!


「あれだ、エロ奈じゃかわいそうだから、レズ梨奈とこれからは呼んでやるよ」


「いいですねソレ」


「ひっど! 三人もしっかり見てたじゃない!」


 はい、見てました。

 田所さんも同じく。


「う、うむ、まあな」


「僕は自分の盾に酔いしれていただけだけど?」


「うわ尚樹さん酷い。自分だけ逃げた」


「いや、本当だよ?」


 確かに相馬さんは殆ど見ていなかった気がする。


「でもカズマさんは、ちゃんと助けてくれました」


「ハハハ……ハハ」


 散々見た挙句だけどね。


「でも、良いんです。えっちなのはちょっと困りますけど、エリナさんも嫌がらせでそうやっている訳ではないと解ってますから。えっと、スキンシップ、ですよね?」


 あぁ、ええこや……。


 未だ顔が真っ赤だけど、別に怒っている訳ではなさそうなプリシラ。

 絵梨奈さんはその言葉で、キラキラと瞳を輝かせながらコクコクと頷いた。


「まあ、今度同じ事やられたら我慢せずにやり返してやればいい」


 そう田所さんが助言をした。

 すると絵梨奈さんはケロッとした表情をみせつつ、


「ん?それご褒美かもよ?あたし基本ドMだし」


 美人の絵梨奈さんはあっさりとカミングアウトを果たした。

 非常に満足をした顔を見せている。


 駄目だこの人。


「ほんっと絵梨奈はダメだな」


「駄目ですね……」


 思わず俺も田所さんのジト目と発言に便乗してしまった。



 その後少しの間、田所さんと絵梨奈さんのコントのような言い合いは続き、プリシラも落ち着いた頃。


 いつまで経っても盾をスリスリしている気持ち悪い相馬さんを見かねたのか、絵梨奈さんが苦笑いを見せつつ言う。


「そんなに気に入ったの?その盾」


「うん、昨晩は一緒に寝た」


 真顔で言われたその言葉に一同ドンびいた。

 獣人のオリヴァーさん達こちらの人も含めて。


 やっぱりまともな人間は転移してこないのか?まともなのは伊織ちゃんくらいじゃないか?天地も変な嗜好を持ってるって聞いたし。内容は知らないけど。


 ほんと頼むよアーティファクト……。


 でもまあ喜ぶのも分からなくもない。若干行き過ぎている気はするけど。


 というのも、何気に相馬さんと田所さんは、昨日ガニエさんの所へ行った結果、ガニエさん作の装備を売って貰えたらしく、さらに今後も修理は勿論の事、売っても貰える事になったらしい。


 詳しくは聞いていないんだけれど、その時に何か事件があったらしく、どんな事件?と聞いたのだけれど、田所さんが「行ってみればわかる。あ、もしかしたら向こうから来るかもしれない」などと意味不明な発言を繰り返すだけだった。


 向こうから来るって誰がくるのだろうか?と思うところだけど、相馬さんからも「僕らが言わない方が良いと思う」とか言われてしまっては引き下がるしか無かった。


 でもまあ、天地も含めて武器と防具を作って貰える事になったのだから、それはもう大喜びだったわけで。


 特に天地は余りに嬉し過ぎたらしく、久々にべろんべろんに酔っぱらっていた。

 俺も伊織ちゃんも放置をして先に寝たけど。


 ちなみに、酒に酔った奴に対しても万能薬や聖職者が使えるキュアという魔法は効果が有るけれど、好きで酔っている人間に対しては放置がマナーなんだそうだ。勝手に酔いを醒ませば怒られてしまう事があるかららしい。


 気分よく酔ってんのに何してくれんだと。そのくせ次の日に酷い二日酔いで気持ちが悪いとキュアーをかけろと言うのだから、ほんと我が儘な奴が多いなと。


 とはいえ昨日の天地も相当に酔っぱらっていて、『司馬!ありがとな!お前のおかげだ!ほんっとありがとうな!』などと泣きながら言うもんだから、本当に何があったのか。俺なんにもしてないのに。


 でもまあ、プリシラや伊織ちゃんや絵梨奈さんのようにお友達価格なんて事もなく、定価で買ったらしいけど。


 それでも十分だと涙ながらに言っていたから、まあ、いいかなと。


 トリップしている相馬さんを見ながらそんな事を思い出していると、ふいにプリシラたんがこちらを見ていた。


 どうしたんだろうか?


「どうした?」


 すると、いきなりニマァと笑う。


 なにそれ?

