第70話 パーティー名は名無し
本日1話目です。
話の矛盾と言いますか、ご都合的な部分を変更させていただきます。
長いので、後書きに。
「今日から!よろしくお願いします!カズマさん」
「あ、よろしくお願いします」
なんとも初々しく溌溂とした挨拶だろうか。
休日明けの朝、狩りへ行く準備を終えて宿屋の食堂へ行くと、既にプリシラが朝食を食べ終わって待って居た。
そんな彼女は俺を見かけるや否や、バネが伸び上がるかのように立ち上がり、そして大きく頭を下げる様は、まるでバイトの面接を受けに行った時の俺のようだった。
なので反射的に俺も大きく頭をさげた。
「って、俺もしかして時間間違えた?」
「あ、いいえ、ドキドキしてしまって勝手に朝早く目が覚めてしまったんです」
間違えたか?と焦ったけれど、そうではなく、どうやら気持ちが高ぶって早く目が覚めてしまったのだとか。
てへっと舌を出しておどけるプリシラ。
か、可愛いな。
これが伝説のテヘペロという奴かと。
元世界ではその言葉自体聞かれなくなって久しかったけれど、生憎と俺に向けてそんな事をしてくれるような人は今まで居なかったがために、ここに来て初めてその仕草を見てしまい、思わず感激してしまった。
とはいえ気になる部分が。
「ちゃんと寝た?」
魔法使いは睡眠も大切だ。
魔法使いに限らず睡眠は大切なのだけれど。
そう思いながら聞いてみると、
「ぅ……実はあまり……」
どうやら早く目が覚めたわけではなく、そもそも殆ど寝られなかったと聞き、俺は思わずジト目でプリシラを見てしまった。
すると彼女は上目のまま指先をもじもじしつつ、
「凄く楽しみで仕方が無かったんです……」
小学生かよ!
思わず盛大にツッコミを入れそうになったけど、相方になってもらってまだ三日目の彼女に入れられよう筈もなく。
「まあ、分からなくもないけど。でも体調は大丈夫か? なんだったら万能薬でも飲んどく?」
そう口にしつつ、マジックポーチに入れてある薬用の袋から万能薬を取り出す。
万能薬は名前の通り万能な薬。
飲めば体力と魔力が若干回復し、通常の毒や魔法的な状態異常は勿論の事、単純な体調不良等にも効果が有り、しかも即効性がある。だがその分非常に高価で、普通の万能薬ですら1個50万ゴルドもするけれど。50万とかモアモア鳥10匹分だよ。
「と、とんでもないです! そんなものを頂くわけには!」
価値を知っているからか両手を前に突き出して、盛大に焦りながら遠慮をするプリシラたん。
いや、体調が悪ければ俺にもしわ寄せがくるから。
本当はそんな風に全く思って居ないけど、そうあえて言いつつ、無理やりプリシラの手を取り万能薬を渡してしまう。
「あぅ……すみません……」
いいよいいよ。柔らかい小さな手を握れたし。
そんな変態ちっくな事を思いつつも笑顔で返事を返す。
「体調が悪い時とかに、1/10くらいを目安に飲めばいいよ」
「そ、そうします」
それだけでも1回5万ゴルドという高額栄養ドリンク。
とはいえ今日から当面の間は、プリシラのレベル上げを重点的に行うと昨晩話をしてある。
どういう事かと言えば、俺のレベルが26で彼女のレベルが10。
俺はもう南西の森を卒業してもいいどころか、ちゃんとした構成の4人パーティーならば北西の森でも結構いい具合に狩りが出来る程にまで上がっている。
だけどレベル10の魔術師だと北西の森ではかなり厳しいらしい。主にモンスターの魔法防御力の面で。
魔法防御の低いワイルドボアやストーンゲルムも居なくも無いらしいけれど、ワイルドボアよりも強い――魔法防御力の高い――モンスターが生息するのが西の森。
なので今のままだと魔法でダメージを与える事が難しいとなった。だからこそのプリシラ育成計画だ。
