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第71話 新たな出発

本日2話目です。


新仕様

 ・同じ物だとしても重ねて入れられない。同じ種類の魔獣だとしても重ならず、100セルのマジックポーチなら100個まで。

 ・口を締められるズタ袋などに小物を纏めて入れてしまえば、袋1個とみなされる(但し、袋の中身は時間停止の概念が解除される)

 ・マジックポーチの総重量制限。所持者のSTR値+INT値+AGI値+DEX値+VIT値×10kg。


「それでは、ギルドカードの提示をお願いします」


 そう事務的にエミリアさんは俺に伝える。

 とはいえ彼女はいつでも敬語なんだけれど。


 因みにプリシラはパーティー登録を済ませた後、依頼ボードを真剣な表情で眺めている。


「はい」


 俺はエミリアさんに言われるがまま、首にぶら下げているドッグダッグのようなギルドカードを外して渡す。

 すると彼女はそのカードを石板の上に置き、それとは別の青銅色をしたカードを取り出して、同じように石板の上に置いた。


「ではカズマ=シバさんの、カッパーから青銅ブロンズランクへの冒険者ランク昇格を承認します。お手数ですが、シバさんは青銅色のカードの上に手を翳してください」


「はい」


 そう定型句を口にしつつ、俺がカードに手を翳したのを見やったエミリアさんは、小さく呪文のような言葉を呟き、中空を操作するような仕草をとって俺のギルドカードを登録してくれた。


「はい、カードへの魔力接続は完了しました。では後の作業は私が行います」


 そう言ってエミリアさんはカッパーカードに手を翳し、呪文を呟く。そして翳した手をそのままスライドする感じで青銅ブロンズカードに持っていき、更にそこでもう一度呪文を呟いた。


 どうやらカッパーカードの情報を、青銅ブロンズカードに移動させたらしい。


「無事終わりました。今日からカズマ=シバさんは、青銅ブロンズランク冒険者になります。今後も帝国、並びに冒険者ギルドの為に、そしてこの大陸に暮らす人々の安全の為に、更なるご活躍を期待しています」


 どうやらこれも定型句のようだ。

 なんだか表情が不自然に歪んでいる。まるでむず痒さを堪えているかのように。


「がんばります」


 昇格完了に合わせて、プリシラが依頼板からパタパタと駆け寄る。

 そして小さく手を叩きながらお祝いを口にする。


「おめでとうございます! カズマさん!」

「ありがと」


 二人に祝福されつつ青銅色をしたギルドカードを受け取る。


 先ほどパーティーを登録した時程の感慨は湧かなかったけれど、やはりランクが上がるのは嬉しい。

 ニマニマと頬が緩んでくる俺を、エミリアさんは小さく微笑みながら、


「これで護衛依頼とゴブリン討伐依頼を受ける事が出来ますけれど、まずはプリシラさんのレベル上げですよね?」


「はい、とりあえずは6日くらい南西の森へ行く予定です」


「わかりました。では指導日はどうしましょう?」


「キリが良いところまでは南西の森で狩りをすると思うんで、もしかしたらもう少し後になるかもしれません」


「あ、有難うございます。すみません……」


 俺はすっかり慣れてしまって居るけど、プリシラはそんな事も無いので、エミリアさんが指導をしてくれると言われて恐縮しきりな表情だ。


「でしたら、北西の森に行く二日前にでも言ってくださいね。それに合わせてお休みをとりますから」


「そうですね、申し訳ないんですけどお願いします」


「いえいえ。最初は私が案内をしたほうが良いでしょうし」

「え、え?」


 もちろん非常に助かる。

 いささか過保護すぎじゃないか?と思わなくも無いけれど。


 そして俺とエミリアさんの会話を聞いていたプリシラは、会話の内容に疑問を覚えたらしい。


「え? えと……あれ? な、7日目に北西の森です……か?」


 どうやら7日目に西の森へ行くという内容が、彼女を動揺させているようだ。


「一応そう考えてる。まあ、途中で雨が降るかもだし、疲れたら休みにするだろうから予定通りにいかないかもだけど、とりあえず森へ入ったら狩り方の説明をするよ」


「はあ……はい」


 ゲームで培った狩りの方法が通用するかは分からないけど、とにかく試してみよう。


 ぽけーっと俺を眺めているプリシラを見やりながら、エミリアさんも嬉しそうに、


「大丈夫ですよ。南西の森でしたら最奥まで行かなければ、カズマさんの力量ですと十分ソロでもやって行けますし、どのような狩り方法かは知りませんけど、きっとプリシラさんの為になると思います」