 意味がわからないんだけど。


「ど、どうしました?プリシラさん」


 焦りつつ思わず敬語で再度聞いたところ。


「いえ、すっごく楽しみで、ついつい頬が緩んでしまうだけです。えへへへ」


 ……可愛い。

 俺なんかと組んでくれる事で、ここまで喜んでもらえるなんて。


「それは俺の台詞だよ」


 本当にそれは俺の台詞だ。

 そう思って居たら絵梨奈さんが。


「ねえねえ二人とも、狩りの分配とかは話し合ったの?」


「っと、そう言えばまだ狩りの分配について話し合って無かったね」


「あ、そうですね。どうします?」


 丁度いい、俺のステータスを教える前に決めてしまえ。

 ナイスだよ絵梨奈さん。

 俺にニヤリ顔を向けられた絵梨奈さんは、意味が分からずきょとんとしたけれど。


「まず、倒したモンスターは基本的に全部換金で、当面の間は半々にしようか」


「え?それじゃあカズマさんが損をします。レベルも……どれくらいかは知らないですけど違うのに」


 ほらやっぱり。さっそく躓いた。

 予想通り過ぎて苦笑いが出そうになるけど、ここは一気に通す。


「駄目駄目、プリシラはヘルミーナさんに借金があるし、リュミさんにも回復剤を融通してもらったんだから」


「あう……」


 痛いところを敢えて突いた。

 しょぼくれさせてしまったけれど、悪気はないんだよ俺は。


「それに、俺らは対等なんだから、どちらかが失敗とかしてもそれは変わらない、だろ?」


「はい……」


「それじゃあレベル差が有っても対等なのは変わりは無いって事だよね?」


「あぅぅぅ……」


 困った表情を見せつつ唸りだした。

 小動物っぽくて本当に可愛いけど、俺は容赦しない。

 そう思って畳みかけようとしたら、思わぬ反撃を。


「あ、ではこうしましょう、気持ちの上では対等で、お金はカズマさんが多く持って行ってください!」


 なんだそれ?

 妙案だといった表情を彼女は見せるけれど、全く意味が分からない。

 そう思って居たら案の定突っ込みが。


「そんなダブルスタンダードは良くないぞ」


「あうぅぅ」


 田所さんに突っ込みを入れられて、瞬時にしょぼくれた。


「まあ、あれだよ。プリシラちゃんの気持ちは分かるけど、今は司馬君に甘えておいた方がいいんじゃないかな? それでプリシラちゃんのレベルがあがって、装備もそろって、結果的に助かるのは司馬君なんだからね。パーティーっていうのは、そうやって持ちつ持たれつの関係なんじゃないかなって僕は思うよ」


 今度は相馬さんが優しく諭すように言った。

 流石元営業マン。話し方が上手い。

 それに俺も便乗する。


「俺もそうして欲しいかな」


 プリシラは言葉をもらった人の顔を順番に見て、最後に俺を見た。


「では、お言葉に甘えます……」


「そうそう、甘えちゃえ甘えちゃえ。一眞はそういうの好きだと思うしね」


 何故貴方は知っているんだ。

 確かに義妹から甘えられると非常に嬉しかったけど。


 そしてプリシラは俺の表情を探るように見やりながら言う。


「そうなんですか?」


「あー、なんで絵梨奈さんが知ってるのか分かんないけど、実はそうなんだよね」


「顔に書いてあるもの」


 そう言われて思わず顔をぺたぺたと触ってしまった。

 その事がおかしかったのか、


「ふふふ、カズマさんって面白いです」


 面白い言われてしまった。

 笑わせたつもりは毛頭ないんだけれど。



 それからは左程もめる事も無く色々決める事が出来た。


 欲しい素材があったら遠慮なく言う事と、体調が悪い時や休みたい時は無理をせずに言う事。それから5日に1度くらいの頻度でスラム街の子供達に支援をしている事も伝え、出来れば今後も続けたいんだけどとお願いをした。


 それを聞いたプリシラがその事に感激をしつつ無条件で賛成してくれ、ヘルミーナさん達にも魔獣や薬草をたまに卸す事も賛成してくれた。勿論エミリアさんへの指導報酬の件も。


 あとは、パーティーとして落ち着いたら狩りの収入の50%を共同資産にして、そこから修理代やポーション代を捻出するという話まですることが出来た。


 あとはパーティーを続けて行って、その都度変更なりをすればいい。

 もしかしたらパーティーメンバーも増えるかもしれないし。


 そう二人での話し合いは纏った。



「なんだかパーティーって感じがします」


 話が終わり一段落した時だった。

 ほぅっと小さく息を吐きながらそうプリシラは呟いた。


 気になって表情をみてみるけど……。よかった。嬉しそうな表情のままだ。

 ただ、気になった事も一つ。


「今まではどうしてた? たまにパーティーに入れて貰っていたって言ってたけど」


 まさかまともに分配して貰えなかったとかは無いよな?


「今までは……お試しという名目で殆ど貰えませんでした……」


 そのまさかだった。


「あらま……」

「あらら……」


 相馬さんと絵梨奈さんは何とも言えないような表情を見せた。


「よくある事なんですけどね」


 困ったような笑い顔を見せつつそう言ったプリシラ。いわば諦めのような表情に見えたのだけれど、彼女がそれによって苦労をして来たのは事実だろう。


「そうだね、僕もちょっと前に聞いたけど、そうやって初心者から搾取をする青銅ブロンズスチールランクのパーティーもいるみたいだよ」


「そうみたいですね……」


 相馬さんの言葉に重い気持ちになる。


 俺もエミリアさんに少し聞いたけれど、彼女がこの場にいたら、きっともっと冒険者の生々しい内情を教えてくれたに違いない。

 

「仕方がないんですけどね、大して役に立てませんし」


 そういう問題じゃないだろうに。


「でもま、プリシラちゃんはもうそんな心配は無用なんだしね、これからは一眞と一緒だし、楽しい事ばかりよ」


「はい!わたしもそう思います!」


 絵梨奈さんの言葉にプリシラは大きく頷く。


 この娘は表情が非常に豊かだ。

 悲しい時は悲しい表情を見せ、怒った時は怒った表情をみせ、嬉しい時は本当に嬉しそうな表情をみせてくれる。


 だからこれからは、嬉しそうな表情を沢山見せて貰えるように俺も頑張らねば。


 あと少しで到着する馬車の中で、そんな風に思って居た。

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