もちろん俺も魔法を使用したいし。
「じゃあ予定通り、今日は南西の森へ行こう」
「はい!ご迷惑をおかけします!」
「迷惑じゃないって。ああ、先に冒険者ギルドに行かなきゃ。パーティー登録とか依頼も見たいし」
「そうですね」
事前にパーティーメンバーの登録を行っておくと、昇格審査がスムーズに行われる。この場合プリシラの為だ。
それともう一つ、俺の冒険者ランクを上げて貰う必要があった。
「俺は俺で冒険者ランクを上げる手続きをしてくださいって言われたし」
「あ、そう言えばそうですね」
青銅ランクになれば受けられる依頼の内容も変わる。
とはいえまだ大した依頼は受けられないけれど。
ネームドモンスター討伐などの依頼は鋼ランクからだし、青銅で受けられるのはせいぜい護衛依頼か、ゴブリン討伐くらいだ。
でも、俺は護衛任務というものをやって見たかった。あと、ゴブリン討伐も。
それは何故か。
俺はきっと、人の役に立ちたいって願望が強いんだろうなと。
人に頼られたという経験が無いからだろうけれど、俺はそういうのに憧れているのは確かだった。
「モンスター討伐以外の依頼も受けて見たいし、丁度いい」
「はい! あ、でもわたしは銅ですから、護衛の時はお留守番ですね……まだ50体も狩れていませんし、換金報酬も60万ゴルドくらいしか……」
銅ランクでは護衛任務を受けられないからか、プリシラはしょんぼりと俯いた。
「大丈夫、1週間程度でプリシラも青銅になるよ」
「そう上手くいくでしょうか……」
不安の虫が発動したらしい。
しょぼくれた表情のプリシラもなかなかに庇護欲が湧いて良いのだけれど、彼女には笑って居て欲しい。
それに、俺一人でも1日20体くらいは狩ろうと思えば狩れるのだから、残り50体ちょっとなら余裕だろう。二人になったから2倍狩らなきゃならないとしても。
換金額にしても残り440万ゴルドの2倍だから880万ゴルドだし、換金率のいいモンスターを中心に狩って行けば同じくらいにクリアできると見ている。
「大丈夫だよ」
「が、がんばります」
笑顔で大丈夫だと言えば、プリシラも無理やりに笑顔を作った。
心配ないさ。きっとそれが無理やりじゃなくなるって。
ってああ、そう言えばまだ俺のレベルとステータスを教えてなかったな。
エミリアさんが一昨日俺にこっそり言ってきたのだけれど、相方であるプリシラは勿論の事、その他の天地とかい、い、伊織ちゃんとか相馬さんや田所さんや絵梨奈さんにも、俺のレベルやステータスと加護が芽生えた位は教えて良いんじゃないかと判断したらしい。
確かに皆とも打ち解けていると思うし、レベルやステータスくらいなら言っても良いどころか、狩場やモンスターの情報交換にも役立つだろう。
なので近い内にバラしてしまおうかと。
プリシラには狩りを始める前には教えて置かなきゃ。加護は、ちょっと確認したい事があるから、それが済んでから、かな。
そう思いながら朝食ビュッフェをたらふく食べた。
そして何故か既に食べた筈のプリシラも、俺と同じくらいの量を美味しく食べていた。
どこに入るんだろうか?本当に。
◇
「ではパーティー名をお願いします」
「い゛っ!?」
「あ……」
冒険者ギルドに行き、エミリアさんを見つけた俺は、まずはプリシラと固定パーティーを組んだという報告をギルドに対して行った。のだけれど……。
「全く考えていませんでした……」
「わたしもです……」
言われて思い出す愚かさよ。
申告をする場合、パーティー名も必要なのであった。
似たようなしょぼくれかたをする俺とプリシラを優しく見やるエミリアさんは、大丈夫ですよと言いつつ代替え案というか救済措置を提示してくれるらしい。