「あ、はい!」


 そう言えば良い依頼はあったのだろうか?


「依頼ボードに良い依頼あった?」


「いえ……やっぱりボードには難しい依頼や護衛依頼と、あとゴブリンの討伐依頼しかありませんでした」


 まあ、そうだろうな。って、ゴブリンの依頼はあまり張り出されないのにどうしたんだ?


「ゴブリンの依頼が出ているのって珍しくないです?」


 その質問にエミリアさんの表情が若干曇る。


「実はここ最近、ゴブリンの出没報告がかなりの数上がっているんです。カルデラ外ですけれど……」


「あらー……」


 ゴブリンやオークはシルバーランク以上のレギオンに依頼を掛けて率先して狩らせている。


 なのでカルデラ外側の町や村も、ゼロではないにしろレギオン依頼だけでも十分対処出来ていた筈なのに。


「それにオークも最近は増加傾向にありますね。まだレギオン依頼で対処は出来ていますけれど」


 ふむ……。


 とはいってもシルバーランクのレギオンに所属していない俺らは、オークの討伐依頼はゴブリンの討伐依頼をある程度達成してからでなければ受けられないし、そもそもプリシラがカッパーの時点で受けられない。


 だけどゴブリンか……。

 少し気に留めておこう。


「一先ずはプリシラのランクアップだね」

「はい!」


 そう言いつつ俺も依頼ボードの方へ目を向けた。


 ボードは結構な大きさなのだけれど、いちいち低級依頼などを張り付けていたらスペースが幾つあっても足りないし、そもそも低級魔獣の肉を買い取る依頼なんて年がら年中出ている『恒常依頼』なのだから、ボードに張り出される程じゃないし。


 恒常依頼は別に受けても受けなくても問題は無い。多少ゴルドの入りが増減するだけだし。


 しかも、持って居る魔獣を全て売りたいのに端数が残るとか、キリのいい数字に揃えなければならないという煩わしさがあるので、案外と受ける人は少なかったりする。


 とはいえじゃあセリに出すかとなると、今度は混雑を避けて売らなきゃ、下手をすれば2時間くらい待つ羽目にもなってしまう。


 場所は広く、商人の数も大勢いるのだけれど、夕方の6時前なんてセリ場も滅茶苦茶混んでるし、朝の7時や8時もイモ洗い場かと思う程混んでいる。


 なのでセリ場で売るときは、溜めて溜めて休みの日に売ったりするのが常識だったりする。

 勿論、俺はソロで総重量の問題があったので、ほぼ毎日夕方に売っていたけれど。恒常依頼をその都度受けて。


 そしてパーティーを組んでからも結局は同じ。

 今はプリシラの所持金という問題もあるので当分はこまめに売る事になるだろうとなり、結局、俺らは最初に依頼を受けて置いて、多く狩った時は依頼の後受注という方法を執る事にした。


 そうすれば狩る数の計算もしやすいし、納品依頼だから待つ必要もなくギルド員に渡すだけなので。どのみち端数はラピスちゃん達に渡すし。


 あ、そう言えばラピスちゃん達に渡すかどうかの話を後でプリシラとしなきゃ。

 あと、いい加減宿屋の女将さんにも魔獣の肉を卸さなきゃ。

 まあ、それは俺の取り分の中からでいいか。


 そういえば、エミリアさんの指導時に関しても。


 勝手に俺が決めるのは違うし。

 なんてったって相棒なんだから。


 そう、相棒だ。

 改めてそう思えば顔がにへらと綻ぶ。きっと今の俺の顔は気持ち悪い事に成っているに違いない。


 エミリアさんは、そんな俺の気持ち悪い顔などスルーをしてくれるようで、何事もないかのように提案をする。


「では私が見繕いましょうか?」

「お願いします」


 ここはエミリアさんに任せてしまうが正しい。

 俺の言葉を聞いた彼女は直ぐに後ろの棚から紙を何枚か取り出し、俺達の前に並べてくれた。


「一応、ファブリ以外のモンスター納品依頼は有りますけど、今日は何を狩る予定です?」


「安全を考えて最初は角兎ホーンラビットからかなと。ちょっと確認したい事もありますし」


「確認……なるほど、わかりました」


 エミリアさんは、俺の言葉だけで考えていることが分かったらしい。

 相変わらず勘が鋭いな。隠し事なんて出来ないじゃないか。するつもりもないけど。


 そして俺らが受けられる依頼が無いかを探し、結局は角兎ホーンラビット5羽を捕って来る依頼と、ワイルドボアを3匹捕って来る依頼を受ける事にした。


 グリーンフロッグの依頼もあったけど、当然の様に二人はスルーをする。


「ふむふむ……水属性魔法は土属性に対して属性倍率は等倍ですが、止めはカズマさんがなさるのでしょうから大丈夫でしょう」


 属性倍率とは、使用する魔法の属性が対象にどれだけのダメージを与えられるかという指針らしい。


 有利な属性、例えば土属性のモンスターに対して火属性の魔法を使用すれば多大なダメージ、それこそ倍以上のダメージを与えられるけれど、無属性モンスターや有利でもなく不利でもない属性のモンスター相手ならばINT+魔力分のダメージしか与えられない。


 更に言えば不利属性だとダメージを殆ど与えられないらしいし、同一属性だとダメージ自体が通らないばかりか、モンスターによっては吸収して活性化してしまう可能性すらある。恐ろしい。


「それに、装備も一通りそろって居ますしね」


「はい!」


 エミリアさんにそう言われ、この上なく嬉しそうに頷いたプリシラ。


 昨日の昼過ぎに、伊織ちゃんたちと一緒に”ヘルリュミのお店”へ行ったのだけれど、プリシラは俺の初めての相方という事もあったのか姉妹に大層気に入られてしまい、あれよあれよというまにローブなどを勝手に着せられてしまった。


 内容は、体の線が割と出るロングのマジシャンローブと、伸縮性が非常に高くて生地も薄い女性用のインナー(ぶっちゃけハイレグレオタードでトップはハーフカップのストラップレス)と、スウェード素材のお洒落なショートブーツと、肘も隠れるアームカバー。当然全て魔法装具だった。


 なので今の彼女はしっかりとした魔術師の恰好をしている。とはいえヘルミーナさんのような露出度の高いローブではなく、フードのついた一般的な魔術師用ローブだけれど。色も紺色だし。……中に着ているインナーは凄くえっちだけど。


 とはいえプリシラの所持金はその時3万ゴルド。

 合計すると仲間価格ですら金貨3枚はするような金額の品など到底買えるわけもなく、さてどうしようかなと思っていたのだけれど、やはりというかまあ、そうだろうなと甘やかしが発動した。


 ヘルミーナさんは、なんとそれをプレゼントすると言った。


 俺は別に自分の事ではないので、いいぞいいぞもっとやれと思って見ていたのだけれど、やはり流石にプリシラからしてみれば許容できるような金額ではなかったらしく、彼女が激しく抵抗を見せてしまったので、結局はツケという事で収まった。


 なのでプリシラはヘルミーナさんに借金が金貨3枚ある状態だ。

 まあ、その程度なら直ぐに返せるだろう。


 ちなみに伊織ちゃんと絵梨奈さんも、有難い事に仲間価格になっていた。仲間だと思ってくれるならその方が俺としても嬉しいし。


 そして絵梨奈さんはあまりお金が無いと言っていたのだけれど、案外と溜め込んでいたようで、というか、ここ数日間での狩りの成果を相馬さんと田所さんから借りたそうで、INT+10と状態異常耐性と魔法障壁がついたウィザードロッドと、プリシラが売って貰ったインナー類とショートブーツとアームカバーをお買い上げ。お友達価格で金貨5枚だった。