「名無しでも問題ありません」
「そうなんです?」
「はい。レギオンを創設される時は流石に名無しでは無理ですけれど、パーティーならば無名でもよくて、そのままでいらっしゃる方は結構多いんです」
よかった。
二人で小さく安堵しつつも、でもやっぱり名無しは味気ないなとは思う訳で。
「名前は後からでもいいんですよね?」
「はい。ですが変更は一度のみなので、十分熟考されてからの方がいいですよ」
「なるほど」
どうやらパーティー名はいろんな部分で有用らしい。
そしてパーティーの知名度を上げる事に、皆が躍起になっている。
例えばネームドモンスターをパーティーで討伐した場合、討伐達成ボードに所属レギオン名とパーティー名と個人名が載るのだけれど、そういった討伐の積み重ねで名を馳せば、人の名前は憶えていないけどパーティーの名前は覚えて居て、その名を頼りに依頼をかけて来るだとかは普通に有るらしい。
そしてこの世界全体で見ても、知名度というものは結構有用らしく、貴族や平民に限らず人に信用される為の一番手っ取り早い方法は、知名度を高くする事だったりする。勿論悪名は論外だけど。
知名度が高ければ何をするにも便利で、冒険者ギルドや個別の依頼関係は勿論の事、家や高額な物を買う場合とか、何か商売を始めたい場合とかでも融通がきき、更には大きな町に出入りする際にもパーティー単位で優先的に通して貰えるだとか様々な恩恵がある。
個人の名前だけよりも、〇〇パーティーの〇〇さんという覚えの方が遥かに高いらしい。
だからパーティーの名前は重要なのだとエミリアさんは教えてくれた。
とはいっても、今の俺にはそんな遥か先の話をされてもピンと来なかった。
プリシラも途中から、ほへー……といった感じで他人事のように聞いていたし。
とはいえ。
「以上をもちまして、カズマ=シバさんとプリシラさんは、正式な固定パーティーとしてトレゼア冒険者ギルド、それからオーブに登録がなされました。これからも頑張ってくださいね」
エミリアさんはにっこりと微笑みつつ俺とプリシラに告げた。
俺は俺で何だか感慨深い物が込み上げてくる。
そしてそれはプリシラも同じだったようで。いや、俺以上か……。
「……ぁぅぅ……嬉しいです……嬉しいよぉ……ぐすっ……」
今までの苦労を思い出したのか、目にいっぱいの涙を溜めて鼻をすすっていた。
それでも笑顔ではあるので、俺はその笑顔を見やりながら同じように笑顔を返すのだった。
話の矛盾と言いますか、ご都合的な部分を変更させていただきます。
変更点
マジックポーチの仕様。
理由
以前の仕様ですと物流そのものが破壊されない訳がなく、物語中の経済を正常にしようと思えば、ご都合すぎに成ってしまいますので。
矛盾例
海で採れたクロマグロを1万匹でも2万匹でも、内陸の市場に誰でも徒歩で運べてしまう。
豪邸などの重い物を誰でも運べてしまう。
これはどう考えてもおかしいだろうと成り、よって、申し訳ありませんが変更させていただきます。
新仕様
・同じ物だとしても重ねて入れられない。同じ種類の魔獣だとしても重ならず、100セルのマジックポーチなら100個まで。
・口を締められるズタ袋などに小物を纏めて入れてしまえば、袋1個とみなされる(但し、袋の中身は時間停止の概念が解除される)
・マジックポーチの総重量制限。所持者のSTR値+INT値+AGI値+DEX値+VIT値×10kg。
です。
投稿済みでこの2点の仕様に合致しない文章は修正させていただきますので、脳内変換をどうかよろしくどうぞ。
あと、作品内の矛盾点にお気づきの場合には、感想欄にドヤ顔で指摘してやってください。
修正と共に1ガバスを進呈させていただきます!