 その時に思ったのが、そうか、俺がプリシラに貸すのは有りなんだ、だった。

 そういう助け合いも必要なんだなと思って、支援するかどうかに固執していた俺は少し恥ずかしく思ってしまった。


 あ、因みに絵梨奈さんだけれど、思った通りエルフ姉妹を見た瞬間に腰を抜かした。


 エルフはヒュームや獣人が沢山いるような場所には殆どいない。

 だからここトレゼアの町でも道ですれ違う事など殆どないので、絵梨奈さんが見た初めてのエルフだったそうで。


 なので感激もひとしおのようで、涙を流して喜んでいた。少し落ち着いた時に放った言葉「サインください!」には笑ってしまったけれど。アイドルですか。


 そして残るは伊織ちゃんだけれど、というか彼女は凄い武器と防具を買っていた。


 武器は、ホーリーワンドという聖職者用の武器なのだけれど、性能が凄い。あとお値段も凄かった。


 INTが+20上がり、障壁もあり、通常の増幅+20%もあるのに聖属性魔法増幅+10%なんていうものも付いた恐ろしい性能。そしてお値段はお友達価格でも金貨12枚。


 防具はというと、ホーリーローブという憧れの聖属性付与が施され、INTとVITがそれぞれ+5ついた、ちょっとえっちなスリット入りの白いローブ。


 更には通気性の良さそうなショートブーツや、プリシラが買ったインナーとかアームカバーなども同時に揃えてしまったのだから、防具全部の合計でこれまた金貨12枚という凄い金額になっていた。


 しめて金貨24枚。24,000,000ゴルド。


 腰を抜かすかと思った。


 流石お金持ちは違う。

 まあ今は俺もお金もちだけど。

 殆どすってんてんになっちゃったと舌を出して彼女はおどけたけれど、使うべき時にちゃんと使える伊織ちゃんを尊敬した。俺も見習わなければ。


 その時姉妹から聞いたのだけれど、数日前に伊織ちゃんが言っていたように、土方さんの奥さん二人もヘルミーナさんの顧客らしく、ヘルミーナさんに完全お任せのオーダーメイドらしい。


 しかも定価で売ったとか言われたから、恐ろしくて金額を聞くことはやめた。


 でも、あのえっちぃ服装は、確かにヘルミーナさんだなあと、俺は勿論だけど伊織ちゃんと絵梨奈さんも、ヘルミーナさんの服装を見て妙に納得をしたらしい。


 そして伊織ちゃんはそれに近い形状のものを自身も着るためか、チラチラ俺の方を気にしつつやたらと恥ずかしそうだった。


 そりゃそうだろうて。

 だって一応俺も男の端くれだからね。

 視線が気にもなるだろう。


 あ、因みに、姉妹の家……というか敷地を見た時、やはりというか3人ともひっくり返る程に驚いたのは言うまでもない。そりゃそうだろうて。



 とはいえ。


 準備は整った。

 名無しだけどパーティー登録も済ませ、相方の装備も揃ったし、依頼も受けた。

 ならばあとは俺らが頑張るだけ。


 そう心の中で気合を入れつつ、真剣な表情の中にも少し笑顔をプリシラに向ければ、彼女も同じような表情だ。


 うん、大丈夫だ。


「よし、じゃあ行こうか」

「はい!行きましょう!」


「ではお二人とも気を付けて」


「はいー」

「はい!」



 俺とプリシラはエミリアさんの見送りを受けて、冒険者ギルドを勢いよく飛び出したのだった。





脳内変換をよろしくです。

関係している話は順次変更していきます。


20話 エミリアとの会話を変更。

22話 モアモア鳥を狩る場面。

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